魔法ってのはもっと自由であるべきだ

ファイラ
ファイラ

もっと疑うべきだった

公開日時: 2024年4月20日(土) 00:00
文字数:3,896

 1週間のときが過ぎた。

 あれから、配信で戦いをする度に身体の一部分が消える。

 配信に映ってしまったことはないが、かなり迷惑だ。


 迷惑だし、違和感。

 何故、こんな遊ぶように消すのか。

 無魔法。誰が使っているのかも分からない。


「クレア、大丈夫か?最近顔色悪いぞ?」

「スモック……」


 宿屋の一室。気遣って声を掛けてくれた。

 話しておくべきだろう。


「スモック、良いか?今、俺の身体を無魔法で消すやつがいる」

「おいおい。なんだそりゃ!」


「今この世界に神はいなくて」

「あぁ」


「それが原因で」

「あぁ」


「何者かがこの星の神になろうとしてるかもしれん」

「あぁ」


「信じてもらえるか……流石……俺の……友……」

「あぁ……おい!クレア!……すっげぇ熱だ!なんだこれ!?くそ!アイスキットフォーク!治れ……!……!ク…ア…!お…聞…!」


 俺はゆっくりと、燃えるように、意識が消えた。


ーーーーーーーーーー


「殺されちゃったね」

「……え?」


「今、君は殺されたんだよ」

「……誰に?」


「フローガ」

「フローガ……?」


 何で。

 いや、それも気になるけどどうやって。

 嫌だ。そんなこと。信じたくない。


「君は目を背けちゃいけない。何故フローガのいた村の建物が燃えていたのか。何故ディストルツーの名前を知らないのか。何故好意を抱いたように距離感を縮めてくるのか」

「嫌だ……」


「君をーーーー」

「嫌だ!!聞きたくない!!」


「聞け!!!!!!フローガは無魔法を貫通する火魔法を扱う!そして君の魔力分子すらも今燃やされている!!早く自分の身体を創り出せ!!!本当に死ぬぞ!!!!」

「死ぬ……死ぬのか……」


「僕が君の人格に陣取っているのは、神の力を持つ人造人間が殺された時、どうなるのかが見たかっただけだ。それを見て知ってしまった。つまり僕は、もうここにいる理由は無いんだ」

「神……様……」


「己の力で這いずれ。僕がいる限り、時間はいつだって無限だ」


 神はいなくなった。


 静寂。


 ……。

 ……。

 フローガは敵だった。


 俺は騙されていた。




 違う。疑うべきだったんだ。

 なんとなくただ、空気に流されて。

 物事に意味はあって、それを俺が想像できなかったんだ。


 熱い。燃えるように。


 俺を燃やしている火か。涙か。血か。

 全てが俺に熱を与える。


 でも、怒りは湧いてこない。

 悲しみすら。

 何でだろう。


 友達に裏切られて殺されて。


 


 そうか。




 フローガは生きているんだ。

 神様も生きてる。

 何より俺も生きているんだ。


 死ぬということは、今の生を肯定すること。

 生きるということは、今ではなく未来の生を肯定すること。


 例え今、虚無に悶え苦しもうとも、生きる選択肢を選んでいるのは自分。

 生きてる。未来が明るいか暗いかなんて関係無い。

 それを心が思い出したんだ。


 だから一時フローガに対して悲しみはあったけど、もう心がそうさせない。

 

 火魔法。

 スーパーノヴァ。


 身体の創造を始める。


 フローガの火魔法が、俺の身体に超新星の爆発にも似た光を宿してくれた。

 それが生、命、愛、何と言って良いのだろうか。

 俺はその言葉を知らない。


「お前もまだ人だからな」

「スモック……何でここに……」


「ディストルツーってやつに言われるままに、何やかにややってたらこれよ。あり得るか?」

「あり得ねぇな」


 普通は。


「神様ってやつは、どうやら全知全能らしい。この殺されることも織り込み済みだってよ」

「本当に全知全能なら、自分の思想をべらべら喋ったりしないだろ」


 俺は笑いながら話す。


「つーか。この世界の神様が、勝手にクレアの精神に潜り込んでるせいで、他の神が侵略してきてんだぜ?神様も何やってんだって話」

「それはそう。つーかさ。神様、俺の中から出て行ったんだけど。それってもう話終わりじゃない?」


「あー。この世界の神様が帰って来たから、他の神も下がっていくだろって話?なんかゴネてるらしいぜ」

「全知全能ってなんだよ」


「最強の矛と最強の矛が戦ってんだよ多分」

「矛と矛かよ。やっぱ、世界って無常なんだな」


「いやー、でもフローガ可愛かったのになぁ」

「お前……。まぁそれは事実。可愛いよな。柔らかそうで」


「お前、前にも柔らかそうって言ってたな。もっと描写しろよ」

「何でだろうな。細かく描写しようとするほど、どんどんぼやけていくんだ」


「まるで夢の中みたいだな」

「そうだな。まぁでも夢の中でも良いよ。俺夢オチって嫌いなんだけど、元いた世界でもやっていけそうだよ」


「何言ってんだこれは現実だぞ。俺は生きてるからな」

「そうだな。フローガも生きてるし、ルーチェさんも生きてる。テラスも、神人のおじさんも。」


「神人陛下って言えよ。不敬だぞ」

「おじさんで許してもらってるから大丈夫。じゃあ俺が神になったら神様って呼べよ?」


「神」

「おーーーーい」


「それはともかくこの件が終わったら、責任とってもらうって話で、フローガに耳かきしてもらおうぜ」

「いいね。彼女から漂うメスガキ成分を感じとっていたか?」


「おいクレアお前、フローガには無限の可能性があるだろ。年下のお姉ちゃんとかいう概念でも良いだろ」

「拗らせてんな。女性ファンが遠のいたぞ」


「女性ファンなんていねーよ。人にはな、その時にしかない、輝きってものがあるんだ。それを探求したいね」

「年下お姉ちゃん好き好き男が何それっぽいこと言ってんだよ。お前もう何言っても聞いてるやついねぇぞ」


「それを言うならお前もメスガキ好き好き男じゃねぇかよ。どうせ分からせるのが好きとか言うんじゃねえだろうな」

「分からせという概念はメスガキの本質を分かってないね。分からせは生意気な相手だったらギャルでも何でも良いんだ。メスガキに尻に敷かれて、初めてメスガキを味わったと言える」


「キモ」

「お前だってそうだろ!」


「そんな神、NTRってどう思う?」

「……ハーッ……。最悪の文化だ。あれは歴史から抹殺されるべきとは思う。しかしNTRがあったからこそ、必要悪という言葉が生まれたと言っても過言」


「流石に過言だな。まぁ俺はどれだけ鬱でも、最後にハッピーエンドを迎えられればそれで良いのよ。分かるか?」

「あ~ハッピーエンドね。大体、人間の性的魅力という一部分だけに魅かれて、心が揺らいでしまう人間に問題があると思ってしまうね」


「いや、それは正しいことに聞こえるが、人も追い詰められれば分からんぞ。お前は人の性的魅力という一部分だけに魅かれたことがないからそんなことが言えるんだ」

「魅かれたくねぇー。NTRはフィクションをフィクションだと、割り切って楽しむことができる人間の娯楽だからな。あれは本当に」


「そもそもそうだな。あれで現実はクソって言うのは違うよな」

「そうそう。フィクションだから……フィクションだから……」


「絶対、現実と混同してんじゃねぇか」

「おいおいスモック。絶対という言葉は事実に使う言葉だよ?」


「事実だろ」

「おい」


「あ、話すの忘れてた。この1週間で配信チャンネルの登録者100万超えたじゃん?」

「あぁ。現実感の無い現実の話来たな」


「だからこのバラバラになったクレアの身体、配信してるから」

「えーーーーー。反応は?」


「ここに来る前は結構荒れてたぜ。”人間じゃねぇのか!?”とか”クレアジオーネって名前、Create the oneじゃね?クレアジワンってこと!?”とか」

「おい突然の初出情報。俺も知らんぞ」


「いやぁそのコメントしたやつ、天才かと思った。”ワン”って言ったら精霊とか神様の名前だからな。そもそも誰が名付けてくれたんだよ」

「神人のおじさん。なるほど。最初から神になれって感じだったんだなぁ」


「へぇ~。ま、後はクレアのこと、女だと思ってるやつ多かったな。”嘘だろ!?”とか”俺の性癖が!”とか”おい!男なら揉んでもセクハラじゃねぇよな!”とか」

「それは百歩譲って良いとして、俺、なんで男バレしてんの?」


「そりゃ服も燃えたからな」

「フローガのやつ許さねぇ」


「全裸配信だけど、まぁ運営に許してもらってるよ。世界の危機ってことで」

「世界の危機……どんな感じになってたんだ?」


「フローガが世界中燃やしまくって、うちの神様がそれを消火して回ってた」

「まじか。さっさと起きないとな」


「神様と神の戦いだぜ。お前も神にならないと話にならないんじゃねぇか?」

「ってかそもそも神になるってなんだよ」


「まぁ……言われてみればそうか」

「そうだぞ。神と人間の違いが何か考えようぜ」


「うーん……力が使えるとか?」

「何かしっくりこないな。やっぱ神って信じられてるかどうかじゃね?」


「どういうことだよ」

「俺の元いた世界じゃ、神なんて、いる証拠もいない証拠も無かった。つまり人間の心の中にだけ存在してたんだ」


「あー。なるほど。つまりいるとかいないとかじゃなくて、常に心に在るものだったと」

「そう。それが信じるってこと」


「じゃあ人間でも、信じられれば神になれるってことか?でもこっちの世界は神様が実際にいるからなぁ」

「試してみよう。信仰、そして力。両方を併せ持つ存在にならなくっちゃあならないってのが、神の辛いところだな。覚悟は良いか?俺はできてる」


「俺もできてる」

「でもどうせなら全員が神になれば、万事解決か?」


「何じゃそりゃ」

「つまりはさ。人間全員がどんな魔法も無限に使える神になってしまえば、お互いの存在を無視できないから、信じることができるだろ?」


「お前……何やるつもり?」

「言った通り。全ての生物を神にする。そして宇宙全体を、新たな世界にするんだ」


「まるで宇宙の始まりだな」

「創造は終わった。これからは想像の時代だ。行くぞスモック!」


「どうリスナーに説明すりゃ良いんだこれ……分かった行く!行くって!」

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