高嶺の花の春うらら

互いの事を高嶺の花と憧れた少年少女の恋物語
和泉詩葉
和泉詩葉

勝手な思い込み

公開日時: 2022年10月9日(日) 17:11
文字数:4,016

男子にとって可愛いと思う女子と女子にとって可愛いと思う女子は違うという話をよく耳にする。それは男子の場合も同じことが言える。橿原雅と出雲京の場合、それが顕著に表れていた。


「なぁ奏多、どうすれば出雲さんの気を引けると思う?」


僕は幼馴染兼親友のクラスメイト、太宰《だざい》 奏多《かなた》に助言を求めた。


「ん〜、雅はどうしても出雲さんがいい訳?」

「え?諦めろってこと?」

「だって彼女は学校屈指のイケメン達を一瞬の迷いもなく振る程の本物の高嶺の花だよ?こう言っちゃ失礼だけど、そこらの女子にそれなりに告白されたことある雅でも流石にだよ。」

「そうか、そうだよなぁ...」


僕は苦笑する。


奏多は『諦めた方がいいよ』と僕を説得する。確かに彼女はあまりにも高嶺の花過ぎて、僕とは到底釣り合わない。でも、でもね、せっかく同じクラスで、しかも隣の席にまでなった大きな大きなチャンスなんだ。可能性が1%でもあるならそこにかけたい。でも、


「...0%だよな。」

「0%だね。」


二人はこの意見で一致した。


「あぁっ...でもぉ...」と、ハッとした奏多がふと違う方向を見てなにかに気づくと僕の方に視線を戻してニヤッとした笑みを浮かべて見せた。


「...ツテならあるかな?」

「本当か?」

「信じるなら最初の休日を空けるといいよ。」

「お、おう...」


話に乗った雅を見て奏多は心の中で『よしっ!』と軽くガッツポーズをして見せたのであった。


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「ねぇ楓、」

「なぁに?」

「あのさぁ...」

「うん。」

「えっとぉ...」

「なによ、うじうじしないではっきりしなさいって!」

「あっうん!」

「で...何があったわけ?」

「えっとぉ...その...か...楓はか...橿原くんの気をどうやったら引けると思うかしら...」

「わ〜お、京《みやこ》は強欲だね!」


私は中等部からの親友である伊勢 楓に橿原くんの事について相談したが、あっさりと『それは無謀じゃない?』と返されてしまう。


「彼は校内の美女達をあっさりと振っちゃう程の人だよ?いくらそこらの男子にそれなりに告白される京と言っても橿原くんは厳しいって!」

「や、やっぱり...そ、そうなの...かしら...」


私は楓の返答に俯きながら長い長い自分の黒いストレートの髪を指先でつまんでいじる。


軽く不貞腐れる京に楓は『あちゃー』と言った表情になる。そして少し間を置いて30秒ほど考える素振りを見せた後に「よしっ!」と言う。


「そこまで京が諦めきれないならしょーがない!私が橿原君と話しやすくなるよう舞台を準備してあげよう!」

「ど、どうやって?」

「そうね、まず京は黒髪のストレートロングで前髪も重ためだし、目付きがキリッとしてて言葉使いも丁寧じゃない?よくアニメで見る、男子も近寄り難い"棘のある氷の女王様"的なイメージがあると思うのよ。」

「なっ!?」


「だから男子の方から寄ってくるとはあまり考えられないのよ...かと言って京のその印象を変えるのは勿体ないわね...」


とブツブツ一人で語り始める楓。


「...」『と...棘のある氷の女王様...』


京は楓から見た京のイメージを聞いてポカーンとしてしまう。


「そうだ!私のママ友同士の奏多に橿原くんと取り合って貰えるよう仕組んでみるわ!」

「そ、そんなツテが...あ、ありがとう楓。」


京は楓の言葉に一瞬大きな傷を負ったが、一応協力してくれることになったので礼を言う。すると、楓は奥にいた太宰くんの方を向いてコクンと頷く、太宰くんはすぐに橿原くんの方に目を向けてニヤッとした笑みを浮かべたように見えた。


『わ、私は何をされるのかしら...』


感謝はしたものの楓の怪しい笑みに京は少し心配になってきた。


「にしても棘のある氷の女王様は酷い気がするのだけど...」

「も、物の例えだって!ほら!気にしない気にしない!」


『いくらものの例えだとしてもそれは酷くないかしら?』と一瞬思ったが、自分のわがままに付き合ってくれてるのでこれ以上は突っ込まないことにした。


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「ど、どうも...」『え...』

「え、えぇ...」『これは...』


「いやぁ〜おまたせおまたせ!いい天気だね!晴れてよかったよかった〜」

「ほんとよね〜」


困惑する二人の横には晴れたことに満足する奏多とそれに共感する楓。


そう、雅と京を連れてきたのは紛れもないこの二人、二人は雅と京の相談を受けたあと、放課後に二人で残り、雅と京が両片思いであることを知り、どうやってくっつけてやろうか話し合ったのである。


ちなみにお互いの親友同士が恋してると知った時は奏多も楓も驚いた。


「えっ!?あの出雲さんが雅の事を!?」

「えっ!?あの橿原くんが京の事気になってたの!?」


二人とも酷い言いぐさである。


「じゃあ揃ったことだし行こうかぁー!」

「おぉー!」


仕組んだ組は楽しそうである。


〈お前、仕組んだな!〉


雅はそっと奏多に耳打ちした。


〈ちょっと楓!これって...〉


京も楓に耳打ちした。


「でもこれをお望みだったんだろ?」

「お膳立てはしてあげたわよ?」


二人はいやらしい笑みで『ほら、望むままにしてやったぞ?』と雅と京の気持ちを煽りたてるのであった。


僕達は新城下市の中心駅である新城下駅に集合してそのまま駅のホームに向かう。基本四人で広がって歩くのは危ないし、改札付近で周りの人に迷惑をかけてしまうので二列になる。奏多と伊勢さんが二人でずっと話しているから必然的に僕の隣は出雲さんになる。これは恐らく奏多が僕に気を使ってのことなのかもしれない。


「...」

「...」


『無言なのは良くない...』


僕はなにか話しかけようと出雲さんの方を向く。


「っ!?」『な...なななななななななんて綺麗な横顔なんだっ!?』


綺麗すぎて一瞬話しかけようとしたことを忘れてしまった。


その自分にとっての一瞬が実際時間どれ程なのかは分からないが、僕が見とれている間に出雲さんと目があってしまった。すると僕より先に出雲さんが口を開く。


「何かしら...」


『ぬぁっ!?...』雅はそのゴミを見るような冷たい視線と氷柱《つらら》のように鋭利で冷たい言葉が心に大きく刺さってしまった。雅は心で苦しい悲鳴をあげる。


『なっ...なんと冷たい反応なんだ...思ってたより長い間見つめてしまっていたのか?...き、嫌われたか?...僕は嫌われてしまったのかァァアアア!?』


「い、いや、なんでもないよ。気にしないで、あはは...」


と、僕はばつの悪い顔で出雲さんに返答した。


『うっ...』今度は京が心に大ダメージを負った。


『橿原くんの視線を感じたからとりあえず橿原くんの方を向いてしまったけど、一瞬見蕩れて緊張で声が強ばってしまったわ...しかもその後に私を気遣うような苦笑いをしながら「なんでもないよ」なんて言われてしまった...私の顔、何か変だったかしら...え!?何も付いていたりしないわよね!?へ、変な匂いがするとか!?香水がお気に召さなかったのかしら!?き、嫌われてないわよね?嫌われたら嫌ァァァアアア!!』


このたった一回の言葉のやり取りで、二人は内心『まずい!嫌われたかも...』と焦りを見せ、発狂に発狂を重ねて地獄絵図と化していた。


その様子をちらっと見た奏多と楓は『あちゃー』と額に手を当てた。


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「で、どの電車乗るんだっけ?雅博士〜、プリーズテルミー!」

「昨日言ったじゃん...まあいいや、このホームの次に出発する電車だよ。」


奏多がふざけた口調で僕に乗る電車がどれか聞いてくる。


「おっけー、サンキュッ!」

「相変わらず元気そうだな。」

「そんな雅はもうお疲れかい?」

「さあな」


『こいつ。わかっててやってるな?』


僕は奏多をジト目で見つめる。そんな僕に思わぬ人から質問が飛んでくる。


「橿原くんは路線とか詳しいの?」


伊勢さんだ。彼女が僕に話しかけてくるとは正直思ってなかった。いや、一緒にいる以上話さないことは無いのだが、挨拶もした事の無い初対面同然の人から声をかけられたことに少々びっくりした。でも答えない理由もないので素直に答えようとするのだが...


「まあn」

「そうっ!なんと雅くんはね〜、全国の全市町村と路線を知る、日本の地理マスターなのですよ〜」

「おぉぉ...」

「凄いわね。」

「へへっ」

「お前が照れるな。」


まるで手柄を横取りされた気分だ。でも少し場の空気が緩んだ気がする。まあ、これも奏多のおかげなのかもしれない。それにしても...


『出雲さんの反応が薄すぎるっ...こ、これは興味無しの現れか?...』


いるんだよねぇ鉄ヲタとか地理ヲタを生理的に受け付けられないとかいう人。僕は人の趣味(法的に危ないものを除く)に難癖つける人苦手なんだよね。でも...


『ぅぁああああ!!』


雅は表情こそ真顔を作っているが心の中では頭をガンガンと地面にたたきつけて叫び嘆いていた。一方出雲は...



『ま、また冷たい口調で返してしまった...どうしても緊張すると素っ気ない言葉になってしまうのですよね...私もなにか、得意なことで橿原くんに気を...』


「そうだ!今度このメンバーでカラオケでも行かない!?京がすっっごい上手くてさ!皆にも聞いて欲しいんだよ!」


『楓!?なっ何を急に!?』


「いいね!カラオケ!もちろん雅もだぞ。」

「強制かよ。まあいいけどさ。」


確かに私はカラオケが得意。でもなんで急に...なるほど!楓が私に気を使ってくれたということですね。確かに良い。良いんですけど...


『橿原くん、いやいや連れて行かされてる感出している気がするのですけど...もしかして私と一緒が嫌だったり!?...これは完全に興味無しなのでは...』


二人のマイナス思考が見て直ぐにわかったのだろう、楓と奏多はまた『うわ〜』と頭を抱えるのであった。


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