◇現在、パシフィックトレイン内
「カーヤの胸に刺さった棘は氷で出来ていた。恐らく氷の資質をもつレゾナンスなんだろう」
そんな過去を、ディランは自分の視点からかいつまんで話した。そして目頭を軽く摘まむ。
流石のディランも辛いのだろう。いつも憎まれ口を叩く茜でさえもずっと黙って聞いていたくらいだ。
その隣にいた雪花に至っては
「きっどがーやざんは……自分のゴトはわずれで、だのじぐ暮らして欲じいっで……言いだがんだっでおぼいまず!」
と、カーヤの気持ちを代弁しながらボロボロと涙を流し、手の甲で何度も何度も拭いながら大泣きしていた。それ程感情移入してくれればディランとしても話がいがあるというものだろう。
そして癖なのか、煙草を吸ってもいないのに、息をフーっと長く細く吐き出すディラン。
「今思えば……な。俺を縛る罪悪感か、開放した後の孤独か……どっちを取るかであいつはずっと悩んでいたんだろう。俺はそれに気づいてやれなかった」
カーヤは自分の祖父とディランの間で交わされた会話を知っていた。
それは隠されており、ディランが気づける筈が無い事実。
それでもディランは悔いが残るだろう。あそこでディランがカーヤと恋仲にでもなっていれば、それはそれで救われたのかもしれない。守る義務からも孤独からもカーヤは解き放たれるのだから。
だがそれも後の祭り。カーヤを苦しみから開放できず殺されてしまったのだから。
雪花もそんなディランをみかねて泣き言葉で援護する。
「でぃらんざんは悪ぐなんでないでず!」
こんなに大号泣する女子高生も珍しい、とディランと茜は若干冷めた目線を送る。
だが煩わしいのか、茜に「うるさい」と備え付けのティッシュボックスを渡され雪花は鼻をかまされる。
そして、その後の展開としてディランはもう少しだけ話した。
それは意外なことに茜達の上司であるセレナがやって来たとの事。
「セレナさんが?」
「襲撃の情報を聞いてやって来たらしい。スマコンにも着信は来てたがスカウトの件かと思ってな。しつこい奴等だと思って着拒否してた」
「まさか、スカウトってのも」
「ああ、ファウンドラ社からのものだ。カーヤが殺された後も話が来てな……」
ここまで話せば後の展開は想像がつくというもの。
ディランは氷結の魔術師に復讐する為、ファウンドラ社と手を組んだのだろう。そして氷結の魔術師は自分の手で殺す、という契約を結んだに違いない。
その後、カーヤの会社や財産は祖父の息子達の手に渡り、そのすぐ後にレナードが経営するグラント社に吸収されたとの事。
息子達がグラント社に取りいったのかグラント社が強引に進めたのかは不明だがディランにはどうでもいい事だろう。
この一連の流れの発端になったのは間違いなく氷結の魔術師。グラント社も裏でブラッドオーシャンと繋がっている事は明白だ。
その氷結の魔術師がもう手の届く所にまで来ている。だからディランは茜に頭を下げてでもこの案件に参画させ、カーヤの仇を打ちたい所だろう。
「話は以上だ。ちょっと……煙草吸ってくる」
言ってディランはおもむろに立ち上がり部屋を出て行った。壁に手をついて、体を支えながら。
残ったのは電車の走る音と雪花のむせび泣く音だけ。
「で、お前は……泣きすぎだろ」
「あんなの聴かされたら泣かずにはいられないじゃない!」
「そうか?」
「ドライアイのあんたと一緒にしないで!」
「う、うるさいなぁ……」
涙を拭い、最後の一回と言わんばかりに鼻を盛大にかむ雪花。
そして茜に血走った目を向けてくる。
「茜! 受けようよこの案件! 好き嫌いなんて言ってる場合じゃないわ!」
元をただせばディランの昔ばなしを聞いた理由はこの案件を受けるか受けないかを判断する為。
その雪花の必死な説得に茜はつまらなそうに答える。
「最初からそのつもりだけど」
「だってこのままじゃっ……え? 受けるの?」
えらく冷静に肯定する茜に首を傾げ固まってしまう雪花。
ディランが無理やり茜を巻き込む強引さが気に食わない。だから判断材料として今まで昔話をさせていたのではないのかと。
固まる雪花を横目に、茜はディランから渡されたタブレットの画面を雪花に向けて指をさす。
「ほら、ここ見てみろよ」
「ん? ええ!?」
そこにはグラント社の社長であるレナードの婚約者の名前が記載されていた。
それはつい数時間前に茜が話していた人物。
「結婚相手ってルココさんだったの!?」
「バンカー王国でフランツさんがルココと戦ってた時の事を思い出してみろよ。ルココの名前を聞いた途端に手を抜いただろ?」
「そ、そう言えば?」
フランツは狂化薄心症を知っていた。更にルココの姓を聞いて驚き手を緩めていたのだ。
雪花はその時、フォンの治療をしていてあまり覚えていないだろうが「あったような」と記憶を思い返す。
「でもおかしいな……さっきはジジイが断るって言ってた筈だけど……」
茜はルココの祖父蓮慈に勝利し、政略結婚を無に帰したと思っていた。ところが現状は何も変わっていない様子。
エクレールグループが断ればファウンドラ社からすぐに情報が入って来てもいいはずだが、あれから結構な時間が経っている。
懸念点があるとすればフォンが最後に言っていた、ルココは父親と上手く行っていないという事実。
それが災いしたのかもしれない。
茜がそんな事で思案していると雪花がおもむろに立ち上がった。
「じゃあディランさんにやるって言わないと!」
ディランは茜の返答を聞かず出て行ってしまった。
だから雪花は握りこぶしを作り「行くわよ!」と手を茜に差し出して来る。ディランの所へ行くつもりだろう。
だが茜は目もドライなら対応もドライだった。
「いいよいいよ、私はシャワー浴びて寝る」
「え」
茜は手をひらひらさせて結んだブラウスを解いて脱ぎ去り、上裸になる。
「あんな話されたらいじるにいじれないし、つまらないから」
「そ、そりゃそうでしょ! そこでいじったら人間性を疑うわ!」
「まあ、これでリリィに襲撃された件はチャラにしてやるよって伝えといて」
「まだそれ根に持ってたの?」
「当たり前だろ! ディランがメンバー変更したせいで文字通り骨を折る事になったんだからな」
更に茜は二―ソックスもスカートも、更にはパンツも脱ぎ捨てた。
スレンダーな体と長い手足、それに似つかわしくない豊満で柔らかそうな胸が雪花の目を奪う。
「うわ~、相変わらずスタイルいいわね~……てか、フルヌードやめなさいよ……」
「は~、なんという解放感」
この恰好では茜と一緒にディランの元へ行けるはずがない。
「もうっ……じゃあ、私が伝えてくるわ」
「お好きに~」
言って茜は部屋に備え付けられたシャワー室へ消えていく。
ドライな茜の可愛らしい小尻を一瞥し、雪花は部屋を出る。
ディランは直ぐ近くの喫煙可能な休憩室のソファに座り、煙草をふかしていた。そこにはディラン以外誰もいなかった。そこへ雪花ははやる気持ちを抑えて入っていく。
「あの」
「あ? どうした?」
「茜はこの案件、受けるって言ってます!」
「だろうな」
「え?」
その反応は雪花が思い描いていたディランのそれとは違っていた。
良かった良かったと安堵するディランが雪花は見たかったのだが。
雪花は思い直す。あれだけ辛い過去を話したのだから茜は乗って来ると確信していたのだろうか、と。
だがそのディランの口からは驚きの名前が出てきたのだった。
「ルココ=エクレールを放ってはおけないだろうからな」
「え? ええ!? 知ってたんですか!?」
「ああ」
ルココと茜の関係をディランは知っているようだ。
それもそうだろう、バンカー王国のナインコード案件ではルココと茜は共に行動していた。その報告もディランの耳に届いているのだ。
であればそこで気になるのは、話す必要が無かった自分の辛い過去をなぜ話したのかだ。
雪花は怪訝な表情。それにディランは一つ鼻を鳴らして笑った。
「……ただの話したがりですか?」
「違う……お前の為だ」
「私の?」
自分の為、と言われてますますわからない雪花。
「あいつが言ってただろ? なんの事情も知らないのにやばい船に乗れるのかって」
「ああ、言ってましたね、そんな事」
「あいつはダチの、ルココ=エクレールの為に乗る決意はもうしてたって事だ」
「はぁ」
「でもお前はまだ友達じゃないんだろ?」
「あ……」
ルココは友達になりましょうとは言ってくれたが雪花はまだそこまでの認識はなかった。
雪花にとってルココはただの大金持ちとしか思ってないだろう。そんな人物の為に命をはれる程、人間が出来てはいないし覚悟もない。
だから危険な案件に巻き込むディランの事情を茜は話せと言ったのだった。それは他の誰でもない雪花の為に。
「嫌なら降りてもいいしやる意義があると思えるなら乗ればいい。ナインコード案件はそう言うもんだ。でもここまで来たって事は乗るって事で良いんだな?」
さっきの話を聞いて雪花はディランを助けてやりたいと思っただろう。だから茜にも協力するよう求めた。そして茜がやると伝えに来た手前、自分はやりません、などと言えるわけがない。
だがいざ降りてもいいと言われると雪花の悪い部分が出てきてしまう。
意気揚々伝えに来た雪花は何故か照れるように笑い、もじもじし始めた。
「……できれば降りたいですが」
そしてこんなセリフを吐く。
ディランはやれやれと白く長い息を吐いた。
「そう言えばお前……あの時も確か降りたよな。セレナの誘いを断って」
「あの時?」
「昔、セレナがお前らを拾ってきて入隊させようとした時だ」
それは四年前、茜が奇跡を放った後。セレナが光と剣、雪花の三人を保護した後の事。セレナは三人にファウンドラ社のエージェントとして働かないかとスカウトしたのだった。
「世界の平和を守る大層な仕事だって胡散臭い言葉で光……茜と剣は軽く釣れたがお前だけが蹴ったてたな」
ディランが当時の光を茜、とすぐ言い直したのはセレナにどう呼ぶかを指定されているのだろう。
茜と剣は四年前にセレナにスカウトされファウンドラ社のエージェントとして入隊した。
傷心していた茜も母を殺してしまった奇跡の力を平和の為に使えるならといって了承したのだ。だがただ一人、雪花だけはセレナのスカウトを断ったのだった。
「だ、だって……危険を伴うって言われたらそりゃ降りますよ! 世界平和なんて興味ないですもん!」
そんな正直で今時の若者のような言葉にディランは思わず笑ってしまう。
「確かに、世界平和なんて力がある奴らの驕りさ。お前は正しい。でもセレナはお前が一番欲しかったみたいだぞ? 共鳴同化の才が抜き出てたからな」
「そ、そんな褒めたってヒーリングしか出来ませんよ!?」
そう言う雪花の表情はゆるゆるで眉尻を下げ、嬉しさがだだ漏れだった。
結果として、雪花は罠に嵌められる形で病院の地下に連れて行かれ強引に入隊させられたのだが。
「あ、そうだ! あのリリィさん? って人の襲撃をチャラにしてやるって茜が言ってました」
「そりゃよかった」
「なんなんですかあの非常識な人っ」
「ああ……あいつはアホだ」
「アホって……どういう人なんですか?」
「俺もよくは知らないが、昔セレナに助けられたみたいでな。今じゃあセレナの熱烈な信者だ。冗談でもセレナを罵ろうものなら」
ディランは白目を向いてソファに背を預け気絶する演技。
気絶するほど面倒な事になる、という事だろう。
その際、口から出た煙草の煙が魂みたいで雪花は少し笑ってしまった。茜なら爆笑していただろう。
口悪粗暴おじさんは息をするように憎まれ口を発してしまう傾向にある。そんなディランにとって冗談の通じないリリィは相性が悪いと言える。
だからディランが父親役を交代するあたり、娘役はリリィよりも茜の方がマシでありはまり役だったのだろう。
茜にはいい迷惑だっただろうがルココという無視できない存在ができてしまっていた。そんな大義名分がある以上、茜にとっては今回の案件は怪我の功名といえるだろう。
「あと、あいつは茜とは少し因縁があってな……」
「因縁?」
ディランが言う因縁とは四年前、入隊を勧められた光が入隊試験の存在を知った事が発端だった。自分に入隊するだけの実力があるのか試したいという青臭い理由。
光が受けるなら自分もと、剣も一緒に少しの訓練の後。試験を受ける事になったのだ。
「ディランさんも受けたんですか?」
「氷結の野郎を殺す代わりに力を貸す契約だからな。試験に合格しないと入れません、なんていう訳がねぇ」
「そ、そうですね」
「で、茜が試験を受けるって聴いたリリィが自分も受けると言い出しやがってな」
「え」
ディランが言うには結果的に受かったのは光だけ。剣は筆記が、リリィはRPG返しが出来ずに不合格となったみたいだ。
「ただし剣は共鳴強化を買われて茜の補佐として入隊したんだが……リリィだけが省かれる羽目になったってわけだ」
リリィはその共鳴力の才はあった為、もう一つのファウンドラ社の部隊が目を付け引き取ったとの事。
剣に関しては自ら試験を受けたいと言ったわけではない為憎まれていないらしい。寧ろセレナに誘われている為、同じように崇められているのだろう。
そしてセレナの恩を仇で返した茜だけがリリィの勘に触り、軋轢を生んだのだろう。
「そこからは四人一組で動くことが多かった。セレナに指示されてな」
「そう言えばこの四年間のあいつの事、私知らないなぁ」
雪花は四年前から茜とはあまり会えていなかった。
案件の間に帰ってきている時にちょっと会うだけ。
「あいつはなぁ、生き急いでたなぁ……」
「え、やっぱり」
「ほう」
「あ、いえ」
茜は母を殺した事で命を軽んじる傾向にある。それは周知の事実なのだろう。
それを察したのか、ディランは雪花を見て言いながら煙を吐く。
「あの頃は大変だった……襲撃された街を守れって言われてな。敵勢力は全員ぶちのめしたが街を一つ、吹き飛ばす時限爆弾が残ってな」
「街を!?」
「ああ、解除する時間がねぇからってあの野郎、一人で小脇に抱えて海に向かって走り出してな。みんなあっけに取られて.....ラグビーかっての」
ディランは思い出しながら笑う。きっと必死に走る光の姿か面白かったのだろう。危ない思い出こそ後になって笑ってしまうものだ。
だが小脇に抱えているのはラグビーボールではなく爆弾。現場にいたら笑い事ではないだろう。
「そ、それで!? どうしたんですか!? タッチダウンしたんですか!?」
「んなことしたら爆発するからな。俺は追いかけて、あいつから爆弾を奪い取って海へぶん投げた」
「なんだぁ、それで助かったんですね」
「いや、想像よりかなり威力があってな、その海周辺の建物は木っ端みじん、砂浜には大きな穴が出来るし、海岸線の形は変わるしでな。俺は共鳴力で障壁つくったが威力がでか過ぎた……二人仲良く全身骨折だ」
「ええ……」
「でもまあ、その街の奴らは無事だった」
「そう……ですか。でもよかったあいつを助けてくれて」
「セレナに頼まれたからな」
「え? 私もです!」
意外な事にディランもセレナに茜の事を頼まれていたようだ。
カーヤの事もある。その頼みをディランも無下には出来ないのだろう。
「私は……足手まといになれと」
「なるほどな。あいつが死んだらお前を守れないから死ねないって算段か」
「多分」
「しかしセレナの奴も物好きだよなぁ。他人のガキにいやに執着しやがる」
「あ、多分それは茜のお父さんと仲が良かったみたいで」
「ほー、そういや随分親しかったな」
「見たんですか?」
「ああ、取調中にちょっとな。だからセレナは執着してたってわけか?」
「ですね。あいつ、ディランさんにも守られてたんですね」
「あいつは俺をうざがってるがな」
言ってディランは笑うが守ってくれている相手を何故こんなにもうざがっているのか、雪花には分からなかった。
普段から口喧嘩は絶えないし、病院では顎を蹴り上げられていた。
それを雪花が聞いてみると意外な答え。
「あいつは……人一倍自立心が強い。自分が死ぬも生きるも勝手だってな。にもかかわらず、俺が死なせてやらないからうざがってんのさ」
自分の生死を握られるのは良い気分ではない。だが生死の死だけを禁止される状況も茜は嫌なようだ。
「説教もうざがるし。せっかくケツ拭いてやってんのにな。俺がいなきゃケツがクソまみれで爆発してるっつう話だ」
「なんだか汚い……」
「それに……ガキに死なれるのは目覚めが悪いんだよなぁ」
口悪く言うおじさんも思う所があるのだろう。
だから雪花は微笑んでディランを見る。
「安心しました。ディランさんが以外に優しくて」
「お? なら口悪粗暴おじさんの汚名返上か?」
「いえ、それはそのまま。あとJK拉致監禁を勝手に外さないで下さい」
「……抉ってきやがる」
そう言って共に笑い煙草が短くなった所で立ち上がった。
「さて行くか」
「はい。あ、そう言えば、氷結の魔術師を殺したらディランさんはどうするんですか?」
氷結の魔術師を殺せば契約は履行される。
そうなればディランがファウンドラ社に力を貸す義務はなくなってしまう。
「……さあな」
とだけ言って、ディランは短くなった煙草を灰皿に擦りつけて捨てるのだった。
「お、帰って来たか」
「早いわね。いつも一時間くらい入ってるのに」
「風呂ならな。風呂入りて~」
「てかあんたっ」
部屋に戻ると茜がシャワーから出て髪をタオルでごしごしと拭いている所だった。
しかしそこで驚いたのは茜の姿だ。なぜなら先程と全く同じ格好だったから。
「またフルヌードで……」
「お? ディランがバベッてしまうな」
肌が濡れてしっとりしており、先程よりも艶やかさが増している。
更に今、この場には男のディランもいる。この茜の姿を見てどう思うか。
しかしこれに関して雪花はあまり心配していなかった。病院で会った時、ほぼ全裸の茜を振り回していたからだ。
茜もそう思って挑発しているのだろうが肝心のディランは茜をじっと見つめている。
「な、なにじろじろ見て……」
頭から足までじーっとよく観察するように、舐めまわすように見ている。
流石の茜も恥ずかしいのだろう。剣と一緒にお風呂に入った時もじろじろと見られるのを嫌がっていた。
今も意地でだろう、タオルで隠しはしないものの半身になってディランを睨みつけている。
「ふーむ、意外といけるなぁ」
そんな中、ディランの口から出た言葉がこれだった。
そしてそんな茜のとりこになってしまったのかと心配する雪花。
「え? なにを言ってるんですかディランさん! ていうか茜! 隠しなさい!」
「胸もあるし形もいい。痩せすぎてもないしくびれもある。ガキっぽいかとも思ったが中々良い体してんじゃねぇか……だが、後は毛……はいいか」
「な、な、なにを言ってるんですか!」
「これならレナードの奴を誘惑できる」
ディランの思惑は既に今回の案件の最重要課題にあった。レナードを誘惑出来なければ氷結の魔術師に行きつくことが出来ないのだ。
「ええと……なんだ、茜に欲情してるのかと思った」
「と、思うだろ雪花。平静を装ってはいるが、あいつバベッてるに違いないぞ」
茜は忌々しそうに睨みつけ指をさす。自分の体の感想を艶めかしく抜かすディランを。
「なわけないだろ」
「じゃあ脱いでみろよ」
「ほら」
「きゃああああ」
あろうことかディランも着ている服を全て脱ぎ去り、全裸になって全裸の茜と向き合った。
「俺も風呂入って来る。季節のある国はムシムシしていけねえな。あ、服はそこのスーツケースの中にあるから適当に着とけ」
ディランは言ってシャワー室に消えていくのであった。
残された雪花は茫然と見送ることしかできない。
「……もうっ、なんなのあんた達!」
「あいつっ」
その時、茜が膝を突いて床に手を突いた。
「は? え? どうしたの? まさかっ、まだどこか痛い――」
「バベッてないのになんであんなにでかいんだよ……」
「……そんな事で張り合わないでくれませんかね」
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