人は常に対照的な概念をその身に宿している。生と死。自由と束縛。そして正と悪。しかし人は常に生を享受し、自由を満喫し、正義のために戦う。逆の概念は他の人間に押し付けられる。死も束縛も悪すらも。
冬の終わり。ダラダラと過ごすこの夕暮れ時にも、正しさはある。
否、正しさがなければダラダラと過ごせない。
悪の行いを自発的にすることなど、人間には不可能だからだ。
なら死と束縛も自発的には不可能なのか。実はできる。しかし非常にセンスの無い選択肢だ。
死とは生に対して不可逆なものであり、束縛は選択権の放棄であるからだ。
身体が光を欲している。部屋全体が暗くなっているからだろう。しかし、過度に光を浴びたくないという意識もある。
携行用のランプを点けた。明るすぎず、暗すぎず手元を照らす。
さて、私はこの光と闇が共存する部屋であなたと対面するわけだが、心の準備は出来ているだろうか。
外では正に追いやられた悪が消滅しかけ、生の輝きによって死が発生し、自由によって束縛される現実が待っている。
この部屋では、まあほとんどは発生しないものだ。
あなたは一時的にこの部屋を通過し、いつか離れるだろう。その時、私の最初に述べた事柄を覚えているといいだろう。
いくつか、許せることが増える。いくつか、許せないことが減る。
私はここで地獄の門番をしているわけではない。むしろ天国への道を指し示す役割を担っていると言っても過言ではないだろう。
だから自分に今一度聞かせるといい。大抵の性質の両方を、人間は併せ持っている。
人によって考えは違う。私の考え全てに同調しなくていい。少し、片隅にかすめるものがあれば、私はあなたの前の立って正解だ。
……どうだろうか。だんだん眠くなってきたか?
大丈夫だ。眠ることはとても幸福なことだ。
眠りによって、休むことによって人は生を成り立たせられる。
あなたは今、生を成り立たせようとしている。同時に死にも近づく。それでいい。
死に近づく時、生はより一層輝く。それは流れ星か、あなたが気にもとめない道端の虫か。
いずれにしても、あなたにはあなたの輝く場所がある。
そこまでの道の途中で、ただ、己の考えを伝える存在である私に、あなたの考えを変える権利はない。
ただ……会話をしたいだけだ。
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