この小説は人の想像力におまかせする部分が多いです。頑張ってください。
この物語に意味はありませんし、書かれている思想にも意味はありません。
タグに哲学と入っていますが、基本的に作者の思想です。ご了承ください。
夢のない話です。
自己とは、最も大切にされるべき存在である。
と、俺は考えている。
自己があって初めて他者との境界ができる。つまり他者を認識することができる。
なので。
「死にたい……」
いつものPCでの動画視聴。
動画では楽しそうに投稿者が遊んでいる。
今日の動画は、チームを組んでFPSゲームをライブ配信した時の、切り抜き。
動画の投稿者、配信者は努力をしている。運もあるだろう。
それらの巡り合わせによって今活動していると、勝手に思っている。
それによって視聴者である俺は一時的に希死念慮から逃れ、楽しさというものを噛み締めている。
しかしそれにも限度があるし、一時的なものなのだ。
生きるとは、非情にも格の違いを見せつけられるシチュエーションの連続だ。
別にこの動画の投稿者に死んでほしいとは思わないし、今までの人生で俺を踏みにじってきた人間に死んでほしいとも思わない。別にね。
「消えたい……」
この生活を続けて何年だろうか。
とは言うものの、別に変わった生活を送りたいとも思わない。
埋蔵金が見つかって億万長者になったら大変だと思うし、いきなり勉強ができるようになっても……それはできるようになりたいかな。でもまた働こうとは思わない。この前のバイトも続かなかったし。
ただ、人より何かできる、ということを発見するのは大切なことで、これができなかった人間が俺なのだろう。
謙遜とかではなく、俺には何もない。
最初に”人は皆違って皆良い”とか言った人間には確実に人生がプラスの人間だ。
皆違うということは、良い人間がいれば悪い人間もいるということ。
そして悪い人間に嫌な目に遭ってきた人間もいるということになる。
それを考慮せずに言っているのであれば、浅はかだと言わざるを得ない。反論募集。
「そんな君に良い話があるんだけど」
……。
俺、今は動画終わって次の動画探してるはず。
他タブでかけているお気に入りの音楽にそんな歌詞は無い。
とうとう幻聴が。
「良い話があるって」
再び声がしたと思った瞬間、俺の耳の横に矢が突き刺さった。
矢……。
「うわ!なんだこれ」
「アローだよ。刃魔法。これ、使ってみたくない?」
うわ~~~幻聴に幻覚。通販で頼んだカルパス、めっちゃ美味かったけど、それが原因か?
「なわけないでしょ。他にもほら、土魔法で浮かせてあげるよ」
「うおいおいおい」
座っていた椅子が浮く。まるで重力が無くなったかのようだ。
「ほいほい。冷え性の君を火魔法で温めてあげよう」
「あったけえ~」
って違う。何が起こってるんだ。
「姿を現さずに自己紹介は失礼かな?」
と声がすると、PCのモニターから身体が出てくる。
中性的な容姿の大人らしき人間が出てきた。
バスローブを着ている。
「私は……神です」
「……どうも。お初にお目にかかります」
「そりゃそうだろうね」
シシシと笑うと、発光する指の先を近付けてきた。
「今、僕の国では魂の無い抜け殻みたいな人間がいるんだけど、そいつの魂になって欲しいんだ」
「はぁ……」
異世界転生ってことか?
「ということは僕って死にますよね。遺書、書いても良いですか」
「どうぞ。特別に念じるだけで文字が書けるようにしてあげよう」
「有難う御座います」
……。
沈黙。
やべえ気まず。遺書って、予め書いておくべきだな。何があるか分からないし。
まあ適当でいいや。箇条書きで、と。
……。
こんなもんかな。
「無事に書けました」
「よし準備は良いね。特に持ち込めるものも無いし、そのまま来てもらうよ」
神様がそう言うと、俺はPCモニターの中に引きずり込まれた。
「失礼します」
ーーーーーーーーーー
「死んだか?」
「あ……」
目を開けた。日差しが眩しい。どうやら外にいるようで、久しぶりの外出となる。
上体を起こし、辺りを見回す。
そこは……どう考えても闘技場だった。
「え!?」
「まだだったか。死んでもらうぞ」
「ちょっ待って!俺死ぬときは花に包まれて苦しまずに死ぬんだから!」
相手のパンチを躱しきれずに、モロに腹に食らってしまう。
グッ……。なんだこの状況。
闘技場とは言うが観客がいるわけではない。つまりこれは魔法の世界の魔法で作られたフィールド、周囲に被害を出さないための囲いと思うべきだ。
そのフィールドの中に俺と、相手、そして偉そうなおじさん数人。
おじさん数人が味方かどうかは分からないが、少なくともこの殺そうとしてくる人間は敵。
俺の身体が特別、人間じゃない何かというわけでもない。手と足を見る限りは普通の人間だ。
つまり何かの喧嘩があった、或いは指名手配を受けていたとかか?
詳細はこの相手から聞くしかない。でも教えてくれそうにもない。
戦うしかない。
魔法の世界だよな。何の魔法が使えるんだ。俺。
頭の中で検索をかける。
ちょ……多い多い!なんだこの量。
まあでも、色々と試していくしかないっしょ。
まずは刃魔法。神様も使ってたし。
「アロー!」
「さっきまでの魔法はどうした!!そんな攻撃が通じるか」
うわ、叩き落された。威力があまり無いように感じる。
そして”さっきまでの攻撃”、か。さっきまではこの相手と対等に渡り合えるだけの魔法を使っていた可能性がある。
しかし、魔法単体の威力は先ほどのアレだ。なんだ?魔法が違うのか?
それならこれはどうだ。
「ライトニング」
雷魔法。身体強化の魔法。動きが速くなるし、速くなって置き去りにされる身体の部位が無くなるらしい。つまりは髪の毛がなびかなくなって、髪が長くても安心。
「光魔法を使っているのを見ていなかったのか?」
相手に肉薄され、蹴られる。
身体の速さを上げても駄目か。てか光魔法って、俺の使える膨大な量の魔法の中に無いんだけど。どうなってんの。
考えろ。光魔法って何ができるんだ。魔法のコピー?名前的に光の屈折を変えられるとか?そんなことされたら一生攻撃できないけど。
いや、相手は無敵と思った方が良い。
無敵の人間に勝つ方法。
1個だけ思いついた。
さっきフィールド内を駆け回って気付いた。このフィールドの特徴、それは壊れること。
つまりまず相手を壁に追いやる。そこにありったけの魔法を撃つ。
壊れた壁から脱出。これだ。
「アロー!ファイヤ!ロック!アイス!ウェーブ!」
なかなか壊れた感覚が無い。肩で息をする直前まで魔法を放つ。
……よし壊れた。
後はライトニングを自分にかけまくるだけだ。
「ライトニングライトニングライトニングライトニングライトニングライトニング!!」
クラウチングスタート。
当然相手は構える。が。
「バイバイ」
「なっ……!」
フィールドの穴へ一直線に駆ける。
無事通kーーーー
「アリーナレトロ」
ーーーー壁に激突した。
幸い、一定以上のダメージには痛みを感じないようにできているのか、そこまでの痛みはないがまあ痛い。
身体がバラバラになるかと思った。
「逃がさんよ」
おじさんの笑い声が聞こえる。
無敵の相手に対して、逃げ以外の選択を迫られた。
どうする。俺。
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