人生が二度あったので押し掛け女房に翻弄された男が純愛を貫き壮大な夢を叶える物語

主人公の現世では押し掛け女房に出逢い翻弄されるが、死後の異世界では愛妻と望んでいた幸せなスローライフを満喫します
K.Yoda K
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第二話 勤務二十日目 パートの富田美紀との別れの挨拶 その他通常業務

公開日時: 2022年4月11日(月) 08:02
文字数:6,674

朝の出勤前

今朝も何とか起きたという感じの和夫で精神的に疲れると朝の目覚めは良くない。ただできる限りその気持ちを引きずって仕事に臨みたくないので、家で緑や庭の虫などの観察をしてから出掛けようと思っている。和夫は田舎で生活しているのだから、東京にいる時には見たこともない物を見たいという好奇心はまだ健在だ。

 

公立学校の長い夏休みも折り返し地点を迎えようとしている。「そろそろ宿題に手を付けたら……」と我が子の尻を叩く母親の声が近所から聞こえて来た。和夫が小学生だった頃は東京でも自然公園などでは残っていた。宿題に昆虫や植物の標本作りがある事が多く、手間が掛かっても楽しい一面もあった。観察していると蚊に刺され、一番酷い時は足長バチの巣の下を潜った時に刺されて顔が腫れた事を今でも良く覚えている。そんな経験をしても日頃、見慣れない昆虫を捕らえた時の感動は今でも忘れる事ができない。

 

蝶の羽を一枚もぎ取って飛ぶのかの実験をした時に蝶は地面をグルグルと回っていて可愛そうになって足で踏み潰した事を思い出す時、残酷さにさいなまれた。子供の頃の残虐性は誰にでもある。子供の頃に置き忘れて来た大人も中にはいるが。小さいもの、弱いものに対する慈しみや守りもその経験があれば助長され、他人に対しても同じだと思う。

 

現代では昆虫をはじめ野山に生息する小動物たちを殺しても良いなどと言ったら大変な騒ぎになるらしい。心の片隅に誰にも存在した残虐性が子供の頃にそうさせた。昆虫や植物を採集して標本にする事は、結局は生を絶つ事、すなわち殺す事だ。大切なのは昆虫や植物に関心を抱く事が、動植物に対し、ひいては自然に関心を抱く事に繋がる。

 

昆虫や植物、そして人間も自然の中で共生している事を今朝は改めて認識した。今日は珍しい羽の付いた虫が古竹の棒の上に集っていた。綺麗な蝶が集まっていたらもっと良かったんだが、アイツ(羽の付いた虫)は一体、あの竹の中で何をやっていたんだ?と気になっていた。このように自分の心をニュートラルに持って行けるのは自然の力だと感謝する。

 

「さぁ!今日も頑張りますか!」と叫び、いつもより少し早めに家を出て、昨夜書いた大使館の職員へのお礼状を投函して行く事にした。

 

*

 

朝の掃除と朝食のスタンバイ。

毎朝のホテル周辺の清掃を行っていると、最近では様々方から声を掛けられる。今日は小中学生が横断歩道を渡る際の緑のオバサンなる女性警察官だった。

 

 向こうから笑顔で「いつもご苦労様です」と叫んだ。

 

「おはようございます!」と和夫も言った。

 

「子供たちの良い見本になりますのでありがとうございます」と警察官。

 

 昨今ではボランティアを声高に叫ばれている。和夫は東京にいる時の休日には身体障害者さんたちのスポーツをお手伝いした事があった。ディスクゴルフや乗馬の手伝いもした事があり、これに関わる先生などとも交流があった。

 

 和夫は基本、ボランティア団体に所属するのは嫌だった。理由はそのような団体に加入している人の中に自身の名誉の為で、その団体の中で自身の商売上の営業という気持ちでいる人がおり、「いつかは天皇家から表彰されるから」と言っていた人がいて幻滅した事があったからだった。そんな団体に入会しなくても日々、街のゴミ拾いでも立派なボランティアだと思っていたからだ。

 

 毎日、駅前やホテル周辺の掃き掃除をしていて、このように声を掛けてもらえることには有難く思っていた。これも休みの日以外は継続してやっている賜物だと思っていた。社長との約束を守るためだが、「継続は力なり」と自身に言い聞かせてやっていた。掃除と蜘蛛の巣取りとテラスの植木の水やりを終えて事務所に行き、タイムカードを押した。

 

 倉庫に行き、台車に牛乳とジュース類の箱を載せていると英子が来た。和夫は先日、副支配人の品川から、「年上に呼び捨てするんですね?」とイヤミを言われたので、「英子さん、おはようございます。」と言うと「気持ち悪りぃー!」と言い、「私には呼び捨てで良いからね。大きなお世話よね!?」と明るく言って豪快に笑った。英子が台車を押してくれてレストランに行った。

 

 既に山下と大崎がスタンバイをしていた。挨拶をして洗い場に行くと、鈴木と派遣が仕事をしていた。鈴木が和夫の腕を引っ張って、「嫌になっちゃうのよ、あの派遣、全然働かないから。」と愚痴を言った。

 

 和夫「派遣は仕方ないよ」と言って慰めた。

 

 和夫も経験していたが派遣でバリバリやってくれる人は少なかったからだ。その足で調理に行き挨拶してカウンターに戻った。今までだったら富田も居たのにと和夫は思いと少し寂しかった。富田は和夫に熱心にカウンター内のスタンバイを教えてくれた人だったからだ。

 

 このホテルは社長、副社長、そして料理長がパワハラをしているので、空気がおかしくなると和夫は思っていた。ティールームの仕事が始まったらまた料理長のパワハラが勃発するのでは?と心配していた。スタンバイが終わり、朝食がスタートした。今日も何の問題もなく終わった。

 

 

朝の賄いと中抜け休憩。

朝食の片付けをし終え、大崎と山下と愛美と和夫で同じテーブルに座って食事した。

 

「昨日のA国大使館ではどうだったのですか?」と大崎。

 

「良かったわよ」と愛美。

 

「どう良かったんですか?」と大崎。

 

「大使館のスタッフさんから様々な事を教えてもらったから」と愛美。

 

「何を教えてもらったのですか?」大崎。

 

「どんな料理やドリンクを出しているのかなどね」と愛美。

 

「帰りに東京ホテルで食事をしたんですってね?」と大崎。

 

「そう、副社長と料理長と私でね」と愛美。

 

「依田さんは行かなかったのですか?」と大崎。

 

「うん、寄りたい所があったんだって」と愛美。

 

「依田さん、何処に行ったのですか?」と大崎。

 

「彼女の所だよ」と和夫。

 

「そうですよね、依田さんは地元が東京ですものね」と大崎。

 

「その話し、本当ですか?」と愛美。

 

「愛美さん、そんな怖い顔してどうしたんですか?」と大崎。

 

「ホントだ!」と山下。

 

「嘘に決まっているでしょ、仕事中だよ」と和夫。

 

「なんだぁ」と愛美。

 

「まっすぐホテルに帰って来たの」と和夫。

 

「副社長は依田さんの事を目の敵にしているみたいですものね、フロントの人たちが言っていましたよ」と大崎。

 

「うん、そうなんだよ」と和夫。

 

「気を付けて下さいよ、副社長は陰険ですからね、あっ、いけね、娘さんがいる前だった」と大崎は言って舌を出した。

 

「そんな話しになっているの?」と愛美。

 

「はい、フロントでは有名みたいですよ、副支配人が副社長に依田さんの事を報告しているから」と大崎。

 

「そう言えばこの間も山形さんがそんな事を言っていたから今晩、副社長にどうしてそう言う事をするのか訊いてみるから」と愛美。

 

「そんな理由なんか言わないと思いますよ」と和夫。

 

「私もこんな話しを色々な人から聞かされるのが嫌なので訊いてみます」と愛美。

 

和夫と大崎は食べ終わったので席を立って食器を洗いに行った。

 

「フロントでは有名なんだ、その話しは?」と和夫。

 

「はい、品川さんが脚色して言っているみたいなんで」と大崎。

 

「俺、副支配人にまで恨まれているんだね」と和夫。

 

「依田さんが仕事出来過ぎるから妬いているんですよ、気にしない方がいいですよ」と大崎。

 

「うん、ありがとうね」と和夫。

 

食器を洗って、窓拭きに行くと、昨日の清掃の女社長自ら窓拭きをしていた。

 

「あ、依田さん、おはようございます」と女社長。

 

「あっ、おはようございます、社長自らやって下さっているのですか?ありがとうございます」と和夫。

 

「お礼を言われるのもおかしなものですよ」と女社長。

 

「社長がやって下さっているので、私は休憩に入らせて頂きますね、お疲れさまでした」と言い寮に帰った和夫だった。

 

 

中抜け休憩時に社員寮に富田が来訪。

(それにしても、賄いの時に聞いた大崎や先日の山形の話しはやっぱり気に掛かる)と和夫は思っていた。

 

何でここまで副社長に嫌われなくてはいけないのか? また品川が脚色してまで副社長に報告をしていると聞くと気持ちの良いものではなかった。良い意味での脚色ならまだ良いが逆だったら最悪だ。人には馬が合わないという事もあるから仕方ないのだが、それにしてもだ。だったらこんな田舎に来なくても良かったのではないかとさえ思ってしまう。石の上にも三年という言葉があるので、最初の一年はとりあえず頑張ってみようと自分を鼓舞していた和夫だった。

 

体が疲れていたら始まらないので睡眠だけは取れる時に取っておこうと思った。一時間ほど寝ただろうか、玄関のドアを叩く音が聞こえた。誰だか分からなかったが、寝床から「開いていますから~!」と言うと、「こんにちは~!」と女性の明るい声だった。

 

何となく富田かと思った。慌ててスラックスを穿いて出て行くと、「やっぱり!」と声が出てしまった。

 

「やっぱりって、何よ!?」と富田は可愛い顔で膨れた。

 

「声で分かったから、心配していたんだぞ!」と言うと富田は和夫に抱き付いて来て、「本当に心配していたの?」と甘えた声で言った。

 

「本当に心配していたよ」と言った。

 

「だったら何で電話してくれなかったの?」と富田。

 

「人妻だろ?」

 

「でも電話ぐらいできたでしょ?」

 

「うん、ところで今日はどうしたの?」

 

「お世話になったからご挨拶に来たの」

 

「残念だったよ、俺に一番親切だったからさ」

 

「私も残念だった、一番大事にしてくれたから」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ、ありがとう」

 

「昼にパートに行っていたでしょ?」

 

「うん」

 

「そこで通しで働く事になったの」

 

「良かったじゃない!」

 

「実はそこの方が働いている人たちが親切なの」

 

「それだったら余計に良かったじゃない、おめでとう!」と言って時計を見ると夕食のスタンバイの時間が迫っていた。

 

「依田さんと会うのが、これが最後になっちゃうかもしれないよね?」

 

「そんな事無いだろ、いつでも来れば良いじゃない?」

 

「だってここはホテルの寮だから誰かに会う可能性があるじゃない?」

 

「まぁ、そうだけど」

 

「だから」

 

「だったら他の場所で会えば良いんじゃない? ファミレスとかさ?」

 

「これからも会ってくれるなら私はラブホで会いたいな」

 

「それも良いね」と、和夫は笑って言った。

 

「キスして良いかな?」

 

「いいよ」

 

富田は和夫の首に腕を回してキスをして来た。

 

和夫も富田の腰に腕を回して応えた。

 

和夫は(富田がもう少し辞めないでいてくれたら、もしかしてセフレになってくれていたかも? 何と言っても俺は人妻好きだからな。結婚してって言われないから最高なんだ)と、邪な事を思った。

 

唇を離した富田は「じゃぁ、もう行くね!」

 

「うん、また何かあったらいつでも相談に乗るからさ」

 

「うん、ありがとう、またね!?」と言って帰って行った。

 

 

夕食のスタンバイ 夕食

和夫は事務所に行き、タイムカードを押していると、副支配人の品川が、「依田さん、今日から入った西村さんです」と言い体重が百キロはありそうな太った男性を紹介された。

 

品川「ホールの事を教えてあげて欲しいのですが」と言った。

 

和夫「承知致しました」と言ったが(また、何かされるんだろうな?)とも心配していた和夫だった。

 

「西村さん、初めまして依田和夫と申します。私もつい最近、入社した者ですので、教えるなんて、偉そうな事はできませんが一緒にお仕事が出来たらと思います」と言って「それでは行きましょう!」と言ってレストランに案内した。

 

レストランに入ると、既に西村は、「ハァハァハァ」と息を上げて汗を拭いていた。

 

たった三十メートルほど歩いただけだったので、和夫は、西村はホールができるのかと心配になった。

 

女子高生と山形が動いていた。二人に西村を紹介した。三人で互いに自己紹介をし、その後洗い場に連れて行き、挨拶後に紹介し、更に調理場に連れて行き挨拶後に紹介した。

 

今日の夕食のお客様は大人数で和夫自身も疲れるほどだったので、西村も相当疲れていて途中で西村が和夫の所に来て、「すみません、膝が痛いのでこれで帰らせてもらいたいのですが?」と言った。

 

和夫「独断で決められないので、副支配人に聞いてきますので少し待っていてください」

と言って西村を客席の隅に西村を座らせて、品川の居るフロントに行き相談した。

 

和夫「副支配人、すみません。西村さんから膝が痛いので帰りたいと言っているのですが、どうしたら宜しいでしょうか?」

品川「使い物にならないんだったら帰らせても良いんじゃないのかな。」と言った。

 

和夫は先程の西村との会話からこの品川との会話そして西村に品川の言葉を告げるところまでをICレコーダーに録音した。大崎や山形から聞いていた品川が副社長に和夫の事を脚色して報告していると聞いたからだった。

 

レストランに帰って和夫は西村に、和夫「副支配人の品川さんが帰って良いって言っているのでお帰り下さい、お大事にして下さいね。」と言うと西村は帰って行った。

 

ICレコーダーのスイッチをOFFにした。

 

和夫の本音はあまり余計な事に関わりたくないと思っていた。余計な事に関われば関わるほど目立ち、それが副社長の気に障り、社長へと変な意味で伝わるのが嫌だった。同僚や上司、部下の間で録音を録らなくてはいけないような疑心暗鬼の仕事をするのは本当に嫌だし疲れる。いつまでこの感じが続くのかが心配だった。幾ら愛美が和夫自身を陰ながら助けてくれたとしても、精神が持つかどうか、それが心配だった。

 

和夫は自身の何がいけなくて、副社長から嫌がらせや社長への嘘の報告をされているのかが、全く理解できなくて困っていたましてや上司である副支配人の品川が悪い意味で脚色して副社長に報告しているのを知った今となっては更に話しが複雑に絡んでおかしい方向に進んでいるのが窺えたからだ。片付けを終えて賄いになった。

 

 

食のスタンバイ 夕食 賄い。

相変わらずの顔ぶれで山形と愛美と和夫だった。

 

「西村さんって言ったわよね、途中で帰っちゃったのね」と山形。

 

「膝が痛いって言い出してさ、品川さんに訊いたら使い物にならないんだったら良いんじゃないかって」と和夫。

 

「あの体じゃぁね?」と山形。

 

「確かに」と愛美。

 

「本当は俺、嫌なんだよね、ああいうのはさ」と和夫。

 

「なんで?」と山形。

 

「先日、山形さんからも聞かされたけど今朝、大崎さんからも同じ事を聞いたんだよ」と和夫。

 

「品川さんが副社長に脚色して報告している事でしょ?」と山形。

 

「うん」と和夫。

 

「本当にごめんなさいね」と愛美。

 

「愛美さんが謝る事じゃないから気にしないで、でも最近俺、精神的に参っているんだよね」と和夫。

 

「A国大使館に行く時でもそうだったもんね。私もあまりにも依田さんに失礼だと思ったから怒ったの」と愛美。

 

「確かに嫌だよね」と山形。

 

「疑心暗鬼になるじゃない?」と和夫。

 

「私たちのようなパートだったら良いけど、社員だとそう簡単に辞められないものね」と山形。

 

「うん、最近の副社長が俺に対して、結構キツイから余計に思うんだよね」と和夫。

 

「本当にごめんなさい、今晩、副社長に訊いてみるから」と愛美。

 

「今朝も言ったけど言わないと思うけどね、馬が合わないって奴だと思うよ」と和夫。

 

「だったら社長に言って帝丸ホテルから呼ばなければ良かった訳で、就職させてから苛めるのは道理としておかしいでしょ?」と愛美。

 

「俺もそう思うけど。もう頑張れなくなりそうだよ」と和夫。

 

「そりゃぁ、そうよ、でも依田さんはそのぐらいでも、ここの社員たちより頑張っていると思うから、丁度良いんじゃない?」と山形。

 

「俺はいつも百パーセント以上の力で働きたいんだよね」と和夫。

 

「ここの経営者が望んでないんだったら止めた方が良いと思うけど?」と山形。

 

「経営者の気持ちは分からないからね、ご飯が不味くなるからこの話はやめようね、二人に心配させて本当にごめんなさい」と言い、また和夫は急いで食べて帰寮した。

 

 車中で考えながら運転していた。この嫌な気持ちがあって、中抜け休憩時に富田が挨拶に来てくれた時に時間があれば抱きたかった。

男は心身共に疲れると、『疲れマラ』が発動するのだ。セックスをしたからと言ってこの気持ちが晴れる訳ではない事は和夫自身も重々分かってはいる事だが、とにかく射精して体だけでもスッキリしたいと思っていた。

 

 東京に帰って、帝丸ホテル時代の元パートの人妻セフレの京香に逢いたいな、帰寮したら何年振りの自家発電でも京香とのセックスを思い出してするか?と思った。

 

 つづく

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