人生が二度あったので押し掛け女房に翻弄された男が純愛を貫き壮大な夢を叶える物語

主人公の現世では押し掛け女房に出逢い翻弄されるが、死後の異世界では愛妻と望んでいた幸せなスローライフを満喫します
K.Yoda K
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第二話 その一 大久保愛美による帝丸ホテルでワインの営業プレゼン

公開日時: 2022年4月7日(木) 21:54
文字数:2,279

自社のワインが採用されれば愛美まなみの営業成績にもグンと反映される事から上司からも期待され「何がなんでも取って来い!」と言われていた。


 愛美はソムリエの滝川とシェフの和夫の前でプレゼンをし、一通り説明を終えた。ソムリエの滝川との質疑応答があったものの、シェフの和夫は全く興味を示さず「滝川、もう良いかな?」と言い、愛美に会釈をしただけで、素っ気なくそのまま席を立ってしまった。


 このレストランはワインを決めるのはソムリエもそうだが、実際の権限を握っているのはシェフの和夫で、その上司への稟議が下りて初めて採用される事になっていた。

 

 愛美は滝川に「何とか依田シェフと繋げて頂けないでしょうか?」と必死で頼んだ。

 

「可愛い愛美ちゃんの頼みだから聞いてあげちゃおうかな?」と滝川は冗談のように言った。

 

「何でもしますから、是非、お願いします!」と愛美。

 

「じゃぁ、僕とデートしてくれるかな?」と滝川。

 

「何をするのですか?」と愛美が訊いた。

 

「決まっているじゃない、二人で食事をするだけだよ」と滝川。

 

「そんな事でしたらお安い御用ですよ」と愛美が言い、互いに日時を決めた。

 

 

 大久保愛美のソムリエの滝川への食事接待営業の当日。

 

滝川と愛美はグランドブリンズホテル白金のロビーで会う約束をした。滝川はステーキハウスKに十九時に予約していた。愛美は約束の時間の十分前にロビーに着いたが滝川の姿はなかった。

 

 滝川は先に来ていて部屋にチェックインしていて時間になって彼は降りて行き、愛美の姿を見て「こんばんは! 待たせたかな?」と言った。

 

 愛美も「いえ、私も今、来たばかりです」と言い、社交辞令で「滝川さん、今日はご無理を言ってすみません」と言った。

 

「お肉、大丈夫だよね?」と唐突に滝川が訊いた。

 

「はい、大好物です」と愛美。

 

「ステーキハウスKに予約してあるから」と滝川が言い、愛美の腰を抱いて導いた。この時に愛美は違和感を覚えたが(私はワインの営業のプロなんだと言い聞かせて)歩いた。

 

 店の前でスタッフに「滝川です」と言い、「一の間」の個室に案内された。4~6人が座れる部屋で、愛美は滝川と二人だけの夕食に臨んだ。スタッフが来て、飲み物を聞かれたのでワインを頼んだ。

 

 滝川はソムリエなのに、ワインリストを見ないで「今日の料理に合うと思われるワインをお願いします」と言った。

 

 スタッフが「かしこまりました」と言って出て行った。

 

「滝川さん、ソムリエなのにワインを選ばないのはどうしてですか?」と愛美が訊いた。

 

「知ったかぶりをする客がレストランでは一番嫌われるからね」と滝川。

 

 愛美は(なるほど)と思い、スマートな振る舞いの滝川を尊敬した。

 

 愛美の父の正和は、格式が高ければ高い店ほど、とにかくワインのウンチクをスタッフやソムリエに言いたがったし、彼女が勤務している会社の男性たちもワインのプロ揃いだったので、レストランで食事をする度に、そこのソムリエを負かして楽しんでいる人が多かったので、それが当たり前だと思っていたが、滝川はソムリエのコンクールでも優勝こそないが、いつも上位に食い込んでいたほど人物だったので(やはり一流の人は偉ぶらないんだ)と彼女は思って聞いていた。

 

「うちのスタッフが皆、愛美ちゃんのファンだから、うちの連中の中で一番にデートしてもらった僕は最高に幸せだよ」と滝川。

 

「そんな……」と言いながらも愛美は若気の至りで嬉しくて舞い上がっていた。

 

「今日はお任せで頼んであるから、嫌いな食材があったら今の内に言ってね?」と滝川。

 

「私は嫌いなものはないので大丈夫です」と言ったが、この店の料金を自分の営業経費で賄えるかが心配だった愛美だった。

 

 滝川はその辺の事(昨今の社会情勢で営業の接待費が削減されていた)は心得ていたので「愛美ちゃんはここの料金の事を心配しているんじゃないの?」と滝川が察して言った。

 

「はい、実は……」と。(言い難かったのでその後の言葉は濁した)愛美だった。

 

「自分がお誘いした女性と一緒に食事するのに、ご馳走してもらおうなんて野暮な事は思ってないから心配しないで今日は全部、僕がご馳走するから」と滝川。

 

「それは悪いですよ。営業のご接待じゃなくなっちゃうじゃないですか?」と愛美。

 

「その点は気にしないでよ」と滝川。

 

「それではお言葉に甘えさせていただきます。本当に良いんですか?」と再度訊いた愛美だった。

 

「うん、大丈夫だよ」と滝川が平然と答えた。

 

 そうこうしているとワインが運ばれテイスティングをして乾杯し、その後シェフが入ってきて牛肉と魚介類、そして野菜がのせられたバッドを運ばれて食材の説明をした。

 

 既に目の前の鉄板からは油が焼けた煙が舞い上がっていて調理が始まった。一つ一つ丁寧に焼き上げられた食材が目の前に食べやすい大きさにカットされて供された。

 

 滝川と愛美は「美味しいね」と言いながら食し会話も楽しんだ。

 

「愛美ちゃんはフランスだっけ? イタリアだっけ? 留学していたのは?」と滝川。

 

「スペインです」と愛美。

 

「だったら丁度良かったよ。依田はフランス、イタリア、スペインに会社の金で留学をさせてもらっていたから、愛美ちゃんと話しが合うんじゃないのかな?」と滝川。

 

「えっ、そうなんですか? だったら嬉しいです」と愛美。

 

「何が嬉しいの?」と滝川が少しだけヤキモチを妬いたような口調で彼が訊いた。

 

「スペインに行った事があるという人が少ないので、スペインの話しが出来たら懐かしい話もできるかと思って」と愛美。

 

「そういう事ね」と滝川は安心した。

 

 料理を食べ終えてバーに行ってまた話しをする事にした二人だった。

 

 つづく

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