魔法ってのはもっと自由であるべきだ

ファイラ
ファイラ

もっと楽しむべきだった

公開日時: 2024年4月20日(土) 00:00
文字数:3,562

 朝だ。宿屋の部屋を出る。宿屋の店主に握手を求められた。

 俺も自分がどれくらい有名なのか、ネット見ないとな。

 建物を出る。 


「おはよ」

「おはよう」

「おはよー!」


「おはようございます」


 スモックとフローガの隣に、スーツのような服装をビシッと決めた女性が立っていた。

 わ、ルーチェさんか。


「お、おはようございます」

「私は、こういうものでした」


 名刺を受け取る。

 ”株式会社パング 配信営業部 営業兼マネージャー ルーチェ”とのこと。

 株式会社なんだ。


「ネットで話題のクレアジオーネさんに、私の会社の配信者になってもらいます!」

「わー配信者ですか。面白そっすね……」


 やったことないのに、なんとなく苦労が想像つくし、想像以上のこともあるだろうし。

 未知は結構楽しむ方だと思ってたけど、配信者は大変そうだよなぁ。


「なんか乗気じゃなさそうね」

「まぁ……憧れではありますよ」


「お金、稼がないといけないしね~」

「いつまでも俺に頼ってくれてもいいけどな」


 フローガの言う通りだ。スモックは言う通りではない。


「配信者やります。やってみせますとも」

「わぁありがとう。じゃあ契約書にサインと拇印を頂戴ね♡」


 以前働いていたときの感覚でサインし、指に朱肉をつけて押す。


「ありがとう。じゃあそこでちょっと提出して承認もらってくるから!ちょっと待ってて!」

「え、そこで?はい」


 ルーチェさんは近くの建物に入っていった。

 承認貰うにしたって、すぐ貰うのに上司に言い訳とかするのかなぁ。あれ、やると分かるけど怠いんだよなぁ。


「あの女の人、すごい魔力量だね」

「あぁ。ルーチェさんもフローガと一緒だよ」


「あたしと一緒?魔力量が?あれで?」

「……?」


 会話が嚙み合わない。

 いやーーーー

 まさか人造人間の自覚がないのか。

 

 思えば、学校も行ってたような口振りだった。

 

「そういやフローガ、ディストルツーって名前、聞いたことあるか?」

「ないけど」


 つまり小さい頃から人間に育てられていて、人造人間の自覚もディストルツーの名前も知らないということだ。

 まぁ正直人造人間がどの段階で自己を知って、かつディストルツーの名前を知るのか分からないけれども。

 俺はたまたま神人のおじさんに教えられたから知ってるだけで。


 俺が考えていると、コショコショと内緒話するようにスモックが耳打ちしてきた。


「お前、前にルーチェさんと話してた時もディストルツーって名前出してたよな。なんかあんのか?」


 この内容をちゃんと耳打ちで伝えてくるあたり、察しが良いな。


「俺も含めてディストルツーってやつから生まれた人造人間がいて、通常の人間より魔力を持ってる。ルーチェさんもフローガも人造人間だ。でもフローガに言うなよ」

「あぁそういうことか。今更驚かねぇよ。分かった分かった」


 物分かりの良い友を持ったもんだ。


「2人で何話してるの?」

「「フローガの胸の話」」


「嬉しキモい」

「ごっめ~~~ん。遅くなった!!……はい、機材」


「あ、ありがとうございます」


 承認を貰ったであろうルーチェさんから、配信用の機材……スマートフォンとイヤホンマイクを渡される。


「スマホとイヤホンマイクね。このアプリを使って……」

「ふむふむ」


 説明を受ける。

 起動方法、スマホの仕様、配信アプリの使用方法等々。

 説明を受けた後に一通り自分で動かす。


「飲み込みが早いのね!」

「まぁ……それほどでも」


 元いた世界で散々触ったからな。


「じゃあ、そういうことで。分からなくなったら電話してね。後、何か連絡があったらそのスマホにメッセージ送るから」

「分かりました。ありがとうございます」


 ルーチェさんは去った。

 これでお金が稼げれば良いけど。


「……でも何しよう。企画とか無いぞ」

「日常を配信すれば良いんじゃない?無名だったら需要無いかもだけど、有名だし」


「日常ねぇ」


 自分の日常にさして価値があるとも思えないけど。

 何もしてないし。


「今日も図書館行こうと思ってたけど、配信するなら何かしてぇな」

「配信な~~~~。というか、そういやSNSに何も書き込んでないし、まず書き込んでみるか」


 おはようございます。宿屋なう。

 と、書き込んだ。


「これで反応見よう」

「お前……人が集まるぞ」


「え?」

「あのークレアジオーネさんですよね?」


 後ろから声を掛けられる。

 振り向くとカップルらしき男女が立っていた。


「そうですが……」

「わぁ。一緒に写真撮ってもらって良いですか!?」


「良いですよ」


 3人で写真を撮る。


「やったな!ありがとうございます」

「嬉しい!ありがとうございます」


「いえいえ」


 カップルは走り去った。


「ちょっと妬けるな~」

「俺たちもいるのになぁ?」

「じゃあ今度写る時は3人で写ろう」


「やったぁ!」

「まぁ、そうすっか」


 ぶっちゃけ、目立ち過ぎると良いことが無い。

 これはその内分かることだろう。

 まずはこの写真撮影の列をさばかねば……。


ーーーーーーーーーー


 写真撮影の列、なんとかさばけたな。

 まぁ今度は色んな人間から対戦を求められたから、対戦対戦と。

 配信用スマホをフローガに持たせる。


「まずは君からだね。……フローガ、配信できてる?」

「できてるよ~」


「クレアジオーネさん。お願いします」

「お願いします。よっしゃ。やろうぜ」


ーーーーーーーーーー


 対戦の列もさばいた。

 安堵したいところだが、俺は今、建物の影に隠れている。


 右腕が、消えている。


 魔力消費が激しかったから?いや、そんな馬鹿な。

 テラスとの戦いだって激しかったけど、右の手の指で済んだんだ。

 確かに一般人と言えど手強く、やはり一つのことに特化した魔法使いは強いなあなんて思ってた。


 戦い自体が長引いた……から……か?

 くそ。右腕を再生して……なんだ?再生しない。気魔法が発動しない。

 後ろから足音が聞こえる。マズい。仕方ない。右腕を創る。 


「クレア?大丈夫?」


 後ろを振り向く。

 フローガが心配して見に来ていた。


「あぁ。この通り。大丈夫。ちょっと吹っ飛ばされたけど」

「良かった。ほら、今日の配信終わるでしょ?バイバイで締めよ!」


「配信ご視聴ありがとうございました。バイバイ~」


 右手を振る。

 配信が終わる。

 無理矢理にでも笑顔を作る。


 さっきまで魔法は使えてたし、創魔法も使える。

 突然気魔法が使えない、なんてことあるか?

 試しに掌に火を起こす。


 火は起こすことができた。

 

 なんだったんだ。

 前は能動的に発動できたのに。

 発動が不安定なのか。


「クレア、どうしたの?」

「気魔法が発動しないんだ。元々能動的というよりは受動的に発動する魔法だったらしいから、俺が発動条件を勘違いしてるだけかもしれない」


「へぇ~。気魔法は発動しなかったんだ。でも他の魔法が使えてるんだからすごいよ!」

「すごい……のかなぁ」


 ガオーワンに聞いた方が良いかもしれないな。

 呼び出して実際に来るのか知らないけど。

 てかどうやって精霊と連絡すればいいんだ。あ、いや、神人のおじさんがいるじゃん。後で聞こ。


ーーーーーーーーーー


 夜。宿屋に戻って各自部屋に入る。

 モスキート音を鳴らす。


「モスキート音で、私を、呼び出す人、君、くらいだよ」

「ありがとうございます。ちょっとお聞きしたいのですが……」


 気魔法が発動できなかったことを話す。


「そもそも使えること自体、珍しいからね。伝説の勇者の魔法だし。人造人間と言えど、なかなか、思うようにいかないことも、まぁまぁ、あるだろう」

「そうですか……。今は創魔法でなんとかなってるので良いですけど、魔力消費でこれだけ身体が消えてるとなると、生活していけませんよ……」


「そもそも、魔力消費で身体が消える、なんて、なかなか聞いたことないけどね」

「え」


「だって君は、通常の人間の、30倍以上の魔力を、持ってるんだよ?一般人が、肩で息をしている間、脱水症状を、起こしている間だって、人造人間には、そんなことにならない」

「そんな。でも事実として消えて……」


 神人のおじさんは考える素振りを見せた。


「君は、そんな状況でも、創魔法は、使えたんだよね」

「はい」


「恐らく、今回の、身体が消える現象は、無魔法だ。魔力でできた身体を、魔力に戻されている。そして神には、無魔法を無視して、使える魔法が、何個かあるんだ。創魔法は、君にとって、最大の武器になる」

「つまり、誰かが俺を狙って無魔法を掛けているってことですか。こんなこと言っても解決しませんけど、なんでそんなことを……」


「今、この世界で、神様はお隠れになっている。それで、神様のいない星、ということで、他の、何者かが、侵略してきている、と考えた方が、良さそうだ」

「神様ならいますよ。僕が深く眠っていたり気絶したりしているとアドバイスくれます」


「なんと!それは、良かった。それなら、安心。……とまぁ、要領を得た説明だったか、分からないけど、注意してね」

「ありがとうございます!おやすみなさい」


「おやすみなさい」

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