男と2人歩く。
悲しい。普通女の子だろ助けるの。
「なんで俺をそんな一方的に助けたんだ」
「棘のある言い方だな。”生んだ意味が無い”って親父さんが言ったとき、マジで頭にキたんだよ」
「まあ親にはドラグエナジーを教えてくれたこと以外、今のところ感謝してないしな」
「それもそれでどう」
”どうなんだ”と言いかけたが、死にたい消えたいを言い続けてる俺が言えたことではないか。
いや感謝はしてるんだよ俺は。人生楽しんだ上で俺は言ってて。違うんです。
「そういや、なんでそのドラグエナジーにこだわるんだ」
「親に言われたっていうのもあるけど、どう考えたって沢山の動物の力を極められたら格好良いだろ」
「確かに」
俺は今まで、単一の動物と他魔法を複合させることばかり頭にあったが、そういう考え方もあるんだ。面白い。
つまりはキマイラとかスフィンクスみたいな動物も使えるかもしれないってことだ。
獣魔法に限った話じゃない。例えば回復の時に魔力だけじゃなく体力まで回復できたり、重力を同時に2か所に発生させて引き裂くこともできるかもしれない。
まさかこの旅、面白い可能性あるか。
「てかお前はドラグエナジー使えんの?」
お前は使えないだろ、という顔でこちらを見てくる。
イラッ。
「多分使えるよ。極めることはできないけど」
「なんで極められないんだ?」
俺の現在魔力量でできるのは、身体強化までだ。
きっかけがあれば、恐らくドラゴンへと変身することができるだろう。
「多分魔力量の絶対値が足りないから。恐らく俺の魔力ともう一人、誰かの魔力を使えば、そこでようやく極めたドラグエナジーが使える」
「はーん。……っておい。魔力量さえあればできるのかよ」
スモックは項垂れた。
まあ自分が極めることを悲願としてる魔法が、他人がもう極めてるってんなら、項垂れもする。
「魔力が無いってことは、あー」
”魔力が無いってことは、才能が無いってことと同義だろ”って言おうとして止めた。
少なくとも魔法の世界で言えば俺は力を持ってる側に人間だ。
その存在が謙虚になったら、俺は殴りに行く。ムカつくから。
そういう力を持ってる側の人間が謙虚になった時、力を持たない人間は行き場が無くなる。
それにどう考えたって、俺よりスモックの方が魔力量が無い。
「あー、なんだよ」
「あんなとこに魔王が」
「マジかよ!どこ!?」
適当にお茶を濁す。
能天気な奴で良かった。
「あ、そうだ。スモック君は鳥魔法使えるの?」
「鳥魔法?初めて聞いたな」
「なんか秘匿されてる魔法らしいんだけど、使えるに越したことは無いし、ドラグエナジーに鳥の要素があるなら、ワンチャンスある」
「試してみるか。鳥を出せばいいんだろ?ん~……」
転生した瞬間から魔法が使えたから、イマイチこれから使えるようになる感覚ってのが、分からないんだよな。
でも言ってしまえば、スモックが鳥魔法を試すことと俺が光と闇魔法を試すことって、変わりないんじゃないか。
それを考えると俺も可能性はあるわけだ。魔力量も今より増えるかもしれないし。
「お、出せた」
「おめでとう。いいね。使えることは秘密な」
考えている間に魔法を唱えていたようだ。
可愛い鷹のような鳥がスモックの手に止まっている。今は鳥自体に物理的な力が無いためか、手はなんとかなってるみたいだな。
「こんな可愛いならいくらでも出してぇな」
「出すな出すな」
そういや獣魔法で鳥魔法は使えないのか?いや獣って哺乳類を指す言葉だから当然なんだけど。
頭の中で検索をかけると、爬虫類も出せるし、両生類や魚類も出せるっぽい。なら鳥類も出せるもんではないのか?
厳密に何魔法か判断してるのは、俺の意識の話だから、つまりは頭の中にライトニングと浮かんでも”雷魔法だろ”と思ってるから雷魔法になる。
わざわざ鳥類だけ分けているのは、鳥類という存在が危険な存在だからなのか?
鳥類で偵察を行うのは簡単で、虫、その他の獣で偵察を行えば対処されやすいから難しい。
理屈はなんとなく理解できるが……。でも虫魔法だって、例えば蟷螂とかを偵察に使えば、いや対策簡単か。毒魔法を辺りに使用しておけばいいだけだからな。
しかし鳥に対してはその場所の広い空一面を覆うほどの魔法が必要になるし、もしかすると空気そのものに魔法を使用する必要がある。そんな魔力、どこから持って来るんだという話。
メタ的な読みだけど、全属性、今のところ一文字で統一されてるから獣を使ったのか?
火、水、氷、等。
又は想像のしやすさとか。
え、じゃあ鳥魔法は秘匿って言っても、”獣魔法のつもりで雀出しましたえへへ”なんてなった日には革命だぞ。
いやまだだ。待てよ。
「鳥の使役って、今までできた?」
「いや最近までできなかったし、実際子どもの頃とかやろうとしてもできなかったし。お前に会ってからだな。できるようになったの」
俺がスモックに何かしたことによって、俺の力が一部移ったのか?何もしてないけど。
まあでも、獣魔法は鳥の能力獲得ができるけど、使役できなくて、鳥魔法は鳥の使役ができるということか。
日本でも昔、蛇を虫へんが付くくらいには虫扱いしてたらしいし、獣扱いについてはそんなもんだろ。
なんか鳥の使役だけできないってのも、歪な話ではある。
この世界の人間は、使役できないことにおかしいと感じるより、自分の魔力が足らないと感じる方が早いのか。
神人のおじさんが知ってて、別の人間が知らないわけがない。鳥魔法が公に秘匿されていて、かつその存在を知る人間がいないのは、恐らく国が鳥魔法を使える人間を見つけて、匿ったりスパイとして雇ったりしているからだ。そうしないと別の国の人間に取られたりして、情報戦で不利になる。
これならある程度説明もつくか。反論募集。
「まあなんか不思議なパワーとか神のご加護でももらったんだろ。よし次の町へゴー」
「最後は適当だな。お前」
ーーーーーーーーーー
「着いたけど。なにこれ」
「機械だぞ。知らんのか」
「いやいや、よくお世話になったよ」
次の町に着いたが、入る際に機械に個人情報を入力するように求められた。
「いやいや、スモック君の町にあったっけこんなの」
「家の中にはあるぞ。景観を重視してたから外には無いけど」
京都みたいなこと言うじゃん。
まあ機械……便利だよな。
えでもほら、魔法の世界だろ。
「魔法でなんとかならねえのか……」
「魔法でなんとかできるとしても、機械の方が確実だろ。人の手じゃないんだから。魔力も自動補充だから、メンテだけすりゃいいって話よ」
仰る通りですが。夢の無い話。
いや待て。これは新しい魔法への出会いか?機械魔法とか楽しみかも。
頭の中に無い新たな魔法。火、水、氷、雷、石、土、刃、音、風、草、毒、虫、獣、恵、闇、光、鳥、血、人、無ではない魔法かも。
でも機械自体は石と雷でできそうだな。後は機械に魔法を自動出力させる機構とか組み込めればって感じか。
機械への入力が終わり、町の門が開く。
中は工場みたいな見た目だ。
「この町、この国の中の都会の一つなんだ。ここまでの道が舗装されてなかったのは景観重視だったからだけど、ここからは違うぜ~?」
「楽しみですな」
「ようこそ!旅のお方ですか~?こちらの映像をどうぞ!」
門の内側に居た綺麗な女性に、光魔法で出来たであろう映像を渡される。手を出す。
違和感。
反射的に手を引っ込めた。
「どうしました?」
「あなた。身体はどこに置いてきてるんですか?」
「あぁ。生まれつき身体がほとんど魔力で出来てるんです。でも、本当の人間みたいでしょ?」
そうか人造人間だ。
なら。
「ディストルツー。この名前をご存知ですか」
「ディストルツー!」
女性は驚く。
「場所を知っているの?」
「いえ。ですが、僕はこの名前を聞くと、血が沸騰しそうになるんです」
「そう。私はむしろ、あなたの前でその名前を聞くと、良かったなって感じるけどね。あ、私はルーチェ。よろしく」
「……?クレアジオーネです。よろしくお願いします」
女性はニコッと笑顔になる。敵意は感じられない。
説得次第では仲間になってくれるかもしれない。
手が触れたときに感じた魔力量は、とんでもない。
「あの、一緒に旅をしませんか」
「ナンパですか~?なんのために旅をしてるんです?」
「魔法を開発するためです」
「それで?どうなるの最終的には」
「最終的には……死にます」
「……うーん。私は強いからね。ぶっちゃけ、魔力さえあれば死なないわけ。あなたがどこで死ぬのか知らないけど、死ぬほどの戦いのためのサポートだけさせて♡」
断られたか。まあ、恐らくこの人の魔力量なら町が消し飛んでもおかしくない。
そんな人のサポートが受けられるだけ、マシか。
「あなたたちが町を出る時、この出入り口に来てよ。私が開発した魔法を一個、見せてあげる」
「まじすか!おいスモック!爆速でこの町回るぞ!」
「え、絆された?」
啞然とするスモックの手を引き、町を回ることにした。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!