人生が二度あったので押し掛け女房に翻弄された男が純愛を貫き壮大な夢を叶える物語

主人公の現世では押し掛け女房に出逢い翻弄されるが、死後の異世界では愛妻と望んでいた幸せなスローライフを満喫します
K.Yoda K
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第三話 勤務十三日目 副社長による社長への和夫の悪意の報告 社長の秘密 その他通常業務

公開日時: 2022年4月9日(土) 10:01
更新日時: 2022年4月9日(土) 20:18
文字数:5,813

朝の出勤

最近の和夫の業務は、帝丸ホテルと同様で忙殺されていて、疲れが取れてなかった。体力が衰えたと感じていた和夫だった。昨夜は疲れて洗濯と入浴をしないで寝てしまったので、朝シャンをして出勤した。

 

 最近の朝は前の家の佐々木さんのお婆さんがいつも顔を出して家の前を掃除しているので、挨拶は欠かさなかった。今日は、お婆さんが話しをして来た。

 

「依田さん、この間の娘はごめんなさいね、私がちゃんと話さなかったからいけなかったの、今度、お詫びにご飯作っておくから食べに来て」

 

「佐々木さん、気にしないで下さい。ご飯は独身なので嬉しいですけど、休みの日しか頂く事できないですから」

 

「事前に休みを教えてくれれば拵えるから遠慮しないで言って、娘も楽しみにしているから」

 

「その時はお言葉に甘えますね。では行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい!気を付けてね」

 

 和夫は(このお婆さんも若い頃は美人だったんだろうなと思っていて、娘さんも先日会った時は眠くて良く顔を見なかったけど身体は和夫の好みのボンキュボンで歳は五十歳手前でストライクゾーンのド真ん中だったのでご飯を頂いた時に良く観察しようと思っていた)。

 

事務所に着くと、箒と塵取りを持っていつものルーティーンをこなした。

 

お社のある場所に行くと、管理をされているというお爺さんに会った。

 

「アンタきゃー?いつも掃き掃除をしてくれている人は、ありがとうな~」と言われた。

 

「いえいえ」

 

「驛前ホテルの社員きゃー?」

 

「はい、そうです」

 

「ここだけの話しだけえが、あそこの社長はガメツイっていう噂だで気を付けなせゃーよ、でもねあの社長のお兄さんがこの上のガソリンスタンドの社長なんだけどがんこ良い人で、あの社長と兄弟とは思えにゃー程なんだよ、このお兄さんの悪口を言う人と会った事にゃーで、機会があったら会ってみなせゃー」と言われた。

 

 和夫は(このお爺さんの方言が凄かったが、地元の人が言うので本当だと思えたし、和夫に対しての社長と副社長の態度を見れば、このお爺さんが言っている事はまんざらではないように思えた)

 

 

副社長による社長への悪意の報告。

レストランに行くと既に全員、揃ってスタンバイをし、珍しく愛美も出ていて皆と一緒に仕事をしていた。

 

 和夫はカウンターを通り越して、それぞれのホールスタッフに挨拶をした後に洗い場に行き、「多部さん、おはようございます、今日も……」と、その後を言おうとすると多部は、「今日は新しい化粧品にしたのが分かる?」と嬉しそうに言った。

 

 和夫「分かるも分かる、いつも以上にお綺麗ですこと!」と言ったが、本当は巨乳の事を褒めようとしていたので残念だった。

 

 鈴木が来て「昨日、高田さんに記念撮影して上げたんだってね」と言った。

 

「うん、鈴木さんにもしてあげるよ、辞める時にね」と和夫。

 

「高田さんは物凄く喜んでいたわよ! 二年間、このホテルに勤めたけどあんな事をしてくれた人は社員で居なかったからって。」と鈴木。

 

「いつも、ほらっ!」と言い、ベルトに引っ掛けている小さなバッグからデジカメを取り出して、「いつも持ち歩いているからさ」と和夫が言った。

 

「何で、そんなのを持っているの?」と鈴木。

 

「この会社、ヤバいじゃない」と和夫。

 

「何が?」

 

「どうしてだかわからないんだけど、私の事を副社長が嫌がらせのターゲットにしているからさ」

 

「そう言えば、誰かも言っていたかな?」

 

「何を?」

 

「確か、副支配人の品川さんだったと思うんだけど、品川さんが副社長に依田さんの報告をしたら、副社長は社長が来た時に依田さんの報告を違う意味の悪意のあるような報告をしていたんだってフロントの人たちに話していたのを聞いた事があったから」と鈴木。

 

「品川さんが言った事が本当だったら、本当に私、相当にヤバいよね。以前に2回、社長から怒られた時にも、身に覚えのない事だったからさ、だから証拠を残す意味でデジカメが必需品なんだよ」と和夫。

 

「こうやって皆を纏めて仲良くさせてくれたのも、仕事にやる気を出させてくれたのも依田さんなのに副社長は何でそんな事をするんだろうね」と鈴木。

 

「どうしてだか分からないけど、私の不徳の致すところでございます。トホホ……。」と和夫が言って調理場に行き、挨拶をした。

 

 

朝の調理場での会話。

和夫は調理場に行き元気良く、「おはようございます!」と挨拶をして入って行った。

 

 シェフ以外のスーシェフの神田と三番の新橋の二人が「おはようございます!」と元気良く言った。

 

 シェフは朝のミーティングに会議室に行くのと入れ違いだった。

 

「依田さんの今日の朝の賄い用で鰤と大根の煮付けを作ったんです」と新橋が言った。

 

「それは嬉しいな。久々だよ、私は魚が大好きだからさ、ありがとうね!」と和夫。

 

「でもいつも思うんですけど、煮汁を多く作って捨てているんですよ。勿体ないって思っていて」と新橋。

 

「別にお客様に出す訳じゃないんでしょ?」と和夫。

 

「はい」と新橋。

 

「だったら鰻のたれや焼き鳥のたれ同様に次に煮付けを作る時まで冷凍して取っておいて、また作る時にその煮汁を足せば更に美味しくなると思うよ」と和夫。

 

「あっ……そうですよね‥‥‥、鰻のたれか‥‥‥、思いも付かなかったですよ」と言って煮汁を試食したら急にその新橋がシャックリをし出した。

 

「ヤバい! ヤバい!」と新橋が言い出した。

 

「彼はシャックリをすると止まらなくなるんですよ」とスーシェフの神田が心配して。

 

「料理長から逆立ちして(ヒック)鼻から水を入れればしゃっくりが治るって(ヒック)教わったのですが、それをやったら(ヒック)死にそうになったので」と新橋が言った。

 

「シャックリを治すのはレモンの輪切りを食べてみてよ、一発だから」と和夫が言った。

 

 新橋はレモンの輪切りの皮をペティナイフで切り取ろうとしたので、和夫は「皮ごと食べて!」と言った。

 

 新橋はパクッと食べると、シャックリは一瞬にして止まった。

 

「スゲー!」と新橋が言い、「依田さん、ありがとうございました。俺の長年の懸案事項だったので助かりました。」と新橋。

 

「シャックリで死んじゃう人もいるからね。何でも訊いてよ」と和夫は言ってカウンターに行くと英子がカウンターのスタンバイをし終えてくれていた。

 

 和夫は英子に「ありがとう!」と言うと、英子は「調理場で何だか楽しそうだったのでやっておいたからさ」と言い、続けて、「このお駄賃は?」と言った。

 

 和夫は親指を人差し指と中指の間から出し拳を握って女握り(めにぎり)して、「近い内に!」と言った。

 

 英子「相変わらず、依田さんはバカだね! またご飯作って待っているからさ」

 

 和夫「サンキュー! 楽しみにしているよ!」

 

 

朝食スタート

今日の朝食は殆どがアジア人と西洋人が数人のお客様だった。このような時に実力を発揮するのが、アジア人の山下と富田だった。だが富田は「辞める宣言」をしてからは休んでいたので、今朝は山下が一人で引っ張りだこになって通訳をしていた。コソ泥をやっていた山下でも生かす所があるので、辞めさせる事をしないのだと和夫は思った。

 

あのマヨネーズ事件も結局は誰がやったか分からず仕舞いだったし、問題を起こすのは山下だったり料理長だったりで、その二人も結局は長年、このホテルで勤務している訳で、帝丸ホテルだったらとっくに首に繋がるような行為なのだが、このホテルは既に社長と副社長そしてシェフの悪評が地元に流布されているので、求人広告を出してもスタッフが集まらないと副支配人の品川が嘆いていた。

 

狭い田舎なので一旦、悪評が流れれば、その悪評を払拭するには相当の期間と内部の努力が必要になる。しかし料理長はだいぶ、良くなってきたが、社長と副社長の意識は以前と全く変わってないどころか、より悪くなっているようにさえ思うと品川は言っていた。

 

ただ嘆いてばかりいても良くならないし、その中での一縷の望みとすれば愛美の存在は大きなものと和夫は思っていた。昨日の愛美との事で彼女は和夫を見る目が上司の目ではなく女の目をしていたので彼は注意した。若いから仕方ないとは言え、「誰に気付かれるかわからないし、気付かれた時には二人ともアウトだからね」と言った。

 

「気を付けます」と愛美は言った。

 

張り切っていた山下が下げていた皿を落とし、運悪くお客様の洋服を汚してしまった。和夫が直ぐに行き、謝罪したが怒りを英語で捲し立てられていたので閉口した。和夫は只でさえ英語は苦手と来ていたからだった。そこの愛美が来て流暢な会話で何とか収まった。和夫と山下は愛美にお礼を言うと彼女も嬉しそうだった。その後は愛美が対応してくれて事なきを得た。このようなアクシデントをクリアすることで仲間意識も高まりチームワークが良くなっていくものなので失敗は成功の元だと和夫は思っていた。

 

それにしても外人は激怒すると会話が早くて聞き取れないと和夫は嫌だった。

 

その後、同じお客様から和夫に”Chinesepeopleareverynoisy!!”「中国人はとてもうるさいです!」 と言われた。

 

和夫は”Sorry”「ごめんなさい」と言い、山下に伝えると彼女は中国語で、「静かにして下さい」と注意して回った。

 

兎に角、特に中国人と韓国人の声の大きさには閉口していた。和夫は賄いを食べ終えて、中抜け休憩時にテラスルームの窓ガラスの清掃をした後に寮に帰った。

 

 

生垣伐採作業時に社長の過去の秘密を知る。

和夫はこの寮に引っ越して来た明くる日に隣家の奥様の美沙から、「生垣の木が隣の敷地にも道路側にも伸びているのを伐採してほしい」と言われたので、まずは他人様に迷惑になっているのであればと気になっていて、それを早急にやらなくては思っていたので実行していた。

 

 チェンソーで作業をしていると、音が凄かったので隣家の奥様が出て来て、「依田さん、やってくれているのね?」と言って、「冷たいお茶、入れたから来てよ」と言われた。

 

「奥様の家に出ている枝だけは早急に終わらせますから」と和夫言って続けた。

 

 その後、愛美が来て、「私も手伝います!」と言ったので「落ちているその枝を庭の中に運んで」と頼んだ。

 

 隣家の土地に出ていた枝だけは何とか終わらせてチェンソーを仕舞っていると、隣の美沙が家から出てきて、「あ~ら、大久保さんの所のお嬢さんじゃない? 随分大きくなったわね?」と言った。

 

 和夫は、二人は知り合いだったのかと思った。

 

「お茶、淹れるから愛美さんもどうぞ!」と美沙が言って縁側に招いてくれた。

 

「愛美さんって言ったわよね? 大塚さんの奥様がここに住んでいた時に良くお父さんと一緒に来ていたものね。大塚さんの奥様のお誕生日にお父さんが赤いバラを持ってきて奥様に渡していたのを何度も見たから」と美沙が言った。

 

「その頃、愛美さんが居たという事は、社長は結婚していたという事で、えっ?」と和夫が言って計算に苦しんだ。

 

「お恥ずかしい話しですが、その頃の私は小さかったから分からなかったのですが、父の結婚が遅かった理由がそこにあったみたいなんです」と愛美。

 

「実は大塚さんのご主人が居らした時からお父さん、社長さんね、大塚さんの奥様のお誕生日に赤いバラの花束をプレゼントしに来ていたのよ」と言った。

 

「この話しはこの地元では有名な話しですし、このご近所の人は皆、知っている事なんです。だから私、恥ずかしくて東京の全寮制の高校に入学して大学はスペインに留学したんです。本当は日本、いやこの地に戻って来たくなかったんです」と愛美が言った。

 

和夫は愛美に何となく陰を感じていたのはこの事が原因だったのかと思った。愛美にとっては思春期だったので相当辛かったと思った。美沙にご馳走になった礼を言い、愛美はホテルに帰った。

 

 

夕食と夕食の賄いと和夫の名刺の肩書。

中抜き休憩を終えて事務所に行くと、愛美が、「依田さん急遽なんですけど、明日ティールームに来て下さいと県庁の榎田さんから電話がありましたのでお願いしま。」と言い、「名刺が出来たので」と渡された。

 

 和夫「ありがとうございます、明日ですね、承知致しました。」と言い名刺を見ると肩書が凄かった。

 

 +++++++++++++++++++++

 富士ホテルズジャパン株式会社 

 総支配人総料理長

 山下湖畔ティールーム開業準備室室長

 

            依田和夫

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 和夫「専務、誰がこの肩書を決めたのですか?」

 

「社長ですが」と愛美。

 

「あ……、そうですか……」

 

「何か?」

 

「いや、何でもないです」

 

 一号館のシェフには自称総料理長と自分で名刺を作っているので絶対に見せられないと思った。

 

 和夫はホールスタッフに挨拶をした後に洗い場に行き、「おはようございます! 多部さんのエプロンの下に隠されている、その素晴らしい巨乳を揉みしだきたい今日この頃でございます。」と言った。

 

「またバカな事を言って!」と言いながらも爆笑していた。

 

「おはようございます。」と鈴木にも挨拶をした。

 

「はい、どうぞ!」と鈴木が胸を差し出したので、和夫は「巨乳にしか興味ないから!」と言って笑うと、「どうせ私はペチャパイですよ!」と言って膨れて三人で笑った。

 

 その後、調理場に行き、「おはようございます!」と挨拶すると、全員で「おはようございます!」と返って来た。

 

「朝の責任者会議で和食に話しをしましたが、まだ良い返事はもらえませんでしたが、継続して毎日やって行こうと思っています」と料理長が言った。

 

「そうですよ。継続は力なりですから、頑張って下さい」と和夫。

 

 夕食のスタンバイも山形と女子高生が全てやっていて和夫はカウンターの中のスタンバイだけをした。

 

 今日の夕食は問題なく終わった。

 

 夕食が終わって夜の賄いを食べていると愛美の夫の大久保茂雄が来て挨拶した。

 

「常務取締役を拝命致しました大久保茂雄です。どうぞ宜しくお願い致します」

 

「十数日前に就職しました平社員の依田和夫です。宜しくお願い致します」と和夫。

 

「私はお目に掛かった事ありましたがパートの山形です」と言った。

 

「私は大久保愛美(おおくぼまなみ)です」と言った。

 

 和夫と山形は爆笑したが二人は笑ってなかったので変な空気になった。

 

 和夫は例の如く、黙々と食べて帰宅した。

 

 帰ったら愛美からLINEが入っていた。

 

 大久保愛美

「変な空気にして

 ごめんなさい

 明日、また宜しく

 お願いします」

 

 和夫

「いいえ、お気になさらずに

 明日は承知致しました。

 おやすみなさい」

 

 つづく

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