人生が二度あったので押し掛け女房に翻弄された男が純愛を貫き壮大な夢を叶える物語

主人公の現世では押し掛け女房に出逢い翻弄されるが、死後の異世界では愛妻と望んでいた幸せなスローライフを満喫します
K.Yoda K
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第十話 勤務五日目 和夫へのスタッフの変化 通常業務

公開日時: 2022年4月8日(金) 16:02
更新日時: 2022年4月9日(土) 20:11
文字数:7,489

朝の出勤で社長との約束の清掃。

和夫は休日日前と同じに一時間前に出勤し事務所に入ると夜勤をしていたフロントの尾島が笑顔で彼に目を合わせて「依田さん、おはようございます!」と彼の方から挨拶をして来た。

 

 和夫も「おはようございます」と挨拶した後に(休み前までは俺の方から挨拶していたのに、今まではろくすっぽ目も合わさなかったのがどうしたんだろう?)と思い気持ち悪さを感じていた。

 

 和夫は休み前と同様にホテルの外回りと駅舎そして警察の派出所前と今日は更に駅舎隣の自転車置き場の掃き掃除もやった。外周の蜘蛛の巣取りをした後に内部の蜘蛛の巣を取るとその後はタイムカードを押してレストランのカウンター内のスタンバイをした。

 

 後から富田美紀と佐藤英子が出勤してきてその後主任の大崎が来た。和夫がカウンターのスタンバイをしていると、美紀と英子がわざわざカウンターの前に来て「おはようございます」と挨拶をした。

 

「昨日は休んでゆっくりできた?」と英子が訊いたので「まぁね」と和夫。

 

「昨日、夕方に来たみたいだけど、何しに来たの?」と富田が言ったので、和夫は「富田さんに手伝ってもらったあのゴミをホテルのゴミ集積所に持って来たんだよ」と言うと、美紀は「あぁ、あれね」と言った。

 

「あれって何?」と英子が美紀に訊いた。

 

 美紀は自慢げに「依田さんの寮の二階には前に住んでいた人たちのゴミが沢山有ってこの間の中抜け休憩の時間に手伝ってゴミ袋に纏めたのよ」と言った。

 

「そんな事をしたんだ?」と英子は少々不機嫌な顔をした。

 

「じゃぁ、今度は私が手伝うよ」と言うと美紀が「大丈夫よ、私が中抜き休憩の時に手伝うから」と言ったので和夫が「これからの中抜き休憩ではホテルの掃除をするから休みの日にやるから大丈夫だから」と言うと美紀は「え……、つまらないの!」と言って膨れた。

 

「まぁまぁ、そうやってお二人さんが手伝おうとしてくれるのは大変に有難く思っているので、どうぞ今後ともヨロシクお願いします!」と言うと二人ともに浮かない顔をして持ち場に行った。

 

 その後、主任の大崎が来て「依田さん、おはようございます!」と言い、続けて「先日は外国のお客様の時に助けて下さってありがとうございました!」と言った。

 

 更に続けて「最初『新人!』とか生意気な事を言ってすみませんでした」とも言った。

 

 「いえいえ、お互い様ですから気にしないで下さい」と和夫。

 

 和夫は大崎の変わり様に驚きを隠せなかった。朝の挨拶もそうだが助けてもらった事への感謝ができる人なんだと改めて認識した。少しずつだが皆の意識が良い方向に向かっていて良かったと和夫は感じていた。

 

 そうこうしていると洗い場のオバサンたちが出勤してきてカウンターの前に勢揃いして「依田さん、おはようございます!」と言った。

 

 和夫も「おはようございます」と言い薄化粧をして来た多部に「あれ~、多部さん今日はキレイなんじゃないの~?」と言うと照れていた。鈴木は美容室に行ったみたいで髪を切っていたので「ヘアースタイル変えたんだね、やっぱり美人さんはショートが似合うよね~!」と言うと「うちの旦那は全然気付いてくれないのに依田さんは直ぐに気付いてくれて嬉しい!」と言った。

 

 和夫は「旦那さんは気付いているけど口に出さないだけなんじゃないのかな?」

 

「そうなんだろうけど、それじゃぁ、つまらないよね」と鈴木。

 

 休み前までは和夫が挨拶に行っていたのに、どういう風の吹き回しなのかと和夫は気持ち悪さを感じた。

 

 その後、調理場の三番の新橋、その後にスーシェフの神田が出勤してきて、厨房の窓から顔を出し「依田さん、おはようございます!」と挨拶をした。いよいよ和夫は気持ち悪さを感じた。

 

 午後になったら良太に昨日、何事が有ったのかを訊いてみようと思った。コーヒーが出来たので全員の分をコーヒーカップに注いでいると美紀がトレンチを持って取りに来てくれて、その時に料理長が厨房に入って来た。

 

 富田はコーヒーを配っても料理長は何も文句を言わなかったので皆、「アレ、今日は苛めをしないの?」と不思議な顔をして一番驚いていたのが本人の富田だった。

 

 和夫は料理長がいる前の窓の所に行き「おはようございます!」と言うと小さな声で「おはようございます」と言った。和夫は(料理長は今まで誰からもガツンとやられた事がなかったのかもしれない)と思った。

 

 

社長と副社長の口喧嘩の出勤。

 

「としえー!」

 

「だからいつも言っているでしょ! 気安く名前を呼ばないでって!」とレストランのドアを開けた瞬間に二人の怒鳴り声が聞こえた。

 

 和夫は何事かとカウンターの左手にある階段を見ると踊り場で社長の正和と副社長の寿江の口喧嘩の声だった。その後、二人はカウンターの中に入っても凄い大きな声で口喧嘩をしていた。副社長は社長に対して背を向けていたが、その副社長に対して社長は憎しみのこもった口汚い言葉を浴びせていた。レストランの中の雰囲気は最悪に沈みスタッフは皆ピリピリしていた。

 

 その中で和夫は洗い場の多部と鈴木と面白おかしく話しをして笑っていた。多部が和夫に書いて来た電話番号の紙片を渡すと鈴木も「私も」と言いケータイ番号を紙に書いて渡してくれた。二人のケータイはロッカーに置いて来たからだった。

 

 和夫は二人に「今、電話をワンギリするから」と言ってスマホを弄ってその後、手を洗いに行った。

 

 多部が「依田さんが入ってからは社長と副社長は余所行きの顔をしていたから、あの口喧嘩を見なかったけど、もう我慢の限界になったから始まったんじゃないのかな? あの口喧嘩は今まで毎日のようにやっていてお客さんから『うるせー!』って怒鳴られた事は良くあるのよ」と言って笑っていた。

 

 和夫はホテルではありえない行為だと思ったし料理長がガンだと思ったが、料理長よりも経営者の社長と副社長の方が最悪さは数段上に感じた。あの自信家の社長と仕事をしない副社長の意識を変えるのは相当、大変だと思ったし和夫がどう努力しても変えられないかも? とさえ思っていた。和夫は本当に最低レベルのブラックなホテルに就職してしまった事を後悔してもし切れなかった。

 

 全員のスタンバイが終わり、社長が「朝食をスタートしよう!」と言い美紀がBGMのCDを掛けて朝食が始まった。レストラン内のスタッフは社長と副社長の怒鳴り声でピリピリして畏縮していた。これでは笑顔の接客などできないので和夫はいつもよりも笑顔で接客をして大きめで少し高めの声で「おはようございます!」”Good morning!”と言って笑顔で接客した。

 

 

朝の賄いを食べた後、良太に掃除方法を教える。

今日の富田は中抜け休憩で他の店でパートをしに行き、英子は夜に香でパートなので朝食を取らないで帰って行った。

 

 和夫と大崎が朝食を取った。相変わらず大崎は和夫よりもずっと向こうのテーブルでいつもと同じカレーを食べていた。和夫は最近、野菜不足を感じていたのでサラダを多めに取って食した。

 

 そこに中抜け休憩を取る多部が来て周りに誰も居なかったので「今日、父ちゃんが居ないから夜に電話してもいい?」と可愛い声で訊いた。「大丈夫ですよ」と和夫が言うと「ありがとう」と笑顔を浮かべて中抜け休憩で帰って行った。

 

 そこの遅番の良太が早めに出勤してきて「依田さん先日、教えて頂いた苛性ソーダを貸して頂けないでしょうか?」と言ったので「いいよ」と言ったが劇薬なので火傷させたらと思い「後で使い方を教えるから待ってて」と言うと「はい」と言った。

 

 着替えに行こうとした良太を呼んで「ちょっといいかな?」と言い「昨日、私が休んでいる間に何か私に対しての事で申し渡しみたいのを皆と話した?」と和夫が訊いた。

 

「実は昨日は(総)料理長も休んでいてスーシェフの神田さんと副支配人の品川さんがこの数日間の仕事の姿を見ただけでも依田さんは只者ではないからちゃんと礼儀を尽くそうという話しになって二人はそれぞれのスタッフにその話しをしたのです」

 

「だからだね。今朝から皆が私より先に挨拶をするので気持ち悪かったんだよ。そんなに偉くも何でもないのにね」と和夫。

 

「僕だけは依田さんが只者ではない事を知っていますけどね」と嬉しそうに良太。

 

「ホントかな?」と言って照れ笑いを浮かべると良太も笑って「後でまた教えて下さいね」と言った。

 

 食事を終えて調理場に行くと良太は既に長靴を履いて待っていた。このホテルは自分で食べた食器は予洗いをして洗い場に置いておくのがお約束事だ。やはり洗い場さんがレストランで一番重要なポジションだし賄いを作ってくれた料理人に対しての敬意でもあるので和夫は、これは良い事だと思っていた。

 

「良太君、この前と同じようにボウルに湯を沸かして」と言い「目分量なんだけど、このぐらいの苛性ソーダを入れてくれぐれも水の内に入れないとダメなんだよ。沸騰してから入れると噴いて火傷する恐れがあるから絶対に気を付けてね」と和夫。

 

 苛性ソーダではなく油汚れを落とす強力な洗剤はあるのだが和夫はホテルに出入りしている業者を知らなかったので買えなかったので仕方なく苛性ソーダを買った。

 

「はい、気を付けます。で、オーブンレンジの汚れが酷いのと厨房の床の汚れを落とそうと思っています」と良太。

 

「偉いよ。だから早出をしたんだね」と和夫。

 

「やっぱり、綺麗な所で料理を作った方が良いですから」と良太。

 

「そうやって直ぐに良い事を素直に取り入れる姿勢は素晴らしいよ」と和夫。

 

 良太は誇らしげにしていた。

 

「沸騰したら火を必ず止めて、ステンレスのレードルなどで汚れている箇所を暫く漬けてから擦ってね。アルミはダメだからね。くれぐれも厚いゴム手袋をしてね」

 

「はい、わかりました」

 

「絶対に火傷しないようにね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「そうそう、忘れていたけど、くれぐれもこの事も料理長たちに私が教えた事を言ったらダメだからね」と和夫。

 

「はい、それも心得ていますから安心してください」と良太。

 

 和夫はその足でタイムカードを押して中抜き休憩中にレストランのガラス清掃をやった。

 

 

和夫が清掃専門パートに怒鳴られる。

厨房に行くと良太と午後の調理パートのオバサンが二人で床の清掃をやっていた。汗だくになってやっていたので和夫は二人に「風邪ひかないようにね!」と言い手を洗ってレストランのショーケース内の牛乳とジュース類が少なくなっていたので置き場所から運び補充をしていると後ろで女性の声が聞こえた。

 

「アンタ! 誰に聞いてそこをやっているの?」と凄い剣幕だった。

 

 意味が分からなかった和夫は振り返ると初めて会った女性が箒と雑巾を持っていた。  

 

「六日前に入社しました依田和夫と申します。主任の大崎さんと富田さんに教えて頂いたので、補充しています」と言った。

 

 その女性は「全然、やり方が成ってないのよ!」と激怒していた。

 

「富田さんが休みの時は私が大崎さんから頼まれて、そこの補充をしていたのよ!」と言った。

 

 和夫は面倒なトラブルは避けたかったので「すみません、それでは教えて下さい」と言った。その女性は手も洗わないで和夫が持ってきた牛乳とジュースの箱からそれぞれのパックを取り出して冷蔵庫内に並べ出した。

 

「これからはこの順番で並べてよね!」と言われたので和夫は「承知致しました」と言った。

 

 そこに副支配人の品川が来て「青井さん、掃除をしないで何をやっているのかな?」この女性は青井という名前で清掃のパートだという事が判明した。青井は和夫を指さして「この人が冷蔵庫の中に牛乳やジュースを補充していたんだけど、やり方が違うから叱っていたんです!」と言った。

 

 品川は呆れた顔をした後に「紹介しなかった俺が悪かったんだけど一週間ぐらい前に入社した社員の依田さんだよ。依田さんがやっている仕事に口を出したらダメだからね!」と注意し和夫に対して「教育が出来てなくてすみませんでした」と頭を下げた。

 

 青井「社員さんだったのですか」と言い顔を曇らせ「すみませんでした」と謝った。和夫は(ここのパートは社員に対して異常に反応するのは何で? と疑問に思いながら)作業を続けた。品川は後ろで和夫の作業を見ながら「いつもホテル内外の清掃をありがとうございます」と言った。

 

「社長との約束なので」と言うと品川は「えっ?」と驚き「それはどういう事ですか?」と訊いた。

 

「初日に(総)料理長に意見をしたじゃないですか? その時にホテル内で波風を立てた事で社長が私に罰を与えるのはおかしいから自分で考えて罰を作りなさいと言われたものですから私はこのホテルでは掃除が行き届いてないと思ったものでやっているだけです」と言った。

 

「あの青井はパートの時間に箒と雑巾を持ってホテル内をプラプラしているだけなので全く掃除をしていないのが分かりましたでしょ?」と言った。

 

 その後、青井が血相を変えて飛んで来て「依田さん、先程は失礼致しました!」と真っ青な顔をして言った。

 

 和夫と品川は何事かと思って見ると青井は「渋谷さんから聞きました。依田さんは(総)料理長に意見を言った人と聞いたものですから」

 

「はい」と和夫。

 

「ですから私ごときが依田さんに意見を言ってしまった事に謝罪しているんです」と青井。

 

「パートさんが社員に意見を言う事は別に問題はないのですが、先程のように頭ごなしで感情的に怒鳴るのは頂けないだけですから止めた方が良いですよ。これからは意見を言う時は極力冷静に言って下さい。それと掃除をしてきて手を洗わないで食材に触るのは止めて下さいね」と和夫。

 

「はい、わかりました。申し訳ありませんでした」と青井。

 

「依田さんのおっしゃる通りだから青井さんはとにかく、掃除をしてください!」と品川が言った。

 

 和夫はあの仕事をしない掃除パートの青井までに「(総)料理長」とバカにして呼んでいたのには笑えた。青井は六十歳過ぎだと言った。和夫は(良くもまぁ、仕事をしないパートを雇っているもんだ)と思い苦笑した。

 

 

夕食スタート。

和夫は中抜け休憩を終えて事務所に行きタイムカードを押していると副支配人の品川が来て「社長に注意されたんですって?」と言われた。

 

 「いいえ、別に注意されていませんよ」と和夫が言った。

 

 「えっ、あぁ、そうでしたか……」と不思議そうな顔をした品川だった。

 

 「誰から聞いたのですか?」と和夫。

 

 「副社長が『依田(さん)は今頃、社長に怒られているわよ』って嬉しそうに言っていたので」と品川。

 

 (先ほどの社長からのお叱りは完全に副社長の嫌がらせだと感じ、今後はより一層、副社長には気を付けないといけない)と和夫は思いながら本当に伏魔殿のようなホテルに就職させられた事に自身の運の無さを憂いた。

 

 和夫がレストランに行くと既に富田が一人で準備に追われていた。彼女の横に行き「何か手伝う事ありますか?」と和夫が訊いた。

 

 「洗い場からチューフィングを二台持ってきて!」と富田。

 

 「OK!」と言って持ってきた。

 

 「ありがとう」と言ってセットし「次は固形燃料を持ってきて!」と言ったので、洗い場に行き鈴木に「固形燃料は何処にあるの?」と訊いた。

 

 「こっちに来て」と言われて厨房の倉庫に連れて行かれ入ると鈴木が「この間、褒めてくれてありがとう!」と言った。

 

 時間がなかったので「固形燃料は?」と訊くと出してくれた。

 

 家庭の奥様方は旦那さんにあまり褒められないので、ちょっとしたことでも嬉しいんだろうと和夫は思った。

 

 

 固形燃料を持って富田の所に行くと「随分、時間が掛ったのね」とイヤミを言われた。

 

「洗い場さんとお話しをしていたから」と言って固形燃料を仕舞いに行った。

 

 夕食がスタートして今日は何のトラブルもなく終わった。

 

 

ビールディスペンサーの洗浄。

和夫がカウンター内の生ビールの冷却機械の洗浄作業をしようとしたら美紀が来て「え…、そうやって洗浄するんだ?」と言った。

 

「今までどうやっていたの?」と和夫が訊くと「洗浄なんかした事ないよ」と美紀は言った。

 

 和夫は驚き「酒屋が来て教えなかった?」

 

「うん、納品するだけで帰っちゃうから」と美紀。

 

 本来はビールメーカーの下請けが一ヶ月に一回程度、洗浄指導に来るし教育が為された酒屋は定期的にサービスとして洗浄をして帰るものなのだが、このホテルでは実施されてなかった。

 

「今から洗浄するから見てもらってもいいかな?」と和夫が言ったが今まで洗浄をした事がないと言ったのでスポンジ通し洗浄をやって見せた。

 

 スポンジ洗浄を行う前にレバーのタップ(内部)の組み換え作業を行う、これはスポンジを通すためにタップを逆さにする作業だ。

 

 レバーと取り外して弁棒を抜き取ってタップ本体を回転させ再度弁棒を差し込んで上の穴から覗いてタップ本体の穴と弁棒の穴を重ねた状態でレバーを組み本体に戻して繋げる。

 

 洗浄タンクに八割方の水を入れてホースの水通しヘッドを接続しタップにバケツを掛ける。

 

 ビール継ぎ手を外してスポンジをホースの中に入れる。

 

 ディスペンスハンドルを下げて減圧弁のダイヤルは二以下にしている事を確認してから炭酸ガスボンベの元栓を開ける。

 

 水が出始めてやがてスポンジボールも出てきて水が無くなると炭酸ガスだけが出てくるので、そうしたら炭酸ガスボンベの弁を閉め音が無くなるまで待つ。

 

 洗浄ボンベのガス抜きボタンを押して中のガスを抜いてディスペンスハンドのレバーを上げて取り外してタップ内部を元に戻して本体に取り付ける。

 

 バケツの中の水を見ると案の定、白い汚れのカスが沈んでいた。

 

 これを富田に見せると「汚いね」と言ったので「同じようにやってみてよ」と言ってやらせていると厨房の神田と二人の新橋が出てきて見入っていた。

 

「そうやって洗浄するのですね?」と神田が言った。

 

「知らなかったのですか?」と和夫が訊いた。

 

「料理人は厨房だけの仕事で良いので」と神田が言った。

 

 和夫は(料理人はレストラン全体に責任を持たなくてはいけないのに、ここの料理人は何を考えてやっていたのだろうとまた不思議に思ったしこれが料理長の考えなんだろうとも思った)。

 

「ねえねえ、この後どうするんだっけ?」と美紀が言った。

 

「スーシェフ(神田)すみません、明日の朝でも良いので酒屋に言って、生ビールのディスペンサーの清掃方法が書かれた説明書がありますので取り寄せて下さい」と言い来たらそれをカウンターに貼っておこうと思った和夫だった。

 

 和夫はこの後を富田に手を取り教えていると他のスタッフは全員帰って行った。和夫は夕食の賄いを食べてから帰寮した。

 

 つづく

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