光と茜の差分

裏組織のトップエージェントが超絶美少女になって世界を救う
天澤清二朗
天澤清二朗

第137話 ~お宝交渉~

公開日時: 2023年11月11日(土) 17:43
文字数:4,538

 茜はまず自分の立場を伝えた。バンカー王国とツクモ教授に協力し宝探しをしている事。キックス犯罪集団にそれが漏れ先に見つけられそうになっている事。だがキックス犯罪集団を潰すという目的は伏せて。

 ルココは静かに聞いていた。桜之上学園でひと騒動会った時にツクモと茜は一緒にいた、という事は調査して知っている筈だ。茜がここに来た理由はそんなものかと思っているのだろう。

 次に茜は自分の提案を伝えた。

 その提案はギカ族が知ってる情報を茜達に提示する代わりに宝の分け前を渡す事だ。茜達はお宝の在処を知ることができ、ギカ族は財政難を回避できる。

 これは互いにとって有益な取引と言えた。更にルークが嫌がっている人身売買などという金持ちとの取引を止める事。


「取り分は?」


 村長代理のエドガーが茜に質問する。

 プルアカ村の財政難、そして取引している金持ちと縁を切るのであれば自分達の取り分が一番の焦点だ。当然の質問と言える。


「四分の一。バンカー王国が五割。私達はツクモ教授のグループなのでツクモ教授と折半で」


 バンカー王国で宝を見つけた場合、見つけたグループと国で折半という事になっている。だからバンカー王国が半分。残りをツクモとギカ族で分けるのだ。


「そんな事、あんたが勝手に決めていいのか?」

「はい」


 茜はエドガーの質問に二つ返事だ。

 エドガーの疑問も当然ではある。宝の額は国が買える程。その分け前を二つ返事で渡すと約束してもよいのか、と。

 だが茜達が請け負っているナインコードは少し特殊だった。依頼を受けている途中であっても大義名分があれば自分達で内容を変更できるのだ。その大義名分が宝を探し当てる事なのだから理にかなっているだろう。それにツクモは遺跡の発掘に御熱だ。お金なんて二の次だろう。

 そんな茜に不信感を抱きつつ、エドガーは口を開く。


「それが出来るとして……財宝を探してるそのツクモ教授ってのも場所を分かってないんだろ? 俺達に出来る事があるかどうか」


 エドガーは頭を掻きながら不安そうに言ってキリカとルークを見る。

 いくらギカ族であってもツクモ教授が発掘した遺跡は紀元前のもの。一族に代々伝わる事があるかもしれないがキリカ達の親でありギカ族の長はもう十年前に殺されてしまっている

 

「お嬢と坊ちゃんは何か知ってますか?」

「私は親の顔もうろ覚えだし……」


 エドガーが二人に聞くがキリカは幼いころに分かれているしルークも物心つく前に親を亡くしているのだ。

 知っている事は限られているだろう。キリカに続き、ルークも首を振る。

 これには茜も腕を組んで落胆の溜息。

 茜達とギカ族、両者にとっていい取引なのだが情報がなければ茜の提案は水の泡と化してしまう。


「情報が無いのであれば残念ながらこの提案は――」


 そこへ誰かの足音が。


「待ってくれ」


 一人の男が壁の向こうからやって来る。

 この家は開放的でありとあらゆるドアや窓が開ききっている。その為裏で誰かが何かを聞いていても筒抜けだ。

 その薄壁一つ向こうで聞かれていたようだった。


「私の持つ情報であれば役に立つのではないかと思う」

「どうしてここに――」


 茜は驚いて立ち上がる。

 それは別にそこに人が潜んでいる、という事にではない。壁一つ挟んだところにいるその人物の存在は茜は分かっていた。この提案を出す前から茜は共鳴力周辺を探っていたからだ。

 そこは身を隠すにはあまりにも容易く見つかってしまう場所。先程茜達を囲んだ男達も気づいている節があったが何も言わなかった為。恐らく身内だろうと茜は思っていた。

 だが現れた人物は肌は白く、髪は燃えるような赤毛。


「ディアン族が?」


 更に左目には眼帯をした人物。

 眼帯の男はディアン族だった。敵対している筈のディアン族がどうしてギカ族の村長の家に居るのか。


「ああ、この方はロイ……さんだ」

「ロイ?」

「盗み聞きするようですまない。茜さんだったかな? 私はロイ。十年前の戦争時、ギカ族に助けられてここにいる」


 ロイは手を差し出して来た為、茜は手を取り挨拶し両者席に着く。

 十年前の紛争ではラブア王国からやって来たディアン族の王族がバンカー王国で戦争を起こし勝利した。それはギカ族と元々居たディアン族とも対立して。その対立したディアン族の一人なのだろう。失った左目は紛争時に負傷したに違いない。


「それで? 役に立つ情報というのは?」

「私も人伝で聞いた話なんだが、このバンカー王国にはある秘密があり、それを守るのがディアン族。秘密に導く鍵となるのがギカ族という言い伝えだ」


 ロイはそう言って「何か役に立つ事はあったかな」と茜に尋ねてくる。


「情報元は?」

「私の父から」


 ロイの言葉にエドガー達は目を見合わせる。その理由はロイの次に出た言葉「もう死んでいるがね」という言葉で納得だ。


「成程……これで全てですか?」

「申し訳ないが……」

「あ、いえ」


 そこで茜は考えてみる。

 まずロイが言うバンカー王国の秘密というのは宝の事だろう。そしてそれを守る役目がディアン族。宝の詰まった箱の鍵の役目がギカ族。

 茜はポケットからスマコンを取り出した。


「では私が今現在、ツクモ教授から貰った情報を――」

「ちょっと待って茜。これだけの情報と遺跡から発掘した情報とは釣り合わないんじゃ?」


 と、ルココ。どこまでもビジネスライクな考え方だ。

 確かにロイの情報と遺跡から得た情報を天秤にかけた時の傾きは明白だ。だが茜には確信があった。


「いいんだ。やっぱり鍵はギカ族が住んでいるプルアカ村にあると思う」


 鍵の役目がギカ族で昔から住んでいる場所がプルアカ村なのであれば宝はここにあることになる。

 よって遺跡で発掘した情報をギカ族に伝え、考えてもらった方が宝への近道となると茜は考えたのだ。


「これを見て下さい」


 茜は自分のスマコンを操作し机の上に押し出した。

 スマコンからホログラムが立ち上がり一枚の絵が浮き上がる。これは全てのスマコンについている機能だ。

 スマコンは手の平に収まるくらいに小さい。撮った写真を見るには少し小さすぎる為、その対策だ。

 それは昨夜バーでツクモが提示した写真だった。

 台座の玉に手を添えている翼の生えた天空人。その前で跪き手をあげ、口を開けている壁画。その二人の間には「F」の文字に似た羽根が多く飛び交っている。


「その近くには意味ありげな言葉が描かれていました。鍵は鍵穴から見定めろ。そうすればおのずと見つかる、と。何か心当たりがありますか?」

 

 茜が問うとエドガー達は互いが互いに顔を見合わせる。ロイ、キリカ、ルークも顔を見合わせる。そして結論は


「……残念ながら分からんな」


 だった。

 茜は油断なくエドガーやロイを見る。それはこちらの情報だけを得て、自分達だけで探そうとしているのではと疑いをかけて。

 目の前の宝の輝きを前に誰しも目をやられ、心をやられてしまうもの。

 だが茜はトップエージェント。一般市民の嘘くらい表情ですぐに見破ることが出来る。

 しかしエドガーもロイも本当に分からないらしい。険しい顔をして人を騙そうと思っている表情ではない。


「そうですか……」


 残念そうな茜を見てエドガーが立ち上がる。


「もうそろそろ日も暮れる。宿を用意するからお嬢さん達はここで一泊するといい」


 どうやら近くに昔、宿として利用されていた施設があるらしい。

 昔は観光客で賑わっていたのだが現在は取引している金持ちとその友達が度々遊びに来る程度のようだ。

 茜とルココはキリカとルークに連れられて行く。

 外に出ればもう太陽は水平線に差し掛かり、正面から日差しが飛び込んでくる時間帯だった。


「あの……」


 そこで口を開いたのはルーク。


「ん? どうしたルーク?」

「……茜おねえさんは……宝の為に……僕達にお金をくれたの?」


 それは茜が広場で仮面の男と共に渡したお金の事だろう。

 ルークはそれに心から喜んでいた。美少女である茜が自分にお金をくれた事を。

 だが茜は宝の為にここに来たと言っていた。それはつまり自分にお金を恵んでくれたのは善意ではなく下心からだったという事。

 そんなルークに茜は淡々と言い放つ。


「そうだよ」


 と。

 突きつけられる現実にルークは俯いてしまう。

 茜がルークに渡す光景を見ていたルココは眉をひそめて茜の肩に手を掛けた。


「茜っ、まだ小さい子なのよ? 気持ちを考えなさいっ」


 ルココの言った通り、この現実はルークには少し辛い。横にいたキリカもジトリと茜を睨みつけてくる。

 だが茜は淡々と続けた。


「本当の事だ。それに十歳ならもう小さくない。だから隠しごともしない。お前も隠し事は嫌だろ? ルーク」


 茜は言って、ルークに向かって微笑みかける。

 ルークを子ども扱いしない宣言をする茜。それにルークは目を瞬かせ顔を上げる。


「じゃ、じゃあ……ラムネが好きだって言ったのは?」

「あれは本当」

「え?」

「だってラムネ美味しいじゃん?」


 ルークは茜の行動の真偽を全て白日の下に晒す為、質問する。


「じゃあ……」


 自分が大人であれば全て真実を語ってくれると願って。


「宝が無かったら僕達を守ってくれなかったの?」


 それはキックス犯罪集団が襲ってきた時の事だろう。

 一般人であれば銃やナイフを持った男が襲ってきたらルーク達を置いてさっさと逃げてしまうに違いない。

 だが茜はそれにも即答える。


「守ってたよ」

「……へ?」

「当然、守る」

「なんで? 宝もないのに?」


 そのルークの質問に、茜は笑う。妖艶に、首を傾げて。


「だって、私は正義の味方だからな」


 それはファウンドラ社の指針であり、茜の信念でもある。

 宝も見返りも関係ない。困った人が居たら助ける。ただそれだけの事なのだ。


「正義の味方? ヒーロー!?」

「そうっ、命に代えたってお前を守ってやるよ」

「かっこいい!」


 茜の美しさと、少年が喜ぶフレーズを織り交ぜれば十歳の男はイチコロだった。

 テンションの上がったルークは犬のように先に走って行ってしまう。

 

「ていうか私からも質問なんだけどさ、お金持ってそうなのにどうして物乞いなんてしてたんだ?」


 茜が隣にいるキリカに質問する。

 ルークとキリカは村長の子供。先程の広く大きな家に住んでいる。だからお金が無い訳がない。

 それにはキリカがルークに聞こえぬよう小声で答える。


「それはルークの世話係が取引してるお金持ちの人に無理やり連れて行かれて売られちゃったから」

「世話係?」

「クルシュカさんっていう、丁度茜さんくらいの年で小柄な人だったんです。しかもラムネ味のアイスクリームが好きで……でもルークがいない所で連れて行かれちゃって。それでエドガーさん達は沢山お金を貰ったんですけどルークはそこから一切お金を貰わず」

「それで物乞いしていると」

「はい……」


 連れて行かれた世話係と茜は背格好と好きな味がぴたりとはまっていたようだ。ルークは茜にクルシュカの影を見たのだろう。

 そして一緒にアイスを買って食べていた事を思い出して時折やって来ていたのだ。


「茜おねーさん! ここ! ここ!」


 遠くでルークが飛び跳ねて宿を指さしている。

 

「あと、ルークがあんなにはしゃいでいるのクルシュカさんが居なくなって初めてかも」

「そうか。良かった良かった」

「だから茜さんがお宝目当てで私達に接触してきた事については目を瞑ってあげますね」


 そんなキリカの言葉に、茜は愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 

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