光と茜の差分

裏組織のトップエージェントが超絶美少女になって世界を救う
天澤清二朗
天澤清二朗

第114話 ~カフェでの攻防と割り勘~

公開日時: 2023年10月16日(月) 18:02
更新日時: 2023年10月16日(月) 18:05
文字数:4,340


「チョコレートバナナパフェ・羊羹を添えてと、ザクザクイチゴのバニラムースパフェ・ネコの手を添えてです」


 店員が二人分のパフェを持ってきた。

 茜はチョコレートバナナパフェ。細長い羊羹が刺さっている。

 ルココはイチゴパフェ。白い猫の手が刺さっている。


「猫の手って……何で出来てんの?」


 猫の手を半分に折って口に運ぼうとするルココ。


「ほら、猫の手を忠実に再現したクッキーよ。今の流行り、可愛いでしょ?」

「可愛いけど、ちょっとグロテスクだな」


 クッキーを白い砂糖で覆って固めたものだが、切断面もしっかりと赤く、そしてその中央に白く丸い何かが。それが何かは言うまでもない。


「私、猫好きなの。食べちゃいたいくらい」

「はは……動物虐待は反対~」


 そんなブラックジョークに流石の茜も苦笑いだ。


「茜の方こそなんでパフェに羊羹のってるのよ」

「美味しいだろ、羊羹」

「甘いものに甘いものって、私の倫理観に反するわ」

「メニューにあったんだから仕方ないだろ?」

「仕方ないって……何見てるの?」


 茜はルココのイチゴパフェをじっと見つめている。


「イチゴのパフェも美味しそうだなと」


 ルココのパフェに散りばめられたイチゴを見てそんなことを言う。

 他人のものが美味しそうに映るのは世の常だ。

 するとルココは何かを思いついたようにそのイチゴをスプーンですくいあげる。


「じゃ、じゃあ交換ね。食べさせてあげる。だからあなたも私に食べさせて」


 友達っぽい事がしたいのだろうか。ルココはイチゴの乗ったスプーンを差し出してくる。


「いい、自分でつつくから」


 と、茜は空気を読まず、猫の手の片割れをごっそり持っていこうとする。


「あ、ちょっと! 茜が欲しいのはイチゴの筈よ! 何考えてるの!」

「冗談だよ冗談」

「……じゃあ私もっ」

「あ! 羊羹ごっそりいくなよっ!」

「残ってたから」

「最後に食うんだよっ」

「あんた最後まで切り札取っておいて腐らすタイプでしょ」

「私はあえて使わず頭脳で勝つタイプなんだよ。切り札は甘えだろ?」

「世の中舐めてるタイプね。その癖失敗したら他人のせいにするのよ」

「失敗しないので」

「自信過剰ね。私は使える物は何だって使うわ」

「だから金使って友達ごっこしてたのか?」


 それを言うとルココは目を見開いて押し黙ってしまう。そして肩を落として分かりやすく落ち込んだ。過去のトラウマが蘇ったのだろう。

 茜は別にお金で雇われた友達の役ではない。ましてや命令されてなった友達でもない。

 茜もそれは言い過ぎたかと、謝罪の意を込めて羊羹を半分に切りスプーンで器用に掬う。そしてこれも演技かと疑心暗器になりながらも、ルココに差し出してやった。少し照れるようにそっぽを向きながら。


「ほ、ほれ、食わせてやるよ」


 その差し出された羊羹にルココはぱっと表情を煌めかせた。

 そしてすぐに羊羹を口に運ぶかと思いきや、一度視線を逸らす。

 同年代の女子の口にパフェを運ぶという恥ずかしい事をしているのだ。茜としては早く食べて欲しい所だろう。

 疑問に思い、首を傾げる茜。


「どうした?」

「なんて言うかその……いざされると照れるわね」


 譲歩してやった結果がこれか、と茜は顎が外れそうな程に口を開けて呆然としてしまう。


「なら私が食べる」


 そして掬った羊羹を自分の口に運ぼうとした。だがそれをルココの手が掴んで放さない。流石は全国優勝のルココ、腕の力が半端ではなく茜の細腕ではびくともしない。


「何やってんだルココっ……そんなに照れ臭いなら私が食うぅぅっ、放せっ」

「誰も嫌だとは言ってないでしょうっがっ」

「うぅぅ……力つえええっ」


 ルココは茜から差し出された羊羹を腕ごと手前に引き寄せ口に運んだ。

 そしてスプーンを加えたまま茜を見るルココ。


「美味しいか?」

「う、うん」

「よかったよかった」


 茜はフォークを引き抜いてご満悦だ。

 顔を真っ赤にしながらルココは口をもぐもぐさせている。


「じゃ、じゃあ、私も猫の手食べさせてあげるわ。感謝しなさい」


 と、ルココはスプーンに猫の手を載せる。そして赤らめている頬を更に赤く染めて得意げな表情で茜に差し出して来る。


「いや、いい。恥ずかしいし。なんで公衆の面前でアーンされないといけないんだよ。自分で食べる」


 茜はスプーンでザクザクイチゴを狙うがその手をまたしてもルココに鷲掴みにされた。


「いいからお食べなさい!」

「うごっ」


 顔を真っ赤にしたルココは茜の口に無理やり猫の手を突っ込んだ。ただ少々力が強すぎたらしく喉の奥に入ってしまい茜はむせる。

 そして茜の口から自分のスプーンを取り出すと更に顔を真っ赤に染め上げるルココ。そして口の形がとろけるように笑みの形に形成されていく。


「これが友達同士のやり取り……これが今時の女子高生の放課後なのね」

「うぉおごっほぉぉおぉお!」

「はぁ~、これが青春……これが関節ディープキス!」

「ぐっはああああげほぁああ!」

「……うるっさいわよ! 人が青春に浸っている時になんなの!? 情緒もなにもあったものじゃないわ!」

「やっと取れた」


 そんなやり取りの中、ふと周囲を見渡すと通行人の視線が茜達に向いていた。


「何だか、視線が気になるわね」


 と、ルココ。

 女子高生が二人でお洒落なカフェのテラスでイチャイチャしていたら人の目を引くというもの。しかも二人共系統は違うが美少女の部類だ。

 男の視線はもちろん、女ですらも見入ってしまう程に。

 そして先程ルココが茜にしたセクハラをまだ期待している者がいるのかもしれない。


「鬱陶しい連中ね」


 と、ルココが睨みつけると立ち止まっていた十数人の男達が慌てた様子で歩き去っていった。


「結構いたな」

「ゴキブリのようね。あ」

「ん?」


 するとある所でルココの視線がとどまった。


「どうした?」

「あれ、あそこにいるの、あなたのお友達じゃない?」


 茜が視線の先を追うとそこには建物の陰から顔だけを出して恨めしそうに自分達を見つめてくる少女の姿があった。

 それは雪花だった。


「雪花……忘れてた」


 茜がルココと話す為一旦別れた切り連絡も何もしてなかったのだ。

 茜は恥ずかしい所を見られたと、雪花を呼んで言い訳の一つでもしようかと席を立つ。

 

「おーい、ゆっ――」

 

 そして声を掛けようとした所で雪花は体をびくつかせて逃げてしまった。

 

「え? なんで? あ」

 

 そういえば、と茜は思い出した。

 雪花は普通の女子高生のような会話がしたいと、駅前のお洒落なカフェに行きたいと。

 そして茜は今ルココと駅前のお洒落なカフェで女子高生のように、かは定かではないが楽しそうに会話をし、パフェを半強制的に互いに互いの口に運んでいる。

 行かないと拒否されたお洒落なカフェでルココといちゃついて楽しそうにする茜を見て雪花は嫉妬していたのだった。

 そして悔しさのあまり逃げ出してしまったのだ。


「あの子って茜の友達、よね?」

「ああ、今度は三人で着てもいい?」


 雪花の心中を察し、そう提案する茜。

 だがルココが茜を友達にしたかった理由に親がいない事が入っていた。それはエクレールグループ配下の会社で親が働いていると変な忖度をされる為。


「今度……」

「あ、嫌なら別に無理せず――」


 そこでルココは立ち上がる。


「また一緒にカフェしてくれるって事よね!?」

「あ、ああ。まあ」


 ルココはぱっと顔を明るくする。


「全く……こんな事くらいいくらでもしてやるってのに」


 と、茜が呆れて笑うとルココは満足そうにうんうんと頷くのだった。

 その後はルココの事について少し話していた。狂化薄心症の事についてだ。

 主に日和の国に多い症例であまり詳しい事は分かっておらず、治療法も分かっていない。だが対処療法はある。それは特定の人物が近くにいる事だ。その人物にいてもらう事で発症が避けられるようだった。


「それがフォンさんだと?」

「そう。血の繋がりも特に信頼していたわけでもないけど。不思議よね」

「ふーん」


 そして発症するには女子生徒が言ったような危機的状況に追い込まれる必要がある。

 戦闘技術に置いてルココを追い詰める生徒がいない為フォンは油断して離れてしまったのだった。

 そこへたまたま茜と対戦しルココを追い詰めてしまったとの事。

 そんな事を話しているとどうやら時間が来たらしい。

 

「お嬢様、時間です」

「もう、そんな時間?」


 茜がスマコンで時刻を確認すると既に午後四時を回っていた。遅めの昼食とは言え少し長いし過ぎたようだ。

 ルココはいくつかの会社を任せられていると言っていた。学生の本分は勉強。そこへ裂いていた時間が終わったのだろう。

 

「じゃあ私はこれで」

「ああ」


 ルココは立ち上がり、


「久々に楽しかったわ。また来ましょうね」

「ああ、またな」


 そしてルココは自然に伝票を持って行こうとする。

 だがそれを見た茜がジトリと睨むような視線をルココに向けた。


「なに? あ」


 そこでルココは気が付いた。ここでルココが茜の分も払ってしまえばまたいびつな関係になってしまう。


「べ、別にこれくらいいいわよ。友達同士でもおごったりするでしょ?」

「そうだけど、でもなぁ~ついさっき友達になったばかりでそれはどうだろうな~。私をルココにたかる友達にしたいのか?」


 と、茜は頬杖をついてニヤニヤしながらルココに意地悪な視線を向ける。


「違うわよ! そうじゃないけど……割り勘って事よね……」


 これでもルココは財閥のお嬢様。

 それを割り勘、というのはとても違和感があり、屈辱的なのだろう。

 ビジネスであれば接待やら会食であれば招待した方が払うのが常識。ルココの性格もビジネスライクに偏っている。

 現在、茜はどちらかと言えばルココに誘われて接待される側だろう。

 だが茜はあくまで友達の関係だ。ビジネスパートナーではない。


「ではここは執事である私のポケットマネーで」

「あなたは黙ってなさい」

「はい」


 見かねたフォンの申し出も一蹴するルココ。

 これは茜とルココの問題だ。更に立場的にルココの下であるフォンが支払うと形的には弱い者いじめになってしまう。


「プライドなんか捨てて一度やってみたらいい。新しい世界が見えるかもよ?」

「うぅ……割り勘……そんな事くらいっ……」


 茜は提案する。ニヤニヤしながら。それは単に困っているルココを見るのが面白いから。

 ルココはルココでプライドを壊すトンカチを振り上げたものの振り降ろすか否かを迷っている様子。


「揉めるのであればここは私が持ちましょう」


 ルココを困らせて楽しんでいた茜の耳にそんな言葉が滑り込んでくる。

 それは茜が良く知っている人物であまり表に現れない稀有な存在。そして余計な事はするな等とは口が裂けても言えない存在。

 ルココと茜が声の主に視線を向けるとそこには見知った顔がいた。

 カツカツとヒールの音を響かせ、桃色の髪を軽くなびかせながら茜の背後に立つ。

 見れば黒いスーツに身を包んだ桃色の髪の女性、セレナがいた。

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