この世界の、恐らくただ一人の異物。異世界からの来訪者。
俺の存在の意味。
それは新たな神になること。
でも、それじゃあもう旅をする意味なんて無い。
もう、想像力に任せて創魔法を使えば、物語は終わる。
別に、俺の人生に他の人間の関与は無くて良い。
……でも何でこんなに空虚なんだろう。
こんなにも目の前は温かいのに。
負け続けの人生は、終わったはずなのに。
俺には力があるのに。
人生に意味もあるのに。
でもアニメや漫画に登場しないような。
努力もせず、苦労もせず、頼り甲斐もなく、鬱屈としていて、心の内はどす黒く、一生懸命になれず、歴史に刻まれず、仲間が離れようと何とも思わず、そのくせ自分のこととなるとすぐ熱くなり、型も破れず、勇気も無い。
そんな存在。誰が愛してくれるんだろう。そんな存在なら、尚更今にでも創魔法を使うべきではないか。
でも……いやいや、何で”でも”って思うんだ。さっきから。
迷うことなんてないのに。
…………。
段々考えることが面倒になってきた。
正しいとか正しくないとか、善いとか悪いとか、するべきとかするべきじゃないとか。
もう、考えるの、疲れたよ。
俺の意識は、深く、眠りについた。
ーーーーーーーーーー
「また会ったね」
「…………」
前に神人のおじさんと戦った後に会った子どもだ。
恐らく、神だろう。
「まぁ闇堕ちする前に来てくれて良かった。前に言ったよね、”神人ノオジサンヲ倒シ、創魔法ヲ完成サセル。ソシテ新タナ世界ヲ創ル”って。それはどうするの?」
「きっと、もう倒すことはできる。無限の魔力、無限の魔法。俺に敵う人間なんていない」
「大きく出たね。シシシ。でもそれは、君の想像に過ぎない。やってみないと分からないかもよ?」
「……俺を倒せるのはあなただけだ。いや、あなたとだって、どうなるか分からない。力の使い方をより知っているかどうか、想像力が足りているかどうか、そういった要因次第だ」
「こりゃ、思い上がりも甚だしいね。人造人間が僕に敵うとでも?」
「俺の頭には、どう倒すか考えがある」
「そうか。そいつは怖い。事を構えるのは止した方が良さそうだ。……そんな君に、僕が君をこの国に連れてきた理由を教えようか?」
「!……知りたい!」
「それはね、君が不屈の精神を持っているからだよ。君に足りないのは力なんだ。力がないから優柔不断だし、自分を殺すことさえできない。力さえ与えれば、君は最高の人間になれる、と思ったのさ」
「……」
「蓋を開けてみれば、強すぎたね。僕を倒せるとすら思ってる。君は、死は怖くないのかい?」
「怖くない。どうせ、死んでいたようなものだった」
「実際、死んでいたらどうなると思う?」
「……周りの人間が少し悲しんで、それで終わりだろうね」
「悲しむとどうなると思う?」
「……少し生活に支障をきたすかもしれない。音信不通になって不安にさせるかもしれない」
「ふむふむ。生活に支障をきたしたとして、どうなる?」
「周りに手伝ってもらうとか、カバーが必要になる」
「うんうん。そこまで考えたことあった?」
「いや、ない」
「君は死を恐れないが、死んだ後の事を考えていないってことだね。今度はこう聞こう。人間が死んだら、どうなると思う?」
「……周りが悲しむとか、輪廻転生するとかって話か?」
「違う。人間はね。死んだら歴史になるんだ」
「歴史なんて、生きていてもなれるんじゃ……」
「そもそも、もしも人間が不老不死だったなら、歴史なんて要らないんだよ。不老不死じゃないから歴史というものを作り、事物の変遷を記録するんだ。違うと思うかい?」
「…………」
「別に僕は自分の思想をひけらかしたいわけじゃないんだ。反論があるなら都度言ってくれ」
「分かった。でも、一旦その主張を聞きたい」
「輪廻転生とか、永遠回帰とか、そういう考え方はあるよね。でも魂がどうとかいう話はどうだっていいんだ。事実として、人間は死ねば誰かの記憶、記録に残り、その人間がそれに影響された行動をして、それに影響された人間が……と無限に続いていくんだよ。それは非常に微弱な電波かもしれない。言い間違えをするだけかもしれない。打ち込んだ文字が1文字2文字違うだけかもしれない。君には想像がつくかい?」
「……つく」
「だからこそ、今死んでも良いと考えるのは理性的とも言って良い。しかし行動に移すのは非常に衝動的で力の要ることだ。何故か分かるかい?」
「……感覚としては自分にも合ってるが、何故だかは分からない」
「どこまでも理性的な人間は、死を選択肢に入れるが、実際には死を選ばないんだ。今の生を肯定するってことは、今死んでも悔いは無いってことだからね。しかしどこまで行っても、結局動物であるが故に現実的な死を恐れる。他者との関係を大切にしたり、飽くなき欲望を更に満たしたりという方向に、基本的に向いてしまうんだ。それを超えるのが、強烈な衝動の力ってこと」
「……」
「つまり人間は死んじゃ駄目だけど、死んでも良いと考えるべきだ。歴史を刻むためにね」
「……だから、俺はこの世界に受け入れられてる。存在しても良いって、そう言いたいのか?」
「よく伝わったね。そうさ。君はこの国で力を手に入れた。それで自殺しようと構わない。ディストルツーがちょっと悲しくなるだけさ。でも確かに人の行動を変えた。スモックは巣立ちできたし、フローガは憧れの人間と旅をしてるって思ってる」
「ふふ……」
「理解してくれる他人がいるから死ねないけれど、その他人がいるからこそ死んでも良い。どう?不屈の精神と創造の力を持つ君はどう思う?」
「…………」
黙り込んだ。
無限の時間が過ぎていく。
そして、俺は口を開いた。
「でも創造の力は、歴史に残すにはあまりにも強大すぎる。何でも出来るって言っても、何でもやってしまったら駄目なんだ」
「じゃあ、何でもかんでもやらなきゃいい」
「それじゃあ魔法を鍛えるなんてできない」
「創造の力は鍛えるモノじゃない。もう君には無限の力がある」
「それなら、旅をしている理由なんて無いってことになる」
「シシシ。そうとも限らないさ。この世界の人間はよく頑張ってる。その人間の魔法を、君は見たくないのかい?」
「見たいさ。……でも、結局は人間の枠をちょっと超えたところまでしか、魔法は使えない。箒で空を飛ぶのだって土魔法か風魔法で重力や重さを調節して浮いているだけだし、ビームを出すのだって雷魔法や石魔法に頼る必要がある。知識さえ頭に入れれば、なんだってできるんだ」
「それは、この世界にケチをつけているのかい?」
「そういうわけじゃない。この世界は、よくあるお伽噺の世界じゃないってこと。俺は……旅をする明確な理由を見出せない」
「つまり君って、人間の歴史に傷をつけたくなくて、旅の目的が分からなくて、創魔法を使わないと自衛すらできないかも、って考えてるの?」
「多分そう」
「いいじゃん。戦いを挑まれたら創魔法を使わずに勝てば。己の限界に挑戦しなよ。それで魔法の発展に寄与してくれよ。それができないんじゃ、君の想像力もまだまだってことさ」
「でもそれに何の意味があるって言うんだ」
「そんなの、人間の発展以外にあるのかい?人間は人間の発展のために生きているんじゃないのかい?人間として生まれたからには、人間として何かを残す。それが掌のサイズほどの小さなモノだっていい。それ以上の意味を求めるのは……疲れちゃうんじゃないかな」
「……」
「僕の回答が全てではないよ。ただ、君はあまりにも窮屈だ。物事全てに理由があるとか、意味があるとか、それは良い考えだけど、囚われすぎるのは疲れるよ。結局、良い塩梅で考えるのが楽なのさ」
「俺が、意味を求めすぎている……?」
「そうさ。旅の意味。人生の意味。魔法が使える意味。他人が付いてくる意味。考えすぎなのさ。確かに意味はあるだろうね。余程衝動的ではない限り。でも所詮後付けでいくらでも意味なんて付けられる。つまりは考える必要が無いことも、まぁまぁあるのさ」
神は一呼吸置いて喋り出した。
「ベラベラと思想を語ってしまったけれど、実際どうだい。君が悩んでいることは解消されたかな?」
「……あぁ。この世界からはいつでも去ることができる。この世界の秩序を破壊することもできる。何でもできる。でも俺は世界を見たい。力を持つからこそ、他人を頼って、人間の歩んできた歴史を見て、俺自身の回答を出すんだ。俺はここにいるんだ!ってね」
「前にもやりたいことを聞いたわけだけど、それよりも良い結果になっていそうで良かった。悩んだときはまた来なよ。僕ももうそろそろ行こうかな。あ、後ちゃんと旅の道中は精霊探しなよ。きっと良いことがあるから」
確かに。今の町に来るときは駆け抜けてしまった。
道端に気を配ることはできていなかった。
「分かった。ありがとう。神様」
「もっと敬ってくれたって良いんだよ。じゃあね」
ーーーーーーーーーー
「はっ……!」
「お、起きたな」
「クレア~~~~~~!!!何かあったかと思った~~~~~~!!!」
ここは、宿屋か。
ベッドの横でスモックとフローガが見ていてくれていたようだ。
右手は……戻ってる。
「ごめん……。ちょっと考え事してた」
「考え事にしちゃあ、見た目が悪かったな」
「もし悩みとかあったら言ってね!力になるから」
「ありがとう」
「お前……なんかようやく顔つき変わったな」
「え?」
「まぁ、少しだけな」
「なんか変わった?まー……そんな気もする」
神との対話が、俺に何か影響を及ぼしたのだろうか。
いや及ぼしてるか。
「ちょっと休んだら、この町を見て回ろう」
「いいぜ」
「いいよー」
結局俺たちは日が暮れるまで談笑した。
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