魔法ってのはもっと自由であるべきだ

ファイラ
ファイラ

魔法ってのはもっと肯定するべきだ

公開日時: 2024年4月20日(土) 00:00
文字数:4,577

 ”生きるとは、非情にも格の違いを見せつけられるシチュエーションの連続だ”。

 これは俺が言った言葉だ。

 あの時の俺には力が無かった。でも、もし、今なら。


 異世界に転生することで、力を得た今なら。


 デモソレハオ前ノ力デハナイ。


 でも現実だ。


 デモ反論デキナイ。


 でも俺が巡り合った力だ。


 デモ。ドコマデイッテモ。




 オ前ハ俺ヲ頼ラネバ生キテイケナイ。




ーーーーーーーーーー


「……はっ。……俺は、どうなった……」

「お兄ちゃん。倒れてたんだよ?」


「君は……」

「僕が何に見える?」


 小学生くらいの身長の子どもだ。


「男の子……」

「それでいいよ!じゃあこれは?」


 男の子は鏡を俺に見せてくる。

 自分の姿を見た瞬間、不思議と力が抜けていく。


「俺……」

「じゃあ次、鏡をよけて、と。僕の歳はどれくらい?」


「分からない。俺よりも下なことは分かる」

「よし。なんで、お兄ちゃんは歳が下って思ったの?」


「だって、俺より小さくて、若くて」

「お兄ちゃんだって、世界から見たら小さくて、若いかもしれないよ?」


「でも、俺は俺だ。確かにいるんだ」

「じゃあ次」


 男の子が消え、俺の目を塞ぐ。


「この状態で、お兄ちゃんは何?」

「この状態って……人間だろ?」


「どうやってそれが分かるの?」

「それは……記憶があるから」


「そうだよね。じゃあ、こうしたらどう?」


 記憶が消えたかのように、何も思い出せなくなる。


「分からない。不安になってきたんですが、俺の身体はあるんですか?」

「あるよ。ほら」


 目と記憶が解放され、急に後ろから太陽が照りつける。


「あ、良かった」

「影。見ちゃった?でも違いま~す。これは後ろに居るモノの影でした」


「でも、俺には手があって足があって」

「じゃあ後ろ、向いて?」


 後ろを向く。

 像があった。


「像……」

「君に記憶を戻すの早かったか。でも分かったよね。記憶が無かったら、これを像とも人とも判断できない」


「あの……何が言いたいんです?」

「感覚ってなんのためにあるか。分かる?」


「……生きるため?」

「もっと具体的に」


「…………他者を理解するため?」

「良い感じ。知識があるのはなんのため?」


「…………同じく他者を理解するため?」

「お兄ちゃんの意見を言って欲しい」


「まず感覚があって、その上で他者とか他のモノが無いと、人間は自己を判断できない」

「つまり?」


「ヤ他者を知ることメで、自己が初めて理解できるロ」

「お、出てきたか。じゃあ僕の姿を見てごらんよ」


 像はさっきの小さな男の子に変わる。


「お兄ちゃんは何者?」

「俺ハクレアジオーネ」


「ごめん。質問がざっくり過ぎたね。でも良い感じだ。どんな魔法が使える?」

「アリトアラユルモノ」


「そうだね。でも闇と光魔法、使えないのってなんで?」

「死ノ概念モ、空間ノ概念モ創造主ニハカラダ」


「それは使えるってことでは、ないのかな?」

「創造主ハ死ヲモタラサナイ。ソシテ創造主ハ空間ヲモタラサナイ。ソモソモ使エルカドウカノ話デハナイ。死ハ誰ニデモ平等ニアリ、空間ハ前提トシテ無限ニ広ガッテイル。ダカラ使エルカドウカノ議論ヲスルコト自体、無意味ナノダ」


「なるほど。じゃあさっきの問いの逆、なんで他の魔法は使えるの?」

「有ニ有ガ有リ、無ニ無ガ有ルカラダ」


「そっか。これからしたいことは?」

「神人ノオジサンヲ倒シ、創魔法ヲ完成サセル。ソシテ新タナ世界ヲ創ル」


「うんうん。じゃあお兄ちゃんはディストルツー、殺さなくていいよね?なんで殺そうとしてたの?」

「……分カラナイ。オ前ヲ見テイルト分カラナクナル」


「分からないか!良かったよ!僕にも知らないことが出来たか。いつか教えてちょーだいね?」

「馬鹿ニシテイルノカ」


 シシシと笑っている。


「無知を自覚するのは良いことって偉い人が言ってたんだよ。……あーでも今情報入ってきた。うわーまじか」

「話セ」


「言わなーい!」

「気分ガ悪イ」


「なんでディストルツーを殺そうとしてしまったか、そんなの知らなくていーよ。お兄ちゃんはもうそんなこと、思わないだろうし」

「……」


「でも一個ヒント。僕がパレードしながら全国を歩けば、あらゆる人造人間の悩みは消えます」

「……オ前ノ像ハ駄目ナノカ」


「だめだめ。僕自体を認知できないでしょ?」

「オ前……マサカ」


「僕のネタバレやめてくださーい。あ、そういえばなんだけど。今もし元の人間の身体に魂を返すことができたなら、戻れる?」

「戻レル。魔法ガ使エナイ分ダケ、少シ窮屈カモ知レンガナ」


「それは何で?」

「モウ俺ヲ阻ム存在ガ無イカラダ。イヤ……言イ方ガ違ウナ。阻ム存在ハ有ルダロウガ、ソノ存在スラ肯定デキル気ガスルカラダ」


「そっか。じゃ、取り敢えず大丈夫そうだね。そろそろ行くから」

「ジャアナ。…………礼ヲ言ウ」


「大丈夫大丈夫、礼なんて。この後ミラーワンってやつが来るからさ。まあ適当言っといてよ。またね」


ーーーーーーーーーー


 目を開ける。

 なんだか、胸がスッキリする。

 寝かされていた大地と、自然と、空間と、この鼓動がリンクしているような。


 これがアリトアラユルモノ。


 おいお前、この鼓動が分かるか?


 …………。


 ありがとうな。


「あれ、おかしいな話違うんだけど」


 俺の身体から、いや影から声がする。

 影から顔が出てきた。

 アラサーっぽいの糸目の男だった。


「こんにちは。鏡の精霊ミラーワンです。あなた、誰かと会いました?」


 笑顔で気さくに話しかけてくる。


「こんにちは。とてつもない魔力を持つ子どもと話しましたよ。ほとんど質問攻めでしたけど」

「……ああ。こちらにいらっしゃったんですね。それなら大丈夫です。安心しました。あなた、今とても爽やかな顔をしてらっしゃいます」


 この精霊と一緒か。


「ありがとうございます。悩みが無くなったのか、吹っ切れたのか、分かりませんが、僕はありとあらゆるモノと繋がっているんです」

「良かった。……お、彼もやってきましたね。じゃあ私も去ります。ではまた」


「また」


 精霊は影の中に引っ込んでいった。

 立ち上がる。

 すぐ近くから、一人の男がやってくる足音がする。


「肩のぶつかりそうな場所で突っ立ってんじゃねぇよ」

「よ、スモック君」


「顔見せろ」


 振り向く。

 声で分かっていたが、スモックはやはり不機嫌そうな顔をしていた。


「相変わらず気に食わねぇ顔だ。お前、神にでもなるつもりか?」

「……そうだよ」


「もう何個か聞くが、さっき空に浮かんでたでけぇ変な生き物、お前の仕業だろ?」


 心外だった。


「変な生き物って、酷いな。様々な解釈はあれどあれもドラゴンだろ」

「ドラゴンってのは、知らねぇな。ドラガスの親戚か?お前、本当にこの国の人間なんだろうな」


 ドラゴンを知らない。




 いや、違う。

 それで合ってるんだ。

 なんでこんなことに気付かなかったんだ。


 散々異世界だって言って、なんで俺の元いた世界の生物がいると思い込んでいたんだ?

 いやそりゃ、その動物の魔法が使えたから、という理由の他に無いんだけど。


「そ、それは……」

「”ナーガエナジー”だったか。俺の知らねぇ生物だと思い込んでたけど、今までの会話で大分絞れる。お前はこの世界の人間ではない、それか滅茶苦茶隔離されて生きてきたか、その2択じゃねえか?」


 べつに異世界から来たことがバレたって俺はどうでもいい。

 しかしどんな反応をされるのか分からない。

 なんて回答したらいいんだ。


 ここは”隔離されて生きてきた”と回答するのが一番自然ではある。

 異世界からやってきたなんてお伽噺だ。普通の思考回路ではない。

 でも。それは真実ではない。


「…………俺はスモック君に会った日、この世界に魂を送られた。この世界の人間じゃない」

「そうか。……まぁこのクソ馬鹿みてぇな思考を放棄せずに良かったと、今思えたわ。つまりお前は、魔法を創っているってことだな?」


 そうなる。ナーガもヒョウも、鷹だってこの世界じゃ存在しないのに、魔法が発動しているのはそういうことだ。なんなら空想上の動物なんて元いた世界でも存在しない。

 俺は、無自覚無意識で魔法を創っていた。

 なんてこった。つまり創の魔法ってのは、いわばパッシヴスキル。唱えた魔法が俺の知識や意識を汲み取って発動する魔法だったんだ。想像していたのは、なんか修行したり魔法開発の中でインスピレーションを得たりして、ようやく使えるようになるみたいなことだったのに。


 実際は俺の嫌悪する能力、チート能力だ。

 チートというのは、世界を破壊しかねないモノ。

 ゲームやアニメ、漫画だったらそれも良いだろう。ただ元の世界からすれば異世界であっても、俺にとってこの世界は現実世界だ。普通では許されない。


 いや、とはいえ、俺は未来形で世界を創る者。

 チートすら肯定しなければならない。


「…………そうなるな」

「で、お前は俺を家族の呪縛からズルして解き放って、悦に浸って、どうだったんだ?」


「……は?」

「良くも悪くも、一人の人生の責任背負った感覚は、持ってんのかって聞いてんだよオラァ!!」


 顔面を殴られる。

 よろける。顎とかを殴られなくて良かった。


「いってぇ……。おい、お前もガキじゃねぇんだから少しは自分で考えろよオラ!!」


 スモックの右頬を殴る。

 魔法を使わない、拳での殴り合いに発展した。


「チッ……てめぇに殴る権利なんて無ぇんだよ!!」

「黙って俺についてくりゃいいだろうが!!」


「気に食わねえ人間から逃げることを学ばせたのはてめぇだろうが!!」

「じゃあわざわざ俺のとこに戻ってくんじゃねぇよ!!」


「てめぇには責任感ってものがねぇのか?仮にも家族引き裂いておいてよぉ!!」

「何が言いてぇんだてめぇ!!結論から言え!!」


「分かるか!?んなもん!!無性に腹が立って仕方ねぇんだ!!こっちはどうしていいか分かんねぇんだよ!!」

「なら人に当たってんじゃねぇよ!!どうして欲しいのか、考えてから行動しろよ!!」


「あぁ!?人をテキトーに扱っておいてその口はなんだ!!他の世界からやってきて、その価値観で勝手に行動して、知らねぇ間に何もかも知った気になって、分かった気になって、人のこと見下してんのか!?」

「るっせぇな!じゃあなにか?もっとお前を頼れって言いてぇのか!?」


「そうだよ!!てめぇは何もかも知らねぇんだから、それを話して、知って、学んでいくのが当たり前だろうが!!努力ってのは、一人で頑張ることだけを指すんじゃねぇ!!他人を頼るって選択肢も常にあんだよ!!」

「グッ……」


 ようやく殴る手が止まる。


「おい、敢えて呼び捨てにするぞ。お前は知識が無い!俺が教えてやる!だから俺に魔法を教えろ!」

「…………」


「いいか?お前は俺を頼って、俺はお前を頼る。これで対等だ。てめぇなんかに一生見下されねぇからな」

「……まず、見下してるつもりはなかった。けどそう思われる発言をしていたかもしれないのを謝る。そんで、責任を果たさなくちゃいけないよな」


 俺はスモックの目を見る。


「スモック」


 俺は右拳を突き出した。


「……クレア」


 スモックも右拳を突き出し、拳と拳がぶつかる。


「これが対等だと思ってるって証だ」

「いいぜ」


 拳を引っ込める。

 

「はぁ~いってぇ」

「痛ぇのが嫌なら、神になったら一番初めに痛覚を無くすんだな」


「嫌とは言ってない。痛みが無いと理解できないこともあるって。だから痛いって感情があるんだし」

「ま、必要悪ってか」


「そーそー」


 そして俺たちは、他愛もない話をしながら次の町に向かった。

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