人生が二度あったので押し掛け女房に翻弄された男が純愛を貫き壮大な夢を叶える物語

主人公の現世では押し掛け女房に出逢い翻弄されるが、死後の異世界では愛妻と望んでいた幸せなスローライフを満喫します
K.Yoda K
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第八話 勤務四日目 今日から早番と通し勤務の日は一時間早く出勤して社長との約束 通常業務

公開日時: 2022年4月8日(金) 14:04
更新日時: 2022年4月9日(土) 20:09
文字数:6,020

 今日から早番と通し勤務の日は一時間早く出勤。

和夫は、タイムカードは押さずにホテルの外周をまず掃き掃除しその後、駅舎前と交番前を掃き掃除した。こういう事は遅番と休日日以外は毎日やる事に意味があると和夫は思っていた。その後はホテルの建物に付いている蜘蛛の巣取りをした。そしてフロント前の蜘蛛の巣取りをしてタイムカードを押してレストランのカウンター内の朝のスタンバイをした。

 

 富田に教わったやり方を和夫なりに順番を変更した。富田は全ての準備が済んでから牛乳やジュース類の補充をすると教えてくれたが和夫は食材倉庫からレストラン内の置き場所に補充をしてから準備をする事にしてみた。

 

 日持ちする牛乳だが味は良くない。倉庫から牛乳とジュースを台車に載せていたら英子が出勤して来た。英子は和夫の所に来て「おはようございます!」と言ったので和夫も「おはようございます!」と返した。

 

 続けて英子は「一昨日はありがとう、また来てね」と言った。

 

「何?」と訊いた。

 

「いっぱい食べてくれて嬉しかった」と小声で言った。

 

「うん、また美味しいご飯をお願いします!」と言い台車を押そうとすると英子が押してくれた。

 

 カウンターの準備をしているとトマトジュースのポットを冷やすバッドに氷を詰めるのだが英子が入れて持ってきてくれたので「ありがとう!」と言うと「今朝もして来たんだよ!」と言った。

 

 「何を?」と和夫が訊いた。

 

 「夜に逃げられたけど依田さんとした時の事を想像してアレよ!」と小声で言った。

 

 「朝から、良く言うよ。はい、はい、仕事、仕事、あ……忙しい……忙しい……」と言って調理場にダスターを取りに行った。

 

 和夫は(指一本触れて無いけど、英子はアラフィフだし、五十ござむしりだから火が付いちゃったかもしれないな? 家に行くのは控えようっと)と思った。

 

 朝の準備を終えて、ホットコーヒーを皆に配り再度、コーヒーメーカーに粉をセットし水を入れて少なくなった分をコーヒーディスペンサーに補充してカウンターの朝の準備を終えた。

 

 大崎が和夫の所に来て「おはようございます!」と言った。

 

 「おはようございます!」と和夫も挨拶した。

 

 初日の料理長に意見を言ってから大崎の態度がガラッと百八十度変わったので和夫は気持ち悪さを感じていた。今日は富田が休みで山中が出ていた。この人も中国人で夫が日本人との事だった。

 

 そうこうしている内に料理人が出勤してきてその後、社長の正和と副社長の寿江としえが入って来て朝食のスタートになった。

 

 山中がBGMの著作権のあるCDを入れてデッキのスイッチを入れた。ユーセンに相談すると限定チャンネルで安価にもできる契約があるので、それらにすれば良いものをこんな大きなホテルが違法な事を平気でやるところがこの社長のヤバさだった。

 

 無駄に多い自家用車を所有しないで、こういう所に金をかけてもらいたいものだと和夫は思っていた。

 

 

朝食時 異物混入。

食堂主任の大崎が外国人カップルのテーブルに行き使用済みの食器をさげている時に男性から”Hair is in this omelet.”「このオムレツには髪の毛が入っているんだけど」と言われていた。

 

 和夫はその横のテーブルを片付けていた。大崎は何を言われているのか分からず困った顔をしていた。

 

 和夫はその男性のテーブルに行った。

”I'msorry.It'sbeingre-formednow,sopleasewaitamoment.”と下手な英語で言い、その皿を受け取り調理場に行き新たなオムレツを焼いてもらい持って行った。

 

 男性は”Thankyouverymuch.”「ありがとう」と笑顔で言い、和夫も笑顔で“You'rewelcome.”と言った。

 

 レストランの中には和夫の上司は大崎だが、大崎が出来なかった事はこの場はカウンターに居た社長が出る幕ではないが大崎の上の上司は副社長なので寿江の所に行き男性客に謝罪してほしいと頼んだが無視した。

 

 社長も副社長も兎に角、人に謝るのは嫌いなようだった。特に社長の正和は自信家だから仕方ないのだが和夫のような下っ端がとりあえず場を抑えたとはいえ、その上司が改めて謝罪した方が客は気を良くしてくれるものだと思っての行動だった。

 

 ましてや外国人なので事後の対処如何では評価サイトに良い体験談を書いてもらえるチャンスである事も和夫は帝丸ホテルで多くを経験していたからだ。人間がやる事なのでどうしてもこのような事故を百パーセント無くす事は難しい。このようなクレームはホテルの幹部間で速やかに共有し、その場に居なかった上司からもチェックアウトの際に改めて謝罪してもらいお土産などを渡すなどのサービスをした方がより効果がある事も経験していただけに今回の事は和夫にとってとても残念だった。

 

 ホテルは人間がやるソフトの部分を充実させなくてはハードの箱だけどんなに立派に作ったとしても何の意味もない。ましてやこの一号館のように掃除も行き届かず不潔なホテルで料理に髪の毛が入っていた時のクレームの対処もできてないとくれば(総)料理長がいつも気にしていたホテルの評価サイトの点数もガタ落ちに繋がってしまう。

 

 サービス業の基本的な事がどうして出来ないのかが和夫は不思議だった。このホテルでは各セクションの責任者が集まってのミーティングを行った事がないと副支配人の品川が言った。

 

 これは今まで、社長と副社長そして社員の中では料理長が一人大将で「俺が! 俺が!」とやってきたからでそれに対して経営陣が何も言わなかったツケが回ってきているのだと和夫は思っていた。他人の事など口が裂けても言えないレベルの和夫だったが悪循環極まりないホテル経営だと思っていた。

 

 

朝食の賄い時。

今日の賄い時は山中と一緒に食べた。大崎は一人が好きなのか遠くのテーブルでいつも同じカレーライスを食べていた。この四日間中三日間に和夫は大崎の賄いを見ていたがご飯の量もカレーソースの量もいつも同じで黙々と食べている姿を見ていた。

 

 和夫は野菜不足に陥っていたので野菜を多めに取る事にして適量を持ってきた。山中は食べきれないだろうと思えるほどの菓子パンを山のように、そしておかずも乾いた物を沢山皿に盛りご飯一膳に納豆を五パックお盆に載せてテーブルに着いた。

 

「そんなに一人で食べるの?」と和夫が訊くと山中は「どうせ全部捨てちゃうんだから勿体ないでしょ?」と言った。

 

 和夫はその意味が分からなくて「捨てるのは衛生上仕方ない事なんですよ」と言うと「それは分かっているよ」と言いながら持ってきた皺くちゃで使い回しをしているような二枚のビニール袋の中に手際良く菓子パンと乾いた料理(揚げ物等)を入れ出した。

 

「えっ! 持って帰るの?」と和夫が訊くと、平然と「そう、何が悪いのかな?」と言った。

 

 和夫は(この事で食中毒になったらホテルの責任になるので、あってはならない事だ)と思って見ていた。和夫は帝丸ホテルに在籍していながら他のホテルにヘルプで行った事もあったが、このようなパートを見た事がなかったので驚きを隠せなかった。

 

「うちの父ちゃんはこの菓子パンが大好きで、息子はこの揚げ物が大好きなの」と言った。家族の為に賄いを多く取って持ち帰るのを日常としている山中だった。

 

「ねぇ、山中さん、前から気になっていたんだけど朝、会った時はそのバッグはペシャンコなのに、今はまだそのパンを入れてないのにパンパンなのは何で? 俺だけに見せてよ」と和夫は言った。

 

「ダメよ、何で見せなくてはいけないのよ?」と山中が言った。

 

「分かったよ、今日、社長に会うからその時に山中さんがホテルの食材を持って帰っていると報告しておくから」と和夫が言った。

 

「ふ~」と山中はため息を付き「誰にも内緒にしてくれる?」と言ったので、和夫は「うん」言うと山中はバッグの中を開いた。

 

 和夫はデジカメをいつも持っていたのでバッグを取り上げて「写真を撮らせてもらうから」と言って撮り「後で返しておいてね」と言うと「は~い」と不服そうに返事した。

 

 中抜き休憩時に田町良太にその件を訊くと「山中さんは(総)料理長に毎朝、栄養ドリンクやたまに酒などの付け届けをしているので(総)料理長は山中の行為を見て見ぬ振りをしているんですよ」との事だった。

 

 兎に角、上から下まで滅茶苦茶なホテル経営だと思い、このような事も追々改善していかなくてはいけないと和夫は思っていた。

 

 何故なら和夫が総料理長を務める最高級ホテルで、このような事をされては困るからだった。

 

 

パートの手提げバッグと原価計算。

和夫が山中に朝の出勤時に会った際には持ってきていた手提げバッグがペシャンコだったのが帰りには中に何が入っているのか分からないほどパンパンになっていた。先程の賄いの菓子パンと揚げ物と納豆五パックの中に一パックを山中は食べていたので四パックの量ではないように思えたので良太に訊いてみた。

 

 「実は山中さんが出勤した日には必ず冷凍庫の物が一箱無くなるんです」と良太は言い「でも(総)料理長は山中さんからの朝の付け届けがあるので見て見ぬ振りを決め込んでいますが神田さんスーシェフ(スーシェフ…二番シェフ)がいつも『予定して仕入れているんだから困るんだよ』と怒っているのです」と言った。

 

 和夫は良太に「調理場は毎月月末に棚卸しをしているのかな?」と訊くと良太は「そんなの僕が就職してからの三年間で一回もやった事なんか無いですよ」と言った。

 

 (総)料理長以下、料理人全員が毎月の原価率を把握しないで丼勘定で仕事をしているという事を和夫は知った。

 

 和夫は更に続けて「ドリンクやグランドメニューのレシピや原価率計算書があるの?」と良太に訊くと「そんなの無いですよ。デザートは僕が前に勤めていた店のレシピで作っているんですから」と言ったのを聞き和夫は呆れた。

 

 夕食時に和夫がカウンターで仕事していると、それぞれのパートが「これは社長のやり方だから」「これは副社長のやり方だから」「これは私の独自のやり方だから」と言ってきていた時に「何だ、ここはドリンクのレシピや作り方が存在しないのか?」と疑問だった事が晴れた。

 

 和夫は師匠から習った料理のレシピと原価率は自身で計算し全てを一旦、メモ帳に書き記し、その後は自宅でパソコンに入れて保存していてその内に良太に見せてあげようと思った。

 

 

ゴミ集積所周辺洗浄。

中抜け休憩に入る際にタイムカードを押してからメインダイニングの窓ガラスの拭き掃除をした。その後、調理場の裏口に出るとプレハブの冷蔵庫と冷凍庫がある。その手前の非常階段の下にホテル専用のゴミ集積所があった。この床が油と生ゴミの汁などがこびりついて悪臭を放っていた。

 

 和夫はホテルで勤務したその日にゴミを捨てた時から気になっていた。和夫が良太に「悪いけど使ってないステンレス製の大きなボウルあるかな?」と訊くと「ありますよ」と言って倉庫から出してくれた。

 

 その一番大きなボウルに水を入れて「良太君、悪いけど沸かしてくれないかな?」と頼んだ。

 

良太は「はい」と言って沸かしてくれた。沸騰する前の湯に先日、良太に魚下ろしを教える際に市場の薬局で買った苛性ソーダを入れた。ブクブクと泡立ち苛性ソーダの液が出来た。

 

 それをゴミ集積所の床に撒きデッキブラシでこすって洗浄していると洗い場の多部と高田と良太が出てきて「綺麗になるものですね」と言った。

 

「私にやらせて下さい」と言い和夫のデッキブラシを多部が取り上げて擦り出した。

 

 和夫は空になったボウルに湯を入れて擦り終わった部分に撒いて行くと元々のコンクリート地の床面が現れた。それを見ていた高田と良太もボウルに湯を入れて流してくれた。

 

 生ゴミが入っている金網のゴミ入れからゴミ袋を全て取り出して、魚屋が納品時に持ってきたトロ箱を壊して敷きその上に新聞紙を広げてまた生ごみの袋を置いた。

 

 その後に出勤して来た調理パートのオバサンが「へぇー! 綺麗になって臭いも無くなったね」と言った。

 

 多部と高田と良太は「綺麗になると他の汚い所が気になるね」と言って笑った。

 

 和夫は皆に「掃除をしたのは良太君と洗い場の皆さんで私がやったとは言わないで下さい」とお願いした。

 

 皆、そこの所は大人なので分かってくれた。

 

 苛性ソーダでなくても今は強力な油汚れの洗剤があるのだが和夫はホテルに入っている業者を知らないので買えなかったからだった。

 

 

夕食時は何事もなく賄いを食べた。

山形と一緒に夕食も賄いを食べた。仕事がハードなので疲れていたので甘い物が欲しくなった。デザートが沢山残っていたので取った。このデザートも手作りではなく冷凍の既製品を遅番で出て来た良太がカットして出すだけの物でココットに入っているデザートは彼が仕込んだ物で彼が以前に勤務していたレストランで教わったレシピの中から毎日違うものを仕込んでいると言った。

 

 つまり料理長のレシピではないのだ。こんな事が罷り通るホテルなど聞いたことがなかった和夫は驚く事ばかりだった。

 

 和夫は洗い場の多部と鈴木にふざけた事を言って楽しく仕事をしていた。レストランのホールのスタッフ全員と洗い場のオバサンたちと料理人の良太の事を和夫は掌握できた。後は料理人の料理長とスーシェフの神田と三番の新橋を掌握すれば、レストランでは、皆が楽しくやりやすくなる。

 

 和夫は自分がやりやすくなるのを考えていた訳ではなくホテルに宿泊して下さってレストランで食事をした客が楽しい気分で食事が出来れば良いと思ったのでスタッフ全員がポジティブな気持ちで業務にあたってくれれば、おのずと皆もそして和夫自身の仕事も楽しくなると思っていたからだ。やはりホテルのスタッフの仕事はサービス業の中でも時間が長く辛い仕事なので皆で仲良くやった方が疲れも少なくて済むと思っていた。

 

 食事中に山形は和夫に口を開き「休みの昼は家だからね」と誰も居ないレストランなのに小声で言った。

 

「はい、姉貴、分かってまんがな」と和夫はわざとふざけて同じく小声で言った。

 

「何だか、依田さん疲れているように見えるんだけど?」

 

「はい、今日から朝、一時間早く出てホテルの内外を掃除して中抜け休憩の時には休まないで掃除しているので疲れが溜まっているみたいなので」

 

「だったら休みの日の昼ご飯は絶対に一緒にね」

 

「はい、ありがとうございます。休みの日はお言葉に甘えさせて頂きます」

 

 そんな会話をして勤務を終えた。

 

 事務所でタイムカードを山形と一緒に押していると副支配人の品川が「依田さん、休んでないから明日はお休みして下さい」と言った。

 

「副支配人、お気遣いありがとうございます」と言い続けて「有難く休ませて頂きます」

 

「依田さん、良かったじゃない?」

 

 和夫「はい~!」と明るく言った。

 

 社員通用口から出ると山形は「依田さん、明日の昼、待っているからね!」と言われたので和夫は「お世話になります!」と言った。

 

 今日も長い一日だった。

 

 つづく

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