あなたが死んだら悲しい。
あなたが死んだら会えなくなる。
あなたに死んで欲しくない。
他人から投げかけられる言葉。無責任な言葉。助けてくれるのだろうか。
否定。そんなことはない。
他人は他人の存在を必要とすることはあっても、他人の人生まで必要とすることはないからだ。
俺が死んだらあの人が悲しい。
俺が死んだらあの人に会えない。
俺に死んで欲しくないと願う人がいる。
自分で感じる言葉。意思の言葉。打開できるだろうか。
肯定。そうだ。
存在も人生も自分のものからだ。
手札のカードは世界に1枚のカードかもしれない。
対戦中に席から立ち上がって、工場に行ってカードを加工しても良い。
世界が広く、可能性が広く、視野が広くなれば、カードに書かれたテキストがより読めるようになる。
だから自分の人生は自分の足で歩まねばならない。
今を変えるには、最強の自分になるしかない。
そう思って生きてきた。
でも俺はそう思う資格が無くなった。
神に手を引かれ、創魔法を使い、ドラゴンにまで変身できたこの力。
通常の人間は歩むことのない、余りにも邪道な人生。
もう俺は……人間ではないのと同義だ。
だから、スモックとどう接すれば良いのか分からない。
こいつは肉体を持ち、この世界に生きる人間だ。
対して、俺は肉体は無く、生きていると呼べるかどうか分からない。
……。
「何考えてんだ?」
「……自分って人間は、一番大事にするべきだなということ」
「お前は当たり前のことを考えたがるな。まぁそこから学問が始まるという話はあるだろうが」
「そーそー。始まるんだよ」
次の町まで徒歩。
発想とは、リラックス状態でこそ浮かぶ。
何かに興奮している状態では浮かびにくい。
だからこの時間に、当たり前のことに問う。
って。町……村?が見えてきたけど、燃えてないか?黒煙が。
「……あれ?スモック、あれ村だよな?なんか燃えてね?」
「おいおい。燃えてんじゃねえか。助けに行くぞ!」
「おう!」
ーーーーーーーーーー
人を助けるため、創魔法を使うしかない。
草、水、これでいいか?
「クロスレインフォーク!!」
濡れた布を空から降らせる。
これで鎮火できるかもしれないが、これで人間が溺れてしまっては本末転倒だ。
その前に助けなければ。
「助けにきたぞー!!」
「生きている人は大きい音を出してくれ!!」
これだけじゃ足りない。
問題は建物の中だ。気付けなかったら無駄に終わる。
音、虫。
「ヘルマンティスエナジーフォーク……」
音と動きに注目する。
俺が来たからには、ここから人間を死なせるわけには……。
……いた!
「スモック!右斜め後ろの1階が黄色の建物を探せ!多分1階だ!」
「あぁ!」
……。
…………。
しばらくして火災も収まり、見つけた人間は全員救助できた。
「体調は大丈夫ですか」
「あぁ……すまないねぇ」
スモックはまだ残っている人がいないか一軒一軒探し回っている。
ヘルマンティスエナジーでは、反応はもうない。
「すいませんが、何が起こったんですか」
「あいつがやりやがったんだ!」
声を掛けたおじさんが指差したのは、まるでドラゴンのような尻尾の生えた女性だった。
気を失っている。
「あの女が村に来てから変なことばっかり起きるんだ!」
「ま……まぁ本人に聞いてみましょう」
女性の横に座る。
……人造人間だ。体内の構成物質は分からないが、魔力でできている。
俺が助けたときはいなかったから、スモックが助けた中にいたんだろう。
「起きてください」
「むにゃむにゃ」
漫画みたいな寝言だな。
「起きてください」
「うるさーい……」
「起きてください」
「もう!うるさーい!」
起きた。女性はキョロキョロと辺りを見回す。
「あのー。あなたが火災の原因らしいと聞いたんですが」
「あー……。そ、そうだと言ったら?」
「おい!あの女つまみだせ!いい加減この村から離れろ!!」
「で、でもー。こんな可愛いーーーーはいすみません。出ていきます……」
女性はトボトボと歩き出した。
しかし何か思いついたように顔を上げて、俺の方に来た。
「あの!もしかして旅してますか!?」
「はい……旅してますね」
「私も連れてってもらっていいですか?」
え。そりゃありがたいけど、女性と男性が混ざって旅とかやばくないか。
そんなのが許されるのはアニメとかだけだろ。
「いやぁちょっとそれは」
「俺は大丈夫だぜ」
うわ、なんか横にスモックがいた。
いつの間に戻って来たんだよ。
「でも……」
「一緒に旅しても大丈夫だと思う人~。は~い」
「はいはいはい!」
「賛成派が多いんだから決まりだな」
「ありがとうございます」
「……」
まぁ、問題が起こらないなら良いけど。
こいつ絶対けしからんこと考えてるだろ。
この女性。使える魔法は火に特化してるのか。勿論他の魔法もあらかた使えるみたいだけど。
この魔力量ならどんな奴相手でも自衛できるだろうし、不安に思うことはないか。
「あたし~君を見てるとなんか、ようやく出来たんだ!って感じする」
「えぇ……」
俺の方を見てくる。
背の低い女性は目のやり場に困る……。
「おいクレア。胸に視線がいってるぞ」
「お前が言うな」
「え?女性なんだから良いじゃないですか」
「こいつ胸あるんだけど、男なんだ」
「えええええええええ!!」
女性は驚いた顔で下半身を見てくる。
「……あんま見ないでください。ほら、建物直したら次の町に行きますよ」
ーーーーーーーーーー
建物を直したので次の町への道を歩く。
にしてもこの女性、村燃やして人に怪我負わせて、死人は出てなかったけどなんでこんなテンションなんだ。
神経が通ってないとかいうレベルじゃないぞ。人間か?まあ人造人間だから人間とは違うんだけど。
「あたしはフローガ!」
「俺はクレアジオーネ」
「俺はスモック・ポルスカ」
ようやく自己紹介をする。
というか、さっさと村から出ないと村の人間に殺されそうだった。
「フローガさんは、なんで俺たちに付いて行こうと思ったんですか?」
「丁寧語やめてよ~あたしその口調無理だから。で、何でかって言うと、これ」
フローガはスマートフォンのような機械の画面を俺に見せた。
そこにはドラゴンに変身した俺が映っていた。
そして神人に敗れ、変身が解かれるところもばっちり映っている。
「!!」
「あなたの魔力量。見ただけで分かっちゃったんだけど、この変な生き物になったの、君だよね。落ちていくところの映像でもそっくり。だからついて行こうって決めたの!」
おいこの世界の望遠レンズ最強か?もといた世界の方もすごいのかもしれないけど。
って、ネットで出回ってるのか!?巨大生物現る、とのこと。
軽率だった。本当に。
「ねぇ、あの生き物、何?」
「…………あれはドラゴンっていう新種の生き物だよ」
「へぇー!」
「……そういえばフローガの尻尾ってドラゴンの尻尾に似てるよな」
「これはドラガスの尻尾!あたし、ハーフなんだ!」
ほほぉ。
「フローガちゃんって肌綺麗だねぇ。黒髪で赤のインナーカラー。そしてそのメイド服みたいな長い丈のスカート。可愛いねぇ」
「キモいです」
スモック、一蹴されてら。
でも何でこんなに特徴的な見た目なのに、俺はそれを描写する気にならなかったんだろう。
ちょっと意識していくか。
「確かに綺麗だよな。柔らかそう」
「嬉しい~~~~~。クレアって、中性的っていうか、化粧したら可愛くなりそうだし、キメたら格好良くなりそうだよね~」
「ど、どうも」
あんま褒められ慣れてない。
「照れてるクレア可愛い~」
「なんだこの差……お前魔法で魅了したとかないよな?」
「なわけあるか。……次の町って後どれくらいで着くんだ?」
「このまま歩いて1時間くらい?かな」
「ありがとう。じゃあ誰が一番先に着くか勝負しようぜ」
「いいぜ」
「いいよ~」
「じゃあよ~~~い、ドン!!」
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