魔法ってのはもっと自由であるべきだ

ファイラ
ファイラ

魔法ってのはもっと死に塗れるべきだ

公開日時: 2024年4月20日(土) 00:00
文字数:4,130

「よ、スモック君」

「ようやく戻ってきたか……なんか雰囲気が変わったな」


 飯屋で座っているスモックを発見し、声を掛けて隣に座る。


「一個覚悟が決まったんだよ」

「覚悟ねぇ……」


 と言うとスモックは立ち上がり。


「おめぇに助けられた恩はいつか返す。それまで1人行動だ。てめぇ、気に食わねえ顔してやがる。配られた手札はゲーム初期手札ですって顔だ」

「……何言ってんだ?」


「本当に分からねぇか」


 金をバンと机に叩きつけると出て行ってしまった。

 変な奴。


 俺も金が無いので外に出る。

 宿屋には……泊まれないので野宿だ。

 思えばこの世界に来てから初の野宿になる。


 こういう時、光魔法があれば便利だろうなあ。

 移動して、緑の多い所に行く。


「クレイモア」


 大剣を手に作る。

 それを地面に突き刺し、突き刺さった大剣に寄りかかって腕を組んで寝る。

 この寝方、好きなんだよな。地面の硬い感触が辛いけど。


ーーーー翌朝ーーーー


 尻イタタ。

 慣れないことはするもんじゃないか。

 さ、今日は何をしようか。


 ……。

 魔法開発。

 やる気の問題というよりは必要性の問題だ。頭も痛いし。


「ここで何をしてらっしゃるのですか?」

「あ、昨日の。おはようございます。ちょっと色々あって、どうしようかなと」


「……。なるほど。少しやり方を間違えてしまったようですね」

「やり方?」


「一度、マジで対戦をいたしましょうか。私がラスボスの役をやってあげましょう」

「ラスボス?」


 ビリビリダゾ。気付ケバカ。


 俺は分からん。相手の魔力量とか魔法はどんなもんなんだ。


 魔力量ハルーチェノ下。魔法ハ、原属性魔法全部ダ。


 勝てるでしょ。


「ディバイディング」


 光魔法のフィールド空間ができた。飛び込んで、いざ対峙ーーーー

 する前に雷魔法。


「セレリティ」「アロー」


 光速で男に突っ込む。

 右手で男の口を塞いだと思いきや、矢の作成を許してしまった。

 右手に矢が刺さったので、それを抜き、捨てる。


「光速で動く物体は、動く前に殺す。私は闇魔法に明るい人間ですから」

「ソアフレイムフォーク」


「……!セレリティ」


 火、毒の複合魔法によって男の声帯に炎症を起こしたが、光速でこちらの口を塞がれる。

 

「むごっ」

「まさか上手くいくとは」


 口が塞がれたとて、まだ負けるわけにはいかない。

 気魔法。フリップ。

 手を弾いた。


「……無詠唱で能動的に魔法発動ってのは、少々ズル過ぎませんか?」

「俺、最強らしいんで」


「おだてすぎましたね。私はラスボスですよ?」

「ラスボスってのが分からない。何を言ってるのか」


「知りませんか?主人公が一度は負ける存在ですよ。俗に言うなら負けイベントってやつです」

「イイカラ殺スゾ。いや待て。……どうやって声帯の炎症を治したんですか」


「流してくれても良かったのに。まぁそのうち分かりますよ。ほら」


 急に舌が切れる。


「……!?」

「私の雷魔法はまだ続いていますよ?」


 発声できるが詠唱できない。刃魔法ではないのか?太刀筋が全く見えないし、男の言う通り、雷魔法で何かをしているようだ。

 まずい。この状況は。


「ほら、足」


 足が老化していく。立てなくなり倒れる。音は聞こえるのに、詠唱が聞こえない。俺の耳が何かされたのだろうか。

 クソ。クソクソクソ。

 再生シロ。


 気魔法。ダ・リ。

 身体の老化からの回復、舌の再生を行う。


「気魔法、逆に少し不気味に感じます。ガオーワン様なら”力の根源が判断するのではなく、その者の心が判断するべきだ”とか言って聞かないんでしょうね」

「誰ですか」


「気魔法の精霊様です。精霊様の会話が聞けると面白いですよ。……あ、ほら。丁度いらっしゃいました」

「……」


 ガオーワン様と呼ばれる精霊は、既に横で仁王立ちしていた。


「例え最悪に染まろうと、我、力を貸す者。立て。立ち向かう意思はあるだろう」


 …………。


「……言ワれナくテも」


 立ち上がる。


「我、勇気のガオーワンによって!!奮い立つ者の名は!!何だ!!言ってみろ!!」

「クレアジオーネだ!!ウっセぇ!!」


 息を大きく吸う。


「獣、気魔法!!アニマルコーリッジフォーク!!」


 嗚呼。俺は。

 何ダ。


「獣魔法!!ドラグエナジー!!」

 

 やっぱり最強じゃないよ。

 ナンダト。


 何故今唱えたのがドラゴンエナジーではなくドラグエナジーなのか。

 関係無イ。


 それは旅の相方の魔法が、俺の中で生きてるからだ。

 デモドラゴンエナジーニシテモ良イ。何故シナイ。

 

 この世界で最初にできた友達の、魔法だからだっつってんだろクソ野郎。

 スモック君。まだいるだろ。ドラゴン、見せてやるよ。


「ようやく人の力を頼り、それを自覚することができましたか」


 光魔法ディバイディングは空間を湾曲させて広いフィールドを作れる魔法。

 その空間を超えて、俺は50mはあろうかという巨大なドラゴンへと変身した。


「コォオオオオオオオオオオオオオ」 


 男も空を飛び俺と対峙する。

 男は喪服のような服装だ。ということを今、唐突に描写したくなった。

 塩顔と呼ばれるような顔で……。俺は何を言ってるんだろう。

 

「まぁ、自分の、能力を隠蔽、して、偽装、してみた結果、結構、良かったわけだ」


 男の顔と服が溶けるように無くなり、なんと中から神人のおじさんが出てきた。


「!?」

「どうも。ひとまず、魔法開発が進んで、ハッピー。後は、まあ、ここは勝っておかないとね」


 神人のおじさんはそう言うと、懐から鏡を取り出した。 

 

「大きさ、だけで、魔力を語ってると、痛い目、見るよ」


 鏡を右手の指で上に弾く。落ちてきた鏡を右腕に付いていた機械に直接装填。

 

「トランスミラー。トランスマキナ。……変、身」


 手を振り下ろした。

 その軌道が空間が割れ、神人のおじさんを包む。

 次の瞬間その空間が、まるで卵のように割れ、中から龍を模したデザインの、仮面人間が出てきた。


「鏡、蟲魔法さ。ちょっとだけ、かっこつけさせてね」


 仮面人間は空を蹴ると、目の前に現れ、俺の顔面をパンチ。

 そのあまりの速さのパンチを避けられず、後方何十kmか吹っ飛ばされる。


 オイ。気付ケ。猪口才ナ気魔法ノセイデ、今ナラ魔法ヲ無詠唱デ発動デキル。

 マジすか。じゃあやられたまんまってのも、癪か。

 そこからは魔法と殴打の応酬だった。


 ソードスケイルフォーク。

 殴打で粉砕。

 エリアドラグフレイムフォーク。

 拳の圧で消滅。

 ライツフォーク。

 高く振り上げた拳に吸収。

 スライツリズム。

 両拳を合わせた衝撃によって消滅。


「ふふ。良い魔法、ではある。でもね。いくら魔法を使っても、結局は生身が強いかどうか。生身が半端じゃあ、勝てないのさ」


 突然、仮面人間の姿が消える。

 そして背後から、まるで着ぐるみを脱ぐときのようにドラゴンの肉体を

 激痛。もし人間がドラゴンになっていたら、死んだかもしれないほどの痛さ。


 魔法が解ける。でも意識はある。

 顔から地面に落下し始める。


「グラビティ」


 重力を操作し、なおも空中に留まる。

 おい、第2人格。さっきのアレ。鏡とか、蟲魔法って使えるか?


 使エルダロウガ、オ前魔力切レルゾ。


 ここまで神人のおじさんと戦えたんだ。もうこれで終わってもいい。

 だから、ありったけを。

 試す。


「トランスミラァ!!」


 左手に鏡を作る。


「おいおい、耳コピするのとは、わけが違うんだ」

「これは敬意、ですよ。……トランスマキナ!!」


 右腕に機械を装着。


「変身……!」


 左手の鏡を右腕の機械に投げ入れ、作動。

 右腕を突き出し、空間が割れ、包まれる。

 しかし。

 

 無理か……。

 割れた空間は元に戻り、俺は再び落下を始めた。

 そして、意識は消えた。




ー同時刻、近辺にてー


「ミラーワン。お前最低だな」

「君の方が最低だろ。もっと魔力量を抑えた魔法開発しなさいよ」


 鏡の精霊”ミラーワン”と蟲の精霊”プレデターワン”が会話していた。


「魔力量を抑えたから虫とか獣とか人に分かれたんじゃねえか。軟弱な人間には使って欲しくないね」

「俺だって軟弱なやつに使って欲しくないよ。自己がしっかりしてる人間に使って欲しいね」


「鏡魔法の魔力消費もとんでもないだろ。もっと開発促せよ。使用者減るぞ」

「どうしろって。湖の水を見ながらじゃないと使えないようにしてやるか?そこらへんの鏡を使えばいけます的な」


「実際ありだろ」

「ありか」


「……あ、神人様がクレアジワン助けてる。まだまだだなぁあいつ」

「そういや、この前ケンゴワンさんとヘラワンさんがアタックしたらしいよ」


「どうだったのよ」

「ケンゴワンさん、クレアジワンの背後に居ること神人様にネタバレされたらしい。ヘラワンさんの方は、なんか照れすぎたらしくて、訳分からん顔されるようなこと話したらしい」


「なにやってんだ」

「まあ皆楽しそうよね。バーラーワン様がお隠れになって、この世界がクレアジワンのところに収束してる」


「俺は、よく肉体を持つ人間が魔力100%の人間を生み出したな、と評価してるぜ」

「そうだねぇ失敗作ばっか作ってたもんねぇ。ディストルツーのやつ」


「クレアジワン作ったから”もうやることなくなったー”って言って休んでるけど、ここは生物代表してる精霊として一発ケツ叩きに行くか」

「まあ新しい人造人間作ってもらった方が、クレアジワン的には嬉しいだろうね。魔力増えるし。あ、てかクレアジワンって気魔法が無いとまだ魔力全然無いってよ」


「あー。あの別の世界から来たっていう人格だと魔力出ないんだ。地力はちゃんとあるんだろ?」

「モチのロン。でもこれ神人様が言ってたんだけど、元々の人格の方、”まるで肉体のある人造人間みたいなこと言う”らしい」


「”ディストルツー殺してやる”って言うやつか。ディストルツーって自殺願望あんのかな?」

「分からん。”不完全な状態で生みやがってこの野郎”ってことじゃない?クレアジワンに限って言えば、もっと鏡見て欲しいけどね」


「お前たちも居たか」


 戦いが終わってスッとその場を離れたガオーワンが来た。


「ガオーワンさん。どうでした?クレアジワンを鼓舞してきて」

「自己を分かっていない。ミラーワン。お前、行ってきてやれ」


「じゃあ、今度は俺が行ってきますか。プレデターワンは?」

「俺は気が向いたらにするよ」


「あいよ。ガオーワンさんもお疲れ様でした」


 ガオーワンは手を挙げて返事をして去っていった。


「……ガオーワンさんは味方の感じ出してたけど、俺どーしよ」


 ミラーワンは考え込んだ。

 

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