紅月祭、その名の通りのバカ騒ぎの日。クソッタレな祭りの日。赤い月が爛々と空で光るその様は、まるでカミサマとやらに嘲笑われているかのようだ。
俺は、学園に入る前からこの祭りが祭りが嫌いだった。
大いなる月に感謝を捧げるって言ったって、最悪な評判の家と最悪な性格の奴ばっかの人間関係で、そんな気持ち湧いてくるはずがない。人生は不平等だし、ムカつくことに月はそれを見ているだけだ。太古の人類には魔法なんて力を与えたというのに。
現代の俺達には何も無いのかよ、って。一回くらい希望をくれたっていいだろ、って。思ってたし、思ってる。
けれど、ある日リューネが言った。Ⅳ組のみんなにも、紅月祭を楽しんで欲しい……と。それは純粋な願いであり、無垢なる呪いであった。
大方、セルテあたりに感化されたんだろう。わかっていても、嫌われ者の自分達のために、忌家の俺のために、心を砕いて動いてくれる人間なんていなかった。いなかったんだ。
だから、手伝った。他のⅣ組の奴らが何考えてたのかは知らない。知りたくもない。ただ、リューネが喜んでくれるなら、紅月祭に対する敵意というか……捻くれた気持ちをちょっとくらい抑えて、適当に協力とか? してみてやったって良いなと思った。
それに……実際、そんなに悪くはなかった。かもしれない。いや、なんかこう、認めたくはないが。ド真面目でうるせぇジュスティは先輩らしく案外面倒見が良くて、普段影が薄過ぎるフィートは思ってたより自分の意思がはっきりあった。他の奴らもちょこちょこ良い面が見えて、かと思えばやっぱりクソ野郎だったりして。当日こうして外に出れなくても、準備期間はまあまあ楽しめた……と言っていい。
外を覗いたとて、Ⅳ組の学生寮の周りでは紙吹雪くらいしか違いはない。それでも、あいつも楽しんでいたならいいと思っていた。
「なのに、なあ……」
うるさく響いていた着信を止める。一斉送信のその内容は予想通り。
「私、死んじゃった」
ああ、嫌だ。リューネの声が脳裏に響く。浮かんでくるのはいつもと変わらない、困ったような苦笑い。
あの瞬間、幽霊のリューネを見た瞬間、もうダメだと思った。
ずっとずっと、初めてあいつに手を握られた時から。あの温かさが忘れられなかった。だけどあいつは、リューネは陽だまりの中で生きていくべきだと感じていた。異世界からやって来たってことは、いつか帰っちまうんだろ? なら、それを引き留めたくはなかった。
「なんで」
なんで、死んだんだ。
なんで、幽霊なんかになったんだ。
それはそう、まるで彼女が俺のものになったような錯覚を引き起こした。
俺の……俺の、リューネ。生きた人間であって欲しかった彼女は、今も寄る辺なく不安定に佇んでいるんだろう。言われた通りに俺を待っているんだろう。
ああ、そんな魂に手を貸さずして、スプークト家は名乗れまい。
「……絶対に生き返らせるから」
半透明の画面に映る、リューネの遺体が見つかったなんてそんな内容をかき消した。
もう、帰せない。
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