◇十四年前
ディランは気を失ったカーヤを抱え、元来た道を鬼の形相で引き返しカーヤの祖父の部屋へ。
中央のベッドで寝ている白髪と白いあごひげを蓄えた老人。しかし歳の割には恰幅がいい。
その老人の目と目が合うディラン。何か察したのだろう、驚き慄く周囲の者達とは違い、ディランがそこで見た祖父の顔は無表情だった。
「おいジジイ!」
その表情のせいもあっただろう。ディランは肩で風を切って踏みこんでいく。
「ちょっと君!」
「止めなさい!」
周りの制止も振り切り、やがてディランは祖父の胸倉を掴み上げて凄んだ。
「どういうつもりだ!? 自分の孫娘を殺そうとするだなんて、どうかしてるぞ!」
そんなディランの言葉に制止してきた世話係も目を丸くする。それは制止する手を緩めさせるほど。
更にその視線はディランと同様、祖父の顔に向けられた。
「やはり、私の目に狂いはなかったな……君は優しい」
言って、祖父は笑った。
自分の孫娘を殺そうとしていてなにを笑っているんだ、とディランは祖父の胸倉を掴んだ拳を震わせる。目の前にいるのは血の通った同じ人間ではないのかと目をひん剥いて。
カーヤの祖父はディランを試したのだろうが、それにしては少々リスクがでかすぎる。
「ふ、ふざけるな! てめぇの孫娘だろうが! 孫娘が可愛くないのか!? 極寒の雪山に、あんたの為に花を採りに行ったんだぞ!? まだ幼いこいつが!」
「だからこそだ!」
矢継ぎ早のディランの言葉を跳ね退けるような祖父の言葉。そしていつの間にかカーヤの祖父の右手はディランの胸倉を掴み返していた。更にその表情は鬼のそれに変わる。
「その子はな……カーヤは親が死んでその引き取り先を探しとった。私は先が短い。だから他の息子達に引き取ってもらおうと考えた……だが奴らは血の繋がった兄弟の子供だとしても金に余裕が合ったとしても心の中は貧しかった……拒否し互いに押し付け合い、たらいまわしにし、あまつさえその醜さをカーヤの前で見せつけた! 私は許せなかった!」
「そ、それは……だからってカーヤを殺すって……」
「だから私はなぁ、醜いあ奴等には一銭もやらんと決めた! カーヤに全財産を相続させる事に決めたのだ! しかし私が死ねばカーヤを守る者はいなくなる! このままではいつか誰かに殺される! ならばその命を私が終わらせる! それの何が悪い!? 奴等に弄ばれるよりも何倍もマシだ!」
奴等、とは相続争いの息子娘達だろう。
彼らに殺されるくらいなら自分の手で、とそれが愛情なのであれば歪んでいると言って差し支えないといえる。
なんて傲慢で自分勝手なジジイだとディランは思う反面、カーヤには同情を禁じ得ない。自分を押し付け合わされる事は自分の存在を疎ましく否定されていると思われている事と同義。小さな体で心を壊さずにいるのは至難の業だろう。
しかし祖父はそのカーヤを救い出した。だからこそカーヤは自分を救ってくれた祖父の為に極寒の雪山にまで花を採りに行ったのだろう。
だがそれはそれ、これはこれだ。カーヤを殺すなんて間違っている。
「そんな狂言が通るとでも――」
「その狂言を出させたのは貴様だぞ! 貴様が護衛を引き受けないのであれば遅かれ早かれカーヤは死ぬ! それを! 貴様はっ……カーヤを見捨てた貴様が狂言だと罵るか! 恥を知れ!」
「なにをっ……」
何を言っているんだと、ディランは怒り半分、困惑半分で祖父を睨みつける。
まるで我儘を言ったにもかかわらずおもちゃを買ってもらえなかった子供の癇癪だ。そして手に入らぬならと売り物のそれを壊してしまおうとするような感覚にディランは陥ってしまう。
だがその白髪と白いひげを蓄えた大きな子供の言っている事もまた否定する事が出来ない。
ディランはカーヤの護衛を断った。それはつまりカーヤの命など知った事ではないという事に他ならない。にもかかわらず、カーヤの命を狙った祖父に説教するのはお門違いなのだ。
「頼む!」
一瞬、力が緩んだ胸倉を掴むディランの腕を払いのけ、祖父はその場で地べたに座り込む。
そして額を床に擦り付けた。
「カーヤを! カーヤを守ってくれ! 貴様ほどの、いや君ほどのレゾナンスは見たことが無い! 頼むぅ……」
「じじぃ……」
ディランは胸倉を掴んだ腕とは逆の腕で抱えたカーヤを見つめたのだった。
◇十年後
真上から煌々と太陽光が降り注ぎ、長袖では少し熱いくらいの気候。こんな日に景色の良い山道をバイクで走り抜ければどんなに気持ちがいいか。
そんな事を考えながら、ディランはバイク販売店の前に設置された灰皿横で煙草をふかしていた。ぷかぷかと浮かんでいく煙を横目に一点を見つめている。
「あんたさぁ……日がな一日ずっとそいつを見ているつもりかい?」
と、ディランに話しかけてきたのはそのバイク販売店の店主。汗と油が染みこんだ鉢巻を額に。そしてでっぷりと肥えた腹。それを押し退けながらバイクをバラし手を真っ黒に汚している。
「減るもんじゃねぇし、別にいいだろ」
それは灰皿から少し離れたところに飾られてある大型のバイク。多くのバイクは小型で細見なのだがそのバイクだけは違った。丸々と太った馬の体くらいはある大きさに加え剥き出しの機関部を覆うような黒く光沢があるフォルム。シートは濃い茶色とシックな色合いだ。
「それにこいつはあの――」
「ああ、もう耳にタコだよ」
と、店主は手を止めてディランの言葉も止める。
だが何故か店主の片唇は吊り上がっていた。
「そうさ! こいつはあんたがいつも話していた、六十年代に生産されたハーディス社製造のクロノス! 時空を超える速さを持つって言われる程の速さと馬力! だが制御出来ずに死亡事故が多発した為製造中止。世界に数十台しか出回らない代物だ。俺も実物で見るのは初めてさ?」
すらすらと店主の口から出てくる言葉にディランは心地よさそうに耳を傾け、加えて何度も相槌を打つ。
そして終わった所でディランも片唇を釣り上げて一言。
「別名死神!」
「ああ、これに載った奴らは皆悲運の死を遂げるってな」
「悲運の死ってのはドライバーがへぼだったからだ。俺なら乗りこなせる。どれ、ちょっと動くか試しに乗ってやろうか? 買いに来た奴がこのバイク動かないぞってクレームつけてこないように」
そんなディランのふざけた提案を店主は鼻で笑って飛ばす。
「今日が納車さ。メンテもしてある……馬鹿な真似は起こすなよ?」
「ふんっ」
「それよりあんた、飼い主を放っておいていいのかい?」
店主が顎でしゃくって指した方角には遠目に女子高生が二人。
その一人は肩上に着かない程度の艶やかな茶髪の少女。それは成長したカーヤだった。幼かったカーヤも現在は十八歳。
「あいつ、いつまで話してんだ……おっせぇなぁ」
十年前、ディランは結局、恩人である幼いカーヤを見殺しには出来なかった。だからカーヤの護衛兼執事として授業が終わる昼まで学校の前のバイク販売店で暇をつぶす事が日課となっていたのだった。
「あの子はあんたに気を使ってんのさ。バイク見てるあんたが楽しそうだから、その間、友達と話してんだよ」
「どうしてあんたにそんな事分かるんだよ?」
「ふふん、なんとなくさ……そうだ。あんたの飼い主にねだってみたらどうだい。金持ちなんだろ?」
突然、店主が思いついたようにそんな事を提案してくる。それはもちろん目の前に飾られているバイク、クロノスの事だろう。
カーヤは小さいながらに祖父の後を継ぎ、いくつかの会社を経営している。もちろんカーヤ一人ではなく周囲の助けを受けながらではあるが徐々にその才能に花を咲かせ始めている。
そして受け継いだのはそれだけではなくもちろん莫大な財産も引き継いでいた。
「こいつの価値を知ってる奴が金で手放すとは思えねぇな」
「そうかい? 案外譲ってくれるかもしれないぞ」
「因みに……こいつの値段は?」
「二十万ウルドだ」
それは家が一軒変える程の値段。カーヤであればそんな金などはした金だろう。
ディランはそのバイクが欲しい。だがそれはディランのプライドが許さない。
「はぁ……ローン組めばなんとか」
「交渉してやってもいいぜ?」
「マジか!? 譲ってくれるなら土下座でも何でもするぜ!?」
「ほぉ~、じゃあ見せてもらおうか? 丁度こいつの買い手がやって来たからなっ」
「なに!?」
と、ディランが素早く振り返ったそこにはカーヤが居た。
「はーい、そのバイクを買ったカーヤでーす」
意地悪そうな声調に意地悪そうな笑みのカーヤ。
「お待ちしてました。もうカーヤさんで登録しているのでスマコンかざせば乗れるよ」
「は?」
ディランが振り返ればカーヤと同じ意地悪な笑み。
「こちらクロノスを買ったカーヤさんだ。ほれ土下座でもなんでもいいから交渉してみなよ?」
「へ?」
「ディラン、このバイク欲しい?」
カーヤは心身ともに成長しているようだった。
ディランはその後、土下座をすることに。
聞けばディランの誕生日プレゼントだったようで土下座などする必要はなかったようだ。
「まったく……」
「あはは、ごめんねディラン。店主さんにどのバイクが好きなのか聞いててね」
ディランはそれを無視し、ヘルメットを装着する。
「でもまさか本当に土下座するなんてふふっ……思わなかったよ」
ディランはそれを無視しもう一つのヘルメットをカーヤの頭におもむろに被せた。カーヤは少し乱暴なディランに楽しそうに笑ってありがとうとお礼を言う。
「ディランの驚く顔が見たかったんだもん。いつも愛想がないからさあ? それに私頑張ったんだぁ。私が十年の間で誰の助けも助言もなく、一人で稼いだお金なんだよ?」
そう言われるとディランは無言を貫けない。
元手はあるとはいえ自分の力で稼いだ金をつぎ込んでくれたのだ。
「それでもディランは……私を許せない?」
それに比べれば、カーヤの悪戯も天使の悪ふざけにしか見えない。
見ればカーヤは本当に心配そうにディランを見上げていた。
「別に……怒ってないですよ。嬉しすぎて言葉に詰まってるだけです。その……」
ディランの口調が違うのはカーヤの護衛と執事を兼任しているからだ。最初は気恥ずかしさもあったディランだが今ではずっとこの口調を通している。単純に使い分けるのが面倒だからだろう。
「ありがとうございます」
「どういたしまして!」
カーヤはぱっと表情を明るくし店主に向かってピースサイン。店主も親指を突き出してグッドサインだ。
二人は試しにクロノスに乗って背後に鎮座する山をドライブする事にした。
ドッドッドと重低音のエンジン音。小刻みに揺れる車体。
そこにスーツで跨るディランと後部座席に制服姿でスカートのまま跨るカーヤ。
「運転手さーん! 山頂までお願いします!」
「承知しましたお嬢様。飛ばします。しっかり掴まってて下さい」
「え~、女子高生にしっかり掴まってろってなにを考えてるのかなぁ? やらしい~」
とませた言葉を吐きながらもカーヤはディランの背中に全身を押し当てて腕を回す。
「もしかして……わ、私の胸を意識したりして――」
「振り落とされて死なないようにお願いしますね」
「え?」
一応カーヤは庇護対象である。そのカーヤを振り落とされるなと忠告するとはどういう事か。
「ちょっと! 安全運転を――」
振り落とされないような優しい運転をカーヤは所望するのだがもう遅かったようだ。
超加速で飛び出したクロノスはあっという間にニヤニヤ店主からは見えなくなってしまったのだった。
「お幸せに~」
道中カーヤはカーヤではしゃいでいた、というよりもあまりのスピードにほぼ全て悲鳴だった。
ディランによる華麗なハンドリングで急なカーブもほぼ減速無し。それに吹き飛ばされそうなカーヤの悲鳴が山にこだまする。
二人は雲がかかる程の標高の高い山をあっという間に登り切った。
カーヤと言えば最後は声を無くし、ただ単にしがみ付いているだけの状態。腕がこわばり手を放す事が困難になるくらいだった。
「いやぁ、いい景色ですねぇお嬢様。途中の景色も次々と変わって、三百は出てたかなぁ~。クロノス最高です」
「そ、それは良かったよ。私はそんな余裕なかったけど……」
ディランはそんな狼狽するカーヤのことをお構いなしに笑っていた。
山頂にはほぼ木は生えておらず眼下には雲がちらほらと確認できる。少し曇って来たのか、日光は遮られ、まだ季節は夏の終わりなのに少し寒い。
カーヤは長袖の上着を着ている為寒くはないだろうがこわばった腕をさすりながらディランを睨む。
「やっぱり怒ってるでしょ?」
「気分は晴れました」
目の前は一面草原とごつごつした岩がちらほら。その先は雲海が邪魔をして良く見えない。
その背丈の低い草原にカーヤは疲れたのだろう、うなだれるように倒れ込み、寝ころんだ。
「はぁ~……気持ちいいね」
カーヤは満足げな笑顔でそういう。
制服が汚れてもお構いなしなのか、それとも元来そう言う性格なのか、どちらにせよ金持ちという肩書など微塵も見られない行為だ。
「ん、そうですね」
それを注意もせずディランは投げやりな返事。
カーヤが頭をもたげるとディランはクロノスに夢中になっていた。どんな角度から見れば一番かっこいいのかを探している様子。
カーヤの頬が徐々に膨らんでいく。それが破裂する前に気がついたディランは急いで居ずまいを正し「ごほん」と一回咳払いをした。
「カーヤお嬢様、気持ちいいですね~。山頂の空気は最高です」
従順な執事を演じたディランだったがそれは逆効果だったようだ。ますますカーヤの頬が膨れ上がりディランを睨みつける。
「嫉妬しちゃうなぁ……」
「なっ」
突然つぶやくように出たカーヤのその言葉にクロノスのほうをちらちら見ていたディランの肩がびくりとすくむ。まさかクロノスを返品したりしないだろうなと。
カーヤは少しクスクス笑ってまた頭を地面に落とす。
「ねぇディラン……」
「な、なんでしょうかお嬢様」
「二人っきりなんだからその言葉遣いはやめてほしいなぁ……」
ディランは少しの間カーヤを見る。ディランの位置からはカーヤの可愛らしい頭頂部しか見えないがどんな表情をしているのか分かった。
よそよそしい態度はよせと。そしてその距離も縮めろと。
後ろに組んで胸を張っていたディランは一つ溜息をつく。
そしてカーヤの隣に来てカーヤと平行に根っころび天を仰いだ。両手を頭の後ろに組んで一言。
「煙草吸っていいか?」
「こんなに気持ちがいい空気を汚す気なの?」
「しょうがねぇな」
だるそうにいうディランにカーヤは満足げにうなずいてまた空を見た。
そしてしばしの間、沈黙が続く。
ディランは目を閉じ体を通り過ぎる風を肌で感じる。そして寝そべっているせいか、いつもよりも強い草のにおいを感じていた。
「気持ちいいな」
「だね~……」
小鳥のさえずりや人の声も聞こえない。
聞こえるのは大気が大地をなでる音だけ。
ディランはあまりにも気持ちいいので危うく寝てしまいそうになっていた。カーヤと言えば寝ているのかは分からないが目を瞑っている。
時折、雲の間から漏れてくる日差しが暖かく、まるで天国にいるかのような陽気。そんな中、抗えぬ眠気に目を瞑ってしまったディラン。だがすぐに自分の立場を思い出しぱっと目を開けると驚いたことにその前には天使のような可愛らしいカーヤの顔が覗いていた。
「うぉ!?」
と驚き体を思わず起こしたもののそのディランにカーヤは驚いている。そしてまたクスクスと笑っていた。今度は意地悪な笑顔ではなく優しく微笑むそれ。
「驚かせるなよ……」
「あーっ、私の顔見て驚くなんて、失礼よ!」
「誰でも驚くだろうが、全く」
「だって」
そういってカーヤは更に自分の顔をディランに近づける。
「あまりにもディランの寝顔がかわいかったんだもん」
カーヤの顔がすごく近い位置にくる。
思わずディランは目を逸らし、カーヤも顔を赤くし視線を逸らす。
「ち、近いな」
「そ、そうだね。私もなんだか恥ずかしくなってきちゃった」
カーヤはおずおずと元居た場所に戻りしばしの沈黙の後、口を開いた。
「私のプレゼントは気に入ってくれたかな?」
「ああ、めちゃめちゃ良かった。最高だ」
「そ、そんなに成長してたかな?」
「ああ……あ? 成長?」
「私の胸」
ディランがカーヤを見れば今度は意地悪く笑い、胸に手を当てている。
「……ああ、そうだな」
だからそっけなく、味気なく返してやるとカーヤは怒らずにクスクスと笑って転がり、ディランの方を向いてくる。
「喜んでくれたみたいで良かった。私、ディランになんにも恩返し出来てないから」
「恩返し?」
「いつも私を守ってくれてるから」
それはカーヤの護衛の事。
だがディランはその言葉を聞いて少し複雑だった。何故ならカーヤを守るというこの行動はほぼ強制された事から来るものだったから。
思い通りにならないなら自分の孫娘でも殺す。カーヤは知らないが、そう言われたのだから仕方のないのだ。それが十年間ずるずると来てしまっただけ。
「そういう契約だからな」
「そうだね」
それでもカーヤの護衛は骨が折れた。
この十年間で奇襲の回数はゆうに百を超えている。通り魔を装った襲撃や車でのひき逃げ、果ては狙撃まで。それらをディランは全て返り討ちにしてきた。そのかいあってか最近ではその襲撃は殆どない。
「少し悩んでたの」
「なにをだ?」
「ディランは……本当は他にもっとやりたい事があったんじゃないかって」
「やりたい事か……」
ディランは言われて昔やりたかった事を思い出してみる。
「ないな」
「え?」
「よく考えてみたんだがあの頃はやりたい事なんてなにもなかった。ただ金を稼いで、生きていけるだけで良かった。そんな大層な人生じゃなかっただろうな」
「今は……好きに生きていけない訳だけど?」
カーヤがそう言うのも無理はない。
現状、ディランはカーヤに付きっきりだ。自由な時間などほぼ内に等しい。
そのカーヤの表情も眉根を下げて申し訳なさそうだった。
あれだけディランに意地悪を働きながらその後ろにはいつもそんな想いが渦巻いていたのだろう。
やれやれと、ディランはそんなカーヤに微笑んだ。
「人は多かれ少なかれ何かに縛られて生きてんだ。縛りってのは生きる意味みたいなもんでな、その中で好きに生きたらいい。それだけの事だろ?」
「そう、だけど……どこかからスカウトも来てたよね?」
「まあな……それでも、なんの偶然か幼いながらにお前は俺を救ってくれた。そしてお前を守るっていう縛りを見つけてくれた。そんな人生もいいかなってな」
そしてディランはニカっと笑い、「だからまあ、気にすんな」とカーヤに微笑みかけるのだった。
その直後だった。
「ぐっ!?」
ディランの分厚い胸板の上に何かが飛び込んできた。
その重さにディランは思わず唸る。
「カーヤ!?」
それはカーヤがディランの胸に飛び込んできたから。
「ありがと、ディラン……私、ずっと気になってたの。ディランが嫌々、私の護衛してるんじゃないかって」
「そんな事は……ないさ。俺の意思でやってる事だ」
カーヤはディランの腹に跨って手を突き、体を起こす。そのカーヤは泣きそうな、それでいてとても嬉しそうなよくわからない表情。そして頬が赤く蒸気している。
その時、小刻みに震えるその唇が動く。
「私、ディランが好き」
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