ホテルヨーロッパに宿泊。
和夫は社長の正和から命じられ、今日は面接で行ったホテルヨーロッパにチェックインした。眺めのいい二階にはツイン(三部屋)、ダブル(四部屋)、トリプル(二部屋)と九部屋が用意されており、和夫はツインの一室に宿泊することになった。
夕食までは暇なので、近隣を乗って来た車でドライブした。御天場の街並みは和夫が仕事をしていた都内とは全く違う寂れた雰囲気だった。
その後は山下湖まで足を伸ばした。山下湖は以前、上司の料理長から頼まれてヘルプに行ったプチホテルがあったので、そこに行って見ることにした。プチホテルとは言うものの、学生の合宿などが行われる宿舎だった。
人妻好きの和夫は当時、十歳以上も年上の女将と良い仲になっていた事もあり、実際にホテルを尋ねるのは遠慮した。その時の女将は年の離れた夫と上手くいっていなかった時期で当時は本館しかなく建物の裏では大きな犬を飼っていてその犬の散歩がてら女将と逢引きをしていた。
当時の湖近辺で人が往来しない場所があったので犬のロープを近くの木に縛り付けて女将と一緒に木陰で体を合わせていた。年の離れた夫との営みはセックスレス状態だったため若き二人は燃えた。流石に若い女将だったので中出しはできなかったのでスキンの世話にはなっていた。スマホでこの宿舎の情報を見ると、もう一館が増えて繁盛している事が伺えた駐車場に停めて当時の懐かしい思い出に浸ってから御天場に戻った。
ホテル内に戻って内部を見て回った。ホテル敷地内で掘削の天然温泉百パーセントの掛け流し露天風呂とシャワー室を各部屋に完備してあると明記してあった。露天風呂コーナーは夜十時までは男湯で女湯コーナーは夜十時~は貸切にすることもできるようだ。
料理は専任シェフが作るビーフステーキや駿川湾で採れる新鮮な海産物など和・洋・中のバイキング、ケーキやアイスのデザートも食べ放題です。食事会場は道路反対側姉妹ホテルリラックスヨーロッパのホテルレストランが会場になっていて用意され移動しなくてはいけないようだった。ホテル敷地内を散策すると、ヨーロッパの町並みの様な、原色の色とりどりの壁面のおシャレな外観だったがホテルの周りには何もなくポツンと二軒屋という感じの寂しさだった。
どういう訳か朝、チェックアウトをすると会計をさせられた。一泊二食で八千円だった。社長が面接時に確約していたのだから、宿泊費は立て替え後にもらえるものと和夫は思っていた。
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二日目にホテルリラックスヨーロッパに宿泊。
今日はホテルリラックスヨーロッパにチェックインした。ツイン洋風タイプの部屋に泊まらされた。ただ和夫一人だけだったので、ずっと温泉に浸かっている訳にもいかず、これだったら帰京してアパートに帰れば良かったと思っていた。引っ越しの用意もしなくてはいけなかったからだ。
テラスには自家源泉百パーセントの温泉付で全室同じだという。なので、いつでも好きな時に好きなだけ温泉三昧ができた。テレビ冷蔵庫ドライヤー洗浄機付トイレ石鹸、ボディーソープ、シャンプー、リンス、ハミガキセット、カミソリタオル、バスタオル、バスローブ、ヘアブラシ、シャワーキャップ、スリッパ、ケトル付きで、体のいい、言葉は悪いが高級ファッションホテル(ラブホ)の様だと思った。
恐らくラブホと同様の使い方をする客も多々いるように思った。フロントや庭には如何にもどう見ても日本人ではない若い風俗嬢とパパと思えるようなカップルが多々いたからだ。
テラスの露天風呂からは外の景色が見えた。泉質は昨日、宿泊したホテルヨーロッパと同様だ。露天風呂があったので、宿泊客ではない中国人の団体がロビーに入ってきてうるさかった。
和夫が勤務していた帝丸ホテルにはインバウンドは西洋人が多かったが、ここは東洋人、特に中国・韓国系などの客が殆どを占めていた。食事は昨夜と同じ料理で、可もなく不可もなくといった個性が全くないいわゆる観光ホテルのどこにでもある料理ばかりだった。
同じ敷地内に富士農園と称したガラス張りのハウスが五棟建っていた。千五百円払うと食べ放題だったが高過ぎると思ったしもっと安くすれば多くの利用が望めるのにと思った。それにイチゴとトマトだけそんなに食べられないからだ。栽培方法は水耕栽培ではなく堆肥栽培だったので味も香りも良かった。
ここで栽培されたイチゴやトマトが各ホテルに運ばれ食材とされると中のスタッフが言った。だったらもっと様々なハーブ類や簡単に栽培できる野菜類を作ったら良いのにと和夫は思っていた。その事を何気にスタッフに話すと「私は今までこの仕事をした事がなかったのでその知識がないのです」との事だった。
チェックアウト時には昨日同様に和夫自身で支払った。一万二千円だったがツインとダブルが同料金との事だったので、だったらダブルが良かったと和夫は思った。こういう所もフロントの教育がなっていないと思ったが、このホテルをラブホ替わりに使わせているなら一人客にはツインの部屋にしてフリー客がカップルで来た場合にはダブルの部屋にした方が客にとっては良いからそうなったのではと思った和夫だった。
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三日目は驛前ホテル一号館に宿泊。
今日はツインとダブルが両方空いているとの事だったのでダブルにした。チェックイン時に料金を支払い朝食は一食二千円で宿泊は一万二千円で一万四千円を支払った。
フロント横の大きなガラス窓が割れていて、それを和夫がスタッフに話すと以前の地震の際に割れたのを修理していないと言っていた。このような修理箇所を直さないで社長は趣味の車を何台も買っている事に和夫は不思議に思った。
またフロント付近の電灯や窓枠の角などには蜘蛛の巣が張っていたのを和夫は見逃さなかった。フロント横の暖炉の上に飾ってある生け花が枯れて萎れていたのをここのスタッフは何も思わないのかと思った。更には今、七月だというのにフロント横にはお雛様が飾られていた。ここのスタッフには季節感がないのかと思うほどだった。ホテルヨーロッパやホテルリラックスヨーロッパよりも清掃に関しては酷いように見えた。
二軒のホテルよりもかなり後に建設された驛前ホテル一号館だと言う。ここは社長の正和の正妻の副社長が責任者でいるホテルだ。どのような管理をしているのかと思った和夫だった。
こちらは正にビジネスタイプのホテルだった。いわゆるインバウンド狙いが色濃く出ていた。
洋風・モダン和風・スイートを合わせて百十三室の公正だった。アメニティーも各地のステーションホテルとは遜色ないラインナップだった。
残念な事があった。今どき有線LANだけだったこと驚かされた。ビジネス仕様で特にインバウンドを意識しているのであれば、館内は無料のWi-Fiによるインターネット接続が可能にしなくてはとはと和夫は疑問に思った。
ホテルの地下一階に露天風呂が完備されていたが、昨日と同様で中国人とハイキングの客たちが入っていて異常に煩かった。更に最悪なのがハイキングの客が落としていったであろう、床におびただしい数のヒルが這いつくばっていた。清掃スタッフが掃除していた。
食堂はメインダイニングと空の見えるテラスと和食の三ヶ所になっていた。夕食は事前に予約をしないとレストランでは食せなかった。
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ホテルで、夕食の予約をしていなかったので外で食べることにした。トリップアドバイザーを見るとなかなかの高評価の店に行った。メイン通りを歩いて行くと香(かおる)という居酒屋だ。他の客は二名以上だったが和夫は一人でポツンと座った。
「いらっしゃいませ!」と言った、ネームプレートに「佐藤英子」と記されていた女性スタッフが気さくに話してくれた事で和夫は居心地が良くなった。メニューを見て頼むのが面倒だった和夫は彼女に「飲み物は温かいウーロン茶と料理はお任せで」と言った。
彼女は「それでしたらコース料理はいかがですか?」と言われた。急に来たのにコースを頼めて有難いと和夫は思った。
彼女が小さい声で「今日の予約のお客さんで一名キャンセルになったからですよ」とニコニコして教えてくれた。店の方にしてもキャンセルの客の料理を出せた方がロスにならなくて良いからだ。パートなのに機転が利いてこの佐藤さんは凄いと思った。
様々な料理が次々に出てきた。いわゆる和食をベースにした創作料理だ。次から次にお客さんが入って来たので、佐藤は和夫に付きっ切りにはなれず、料理を運んでくれたらそのまま居なくなっていた。全てのコースが終わったのでお会計をした際に和夫は佐藤にお礼を言って帰った。歩きながら良い店を知って良かったと和夫は思った。部屋に帰って朝まで眠った。
朝食はメインダイニングでビュッフェだった。入口にはスタッフが居て、朝食のカードを差し出すとレストランに入れるようになっていた。階段を降りるとホールのスタッフが席に案内してくれた。
カウンターの中には社長の正和が居てドリンクを作っていた。和夫は牛乳とホットコーヒーを取りに行くと言葉は発しないが正和がニコッと笑みを浮かべた。
和夫も小さな声で「おはようございます」と言った。
その後、調理場の方を見ると、サラダ、ソーセージ類、フレンチトーストなどと並び、一番左側に居たシェフがオムレツを焼いていた。その先にはフルーツやおじやそしてパンなどが並んでいた。皿に盛り付けて自分の席に付き食べていると皿が空くとスタッフが来て洗い場に下げてくれた。
その時に昨夜の香(かおる)という居酒屋で会った佐藤が「あれ?」と和夫の顔を見て言った。
和夫も「昨夜はお世話になり、ありがとうございました」と言うと、佐藤は「ここに泊まっていたのですね」と言った。
和夫は「はい」と答えた。
忙しかったので佐藤はそのまま違うテーブルの下げものをしに行った。
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驛前ホテル二号館には宿泊せずに帰京。社長の正和に和夫は電話し一旦、帰京する旨を伝えた。アパートも引き払わなくてはいけなかったしお世話になった近隣にも挨拶をしなくてはいけなかったので帰京したかったからだ。この部屋は隣の部屋の住人が自殺したので和夫の部屋の家賃は、東京都白金区でも破格の家賃(一ヶ月一万円・築五十年)だったので、和夫は引っ越したくなかったのだ。その後は気持ち悪さから誰も入居しなかったので、不動産屋が紹介してくれた時に和夫は家賃が安い方が良いと思って即決で借りたからだ。
部屋は六畳の一間ではあるがバストイレ付だった。それでいて一万円は近所を探してもどこにもなかったまた和夫は日頃、仕事で忙殺されていた事から、休みは一人でキャンプに行くぐらいで、たまに人妻熟女との情交でラブホに行くぐらいだったので、殆ど贅沢をしていなかった事から、給料の中から三万円だけは親に仕送りしてその他は貯金に回していた。そんな事で既に彼の貯金額はそれなりに貯まっていたので、それほど金には執着をしていなかった。
帰京してアパートに帰り、家財道具の殆どを捨てて、自分の一九九二年製のボロ軽ワゴンに載せられるだけの荷物を入れて、後はアパートを掃除し区役所に行き転出届けを出した。
付き合っていた人妻熟女たちは全員が、帝丸ホテルのパートだったので、和夫がホテルを辞めた事は皆、伝わっていた。しかし就職先の話しをしてなかったので、皆に電話してその旨を伝えた。事実上の付き合いが終わったが和夫は未練がましく一番のお気に入りの京香にだけは「帰京した時は宜しく!」と伝えた。
ついでに新居の近所に配る挨拶の粗品を買った。その後、銀行に行き住所変更をしようとしたら、住民票を持って行かなくてはいけなかったので、また次にしようと思ったが面倒なのでそのままにして郵便局に行き転送届だけを出した。この引っ越し作業が何とか午前中で終わった。
社長の正和に寮の住所を聞いていて鍵ももらっていたのでナビにセットして向かった。夜になってしまったので庭先は真っ暗だった。懐中電灯を持って玄関に入り電気を点けると一人で住むには広過ぎるような家だった。夜遅くだったので荷物の出し入れは近所に迷惑になるので車に丸めて積んできたシェラフだけで寝る事にした。和夫は明日、一日で荷物を整理して市役所に行き転入届を提出する。
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和夫は社員寮として与えられた、社長の妾の大塚妙子氏の旧宅に住む事になった。朝、起きると二階で今時珍しい鼠が走り回っているようなゴソゴソとした音が聞こえたので上がってみた。二階には三間ありゴミの山で足の踏み場もないほど凄い事になっていた。正和が経営する他のホテルなどの総支配人の家とは聞いていて先日までその女性の三人の息子が住んでいたことも聞かされていた。
二階の屋根裏にはゴミや使い古しの石油ストーブやその他、家具などがそのままの状態で置かれていた。飲んだ空き缶や食べた缶詰の残骸が足元に散らばっていて山のようになっていた。缶詰の中には残したままの干からびた魚や蟹などが残っている缶詰もあった。そのゴミの中に鼠が居てゴソゴソ動いていた。
引っ越しをした明くる日から掃除をする気にはならなかったので、とりあえず、休み時間に掃除することにした和夫だった。庭に出てみると、また凄い事になっていた。庭を見て途方に暮れていると隣の奥様から声を掛けられた。どう見ても五十歳には行っていない四十歳代後半の気品のあるご婦人だった。
「そこに引っ越して来た人ですか?」と。
「はい、そうです、後程ご挨拶に伺わせて頂きます、宜しくお願い致します」と和夫。
「この間、貴方が就職したホテルの社長が来ていて、『今度、ここに住む人は東京の帝丸ホテルの料理長』とおっしゃったので、今度はキレイに生活してくれるんじゃないかと近所の人たちと話していたんですよ」と言った。
和夫が途方に暮れていた姿を見た隣の奥様が、「引っ越して直ぐにこの話しをされたら、困りますよね、追々で良いですからキレイにしていただけると助かりますわ」と言った。
「え……、俺がするの?」と和夫は落ち込んだ。
更に続けて奥様は「困っていたんですよ、大塚さんは全く掃除や片付けをしないご家族だったので鼠は来るは、ゴキブリは出るわで、特に裏の山本さんのお宅が一番迷惑されていたと思いますよ」と言った。
和夫「いや……私も昨夜遅くに着いたので、この惨状を知りませんでした」としか言えなかった。
そんなこんな事を話していると、工務店の職人が来て作業をし出した。
「ここに住む人ですか?」
「はい、そうです」
「ここは湿気が凄いから気を付けた方が良いですよ」
「そうなんですか」
「昔はこの一帯が沼だったので床下から湿気が上がってきて恐らくですけど今回、畳も全取り換えするのですが直ぐにカビが生えると思いますよ」
「そうなんですか……」と言うしかなかった和夫だった。
「いやいやいや、とんだ所に就職させられた」と思って和夫は落ち込んだ。(これだったら一間のアパートの一室の方が有難い)と思っていた。
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社員寮の向こう三軒両隣と裏の家に引っ越しの挨拶に行った。
和夫は作業をしている工務店の職人に「近所にあいさつ回りをしてきます」と言って家を出た。先程、隣の奥様とは話しをしたので最後にすることにして逆の隣の家に行くとやはり五十歳代の品の良い奥様が出てきた。
「すみません、隣の大塚様のお宅に住むことになりました依田和夫と申します、宜しくお願い致します」と言って粗品を渡した。
気さくで感じの良い美人の奥様でご主人は会社の社長との事だった。
正面、向かいのお宅に行くと、七十歳ぐらいの奥様が出て来られ「貴方の事はお宅の社長から聞いていますから」と言われとても友好的な感じだった。四十歳代の娘さんと二人暮らしで、娘さんは市内で美容室を経営しているとの事だった。とりあえず粗品を渡して「宜しくお願いします」と言った。
その向かいの隣の片方の家は留守だったので、後程伺うことにした。片方の家には七十歳代の夫婦が住んでいて他の家族は別の家に住んでいるとの事で挨拶をして粗品を渡し帰って来た。
裏のお宅に行くと五十歳ほどのやはり品の良い奥様が出てきたので粗品を渡して挨拶をした。なかなか気さくな感じで、この近所は住みやすいのではと思った。
最後に隣の奥様の所に行き改めて挨拶をすると玄関先だったが中に入ってと言われたので和夫は玄関の中に入ると小声で「この近所は人の噂が好きなので気を付けて下さい」と教えられたのでお礼を言って粗品を渡した。
更に大塚家の西の窓とこの家の窓が近くなので何か困ったら窓ガラスを叩いてくれれば近所に見つからなくて話ができると言われた。和夫には意味が分からなかったが親切心で言ってくれているのだと思い有難く受け取った。
その後、この奥様は「自治会長のお宅にも挨拶をした方が良いんじゃないの?」と言い連れて行ってくれたので一旦、部屋に帰って粗品を持って一緒に行った。
自治会長は六十歳代の男性で玄関先で正座して対応してくれた。自治会長からケータイの電話番号を聞かれたので「〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇」とその場で言い、血液型や勤務先の役職名まで書かされた。自治会費の八千円を支払って帰って来た。東京のアパート暮らしをしていた時は町内会費を支払った事がなかったが一軒家なので支払わなくてはいけないのかと和夫は思った。
隣の奥様にお礼を言って部屋に帰ってくると直ぐにケータイに電話が入った。隣の奥様からだった。和夫は電話番号を教えてないのにと思ったが、自治会長のお宅で番号を言ったので覚えていたのだと思った。
「引っ越ししてきて引っ越し祝いをしていませんよね?」と奥様。
「はい、独り者なのでそんな洒落た事はしません」
「うちの主人は海外出張しているのでもし良かったら一緒に外食でもと思ったので」と言った。
美しい人妻だったので和夫にとってはドストライクで一緒に食事するぐらいは良いかと思い「ご一緒して頂けるのですか?」と訊くと「はい、喜んで」と言った。
「一緒の車に乗って出掛けると近所の目があるので別々で出掛けましょう、私が先に出掛けて直ぐ先で待っていますから後についてきてください」と言われて続けて、「十九時に出発します」と言った。
和夫は「承知しました」と言って電話を切った。
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隣の奥様と十九時に出発して引っ越し祝いをしてくれるとの事になった。隣の奥様の車にエンジンが掛かった音が聞こえた。白のメルセデスベンツだった。和夫はオンボロの一九九二年製の軽ワゴンだ。市役所近くのコインパーキングに和夫は駐車し奥様のベンツに乗った。奥様はお友達と行き付けの店だと言った。個室の居酒屋で奥様は店員に「料理はお任せで」と言い「何を飲まれます?」と訊いてきた。
「温かいウーロン茶をお願いします」と和夫が言うと、奥様は「アルコールは飲まれないのですか?」と訊いたので「はい」と答えた。
「私は飲んじゃっても良いですか?」と奥様が訊いたので和夫は「どうぞ」と言った。
「生中でお願いします」と注文した。
生とウーロン茶で乾杯し奥様は「隣に依田さんのような紳士が引っ越して下さって私、嬉しかったのよ」と言った。
「ありがとうございます、私は紳士ではありませんけどね」と言った。
「そんな事ないでしょう?」
それからと言うもの和夫の事を根掘り葉掘り訊かれたので、話せる部分は話した。奥様も個人的な部分まで酒が進むにつれ話してくれて、最後には目をトロンとさせて夫とはセックスレスだとまで話した。和夫は大胆な奥様だと思っていた。
たしかに帝丸ホテルのパートの人妻熟女も酒が入ると、物凄いエッチに変貌していたのでこの奥様がそうなるのも理解は出来た。「抱いて」と言わんばかりだったので和夫は「出ましょうか?」と言うと奥様は「はい」と言って立ち上がり和夫の腕に彼女の腕を絡めてキスをねだった。
和夫が、幾ら人妻熟女が好きでも会ったばかりの人や近所の人妻とそういう関係になるのはマズイと思い上手にはぐらかし奥様のベンツに乗って和夫の車を停めた駐車場に向かった。
その後、傍に停まっていた代行車に奥様とベンツを送るように頼んだ。和夫は十五分ほど時間をおいてから帰寮した。家に入ると隣の奥様からケータイに電話が入り、「今日の事は内緒にしてね」と言われた。
「勿論です。今日はどうもありがとうございました」と和夫が言った。
「おやすみなさい」と奥様が言った。
つづく
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