「お前……大丈夫なのか。胸」
「うるせえな。大丈夫だよ。気にすんな」
「触って確認してぇなぁ」
「触ろうとすんな。次の町のこと考えなさい」
俺たちは今、町の外にあったバスを使って次の町に移動している。
しかしまあ、バスまであるとは。
物好きとか土地勘無い人が乗るって感じなんだろうか。
こういう都会には土地勘無い人も来るだろうし、いくら魔法で飛べると言っても、魔法を温存したいとか、魔法がそこまで使えない人間とかもいるんだろうなあ。
なんにせよ技術の発展は大事なことです。
「次の町は……美に重きを置いた町か」
美。魔法の精度とかが美しいんだろうか。
流行を作る者たちの歴史が見られるということか。
楽しみ~。
「お前って、なんでそんなに楽しそうなんだ?」
「そりゃ見聞きしたことのないモノと出会えるんだから楽しいに決まってるだろ」
「どこで育ってきたんだ?この辺の人間ではないんだろ?」
「あー」
なんと言えば良いのやら。
人造人間というのは、別に隠すことでもないけど、言うことでもない。
人造人間がどう扱われてるのかが分からないから、言えるかどうかも分からない。
こう考えると、こういう質問って結構踏み込んだものなんだなあ。
「別の国から来たんだよ。魔法が栄えてない国」
「そんなのあんの!?」
「あるよ」
スモックは目を開いて驚いている。
まさかそれが異世界とは思うまい。
「魔法が栄えてない国から来て、実は魔法がすっげえ使えるって、それお伽噺じゃねえか」
「……神様はいたってことだよ。でもまあ魔法が使えると言っても、俺は配られた手札でしか勝負できないからさ」
「そりゃ普通は当たり前だろ」
俺を小突く。
当たり前、まあ当たり前か。
人は配られた手札でしか勝負ができない。この言葉、確かにそうだ。
俺はこの言葉に反論ができない。それはいい。
問題なのは、この言葉に縛られていると感じること。
この鎖を砕きたい。
この世界でならそれができる気がする。
魔法で、ぶっ壊してやる。
おっと。着いたようだ。
バスを降り、美の町とやらを見る。
「あらまあ、美しいこと」
「ケバいな」
そういうこと言うなよ。
美の町の入り口には、ネムノキのような花が大きく咲いていた。
オブジェかと思うほどの大きさだ。
草魔法に恵魔法を混ぜたのだろうか。
光輝いて見えるのは、恵魔法によるものだろう。
「あなた旅人ね。美しい身体じゃない。その身体、さぞ複雑な事情があるんでしょうね」
「俺は無視かよぉ!」
「他者や物に敬意が無いじゃない。尊いモノは門から見るのよ」
「門ねぇ……」
スモックは呟きながらネムノキのような花を見る。
「この町で美を学んでいきなさい。まさに美魔法!」
美魔法……この輝きは恵魔法かと思ったが、新概念の登場か。
美しさ自体に興味は無いが、新しい概念を学ぶのはいつだって楽しい。
町に入る。
緑が美しい……。
あまりの美しさに、光を受容した俺の目が大合唱している。
「お前泣くなよ恥ずかしいだろ」
「こんなに綺麗な光景をいつでも見られる環境に感謝しろ」
「怒んなよ。感情が繁忙期迎えてんじゃねぇか」
「仕方ないだろ。こんな機会、初めてなんだから」
一瞬、”美しいものに涙を流せる人間に育ててくれてありがとう両親”と言おうとしたがこいつの前では言えないな。
食べ物を選ぶように、衣服を選ぶように、言葉も選ぶべきだろう。
「この町は特に景観とかそういうのが良いんだよな。前の町のハンマーみたいなものは無いけど、観光名所は沢山あるんだよ」
「へぇ~」
観光MAP、みたいなことが書かれている看板を見ながら生返事。
どうやら町の中に色々な町があるらしい。カラフルな建物が並ぶ所もあれば、瓦屋根の建物が並ぶ所もあるらしい。
様々な人の美意識の集合体みたいだな。
「他を侵略しない敬いの心の表れが、美魔法ってわけか……」
「なるほどなぁ。深く考えたことねぇわ」
星魔法のように組み合わせで出す魔法ではあるものの、それは本質ではないだろう。
単に草魔法や水魔法等と恵魔法を組み合わせることを美魔法と言っているとしたら、まあ、考え過ぎではあるか。
でも魔法と魔法を組み合わせ、それを新たな魔法とすることは大事なことだと思う。
今でこそ星魔法の”スペースフリー”のような魔法が複合魔法扱いだが、開発が進めば複合魔法の証である”フォーク”、”リズム”、”フリー”が外れ、”スペース”となるだろう。
そうなれば新しく星魔法が公のものとなり、魔力が元々少ない人間でも、もしかしたら使える魔法になるかもしれない。
美魔法も同じだ。
「いいよいいよ。観光名所回ろうぜ」
「おう」
ーーーーーーーーーー
空気が美味しい。
聞こえてくる音が綺麗。
目に見える自然も綺麗。
刃魔法で木を作ったり、水魔法で湿度を調節したり。
様々な工夫を感じる。
しかし、言ってしまえば人工物だらけではある。
人工物だらけの中で自然を感じるというのも、なかなかなディストピア感がある。
食べ物についても様々あり、見た目を重視した物、機能性を重視した物、栄養を重視した物。
ある程度の味は担保されているらしいし、人気店みたいなものもどうやらあるらしい。
人間の繁栄を感じる。
アポロ100号まで造られたらどうなっちまうんだろうな。
あれ。そういや魔力って宇宙にあるんだろうか。
「なあスモック。宇宙に魔力ってあんの?」
「無いはずだぜ。宇宙に魔力があったら、今頃宇宙の謎なんて無くなってるだろーな」
「へぇ~」
「昔、土だか風だかの魔法で太陽に向かっていった人間がいて、魔法が切れて息ができなくて死んだって話もあるしな」
「おもろいじゃん」
「知らねぇのか。後は勇者の伝説とかもあるぞ」
「どんなんなの」
「すっげぇ古代魔法が使えるっつって魔王を名乗った奴がいて、その時の勇者が気魔法っていう魔法を使って倒したとかなんとか。まあ伝説だよ」
気魔法。生命力に関するものと解釈するなら草とか恵魔法関連だけど。
それとももっと精神的な魔法なんだろうか。使うだけで気力が湧いてくるなら、是非使いたい。
現代人には大切な魔法。
気魔法……頭の中で検索をかけても見つからない。
光や闇魔法関連なのだろうか。
誰かに教わる必要があるとか、なにか発動条件があるのだろうか。
「ふぁ~飽きちまった。そろそろ飯食って宿屋で寝ようぜ~」
「あぁ。俺もうちょっと見たい所があるから先行っててよ。どうせ町の出入り口近くにあった店だろ?」
「そうそう。了解~」
スモックが去っていったのを確認して歩き出す。
すると物陰から一人の男が現れた。
「そこのあなた。相当な魔法使いのようですね。私と手合わせ願えませんか?」
「……え、俺ですか?いいですけど、とんでもない。普通の魔法使いです」
「見たところ、ほとんどの魔法が使えるらしいですが、それは普通とは言いません。ただ、これから行う手合わせでは魔法は一種類のみ使えることとします」
「……!わかりました」
使える魔法を見破られた。
何者なんだろうか。
「創作魔法や禁忌魔法を除いた、16種類の原属性魔法のみとしましょう。降参の意思表示があった時点、或いは気絶した時点で終わりとします。殺し合いではないですよ」
原属性魔法とは火、水、氷、雷、石、土、刃、音、風、草、毒、虫、獣、恵、闇、光のことだろう。
どの魔法でも相手は倒せる。
火で体温上昇、水で溺れさせる、氷で体温下降、雷で身体の電気信号操作、石で圧迫、土で重力操作、刃で斬る、音で気絶、風で重量操作、草で体力を吸収、毒で病気、虫で寄生、獣で身体強化、恵で栄養過多、闇と光は使えないしまあ省くか。
……ここは獣魔法でいこう。
身体強化ができるし、獣を召喚して戦うことができる。
「決まりましたか?」
「はい」
「では使用魔法を宣言しましょう。せーの」
「獣魔法」
「闇魔法」
男はフィールドを展開した。
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