人生が二度あったので押し掛け女房に翻弄された男が純愛を貫き壮大な夢を叶える物語

主人公の現世では押し掛け女房に出逢い翻弄されるが、死後の異世界では愛妻と望んでいた幸せなスローライフを満喫します
K.Yoda K
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第二章

第一話 勤務十一日目 山下湖畔のティールーム落札で事件勃発 その他通常業務

公開日時: 2022年4月9日(土) 08:00
更新日時: 2022年4月9日(土) 20:17
文字数:5,700

朝の出勤 山下湖畔のティールーム落札の件で事件勃発。

朝、いつも通りに一時間早く出勤すると、深夜勤務の渋谷が「おはようございます」と、「おはようございます」と和夫も挨拶した。

 

 その後、渋谷が「昨夜は参りましたよ。依田さん、聞いて下さいよ」と言った。

 

「何が有ったの?」

 

「昨日、ライメンズの定例会があったじゃないですか?」

 

「はい」

 

「その時に社長がメンバーから聞いた話で、山無県庁の美術館が山下湖畔に新築されて、その中のティールームの営業権の入札を副社長が社長に黙って入札して、それが落札した事で昨日の夜、ここで例の如く社長と副社長が怒鳴り合って大変だったんですよ」と渋谷が言った。

 

「そうだったんですね。それは大変だったですね」と和夫。

 

「で、まだオチが有って、その声がフロントのお客さんに聞こえていて例の如く『うるせー!』って怒鳴られたら社長がそのお客さんに『うるせー!』って怒鳴り返したんですよ」と渋谷が言った。

 

「そんな事があったんですか。最悪でしたね。聞いていた渋谷さんも困りますよね。お疲れさまでした」と和夫。

 

 和夫はこの渋谷が素直で可愛くて好きだった。その後は箒と塵取りを持っていつものルーティーンを行った。

 

 事務所に帰ってくると愛美がいて「依田さん、お話しがあるのですが」と言われ二人で会議室に行った。

 

「実は昨夜に家族会議があって例のティールームの件ですが、依田さんと私で何とかしてほしいって父と母に言われたのですが、どうしましょうか?」と愛美。

 

 和夫はガビーンと頭を金槌で殴られたかのようなショックを感じた。

 

「私と愛美さんだけですか?」と和夫。

 

「それが専従の店長ご夫妻を入れて、そのご夫婦が休みの時は落札をした母と副支配人の品川さんがやるって言うんですが、その他の交渉事を依田さんと私でやってほしいと言われたのです」と愛美。

 

「とりあえず、今日の中休みの時間にでもミーティングをしましょう」と和夫。

 

「そうですね。朝は忙しいですからね」と愛美。

 

「それでは!」と和夫は挨拶して、カウンターの朝のスタンバイに行った。

 

 

朝食のカウンターのスタンバイと朝食スタート。

和夫はいつも長期保存の牛乳とジュース類が置かれている台の下を見ると殆ど入っていたので、今日は補充をしなかった。ホールのスタッフに挨拶をしてその後、洗い場に行くと、今日は鈴木と高田だった。

 

 いつも居る多部が居なかったので「今日、多部さんはお休み?」と訊くと鈴木が、「何か用事があるからって言っていたわよ」と。

 

「そうなんだ」と和夫。

 

「気になるの?」と鈴木。

 

「そりゃぁ、気になるよ」

 

「多部さん、巨乳だもんね」

 

「うん、あの巨乳は魅力的だからね」

 

「私、巨乳じゃないけど私だったら揉ませてあげるよ」とふざけて言った。

 

「俺に揉まれたらコレが欲しくなるけど良いのかな?」と言いながら下半身を指さした。

 

「欲しくなったらどうしましょう?」

 

「朝から俺たちは何の話をしているんだろうね」

 

「何よ、自分だけいい子になって!」と怒っていた。

 

 その後は調理場に行き挨拶をした。

 

「おはようございます!」

 

 全員で「おはようございます!」と声を揃えて言った。

 

(素晴らしい!)と和夫は思った。

 

 その一部始終をまた愛美が見ていた。

 

 朝食がスタートした。

 

 愛美は副社長とは違って良く動いた。副社長はレジの所に居て殆ど動かなかったから同じ家族でも社長に似たんだと思った。和夫は(それにしても愛美の旦那はまだ来ないのは何で?)と思っていた。

 

 今日は土曜日の朝なので外国人のお客様が半数の約五十名で日本人が約五十名の半々だった。これで何かの間違いがあってインバウンドが入って来ない事にでもなったら、この会社だけではなく観光業や飲食業もダメになって大変だろうなと思っていた。二号館は低料金でやっているので正にインバウンド相手で客室がもっと多かった。

 

 今日の朝食も何の問題もなく終了した。朝食の片付けを終えて賄いを取った。愛美と一緒だった。

 

「食事をしながらミーティングをしましょう」と和夫。

 

「英国風のティールームだそうです」と愛美。

 

「アフタヌーンティーですね」

 

「はい、そんな感じみたいです」

 

 

朝の賄いとティールームのミーティング。

「メニューはシェフにお願いすれば良いかもしれませんね」と和夫。

 

「依田さんが考えて下さるのではないのですか?」と愛美。

 

「私が考えたら、また副社長と料理長が気分を害されると思いますので」と和夫。

 

「どうしてそんな事を?」と愛美。

 

「ここだけの話しにして頂けますか?」と和夫。

 

「お約束します」と愛美。

 

「私が入社してから既に二回、副社長が社長に私の事で嘘の報告をしていたのです」と和夫。

 

「まさか」と愛美。

 

「社長から叱られた事が身に覚えのない事だったのです」と和夫。

 

「それはどういう事ですか?」と愛美。

 

「一つは富田さんが料理長から一人イジメに遭っていた時に私は料理長に対して諫めた時に正論を言ったに過ぎなかったのに、私に対して社長は『レストランで波風を立てたのだから自分に罰を与えなさい』とおっしゃったのですが、私は何も悪い事をしていませんでした」と和夫。

 

「はい、その件は私も聞いています。」と愛美。

 

「でもそのような事を社長が言ったという事は、報告の仕方がおかしかったからだと私は思っていますし、副社長が私の所に来て『社長が依田さんに話しがあるって言っているから会議室に行って!』と言われて行った時の事だったので」と和夫が言った。

 

「確かにその事は私も変だと思っていました。依田さんだけが悪者で料理長は何のお咎め無しという事ですから」と愛美。

 

「恐らくですが、副社長と絡んだ仕事をすれば、私がまたお咎めを受ける事になると思っていますので、今回のティールームの件も正直言うと乗り気がしないのです」と和夫。

 

「私から見ても変な家族だなと思うのですみません」と愛美。

 

「別に愛美さんに謝ってもらいたいから話した訳ではないので、お気になさらないで下さい。私は今回のこのプロジェクトに対し、どんな立ち位置で居たら良いのでしょうか?」と和夫。

 

「私も分からないのです。母が勝手にやった事なので、何も私と依田さんに振らなくても良いものをと思っていたのです」と愛美。

 

「ですよね。私も寮の清掃もあるので今の仕事だけでも手一杯なんです」と和夫。

 

「また母と父に訊いてみましょうか?」と愛美。

 

「そうして頂けると助かります」と和夫。

 

 

中抜け休憩 前のお宅の若奥様からの苦情。

和夫の今日は疲れたので中抜け休憩時に掃除をしないで寮に帰る事にした。寮に帰ると、誰だか分からない人の声がして、「依田さ~ん!」と(ドンドンドン)と玄関を叩いた。

 

 和夫が出ると「いつも朝早く出て夜遅くに帰って来るから中々お会いできなくて」と第一声に言われた。

 

「すみません」と和夫が謝り、再度「すみませんが、どなた様ですか?」と訊いた。

 

「申し遅れました。前の家の佐々木です」

 

「あっ、あのお婆様の。美容室をご経営されておられるとかの」と和夫。

 

「そうです」

 

「どうされたのですか?」

 

「実は申し上げ難い事なのですが、お宅の駐車場の砂利が道路に落ちてきてその度に私どもで掃除しているのです」と奥様に言われた。

 

 和夫は(またか)と思い「すみません」と謝罪し、「なるべく近い内にコンクリートか何かで補強します」と言った。

 

「そうして頂けると私どもも助かります」と言って帰られた。

 

 和夫は(自身の運の無さを憂い、更に疲れが増した)ので、今日は昼寝をすることにした。昼寝をして三十分ほど経った頃にまた先ほどの佐々木さんの声が玄関から聞こえたので眠い目をこすって出るとお菓子の袋を持っていた。

 

 玄関の中に入ってもらって対応すると「先程は、図々しい事を言ってすみませんでした」と言われた。

 

「母から言われたのですが、依田さんがこの家を買った訳ではなく、ホテルの寮として住むことになったそうですね」と言った。

 

「はい、そうです」

 

「なのに、私ったら図々しい事を頼んで申し訳ないと思ったので、これ食べて下さい」と言われ韓国のお土産のお裾分けと美容室の無料券を頂いた。

 

「ありがとうございます」と和夫は言い受け取りまた寝た。

 

 

夕食のスタンバイ。

和夫は疲れが溜まっていた。昼寝も夕食のスタンバイの時間のギリギリまで寮で寝ていてやっと起きて出勤した。眠そうな顔をして事務所に行きタイムカードを押した。気合を入れ直してレストランに入ると既に女子高生がスタンバイをしていた。他は誰も来ていなかった。

 

 女子高生に挨拶して洗い場に行くと鈴木が「訊いた?」と言った。

 

「何を?」と和夫が訊いた。

 

「富田さんが辞めるっていう話し」

 

「初めて聞いたよ、理由は?」

 

「疲れちゃったんだって」

 

「確かに疲れると思うよ、私も疲れたからさ」

 

「本当よね、高田さんも辞めるって言っているし」

 

「洗い場の?」

 

「そう」

 

「何で?」

 

「同じく疲れちゃったんだって、このホテルの社長と副社長は洗い場を目の敵にしているか」

 

「鈴木さんは辞めないよね?」

 

「依田さん次第だけどね」

 

「何をバカな事を言ってるのよ」

 

「まっ、冗談だけど洗い場が二人じゃキツイから」

 

「確かにそうだよね、朝百人からの食器洗いは大変だもんね」

 

「朝、依田さんが居る時は同じ大きさや形の皿を重ねてくれて出してくれていたけど今はカウンターに居るからそれをやってくれる人なんか居ないから」

 

「違うんだよ。それは皆もしてあげたいらしいんだけど副社長が居る時は洗い場に居ると怒られるから皆、やれないだけなんだよ」と和夫。

 

「そういう事だったんだね、依田さんは強いからやってくれていたって事?」

 

「別に私は強くないけど、このレストランの中で一番大変な部署は洗い場だと思っているからさ」と和夫。

 

「そう言ってもらうだけで、有難いと思うよ。依田さんの寮はゴミ屋敷なんだって?」

 

「誰から訊いたの?」

 

「山形さんから、だって裏の家なんでしょ?」

 

「うん、そうだよ」

 

「ここの社長と副社長ってケチだし人の事を大事にしないから人が集まらないのよ。ホテルの建物ばかり建てても人が集まらなくちゃね」と鈴木。

 

「おっしゃる通りだよ。調理場に挨拶に行くね」と和夫は言って行った。

 

 

料理長からの和夫への相談と夕食の賄い。

和夫は調理場に行き「おはようございます」と挨拶をした。

 

 全員で「おはようございます」

 

「依田さん、聞いて下さいよ」と料理長。

 

「はい」と和夫。

 

「和食の今月の売上が幾らだと思いますか?」

 

「分からないです」

 

「百万円弱ですよ」

 

「板前……二人で……ですか?」

 

「はい、だから和食の板前もメインダイニングを手伝えって言ったんですけど来ないんですよ」

 

「社長とか副社長に頼まれたら良いんじゃないですか?」

 

「頼んでも動かないんですよ」

 

「こればかりは私にも何ともできないですからね」

 

「同じホテルの中で忙しい部署と暇な部署があるのっておかしいと思いませんか?」

 

「はい、それはそうだと思いますが意外とその話はホテルのアルアルなんじゃないですかね?」

 

「他のホテルもそうですか?」

 

「そう思いますよ。僭越ですけど、私からのアドバイスとすればシェフが発起人になられて各セクションの責任者のミーティングを朝やるのは如何でしょうか? そうして時間を掛けてシェフが和食さんに説得されるのが良いかと思いますが」と和夫が提案した。

 

「明日、品川と相談してみます。ありがとうございました」と料理長。

 

「いえいえ、では今日も宜しくお願い致します」

 

 和夫は(シェフも良くなってきたな、でもまた戻る恐れもあるが)と思った。

 

 

 夕食は何の問題もなく始まり終わって夕食の賄いを取った。夕食は山形と愛美と和夫だった。

 

「愛美さんこの間は余計な事を言ってごめんなさいね。あの後、依田さんから怒られて」と山形。

 

「俺、怒ったっけ?」と和夫。

 

「怒られては無いけど先に帰っちゃったじゃない?」と山形。

 

「愛美さんが悪い訳じゃないのに山形さんが厳しくやっていたから俺が居ない方が良いかと思ってさ」と和夫。

 

「いずれにしてもうちの社長と副社長が社員さんを大事にしない事から始まっている事ですから私が頑張って父と母の考え方を変えさせますのでお時間を頂けると助かります」と愛美

 

「もうその話しは止めましょうよ。愛美さん例の話し後でメールかLINEで知らせて頂けますか?」と和夫。

 

「はい、ではLINEしますね」と愛美。

 

 和夫はバクバク食べてまた先に帰った。

 

 

山形からの電話と愛美からのLINEとその後電話。

「依田さん、私」と山形。

 

「お疲れ様でした。どうされました?」と和夫。

 

「私、何かした?」

 

「はぁ?」

 

「この間も先に帰ったし、今日もだから」

 

「最近、疲れちゃって早く帰ってゆっくりしたかったからですよ」

 

「何だ、取り越し苦労しちゃった。若い燕ちゃんの依田さんに嫌われちゃったと思って心配になったから」

 

「疲れが取れたらまたご馳走して下さい。山形さんのご飯、美味しいから」

 

「今からでも良いわよ?」

 

「ダメですよ。今日は賄いでお腹いっぱいですし、明日も早いんですから、おやすみなさい」

 

「冷たいね~。おやすみなさい」

 

電話を切って暫くすると愛美からLINEが入っていた。

 

 大久保愛美

「お疲れ様です。

ティールームの件ですが、

やはり依田さんと私でやって

ほしいとの事です。

取り急ぎ、明日にでも

現地を見てきてほしいと

の事でした」 

 

依田和夫

「お疲れ様です。

承知致しました。

明日は私、仕事ですが

どうしたら良いので

しょうか?」 

 

大久保愛美

「電話しても良いですか?」

 

依田和夫

「はい、待っています」

 

愛美からの電話。

 

「お疲れさまです。依田さんの立ち位置を訊いたら責任者だそうです」と愛美。

 

「愛美さんは?」と和夫。

 

「副責任者です」

 

「おかしくないですか? 愛美さんは専務で私は平ですよ!」

 

「父が言うんですから仕方ないです」

 

「分かりました。で、現地にはいつ行くのですか?」

 

「明日の中抜き休憩時間だそうです」

 

「私と愛美さんとですか?」

 

「そうです」

 

「では私の車で行きましょう」

 

「嬉しいです」

 

「遊びではないですよ」

 

「はい、分かっています」

 

「では明日、おやすみなさい」と和夫。

 

「おやすみなさい」と愛美

 

つづく

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