光魔法のフィールドが展開される。
すごく小さい隙間を一時的に広大な大地にしたり、逆のことをしたりできるので、便利なのだ。
俺たちは今、物陰の隙間で戦っていた。
「ウルフ!」
「ポイントエア」
エア!?なんだ、空気が、死んで、いる。ここを、離れる……!
なんとか飛び退いた。
しかしエアって言うからには風魔法じゃないのか!?
「驚くことでもない。私はその辺りの空気に闇魔法を使っただけ。闇魔法の主な詠唱は、対象の名前を言うことです」
そんなのズルだろ。
詠唱が短く済む、そして魔法の効果の効き目がいい。
いや、そんな万能な魔法ではないはずだ。それなら何処かで闇魔法に闇魔法をぶつけるとかいう、ドロドロの戦いが行われているはず。
もしかしたらそれが既にあるのかもしれないが、対象を殺す、という面において、闇魔法以外でも問題は無いはず。
つまりは闇魔法にはなにか欠点がある。
てか、それ以前の問題か?俺、殺されるじゃん。
マズいマズいマズいマズい。
まだ死ぬわけにはいかない。死ぬときは一酸化炭素中毒で死ぬと決めている。
考えろ考えろ。まずはその時間を稼ぐことだ。
「……!魔力が強くなった!?」
「ヒョウエナジー!」
これで走る!
「ポイントレッグ」
……何も起こっていない。危ない。なんとか躱せたようだ。いや。
躱せた……?
可能性の話だがさっきの魔法と違って躱せたというのは、つまり”対象を指定して発動する魔法”ではなく”場所を指定して発動する魔法”だから、ではないだろうか。
つまりこいつの魔法の弱点は、その場に留まらない相手に対しては無力ーーーー
「エリアレッグ」
段々足に力が入らなくなっていく。まるでおじいちゃんにでもなったかのようだ。
手をつく間もなく顔から地面に直撃する。痛い。なんてこった。
恐らく、ピンポイントに絞っていたであろう魔法の範囲を一気に広げられた。
「私が刃魔法等であれば、対等な手合わせになったかもしれませんが……。獣魔法を選択するというのは、優しさでしょうか」
「もう勝った気ですか?……僕は勝つつもりで獣魔法を選んだんですよ」
「ならその、つもり、を見せてください」
ベニクラゲノ力ヲ使ウ。
は?え?なんの声?
と、取り敢えずトカゲエナジー使うか。
「トカゲエナジー……!ソシテベニクラゲエナジー!」
足を切断。再生する。
え、なんか俺の口が勝手にベニクラゲって言ってるんだけど。
「自らの足を切断!そして再生!面白いじゃないですか。これがある限り手足に闇魔法を使っても無駄ということですか」
ハハハと男は笑う。
「なら、その頭。死んでもらいます。ポイントブレイン」
そんなのできるなら。
最初からやりゃいいのに。
希望もたすな。
死んだ。
……。
……。
あれ。 死んで ない?
いや、 これ 闇魔法 とは つまり。
「私の闇魔法は老化。でした。流石にこれを聞いて対処法を判断し、カウンターする脳の能力はもうないでしょうね」
おれ の のうが。
「……?」
一方で男は疑問を浮かべていた。
決着がつけば解除される光魔法が、何故か解除されない。
つまりは決着がついていないということだ。
「まだ、生きているのか?まだ息がある……?いや……!?」
クレアは肉の塊となった。
そして驚異的な細胞分裂。
「ベニクラゲは、細胞のテロメアってやつを修復できるらしくて。助かった」
細胞分裂からの、俺、誕生。
老化するのは、細胞内のテロメアという構造が、細胞分裂を繰り返した際に短くなっていくためだという。
ベニクラゲは老化し、若返る。
「よくもまあ殺そうとしてくれたよな。俺も今試したいことがあってねぇ」
構える。
「マグロエナジー」
相手に獣魔法を発動する。
「なにを……ガッ」
「ラムジュート換水法って呼吸方法があるらしくて。泳いで海水を取り入れ続けないと酸素が取り入れられないらしい。それの陸上版にしといた。大変ですよ」
「……!!」
「循環呼吸法は……どうやらマスターしていないらしい」
「……」
ドサッと男が倒れる。それと同時にフィールドが解ける。掛けていた魔法も解ける。
すぐさま心肺蘇生法。
男が息を吹き返す。
「大丈夫ですか?で、なんの意図があってあんなことをされたんですか?」
「カハッ……ハーッ……。私は、人造人間の力を試しただけです。あのルーチェが力を貸したって言うのでね」
「ルーチェさんをご存知でしたか」
「ああ。彼女に魔力量で勝てる者はいないからね。一旦星魔法に連れ去られるだけで調節次第で相手は死ぬんだから、私の闇魔法なんてまだまださ」
「いいや、正直単一魔法の範囲攻撃だったら、結構な火力だと思いますよ。というか、これが複合魔法になるって考えたら僕は勝てませんよ」
「謙虚ですね。どうあっても私はあなたに勝てません。ネタバレをしても良いのなら理由を言いますが……」
ネタバレってなんやねん。
俺は勿体ぶるのが嫌いなんだ。
「どうぞ」
「自覚が無いでしょうが、あなたは先ほど不正をしています。具体的に言えば気魔法を使用しています」
「え、気魔法……?」
「勇者の魔法です。一説によれば、外的要因によって発動する魔法なので、本人の意思は関係ないとされていますが、どうでしょう。先ほど”ヒョウエナジー”とやらを発動された際、何か能動的に発動させようとしましたか?」
全然自覚も無いし効果も実感できていない。
「いえ…」
「魔力の増加を感知しました。つまりは自らが使える魔法を増やしているのです。ルーチェさんから力を貸されたとは言え、あなたの普段の魔力量は一般人の1.5倍程度。それが20倍以上に増加したのです」
20倍!?こんな物語の最初にインフレ?これって俺TUEEEってやつじゃん。
「なんか……すみません。萎えたわけではないんですが、もしそれが本当なら僕のことを殺して頂けたりしますか?」
「……闇魔法の精霊、プルワン様も一目置くあなたを殺しでもした日には、私も消し炭にされるでしょうね」
それは俺が呪われてるってことか?
にしても、俺みたいな心の弱い人間に、何故力を貸してくれるのか。
精霊もやたら仲良くしてくれてるらしいし。
もっと強い人間が強くなれよ。腹立ってきた。
「なんで皆、僕に力を貸してくれるんでしょうね」
「あなたが生に対して真面目だからじゃないですか?それに」
言おうか迷う素振りを見せ、男は言った。
「あー、あなたは創造主の話をご存知ですか?」
「いえ……」
「世界で唯一、創の魔法を扱えるとされる神様です。そしてあなたは、闇と光以外の魔法が全て扱えます。気魔法も扱えます。つまりは創魔法も扱えるかもしれない人間だ、として、神人陛下から鍛えるように言われておりました」
「え」
とんでもない話になってる。
俺が、神様?はは。
「悪い夢か?」
「むしろ喜ばしいことだと思いますが。人造の神様。デウスエクスマキナですよ」
デウスエクスマキナ。演劇の用語で”罵声の一種に等しい”って見たことあるけどな。
絶対的な力をもってして物語を終わらせ、伏線回収も何もない、俺が思うに物語の最悪の終わり方。
俺の物語もそんなふうになってしまうのだろうか。
いや待てよ。
20倍の魔力ってところで引っかかった。
なにか……おかしい。
一般人の魔力量は人体の5%。人造人間は100%。丁度20倍だ。
今はルーチェさんの魔力が足されているから、最大で元々の150%の魔力量となる。
気魔法を使わない場合の俺の魔力量は7.5%。
そもそも気魔法ってそんなに爆発的に魔力量が増加するのか?
俺の器となっている方ノ人格ノ力ダヨ。
気魔法トカイウクソウザイ魔法デ無理矢理呼ビ出シヤガッテ。
あ、さっきの声の人、あんたか。話の途中で入ってくんな。読み辛いだろ。
俺ガベニクラゲ使ッテヤッタンダロウガ。
気魔法無シジャ俺ノ魔力モ引キ出セナイ雑魚ガ。
獣魔法選んだのは俺だろうが。
ってかクラゲって獣魔法なのか?
相手ト対面シタラ相手ノ魔法クライ読ミ取レ。今回ナラナンデモ勝テルゾ。後、クラゲハ本来虫魔法扱イダナ。
相手ノ口サエ塞ゲバ勝チッテコトヲイイ加減理解シロ。
基本的ニ先ニ動イタ方ガ勝チナンダヨ。
おいおい勝手に不正したのか!?しかもそんなの、魔法開発の旅の意味が無いだろ。
それにあのね、こっちは最悪を考えて動かないといけないわけ。
仮に無詠唱で魔法が撃てるとしたらどうすんだよ。
神人クライダ。見タコトネェ。ツマリ考エル必要ガ無ェッテコトダ。
最悪ヲ考エルナラ最速デ攻撃シロ。ソレガ最善ダロ。
最悪ヲ考エテ足ガ竦ンデルヨウジャ雑魚ダナ。
まあ……受け身になっているのは事実。
でも魔法の開発は一人じゃできない。他人からの刺激があって、初めて自分のインスピレーションが刺激されるんだ。
俺の頭の中に無い魔法はお前も使えないんじゃないのか?星魔法みたいな複合魔法、思い浮かんだのかよ。
要ラン。オ前、闇ト光以外ノ属性ガ使エルンダゾ。
無カラ魔力ヲ生成スルコトモデキルヨウニナルハズダ。
オ前ハ自分ガ最強ノ人間ダトイウ自覚ヲ持ッタ方ガ良イ。
自分が最強なんて、似合わないしイメージすらできない。
できないけど。
…………。
「俺……最悪になってもいいかも」
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