人生が二度あったので押し掛け女房に翻弄された男が純愛を貫き壮大な夢を叶える物語

主人公の現世では押し掛け女房に出逢い翻弄されるが、死後の異世界では愛妻と望んでいた幸せなスローライフを満喫します
K.Yoda K
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第七話 勤務三日目 良太への魚下ろしの講習会 遅番出勤

公開日時: 2022年4月8日(金) 13:02
更新日時: 2022年4月9日(土) 20:08
文字数:3,323

市場で仕入れ、良太への魚下ろしの講習会をする。

和夫は朝早く起きて中央卸売市場に行き駿川湾で採れたという、ブリ、イワシ、サバなどなど買ってきて良太に小魚を下ろさせた。ブリの下ろし方は最初からできないと思ったので下ろし方の見本を見せた。

 

 柵取りして刺身用にした物と良太が練習で下した小魚を引っ越し祝いをしてくれた隣の奥様の美沙と昨夜ご馳走になった英子と裏の山形に「食べて~!」と言って持って行き良太の母親に名刺代わりで持たせた。

 

 良太の母親もシングルマザーとの事だった。母親の教育が良かったので彼は素直で良い青年だった。和夫は最低限の道具として自分の包丁を揃える事も教えた。講習を終えてから良太と食事に行った。

 

「今のホテルを辞めてもっと仕事が覚えられる会社に入りたいです」と良太。

 

「驛前ホテル一号館に就職して三年が過ぎたんですが一回も厨房の床掃除をした事がないので掃除の仕方すら教わってないんです」と彼が言い和夫は驚いた。

 

 確かに厨房内の床は油汚れで真っ黒だったしで悪臭がして洗い場にある冷凍ストッカーの内側に付着した氷がストッカー購入後一回も剥がしてないような程、張り付いていたからだった。

 

「これは洗い場のオバサンたちが料理長からの命令で、ペティナイフで削るのが関の山です」と良太が言った。料理長自身がストッカーの氷の落とし方も知らないからだと思った。確かに驛前ホテル一号館の料理人たちの仕込みを見てみると、ブイヨンを仕込んでいるのも見た事もないし、ソースもレトルトの完成品を使っていたし朝食と夕食の食材も全て缶詰や冷凍物を使っていてサラダの野菜だけがフレッシュだった。

 

 帝丸ホテルではブイヨンやソースやスープ類は当然、一から仕込んでいたし冷凍物や既製品は使わなかった。同じ「ホテル」と標榜していてもこんなにも違うとは恐れ入ったまた帝丸ホテルには掃除担当の職員が居たから良いのだが小さいホテルやレストランでは料理人がやる仕事だ。

 

 なので、彼がホテルで勤務している間は和夫が料理人たちに見付からないように掃除の仕方や仕込み方法などを教えてあげようと思った。

 

 

遅番出勤。

副支配人の品川が気を使ってくれて和夫の今日のシフトを遅番出勤にしてくれたので品川の顔を見た和夫は「今日は遅番にして頂きありがとうございました」と言うと、品川は「いえいえ」と言いながらも嬉しそうだった。上司は本当にそう思った時は礼を尽くした方が良いと思っている。中抜けの休憩を取る業務は何だかんだ言っても疲れるからだ。

 

 今朝も市場に行って魚を仕入れて来て良太に講習をしたので通しの勤務と変わらない。早めに出勤すると既に彼は出勤していて和夫に駆け寄り「今日はどうもありがとうございました」と言った。

 

 和夫は口の前に人差し指を立てて「内緒だよ」と言って笑うと良太は「はい」と言って笑った。「今度、うちの母が依田さんにお礼が言いたいって言うので家にいらして下さい」って言ったが和夫は「大した事じゃないから気にしないで下さいって言っておいて」と言った。

 

 そして既に女子高校生が夕食のビュッフェのスタンバイをしてくれていた。和夫は「菜々美さん、いつもありがとうね」と言うとまたキョトンとした。ここのスタッフからお礼など言われた事がないのだろうと思った。

 

 洗い場のオバサンに挨拶に行くと料理長から頼まれていた朝食のオムレツとスクランブルエッグの玉子を割って攪拌していた。

 

「依田さん、これどうやったらもっと簡単に早くできるのですか?」と多部が珍しく敬語で訊いてきた。

 

 まずはお決まりの褒め殺しから始めた。

 

「今日も多部さんは女っぷりが良いですね~?」と言うと還暦を超えたオバサンが「いやん、そんな事、言われたら疼いちゃう!」と言ったので二人で大爆笑した。

 

 和夫は調子に乗って「どこが疼いちゃうの?」と訊くと「決まっているでしょ?」と言って和夫の下半身に手を置いて直ぐに離した。

 

 和夫「いやん!」と言って腰を引くと多部は爆笑した。

 

 今日は鈴木が休みで高田が来ていた。多部と和夫が楽しそうにしていたので仕込みをしている手を止めて「多部さん、何を楽しそうにしているの?」と輪に入って来たので和夫は「多部さんが俺にセクハラするんだよね」と言うと「何をしたの?」と訊いたので「俺の息子を触るんだもん」と言うと高田は「多部さん、いいな、あたしも触りたいよ」って言ったので三人で爆笑した。

 

「料理長が来たら『シー』だからね」と言って多部が舌を出して苦笑した。

 

 結局は多部にしても、ホテルのその他のスタッフも料理長の事を尊敬しているのではなく苛めやパワハラをするから怖がっていただけに過ぎなかった。そんなのは自分の立場を利用した事なので何の意味も価値もない。それよりはスタッフ全員で誰が偉いとか関係なしに切磋琢磨し一番はお客様に喜んで頂く事を考えればおのずと良い方に回っていくと和夫は信じていた。

 

 その後、和夫は「料理人たちには内緒だよ」と言い玉子を割る時に殻の入らない割り方を講習して最後にシノア液体を漉す調理道具で漉す事を教えると「え……、こんなに早くできちゃうの……?」と二人は驚いた。

 

 高田にはまた次回に褒め殺しをしてあげようと思って良い部分を探していた和夫だった。

 

 

夕食を終えて賄いの時間で。

今日の和夫は山形と二人で賄いを食べながら会話した。

 

「依田さんはこのホテルに、たった三日しか勤務していないのに随分攻めたわよね?」と山形が言った。

 

「それどういう意味ですか?」と和夫が訊いた。

 

「洗い場の多部さん、鈴木さん、高田さん、昼の佐藤さん、富田さんと、依田さん家の隣の福田さんが依田さんの事を絶賛だもの!」と山形。

 

「え……、私、何にもしてないですよ」と和夫。

 

「そうよ、別に何もしてなくても今まで依田さんみたいなキャラの人がこのホテルのスタッフや近所にいなかったから珍しいんだと思うわよ。ま、私もその中の一人だけどね」と山形。

 

「はぁ……?」と和夫。

 

「たぶん隣の福田さんは違う意味だと思うけど、ホテル関係は初日に料理長に牙を見せたからじゃない? 強い男が何だかんだ言っても女は好きだから、ましてや富田さんの事を助けたから余計に痺れちゃうんだと思うわよ」と山形。

 

「それは喜んで良いんですかね?」と和夫。

 

「喜んだ方が良いと思うわよ。だって全員いや富田さんは年下だね。でも他は依田さんよりも年上の人妻やシングルマザーだから、依田さんが何をしても危なくないでしょ?」と山形。

 

「何をしてもって?」と和夫。

 

「それは決まっているじゃない、言わなくても分かるでしょ?」とウインクをした山形だった。

 

 和夫は分かっていたが山形から言わせたかったので「分からないですよ」と言った。

 

「こんな話しを依田さんにしているだけで私、濡れてきちゃったもの」と山形が恥ずかしそうに言った。

 

「そういう事ですか?」と言いながら(洗い場の多部さんもそうなのか? と思っていた。多部は化粧っけのない普通のオバサンだから抱いたらどんな感じになるんだか。多部が誘ってきたら抱いてみたくなっていた。贅沢かもしれないが和夫は帝丸ホテルでは人妻の美熟女とばかり体を重ねていただけに普通のオバサンもたまには良いなって思っていた。勿論妄想だが)。

 

「もし良かったら今晩、家に来る? 主人は、昨日から韓国に出張だから」と山形。

 

和夫はココの所、朝も掃除で忙しくて疲れが溜まっていたので今日は早く寝たいと思っていたので返事に困っていた。

 

「嫌よね。こんなお婆ちゃんじゃ?」と山形。

 

「そんな事ないですよ。山形さんは教養もあるし美人さんだし素敵なご婦人だと思っていますよ」と和夫。

 

「だったら待っているから来てよ。うちの夫婦はもう何十年もレスなのだから裏の塀を上って来てくれれば近所に見付からないから」と山形。

 

「はい、わかりましたと言いたいところだったのですが、社長から言われて早急にやらなくてはいけない計画書があるんですよ」と嘘を付いた和夫だった。

 

「確かに、こんなお婆ちゃんじゃイヤよね?」は熟女の断らせない殺し文句だ。

 

「本当に残念ですよ」と和夫。

 

「だったら休みの昼ご飯は一緒にね?」

 

「はい、お願いします」これは流石に断れなかった和夫だった。

 

 つづく

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