光と茜の差分

裏組織のトップエージェントが超絶美少女になって世界を救う
天澤清二朗
天澤清二朗

第106話 ~茜、ついに告白される~

公開日時: 2023年10月8日(日) 18:42
文字数:3,552



 翌朝、桜之上学園に登校中、茜は雪花に前日会った事を話していた。


「それで青鬼は剣がぶん殴って気を失った所を対レゾナンス用の拘束具で捕まえたんだって」

「へー、赤鬼と青鬼かぁ……」


 茜が寮に帰った一時間程後に雪花は帰って来た。

 その時、茜は疲れたのか既に眠ってしまっていた為、雪花は詳細が分からなかった。


「ていうか、もう最初から剣が獄道組潰せば早かったんじゃ?」


 と、元も子もない言い方をする雪花。

 そんな雪花の言葉に茜は苦笑いだ。


「そんな事したら桜之上市の警察はどうなる?」

「え? どうなるって……」

「桜之上市の市民は警察の信用を失っていた。そこで獄道組だけ潰したとしても信用は回復しない。警察への疑念だけが残るだけ」


 少なくとも冬子や秋子、アルドマン孤児院の院長のクララは警察への信用は無いに等しかった。駅前で茜のスカートを覗こうとしていた男達も警察に信を置いていない感じで獄道組に乗り込もうとする茜を応援していたくらいだ。

 だから茜は警察の信頼を回復させる為、機動隊幹部や木島文香を呼び寄せたりと面倒な立ち振る舞いをしたのだ。


「それに正義を語る警察が、悪行三昧の獄道組を倒す方がカッコイイだろ?」


 と、茜は雪花に楽しそうに言ってウィンクする。


「カッコイイって……警察も獄道組も全部あんたの手の平の上ってわけね」

「そう、全ては私の思惑通りさ」


 と、茜はわざとらしく高笑いする。


「それで逃げたジュリナと組長はどうしたのよ」

「ああ、組長は捕まって、ジュリナは死んだ」

「え……死んだって、どうゆう事!? あんたがやったの!?」

「セブンアイズ」

「へ? は? セブンアイズ!? セブンアイズに会えたの!? ちょっと! 詳しく聞かせなさいよ! セブンアイズってどんな感じの人達なのよ!?」

「変態だった」

「へ、変態!?」


 意味深な言葉を茜は畳みかけるように雪花に話す茜。

 雪花はどういう事だと、茜の体を揺する。

 茜はどう面白おかしく話してやろうかと、考えていると前に青年が立ちふさがった。


「茅穂月茜さん!」

「へ?」


 桜之上学園の制服を着た茶髪の青年が茜の目の前に現れる。

 そしていきなりフルネームを呼ばれる茜。

 どうやら青年は茜の事を知っているようだが茜には覚えがない。


「ええと、どちら様?」

「お、俺……平岡って言います」


 平岡と名乗る青年を茜は見るが目が泳いでいて視線が定まっていない。


「はあ……雪花知り合い?」

「いや、知らないけど」

「ちょっと茜さんに用があって」


 そして青年は照れるようにそう言うと雪花は何かを察したらしい。

 雪花はニヤついて茜をみる。


「あ、じゃあ私は先行ってるから」


 と、雪花はその場に茜を置いて、「後で聞かせてよね」と言って先に行ってしまった。

 それはセブンアイズの事だろうか。それともと、茜が考えていると平岡が口を開く。

 

「あ、あの!」

「あ、はい? なんでしょう?」

「俺、君の事が好きになってしまいました! 付き合ってください!」


 平岡と名乗る青年は深々と頭を垂れ、右手を突き出してきた。


「え……」


 もし付き合ってくれるなら手を取れという事だろう。

 異性に告白されれば顔を赤らめもじもじしながら返答する。というのが普通だろうが、生憎茜の中は男。剣であれば、しめしめと意地悪な顔で自分の正体を打ち明けるのだが、と茜はため息をつかざるを得ない。

 しかし平岡という青年とは面識がなかった筈だ。だからなぜ男に告白されたのか、一瞬分からなかった。


「あ」


 しかし、と茜は今の自分の状況を整理する。

 茜の外見は自他共に認める超絶美少女。だからその容姿に惹かれて寄って来る男は大勢いるだろう。

 見れば髪は茶髪に染め、耳にはピアス、差し出された手の指にはごつごつとしたシルバーの指輪。少し派手な男のようだ


「成程」


 大方その茜の超絶美少女の容姿に惹かれてやってきた軽薄でチャラい男の一人だろうと茜は予想する。

 そして茜は考えた。これは使えると。剣に告白された時にどうからかってやるかの予行演習になると。

 

「ねぇ」


 だから茜はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべながら青年を呼ぶ。

 すると平岡と名乗る青年はびくりと体をすくませ顔だけ茜に向けた。


「え?」

「私の何が好きで告白したの?」


 と、茜がニヤニヤしながら尋ねる。

 だがその答えは決まっている。ただ単純に可愛いからと。

 だから茜はそんな軽薄な答えをする平岡にチャラいだの外見で判断する薄っぺらい奴だ、などといって罵倒してやろうと底意地の悪い事を考えていたのだ。

 平岡は倒した上半身をすっと起こして茜を見据える。


「はい! 理由をいい、いわ、えと述べさせていただきます!」

「ど、どうぞ」


 平岡は何度か噛みながらもなんとかそう言い切る。

 その真剣な平岡の眼差しは鬼気迫るものがある。その気迫に茜も思わずびくついて背筋を伸ばしてしまう。


「茜さんを初めてみた時、とても可愛らしい子だなと思いました!」


 やはりか、と茜はうんうんと頷いた。

 だから罵倒モードに入ろうとした茜だったが、その理由はまだ続くらしい。


「あと、虐められている子を躊躇なく助けてあげたり」


 とは、登校初日の事だろう。唯を助けた時の事だ。

 一瞬茜は見る目があると思ってしまう。


「女子に追い掛け回されている時も身軽で格好良くて」


 その後、追いかけられた時の茜の逃げっぷりだろう。

 平岡は運動のできる女が好きなようだ。


「詰まって転げる女子を笑う茜さんの笑顔がとても愛嬌があって……」


 それは嘲り笑う、というのだ。

 と茜は心の中で一人で突っ込んでしまう。


「スカートも短くて見えそうなところとか」


 それはどうだろうか、と茜は考える。

 だが茜は平岡の告白理由が大方真っ当である為、感心して最後まで聞き入ってしまった。


「それで……えと、その」


 緊張からか、しどろもどろになる青年。

 だが茜は平岡を心の中でどこか応援していた。

 そして思い直す。告白はとても勇気がいる行動なのだ。軽い気持ちで罵倒などしてはいけないと。軽薄だったのは自分だったと。

 そう思い直す茜は真剣な平岡を笑顔で見守っていた。

 そんな茜は剣に告白させて罵倒し、自分の正体を明かそうと画策しているのだが。今は都合よく忘れている。


「だから、その……俺と付き合って下さい!」


 そしてまた平岡は深々と頭を垂れ、右手を突き出してきた。


「ごめんなさい」


 茜はそう言って平岡同様、頭を垂れた。

 相手は真剣に告白してきているのだ。それ相応の対応をしなければいけない。と茜は感じたのだ。

 真摯に受け止め、真摯に謝る。それが礼儀だと思った。


「気持ちは嬉しいけど――」

「なんでだよ!」

「へ?」


 だがここで平岡は予想外の抵抗にでた。

 先程までの丁寧な口調を荒げ、断る茜の言葉を遮る。


「なんで? って、えーと」

「俺はこんなに好きなのにさ!」

「ま、まあ、落ち着い――」

「なんでって聞いてんだよ!」


 更にさっきまでの真剣な表情が打って変わって激怒の表情になって茜に詰め寄って来る。


「ええ!?」


 茜は断る理由は特に無い。

 強いて言うのであれば自分は男だからだ。

 だがそんな事言えるはずがない。


「そ、それはそのぉ……」


 そして茜は告白を甘く見ていた。

 ごめんなさいをして、すぐ終わるイベントだと茜は思っていたのだ。だがここまで食い下がられるとは思わず茜は後退ってしまう。

 だが平岡はそれを許さない、というように詰め寄って茜の両肩をしっかりと掴む。


「好きな男がいるのか!? そいつは俺より格好良いのか!?」

「好きな男はいないけど……」


 好きな女ならいる、とは言えない。

 黙る茜に平岡の茜の肩を握る手が次第に強くなっていく。


「男はいないのになんで断るんだよ!」

「ちょっと……い、痛いんで、うぁ!?」


 更に自分よりも二回りほど小さな茜の体を揺さぶって原因を聞き出そうとする平岡。

 そんな平岡に、さすがの茜もイラっときているようだ。痛みと怒りで片眉を歪ませている。


「なぁ! 俺ふられたことないのによぉ!」

「だから」


 いつまでの自分本位で考える平岡。

 我慢できず、茜は両肩を掴んでいる平岡の両手の甲を、自分の肩を抱くようにクロスして掴む。


「え?」


 そして掴んだ手を捻ると、簡単に平岡の手は肩から外れた。

 更に茜がクロスした腕を両端に引っ張って平岡の腕を逆にクロスの形にする。


「ちょ、お前何すん――」


 その平岡のクロスした腕と体の隙間を茜の細く長い脚が通過していく。


「痛いっつってんだろうが!」


 そして天を穿つ茜の高速の蹴りが平岡の顎を砕いた。


「ぐっ」


 平岡は仰向けに倒れ、気を失ったのだった。

 ディランも蹴られていたが踏みとどまっていた茜の蹴り。

 だが今の相手はただの男子生徒。これくらいであれば茜の筋力でも倒せるようだ。


「クソ野郎が……」


 更にか弱い少女に暴行を働く平岡にそう吐き捨てる。


「あー、朝から気分悪いわ」


 最後に仰向けに倒れた平岡の顔面を踏みつけ、茜は桜之上学園に向かったのだった。

 

 

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