光と茜の差分

裏組織のトップエージェントが超絶美少女になって世界を救う
天澤清二朗
天澤清二朗

第97話 ~古代の遺物?~

公開日時: 2023年9月29日(金) 14:15
文字数:4,877


◇昨日、警察署にて



 森島を説得した後、茜達は第一会議室で作戦会議を開いていた。

 獄道組の戦力と機動隊の戦力分析だ。


「赤鬼?」

「ああ、大体四メートル程かな。おまけに角が生えてる」


 長島の話では獄道組の用心棒、バリーという黒人の男の体が膨れ上がり、赤鬼のようになったという事だった。

 長島、大島、中島はその赤鬼に殴り飛ばされ戦闘不能の重症を負わされたという。


「僕が来た時にはもう皆殴り飛ばされて倒れてたっすね。赤鬼の姿もなかったし」


 そして小島は恥ずかしそうに頭を掻きながら言う。

 殴り倒された隊長達を見て激昂しバリーに突っ込んでしまった。そしてあえなく返り討ちにあったという事だった。


「赤鬼……ですか?」


 茜はそのフレーズに一瞬考えこんだ。

 茜は過去にそんな異形と出くわしたことがあるのだ。

 飛空艇アシェットで見たバドルも今までに見た事もない異形だった。しかしバドルは体を変化させるのではなく、背後に平たい紐状の触手を何本も出現させただけ。

 今回のケースとは違うと言えば違うのだが何か関連があるかもしれない。


「茜さん、どうしたの?」

「あ、いえ、そうですか」


 森島が心配して尋ねて来たが茜はファウンドラ社の事は言えないのではぐらかす。


「その赤鬼って誰かに証言しましたか? 私達が集めた資料には書いていなかったのですが」


 と、茜が尋ねたのはセレナが集めた当時の報告書にそんな記載はなかったからだ。


「いや、俺達三人だけだ。証言もしたんだが誰も信じてくれなかった」

「だな」

「ただ報告書には記載したんだが、見当たらなかったかい?」


 中島は赤鬼の事を報告書に記載したようだ。であれば茜が貰った資料にも記載されている筈なのだが抜け落ちている。


「ええ、誰かが書き直した……としか」

「上島だろうな」


 茜の疑問に中島が上島警視の名前を出す。

 茜もそう思っていた所なので黙って頷いた。

 上島警視は赤鬼の存在を隠しておきたいのだろう。だとすればその存在を見た長島達は消されそうなものだが、と茜は考える。そしてそれがもしも古代の遺物関連、終末の悪魔だとすればブラッドオーシャンが絡んでくるのかもしれない。

 だが今そんな事を考えても仕方がない。まずは獄道組を潰さなければならないのだ。


「それで、当時の状況を鑑みて、その赤鬼を倒す算段は付いていますか?」

「ああ、恐らく俺達が全員揃っていれば勝てていただろう。俺が注意を引いて大島が抑え、中島が更に抑え込む。そして小島がとどめを刺す」


 と、長島は言う。

 当時は先走った長島達が各個撃破され最後に駆け付けた小島も倒されてしまった。

 だが四人で連携すれば何とか勝てる、という算段だった。


「俺達はこの四年間体を鍛えていた。前のようにはいかないさ」


 と、頼りになる言葉を吐く長島。

 俺達という言葉からこの時を夢見て皆準備していたのだろう。長島の言葉に機動隊隊長の三人も頷いた。


「成程」

「それで作戦としては」


 長島の作戦ではまず獄道組の部下達を各隊長三人が隊を引き連れて倒す。長島と森島も隊を引き連れて茜を真っ先に救助しに行くという事だった。

 

「その後、各隊長と合流しその用心棒を倒す」


 長島はそう言って説明を終える。

 単純な作戦だが悪くないと、茜はうんうんと頷いた。だがそれは万事うまくいった場合。

 いついかなる場合も完ぺきな作戦など有り得ない。失敗した時の対策を立てておく必要がある。


「失敗した場合は?」


 と、茜が言うと長島は体を引いて目を泳がせる。


「失敗したら……か」

「はい。不測の事態は必ず起きます。現にあなた達は四年前失敗している」


 長島は何も考えていないようだった。

 そんな長島に茜の痛烈な指摘が入る。それをフォローするように大島が口を開く。


「なーに、小島が居れば勝てるさ。なあ」

「そっすね。頭飛ばせばイチコロっすよ」


 生半可に力があるからか、隊長達はどうも楽観的すぎる。

 そんな隊長達に茜は頭痛がするように眉間を抑えて口を開く。


「ええと……まず、あなた達の戦力を確認させてもらえますか?」

「ああ、俺達は全員レゾナンスで強化型のストレンジャータイプだ。うちのエース小島だけ強化型と放出型の複合型だな」


 長島いわく、森島と隊長達は皆、身体能力を共鳴力で強化するストレンジャータイプ。小島は雪花と同じく複合タイプのようだ。


「等級は?」


 そしてもちろん共鳴力の練度によってレゾナンスの等級は公式に決められている。

 

「皆達人等級だな、小島の放出型は岩等級だ」


 達人等級はアスリート等級の上。アスリートの中でもその上位、極めた者達と同等という等級だ。因みにバドルはその上の人を超えた者である超人等級、剣は更にその上の化物等級となっている。

 そして放出型の岩等級とは等身大の岩を粉々に吹き飛ばす程の力を持っている等級だ。長島が小島をエースと呼ぶだけの事はある。それ程のレゾナンスはなかなかいない。

 そして茜が男だった時の等級は山等級となっており、現在の等級は不明である。


◇現在、獄道組


「久々ニ、コノパワーヲ使イマシタガ、マダマダイケマスネェ」


 バリーの腕は黒から赤く変色し、更に茜の体よりも太く大きくなっていた。

 赤鬼となったバリーの等級は人を超越した力、超人等級で間違いないだろう。

 あまりの力の差に森島を含む機動隊員達はその場に立ち尽くし、動くことができなかった。

 機動隊の総隊長を張っていた男がこうもあっさり倒されたのではもう獄道組を潰すのは無理なのでは、と。


「おい、森島……」

「長島さん!?」


 吹き飛ばされた長島はよろよろと立ち上がり森島に声を掛ける。


「この程度で怖気づいてんじゃねぇ! こいつを倒さなきゃ俺達に未来はない!」

「は、はい!」


 長島の言う通り、ここで失敗すれば未来はないだろう。

 獄道組への強行突入を失敗し機動隊を解散させられた。にも関わらず再度機動隊を結成し失敗したとなれば目も当てられない。

 その長島の気迫に森島の緊張が解ける。そして盾と警棒を構えバリ―を見据える。


「オー、コノ差ヲ見セツケラレテココロオレマセンカ! ココロオドリマスネ!」


 バリーは目を輝かせ、両端の唇を吊り上がらせて笑う。


「バリー、さっさと殺せ」

「オーソーリーデスネ。私モアノ少女トサッサトプレイシタイデスヨ」


 魁人の催促にバリーは一つ深く息を吸い込んだ。


「フンッ!」


 するとバリーの体が膨れ上がり肌の色が全て赤く変色していく。ついでに頭からは小さな角が二本生えた。

 大広間の天井は高い。だがその天井に頭が当たらんばかりの大きさだ。


「赤鬼……これがっ」


 バリーの異形の姿に気後れしない者はいないだろう。

 ポトリと何かが落ちた音がしたのは機動隊員が警棒を落とした音。

 それも一つや二つではない。しかも尻もちをついて戦意喪失する者までいる。

 それは森島も例外ではない。呆然と赤鬼を見上げ、構えを解いてしまう程。

 人づてに聞くのと実際に目の前で見るのとでは違うのだ。


「森島! 油断するな!」

「はっ」


 赤鬼の太い腕から繰り出される巨大な拳が森島を襲う。


「くっ!」


 盾をすぐさま前面に押し出して衝撃に備えようとするが間に合わない。

 

「森島ああああ!」


 だが衝撃はいつまで経っても来ることはなかった。


「あ、あれ?」


 見れば赤鬼は既に腕を振り抜いた体制。

 だが肝心の腕が体から切り離されていた。


「森島さん、気を抜かないで下さい」


 それはさながら戦場に舞い降りた女神のように美しい少女。


「あ、茜さん?」

「ここは敵地最前線なんだからさ」


 いつの間にか森島と赤鬼の間には青桜刀を握った茜がいた。

 腕は茜が青桜刀で斬り落としたようだ。

 その光景には森島も長島も、そしてそこに居た全ての人物が目を丸くする。

 

「す、すげー……」

「あの子、ここまで強かったのか」


 アルドマン孤児院で茜に会ったことのある警官も来ていたようだ。

 茜の強さを目の当たりにし呆然と称賛する。

 そして自分よりも巨大な赤鬼に物怖じせず腕を切り落とす、小さく美しい少女を見て戦意を喪失していた機動隊員達も落とした武器を次々と拾い上げる。


「さ、さすが、正義の味方だ」


 正義の味方は強くなければならない。

 森島は茜に感嘆の溜息を持って賞賛したのだった。


「オー! ナンテコトデスカ! コノビューティフルナガールハタダノ美少女デハナイトイウコトデスネ! イッツパーフェクトゥ!!」


 腕を切り落とされたにもかかわらず、バリーは寧ろ茜の強さに喜びを隠し切れないとばかりにはしゃぎだす。

 

「タノシミデスヨ! 早クコノ少女ト――」

「バリー、油断するな」

 

 はしゃぐ赤鬼に若頭の魁人が一喝する。


「こいつらは四年前のリベンジをしに来たんだ。昔のようにはいかねぇぞ?」

「ソ、ソノヨウデスネ、ソーリー魁人」


 切り落とされた赤鬼の腕は空中に霧散していった。

 そして信じられない事に、赤鬼の切り落とされた腕の断面からまた同じように腕が生えてくる。


「シカシ、ノープロブレムデス」

「あっては困る」

「危ない! 茜さん!」


 赤鬼は大手を振って生え変わった腕で茜に殴りかかる。

 だが茜はさらりと躱し事なきを得る。赤鬼はその流れで近くにいた森島に殴りかかってきた。

 

「メインディッシュハ最後デース!」

 

 だが森島も一応レゾナンスだ。体を強化し盾でガードする。

 だがやはり力の差が大きいのか、踏ん張ろうにも限界がある。森島も長島同様に吹き飛ばされいく。

 森島を赤鬼が殴り飛ばした直後だった。警棒も盾も捨て去り、身軽になった長島が既に赤鬼の懐に入っていた。

 

「せいやぁああ!」


 腰を低く、真っ直ぐに打ち込まれた長島の拳は余裕を見せる赤鬼のみぞおちにめり込んでいた。


「ぐっ」


 共鳴力で強化された長島の拳は更に赤鬼の体に腕全体が隠れてしまう程にめり込んでいく。

 それは重量級プロボクサーの拳ほどの威力だろう。

 そして腕を切り落としてもけろっとしていた赤鬼は体をくの字に曲げて意外にも唸って片膝を突く。

 

「やっぱり、体は再生するけど衝撃を伴う打撃は有効なのか」


 茜はそう呟いた。

 海底に沈んだ飛空艇アシェット内でバドルと対峙した時もそうだった。内臓をぐちゃぐちゃにしても頭に銃弾を撃ち込んでも、たちどころに再生してしまう。

 だが剣がバドルの体に打撃を見舞うとバドルは唸り、嫌がった。恐らく痛みが遅れてくる鋭い斬撃や銃弾よりも衝撃を伴った打撃の方が有効打になるのだろう。

 

「長島さんの正拳突きが効いた!?」


 殴り飛ばされた森島は無事だったようだ。よろよろと立ち上がって光明を見たように呟いた。

 そして茜は確信する。バリーが変身した赤鬼の姿はやはり古代の遺物によるものだと。そしてその後ろに見えてくるのはブラッドオーシャンの影。

 だが今は目の前の赤鬼に集中しなければと頭の中からいったんその組織の名前を排除する。


「森島、ナイス囮だっ」

「あ、いや、そんなつもりは……」


 続いて赤鬼の同じ個所に数発拳を見舞う長島。


「オーシット……ナメルナデスネ!」


 赤鬼はそう叫び、長島の横っ腹に巨大な拳が迫る。


「おっと」


 すぐ横にいた茜が再度その腕を斬り落とし、腹を連打する長島の手助けをする。


「チッ! アナタハ後デッテ言ッテルデショ! 順番ハ守ルデスヨ!」

「えー、今遊ぼうよ。ほらっ、鬼さんこちらっ」


 そう言って茜は妖艶に笑う。その茜の可愛らしさが赤鬼の注意を引き付ける。

 そして今だと言わんばかりに赤鬼の側頭部に長島の渾身の蹴りが入った。


「グッ」


 赤鬼はたまらず飛びのいて息を荒くする。


「おい、バリーきつそうだな。手を貸すか?」

「イエ、若頭ノ手ヲ煩ワセルマデモナイデス!」

「そうか、ならさっさとやれ」


 魁人が不満そうに言う。

 このままいけば勝てそうではあるのだが、茜はどうすればバリーを戦闘不能にできるか分からなかった。

 いくら長島の拳が高威力でも致命打にはなっていない。

 茜が奇跡を放てば全て終わるのだが、制御が上手くできていない。その為、どれほどの被害が出るか分かったものではないのだ。そしてこれはそんなに単純な作戦でもない。

 その時、大島と中島、そして小島が次々と突入してくる。

 

「長島! 待たせた!」

「組員が多く少し手間取った」

「でもあらかた片付けてきたっす!」


 ここで各隊の班長が出揃った。

 赤鬼退治の本格始動だ。

 

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