人生が二度あったので押し掛け女房に翻弄された男が純愛を貫き壮大な夢を叶える物語

主人公の現世では押し掛け女房に出逢い翻弄されるが、死後の異世界では愛妻と望んでいた幸せなスローライフを満喫します
K.Yoda K
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第四話 勤務十四日目 社長の長兄と和夫の遭遇 その他通常業務

公開日時: 2022年4月9日(土) 11:02
更新日時: 2022年4月9日(土) 20:19
文字数:5,611

朝の出勤。

和夫はまだ疲れが取れてなかった。着替えて家の玄関を出ると、また真向いの佐々木のお婆ちゃんが玄関の掃き掃除をしていた。

 

「おはようございます!」と和夫。


「昨日、生垣を切っていたわよね?」と佐々木。

 

「はい」


「高い梯子に上っていたから落ちなければいいなと思っていたのよ、気を付けてよ」

 

「ありがとうございます、生垣の剪定が終わったら駐車場をコンクリート打ちしますからってお嬢さんに伝えて下さい」

 

「そんな事、もう気にしないで良いから」


「でもやっておきますから」と言い続けて「行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい! 気を付けて!」

 

和夫は事務所に行くと愛美が出勤していた。

 

「おはようございます」と言った後に箒と塵取りを持って朝のルーティーンをこなした。

 

一通り掃き掃除を終えて、ホテルの外周の蜘蛛の巣取りをした後に、歩道の側溝の雑草やゴミが気になっていたので前回同様に抜き取りをした。

 

この作業をしていると、一人の老人が声を掛けて来た。

 

「おはよう! 驛前ホテルの依田さんだね?」

 

「おはようございます、はい、そうです、依田和夫です」

 

和夫は知らない人から自分の名前を言われたので驚いた顔をした。

 

「私かい? ここのホテルの社長の兄貴だよ。」

 

「あっ、はい、、先日、お兄様の事をお社を掃除していた際に管理されていらっしゃる方から伺いました」

 

「上でガソリンスタンドをやっているから今度、暇な時にでも遊びに来なさいよ」と言い名刺を渡されたので和夫も渡した。

 

「その方にも言われていたので、是非お伺いさせて頂きます」と言って名刺を差し上げた。

 

「おぉ! 凄い役職で就職されたんだね」

 

「恐縮です」

 

「いつも近所の清掃をしてくれてありがとう」と言い駅舎に向かって行った。

 

和夫は(社長からは一言も激励の言葉はもらった事が無いが、社長のお兄さんという方からお礼を言われたのには驚いた。お社を管理しているご老人が言っていたお兄さんはそれなりの人物と思えた)。

 

ホテル周辺の清掃を朝やっていると様々な方にお会いする和夫だった。

 

 

朝食のスタンバイ。

タイムカードを押して倉庫に行き、牛乳とジュース類の箱を台車に載せてレストランに行った。

 

ホールのスタッフに挨拶をして洗い場に行くと、多部がニコッと笑顔になり、「依田さんおはようございます!」と珍しく先に言った。

 

「多部さん、おはようございます。今日のお召し物は中々セクシーなんじゃないですか?」と和夫も言った。胸の割れ目がしっかり見えるシャツを着ていたからだ。

 

「今日の多部さんセクシーでしょ? 私なんか見ているだけで羨ましくなるもの」と鈴木が言った。

 

「鈴木さん、おはようございます。女性から見ても巨乳は羨ましいものなんですか?」と和夫。

 

「良く肩が凝るって言うんだけど、凝ってみたいわよね」と鈴木。

 

「鈴木さんは素敵なヒップをお持ちなので」と言い一呼吸置き、耳元で小さな声で「バックで嵌めてみた~い」と和夫。

 

「本当に依田さんってエッチだね。私だって依田さんに嵌めてもらいたいよ」と小声で、続けて、「依田さんのそういう所が面白くて好きなんだけどね」と言った。

 

エッチな話しも度が過ぎるとセクハラになるのだが、人妻のオバチャン連中には丁度良い潤滑油みたいなものだ。

 

その足で調理場に行き、「おはようございます!」と挨拶すると、全員で「おはようございます!」と言った。

 

和夫はカウンターに戻ってスタンバイをしていると、愛美が来て、「昨夜、また主人と喧嘩になっちゃった」と疲れた顔で言った。

 

「今日、出掛けたら聞いてあげるから」と和夫が言い、その後直ぐに朝食がスタートした。

 

朝食中は何の問題もなく終わり、賄いを食べて愛美を乗せて山下湖畔のティールームに向かった。

 

 

山下湖畔のティールームへ 愛美の相談。

事前に愛美が副支配人の品川に、ティールーム行く話しを入れてくれていたので、焦らないで行く事が出来た。

 

車中で和夫が「昨夜、ご主人と何で喧嘩になったの?」と訊いた。

 

「実はうちの会社、銀行に借金だらけなの」と愛美。

 

和夫は社長との面接時に社長から直接聞いていた事だったので驚かなかった。

 

「俺は面接の時に社長から直接聞いていたから知っていたよ」と和夫が言った。

 

「その事を主人に対して私も父も言わないで結婚してしまって、その事で主人が、話しが違うって怒り出したの」と愛美。

 

「確かに知らないで婿養子に入ってしまったら、それは旦那の気持ちになれば怒っても仕方ないんじゃないのかな?」

 

「そうよね」

 

「だったら今から愛美さんだけでも、その事をキチンとご主人に謝罪したら良いんじゃないのかな?」

 

「昨夜、一所懸命に謝罪したけど怒ったままだったの」

 

「その話しはご主人の立場になれば、嬉しい事ではないから時間が掛かると思いますよ」

 

「そうよね、それは私も分かっているわ」

 

「兎に角、誠実に謝罪をし続ける事しかないですよ」

 

「依田さんに話して少しだけスッキリした」

 

「愛美さんの愚痴だったらいつでも聞くから、気にしないで言って!」

 

「ありがとう」

 

後はティールームの店長夫妻は社長が見付けて来ると愛美が言った。

 

以前のプチホテル時代に勤務していた人でレストランを経営して今は隠居しているという方のようだった。

 

その夫婦が休む時には言い出しっぺの副社長と副支配人のペアでやるとの事だった。

 

山無県庁職員との会議。

ティールームに着くと、美術館の植野が駐車場で待っていた。

 

植野に挨拶をした後に、愛美が、「室長、お名刺を」と言ったので、和夫は「植野さん、どうぞ」と言って渡した。

 

その後、会議室に案内されると県庁の榎田明さんと佐野武さんが待っていたまた愛美が「室長、お名刺を」と促された。和夫はあまりにも肩書が多かったので恥ずかしさがあったので渡し難かった。

 

「榎田さん、宜しくお願いします」

 

「佐野さん、宜しくお願い致します」と言って渡した。

 

「依田さんは会社全体の総支配人でご就職されたのですか。大久保さんは専務さんで依田さんは総支配人さんという事は本当に頼りにできて嬉しい限りです」と言った。

 

和夫は「恐縮です」(社長との面接の時の説明をしようと思った和夫だったが、まどろっこしくなるので止めた)

 

「どうぞお座り下さい」と榎田が言ったので和夫と愛美は榎田たちの前に座りパソコンを広げた。

 

「今日、急遽お呼び立てしてしまったのは、私どものボスが早めに準備してほしいと言ってこられたものですから」と榎田が言った。

 

「ボスとおっしゃいますと?」と和夫。

 

「県知事です。この事業はうちとしてはかなり力を入れている事業でして、総工費は県が出して三億円を優に超えて出費してしまっているのです。そこでオープン日はご案内の通りなのですが、早めに準備を終えてほしいとの事なのです」と榎田。

 

「榎田は設備担当で私はいわゆるソフトの部分が担当でして、ティールームのメニューなども早めに決めて頂きたいと思っているのです。」と佐野。

 

和夫「承知致しました。コンセプトとしましては、やはりA国のアフタヌーンティーをご想像されておられるのでしょうか?」と和夫。

 

「はい、一応そう思っておりますが」と佐野。

 

「メニュー数や価格帯などのお考えはございますか?」と和夫。

 

「私どもはその点につきましては、全くの素人ですので富士ホテルズ様がご提出されたメニューに対して僭越ですが、そのメニューに沿って希望を申し上げたいと思っております。」と佐野。

 

「承知致しました、ご指導を仰ぐ提携の会社様などは入るのでしょうか?」と和夫。

 

「その点は榎田の方から」と佐野。

 

「一応、紅茶教室をご経営されておられる先生方にはお声を掛けておりまして、ティールーム内の備品等の選定などには既にご協力頂きました」と榎田。

 

「承知致しました。什器備品類は県庁様の方で全てご用意頂けるのでしょうか?」と和夫。

 

「一つだけ申し訳ないのですが、お菓子やお料理を盛り付けるお皿は御社の方でご用意頂けますと幸いです。実は、それだけは忘れてしまいまして、本当にすみません」と佐野。

 

「承知致しました。」と和夫。

 

「後はティールームの中の事に関しましては、富士ホテルズ様の方でお考え頂けますと私どもとしましては安心して開業に漕ぎ付けると思っております」と佐野。

 

「ご期待に添えますよう努力致します事をお約束いたします。また何かございましたら、恐れ入りますが私へのメールでお願いできましたら幸いです」と和夫。

 

「このお名刺のメールアドレスで宜しいのでしょうか?」と佐野。

 

「さようでございます」と和夫。

 

暫く植野を交え県庁職員と雑談をし、和夫と愛美は帰路の車中でミーティングをした。

 

 

愛美と和夫は車中でミーティング。

「メニューなんだけど、とりあえずは驛前ホテル一号館の料理長に作ってもらうのが良いかと思っているんだけど」と和夫。

 

「依田さんが総支配人なんだから依田さんが作って下さった方が早いんじゃないの?」と愛美。

 

「そこはチームプレーだし、恐らくだけどティールームが開業したら、社長の紹介のご夫婦だけでは回らないと思うし、やはり料理長たちに協力してもらわないとできないと思うんだよね」と和夫。

 

「そうかな?」と愛美。

 

「そのご夫婦が仮に物凄く仕事ができたとしても所詮、二人の力は二人で精々三人の仕事ぐらいしかできないとしたら、スコーンやお菓子類の仕込みは愛美さんだったらどうする?」と和夫。

 

「確かに仕込みがあるわよね」と愛美。

 

「サンドイッチなんかも出すとしたら本当に大変だと思うし、あの調理場を見たでしょ?あの動線は酷過ぎだから。喫茶ルームの厨房からホールが全然見えないんですよ。恐らく設計士が厨房機材屋に丸投げをした厨房だから動線が滅茶苦茶なんだよ。理由はね厨房機材屋は自分の会社の機材を入れられて買ってもらえば売上が上がるでしょ、後は野となれ山となれなんですよ」と和夫。

 

「どうしよう……」と愛美。

 

「だから一回目のメニュー作成は料理長に頼んでやって頂いて」と和夫。

 

「うん」

 

「そのメニューを見れば、料理長が料理人としてどのレベルかが分かる訳で」と和夫。

 

「何でそんな事をするの?」と愛美。

 

「レストランのメニューや仕込みを愛美さんは見た事がある?」と和夫。

 

「メニューは見たけど仕込みは見た事は無いわ」

 

「ホテルに帰ったら過去からの仕入れを見て下さい」と和夫。

 

「それがどうしたの?」と愛美。

 

「例えば、夕食に出しているビーフシチューのソースなんだけど、市販のレトルトなんですよ。牛肉はスチコンで蒸して柔らかくして、そのソースに絡めて出しているだけです。今どきのレトルトはそれなりに美味しいけど、良君はホテルを辞めたいと言っていたんだけど何故だか分かりますか?」と和夫。

 

「分からないわ。」と愛美。

 

 

 

 愛美と和夫は車中でミーティング。

「良君にこの間、裏のゴミ集積所の掃除の仕方を教えたんですよ。そしたら彼がこの会社に入社してから三年経ったけど、初めて掃除の仕方を私から教わったって喜んでね。その後の彼は率先して厨房の清掃を自分でしたんですよ。」と和夫。

 

「そんな事があったんですか。」と愛美

 

「そして先日なんだけど、魚の下ろせる人があの調理場には居ないという事を言ってきたから、私が寮で皆に内緒で教えたんだ。だから彼はもっと仕事ができる料理人の下で働きたいから辞めるって言い出しているんですよ。これは私が教えたから言っているんじゃなくて、前から思っていた事なんだって」と和夫。

 

「私たちは調理に関しては素人同然だから全くその点は気付かなかったから」と愛美。

 

「別にチクる訳ではないけど、いかに今の料理人たちが料理人としての最低限の基礎でさえできてないという証拠なんだよ。だから料理長にティールームのメニューを作ってもらえば、どんなメニューを書いてくるかでレベルや力量が分かるからね。あと、一号館のデザートのレシピはシェフのではなくて良太君が以前に勤務していたお店のレシピだったって知っていた?」と和夫。

 

「知りませんでしたまさか料理は全て料理長のだと思っていましたから。」

 

「だから料理長に提案してもらうんですよ。」と和夫。

 

「そのメニューがダメだったら、どうするのですか?」

 

「私とか愛美さんが言ったら料理長のプライドを傷付けてしまうから、ここは一丁、県庁職員さんに頼めば良いじゃないですか? 『これではダメです』ってね。」続けて「それで、私のメニューを事前に作っておいて差し替えるという事、もちろんレシピや原価計算表を添えてね」と、続けて「スタイルがティールームなので、やはりこれに詳しい人にアドバイスをもらった方が良いと思ったんだけどどうですか?」と和夫。

 

「どなたに、ですか?」と愛美。

 

「帝丸ホテル時代に何回か、フェアをやった事があって、その際にA国大使館のスーシェフの代々木シェフと関わった事があってそれ以降、メール交換しているんですよ。今度、愛美さんと東京に行って会ってくるのも良いかと思って」と和夫。

 

「A国大使館に入れるの? 行ってみたいです!」と愛美。

 

「事前にアポイントを取れば入れますよ。それに県庁職員さんにだって駐日A国大使館のシェフのレシピだと言えば文句は出ないでしょ?」と和夫。

 

「その企画最高じゃないですか、是非やりましょうよ!」と愛美。

 

「で、帰りはどこかのホテルで食事なんてね」と和夫。

 

「うん、良いわね、あ~ぁ、主人じゃなくて依田さんと結婚すれば良かったわ」と愛美。

 

「ダメだよ。お義母さんがお義父さんに嘘の報告をして二人で婿イジメをするからさ」と和夫。

 

「それは本当にごめんなさい」

 

「疲れたのでガストに寄ってお茶しても良いかな?」と和夫。

 

「うん、良いわよ。休憩していないしね、いつもご馳走になっているから私がご馳走するから」と愛美

 

「サンキュー!」と和夫。

 

その後、和夫と愛美はお茶してからホテルに帰り、夕食の業務をせずにタイムカードを押して帰寮した。

 

つづく

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