魔法ってのはもっと自由であるべきだ

ファイラ
ファイラ

もっと勤勉であるべきだった

公開日時: 2024年4月20日(土) 00:00
文字数:5,280

 町に着いた。

 

「1位あざすあざす」

「2位かぁ~クレアすっごぉい」


「おまえら早すぎだろ」


 競争は1位俺、2位フローガ、3位スモックという結果になった。

 

「まぁいいや。この町は大規模な図書館があるから、そこでクレアは勉強だな」

「えぇ~クレアが勉強?なに勉強するの?」


「実は俺、魔法を習ったことがないんだ」

「え?ほんと?え?じゃあ今までの魔法は?」


「独学みたいなもん」

「へぇ~!あそこまでできるなら、独学で磨ききってもいいんじゃないの?」


「まぁ……この国で生きるなら、先人の知恵も取り入れていかないといけないかなと」

「そう。……その顔、何か後ろめたさがあるって顔ね。理由、今は聞かないけど、後で教えてよ~?」


 図書館に入る。ひrrrrrrrrろい。元々いた世界の図書館をおしゃれにガラス張りにしたり、棚が動く仕掛けになっていたりと目新しさはある。

 スモックの話では、学校の教材なんかも一部置いてあるそうで、それをデータベースから探す。

 どうやら基本的な16の原属性魔法は習うそうで、特に学びたいものがあればそれを専攻するという流れが多いそうだ。


 …………えーと、この棚の隣か。あったあった。

 よく考えたら16属性学ぶとか無理だな。

 まあ、適当に学んでいくか。


「あたしはもう学んじゃったからなー。火魔法を学ぶってなったらマンツーマンで教えてあ・げ・る」

「分からんとこは俺が教えるから、適宜言ってくれ」


「了解。ありがとう」


ーーーーーーーーーー


 そもそも魔法は、精霊に詠唱を見るか聞くかしてもらい、その精霊が承認することで発動するとのこと。声に出しても良いし、手話でも良い。

 で、魔法の名前は極端に言えばなんでも良くて、その発動した者の頭に眠る知識が、そのまま魔法の効果になる。

 ただし獣や虫魔法の詠唱は、その動物の知識が無いと発動できないらしい。そして、脊椎の有無で分別されるらしい。虫が無脊椎動物、獣が脊椎動物。なるほど。


 例えば創の魔法を持たない俺が”ドラグエナジー”を発動しても、失敗に終わる。因みに前発動した”ドラグエナジー”は、俺がドラゴンだと思い込んでいたからドラゴンとして発動したようだ。

 

 まぁつまり、世の中を知っている者の方が有利ということだ。魔法と言っても結局本人の知識や想像力次第だから、勉強が大事なんだな。

 幸いこの世界でも通じる単語ばかりで助かる。

 ”ライトニング”とか”アロー”とか。まるで動植物の名前だけ変わった地球みたいだ。


 後、各魔法の概念……は長いし止めとくか。

 闇が死、光が空間……という感じで、各魔法の内容が分かるように概念が設定されている。

 これは俺の身体の元々の持ち主も知っていたようで、分かる。


 へぇ~建物って魔法とか物理的な衝撃を無効化する魔法が使われてるんだ。無魔法だ。

 そりゃそうか。建物なんて、魔法ですぐ壊れるだろうしな。

 複製系の魔法ってやっぱり機械に使われてるんだ。建材とか工具とか、やっぱ大事だよなぁ。


 あ~魔法って全く別のことを同時にできないんだ。

 例えば1人に火魔法を当てつつ、もう1人に土魔法を当てるなんてことはできないと。

 そういう時は複合魔法を2人同時に当てる必要があるってことだな。



 

 ふと本から目を離し、周りを見回す。

 こういう場所って静かなイメージだけど、ここは勉強を教える人間もいて結構喋り声が聞こえる。


「あの人……やっぱ……」

「そうだよね……」


 ドラゴンに変身した動画が、よっぽどネットで拡散されているんだろう。

 そんな人間が超初級の教材を漁っているんだから、更に悪目立ちしている。


「あの人ね~あたしの彼氏なの~」

「えー本当ですかー!?」


 おい。何やってんだあいつ。


「おい」

「キャー」


 服を引っ張って隣に座らせる。

 こいつを泳がせていると良いことが無さそうだ。

 ってかこいつ村燃やしてんだよな。何があったのか知らないけど。


「おとなしくしてなさい」

「だってぇ~暇なんだもん」


「あの~すみません」


 フローガと話していると、陽キャらしき男が話しかけてきた。


「はい。なんでしょう」

「あのネットの巨大生物の人、ですよね。僕、テラスって言います。僕と勝負しませんか?」


 なんか巨大生物の人という肩書きが付いているらしい。


「え、勝負ですか?」

「はい。今こういう企画をやってまして……」


 企画の内容が書かれた、スマートフォンのような機械を渡される。

 空中に映し出されているのだが、どの角度から見ても正面から見たときと変わらず表示されている。


「”強い人と戦ってみた”……。ということは、あなたは結構お強い方なんですね」

「一応、強さがウリです」


 陽キャの男……えーと、金髪で、首からチェーンを垂らしていて、指に指輪を嵌めたテラスは、力こぶを見せつけてきた。


「あはは。お相手が務まれば良いですが……」

「よっしゃ!じゃあ一旦出ましょ!」


 勝負することになった。

 でもこれ、負けた方が良いのかな。いやぁ、流石に勝とう。




「勝敗の決着は、どちらかが地面に頭をつけた時点で決まります。準備いいっすかー?」

「大丈夫ですよ」


「よし……ウツセミ」


 辺りが自然に包まれる。遠くには山も見える。

 光魔法か。フィールド生成しないと迷惑掛かるもんな。

 

「やっぱあなたとなら自然の中で戦うのが良いかなって」

「ありがとうございます」


 これはライブ配信だ。いきなり相手の口に手を突っ込むわけにはいかない。

 しかも口で唱える以外にも、精霊に魔法の発動を伝える手段はある。それすら封じてしまうと、面白くはないだろう。

 相手を立たせる。


 さあ、何が飛んでくる?


「ナルカミ!そして……ミヅカネツルギノリズム!」


 ミヅカネツルギ……?見た目は……プルップルの液体金属のようだ。

 テラスが肉薄してくる。ナルカミはライトニングと同程度と思って良いだろう。

 あのプルプルの剣に殺傷能力は無いだろうが、わざわざそんなものを当てる必要があるってことは、何か毒があるとか魔力を削るとか、そういう目的のはず。


「セレリティ」


 光速には勝てまい。

 俺は右に移動しーーーー

 テラスも右に移動した。


「なに!?」

「伸るか反るかの賭けに勝った!」


 確かにセレリティはライトニングより速く移動できるが、光速で移動する都合上、直進でしか移動できないし、効果が一瞬で切れる。ライトニングは稲妻を意味するから変わりなさそうだが、一般的に使用されるにあたって速度が落とされている代わりに効果時間が長い。ナルカミも同じかは知らんけど。

 俺が攻撃を躱すなら右、左、上辺りが候補として挙げられるだろう。斜めとかもあるけど。

 それを一発で読まれた。だからってあの剣に当たるのはなんかマズい。

 

「ウォーターフォール!」


 液体金属ならこれで防げるか。


「おっと。その防ぎ方してくる~?ハナアカリ!」


 桜が咲き、辺りが暗くなる。桜の花が咲いているところだけほんのり明るい。

 

「そして、タマユラヌイイッセンノリズム!」


 こんなに暗くて配信画面、大丈夫なんだろうな。

 とにかく留まってたらマズい気がする。

 

「……!」


 すんでのところで攻撃を回避できた。

 一瞬だけ光る、かまいたちのようなものが飛んできた。

 勝負抜きに見ていれば、その綺麗さに心奪われることだったろう。


「ライトニング!」


 フィールドを駆けまわる。テラス本体は見えない。

 この暗さ、俺だけ暗くなってるとかか?

 ならさっき勉強した梟みたいな動物の出番か。


「フクハイエナジー!」


 これで俺の目の感度を上げる。

 テラスは……いた。

 こちらを見失っているようだ。


「グラビティ」


 相手を浮かす。からの。叩きつけ。

 よし、頭がついーーーー


「オボロヅキ」


 いや、後ろに回り込まれていた。

 あれは分身か!


「ソラノカガミ」


 テラスの目の前に、いつの間にか出ていた月からどデカい鏡が降ってくる。

 咄嗟に後ろに避ける。


「アマツヒ」


 太陽が俺の後ろから昇る。

 俺は反射的に目を覆った。

 マズい。このままでは攻撃を食らってしまう。


 ここで避ける?

 いや。


「ライトエアフォーク!」


 突進して鏡をぶっ壊す。

 いくぞ。今度発動したら格好良いぞ。


「トランスミラー。トランスマキナ。……変身!」

 

 蟲魔法、変身。

 多大な魔力を消費する代わりに、絶対に相手と対等の力を得られる。

 本人が強ければ、相手よりも強くなる魔法だと思って良い。


 空間が割れ、包み込まれる。

 そして。

 包み込んだ空間が更に割れーーーー


「俺、参上」


 和服の仮面人間が出てきた。


「うおおおかっけえ。神人陛下の魔法だ!」


 使える魔法は、ええと。


「ナルカミ。ツキイツルノツルギ」


 氷の三日月刀を右手に突進。

 テラスの周りを斬る。


「当たらないぜ!」


 刀の軌道が凍り付き、周囲の温度を下げる。

 その正六面体の軌道がテラスを囲む。


「やべ。ヒトモシゴロ!」


 テラスの周りに明かりが点く。

 その熱で氷が融けていく。

 

「危ねぇー!流石巨大生物の人だ!サツキヤミ!」


 視界が暗闇に染まる。今度は桜の明かりは無い。

 

「なら、ホシヅキヨ。ニゲミズ」


 星の光で明かりを確保し、分身。

 

「分身までするのか!?」

「トランスミラー!シノノメニ シノギヲケズリ シタリガオ」


 3枚分の言葉が書かれた鏡をトランスマキナに入れる。

 右手に力が集中する。


 からの、多方向からのグーパンチ。


「カハッ……」


 分身体全員で頭を押さえに行く。

 頭を掴んで。

 地面へ、どん。


 ……フィールドが解かれた。勝敗が決したってことだな。


「……いやぁ流石。ありがとうございました。あのネットの動画では失敗してたけど、あの変身まで使えるなんて、完敗っす」

「ありがとうございました。それにしても、変わった魔法でしたね」


「和魔法、結構凄いでしょー。頑張ったんすけど、まぁ巨大生物の人からしたら、まだまだなんだなあ」


 テラスは”締めは僕の言葉の後にさようなら~でお願いします”と耳打ちしてくる。

 

「あ、そうださよならの前に。差し支えなければお名前教えて頂いても良いっすか?ネットでは有名人なので」

「はい。クレアジオーネです」


「皆さん聞きました!?クレアジオーネさんっすよ!町で会ったらこんにちはっすよ!じゃあクレアジオーネさん、また会いましょう。さようなら~」

「さようなら~」


 テラスは去っていく。遠巻きに見ていたフローガとスモックが近づいてきた。


「やるじゃない!テラス、結構ネットじゃ実力者だから、これでクレアも認められたね!」

「おい!あの”変身”ってやつ、教えてくれよ!俺も使いてぇ!」


「ありがと。”変身”は魔力消費が激しいから、もっと鍛えないとな」


 魔力消費が激しい。さっきから消えかかっている右手の指を隠すのに精一杯だ。

 どうやら魔力消費の度合いによって、身体が消えるようだ。これはどれくらいなんだろうか。

 実体化している魔力の身体が消えかかるほどの度合い。


 今回でこれなら、バレてるのかバレてないのか分からないけど、前に神人のおじさんと戦った後、身体のどこかが消えかかってたんじゃないのか?


 もっと慎重に使うべきだったか。

 とはいえ、創魔法無しには思ったよりも苦戦してしまう。

 勿論、衆人環視の下でなければ人魔法等を使えば良いのだけれど、こういう状況が多いかもしれないと考えると難しい。


 今後も”変身”を使わざるを得ないだろう。

 もしくは、自分の新しい魔法を開発する、とか。

 それが一番良いか。


 しかしまぁ、文明レベルは元いた世界とそう変わらない。つまりあらかた開発しつくされてると思って良い。

 ということは、今ある素材を使って新たなモノを作るのが、安牌か。

 魔法……。


 創魔法なら、恐らくなんだってできる。

 魔力を無限に生成することも、アニメみたいなカードバトルをすることも、動物をデータ化して保存することだってできるだろう。あくまで想像だが。

 ただ、それはズルだ。でもズルなんだろうか。


 俺は神になる人間。力があるのに使わないというのは、宝の持ち腐れどころの話ではない。

 傲慢な考えとかではなく事実として、神になる人間として、神に近づくためには創魔法を使うべきだ。

 

 一般人からしたら絶対にかなうことのない存在に、なるんじゃないのか?

 ここでフローガとスモックにチヤホヤされて、俺の未来はあるのか?


 正直に言おう。今、スモックに魔力を与えれば、ドラグエナジーでドラガスに変身することは可能だし、鏡魔法と蟲魔法を使えるようにして変身させることすら可能だ。

 フローガだって何が目当てか分からないけど、魔力を与えることも、更に綺麗になることも、なんだって可能だ。

 それどころか、世界中の人間の望みを叶えることも可能だ。


 いやでもそれは…………多分最も想像力の無い話だ。

 今、旅を終え、創魔法に任せて物語を終わらせてしまうこと。それは歴史が、無から有を生み出す創魔法を肯定してしまい、この世界を終わらせてしまうことと同義になるからだ。


 だから望みとは、叶えば良いというモノではない。

 叶うまでの過程にどれだけの努力をしたか、歴史を作り上げたかが、人類の進歩には必要不可欠なんだ。

 この地球の誰一人だって、歴史に関わらない人間はいない。その人間の人生の過程で、ズル、というのは絶対にあっちゃいけないんだ。


「クレア?」

「大丈夫?」


 ……。

 それなら、俺は。何で此処にいるんだろう。

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