光と茜の差分

裏組織のトップエージェントが超絶美少女になって世界を救う
天澤清二朗
天澤清二朗

第185話 ~ヘイブン島の主~

公開日時: 2024年7月21日(日) 18:55
文字数:7,700


 茜達を乗せたフェリーは翌朝、ヘイブン島北部の港に到着した。

 そこは直径五キロメートル程の小さな島。

 一見すると目の前には大きな山がありその中腹に木々から真っ青な空に突き出す黒く長細い建物が。恐らくはそれが今回茜達が泊まるホテルだろう。

 客は茜達以外乗り込んだものはおらず、代わりに生活物資を積んでいるだろうトラックが多く、次々とフェリーから出ては舗装された道路へ消えて行く。

 港の近くにはカフェが併設されているが客は誰もいない。


「よし、お前ら心していけ」

「おー」

「お、おー……」


 フェリーからその光景を見下ろしていた一行は下船許可が下りたので準備する。

 意気込むディランと気の抜けた掛け声の茜。そして不安そうな雪花。

 そこでディランがとんでもない事を言いだした。


「それと言い忘れていたがこの島の主は触媒体質らしい。ブラッドオーシャンが絡んでいるのは氷結の野郎だけじゃない。この島全体に絡んでいると言っていい。気を引き締めていけよ?」

「おー」

「え」


 茜は変わらず気の抜けた返答。だが雪花は違う。

 目を見開いてディランを睨みつける。何故そんな大事な事を今言うのかと。


「私、聞いてないんですけど!? 言い忘れたって嘘ですよね!?」

「なんだ、教えてやらなかったのか我が娘よ」

「知っているものとばかり思っていましたわ、お父様」


 言って茜とディランは笑う。どうやら二人共そういう方針で進めているようだった。

 茜の口調はもう既に資産家のお嬢様然としたものに変わっている。そして納得がいかない雪花を細めた横目で見る茜。


「なぁに? 見ていなかったの? 貰った資料に書いてあっただろ使用人」

「うそっ」


 茜がため息を交えて言って肩をすくめ、本性を垣間見せる。それにディランもやれやれと笑いさっさと行ってしまう。

 使用人というのは今回の任務で茜が雪花を呼ぶ際の代名詞だ。

 茜とディランは手ぶらだが雪花のみスーツケースを引きずっている。どこからどう見ても資産家の親子に付き従う使用人だ。


「あ、もうタブレットにはデータ残ってないからな。調べられたら終わるし」


 慌ててタブレットを引き出して確認しようとする雪花だが、そんな言葉で一蹴する茜。

 いつも資料を熟読しない雪花。それもそうかと、雪花は探すのを止め、これからはちゃんと読もう、と反省。そしてまた悪魔と対峙する羽目になるのかと憂鬱で今すぐにでも家に帰りたいに違いない。

 雪花は大事な事を教えてくれなかったディランの後を追う茜の後姿を追いながら睨みつける。


「知ってるなら言いなさいよお嬢様! ていうかどうして触媒体質だってわかるのよ!」

「シェンチェンで行われた共鳴識層測定機での測定で例の数値が一致した人物らしい。名前はチェン=リュウ。ヘイブン島の島主だ」


 キルミアで始まった共鳴識層測定。以前、セレナが悪魔触媒体質の数値を示した人物を調査すると言っていた。それでヘイブン島の島主が触媒体質だと分かったのだ。

 

「でもヘイブン島の島主が悪魔の触媒体質なんて……なんか出来過ぎじゃない?」


 と、雪花がその事実に疑問を呈する。

 キルミアでは三億人が測定し触媒体質の数値を示したのはバドルとシリウスという人物の二人だけ。そんな倍率の低い数値を示した人物が数多の国から睨まれるヘイブン島の主をしている。というのは少々不自然なのだ。


「ああ、多分逆だろうな」

「逆?」

「触媒体質で悪魔を身に宿したから相応のポジションが与えられたんだろ」

「なるほど……も~、先に言ってよね」

「正直に現実を突きつける厳しさと、嘘をつく優しさ。お前はどっちがいいんだ?」

「優しく現実を突きつけてよ!」

「知らぬが仏、という言葉もあるだろ? 怖くなって途中で降りる事になったかもしれないし」

「降りるわよ! ていうか知らず知らずのうちに仏になっちゃうから!」

「もう降りれないけどな~」


 茜はカラカラと笑い、雪花は顔を真っ青にしてそんな茜を追いかけていく。

 そんな仲睦まじい二人とディランはやがて港に降り立った。

 コンクリートで綺麗に固められただだっ広いふ頭。茜達以外の客はいないのか、そこに人影はあまりない。

 波は穏やか。打ち付ける波の音がささやかに聞こえる程度。風が茜のふわふわの髪を揺らし潮の匂いをかき混ぜてくる。


「ようこそ、遠方からわざわざ」


 そんなだだっ広いふ頭を島に向かって歩いていると一人の男が声を掛けてきた。


「こちらの手違いで天候による欠航などというデマを送ってしまい、申し訳ありませんでした」


 謝罪の言葉を和やかにそしてにこやかに口にする男。背はさほど高くはないががっしりとした体格。黒い髪に茶色い瞳。そしてえんじ色の変わったスーツを着ている。

 

「いえいえ、こちらも予定が押していて、逆に助かりました」

「それは良かった。お互い何の気兼ねもありませんなぁ」


 ディランが対応し、互いに握手を交わす。


「私はダリオ=ウォーカーと申します」

「私はチェン=リュウ、この島の管理者をやっています。気軽にリュウとお呼びください」


 「え」と、声を上げそうになった間抜けな雪花の足を気づかれぬよう茜が踏んづけ、それを支えた。


「使用人、しっかり? 大丈夫? 船酔いかしら?」

「も、申し訳ありません、お嬢様……大丈夫です」


 雪花を支える茜の形相は余計な事はしてくれるなといったそれ。


「そちらのお嬢様はモニカ様ですね」


 茜は一瞬、目を細める。

 数多くの令嬢が訪れる中、何故その名前を知っているのか。何か目立つような事をしてしまったのか。

 だがそんな心配は次のリュウの行動によって杞憂に終わる。

 茜が首を傾げるよりも先にリュウは膝を突いて茜を見上げ手を取ったのだ。


「お待ちしておりました、モニカお嬢様」

「へ」


 続けざまにリュウは茜の手の甲に軽くキスをする。

 少々古風な挨拶に茜は面食らう、という愚行は犯さなかった。

 相手はこの島の主。リュウの姿は事前に確認している。

 茜は邪険に振り払うよりも相手の気を引いた方が利になる得ると判断したのだった。


「あ……あの、どうして私の事を?」


 茜は頬を染め、恥ずかしそうに手を引くがリュウの掴む手によって逃げられない、といった程度の力加減の演技をする。

 そうやってか弱さを演出させたうえで逆の手で口元を抑え、あまつさえ目を逸らせば可憐で世間知らずの純粋無垢なお嬢様の出来上がりだ。

 リュウは既に目じりを下げ警戒心なども微塵もないようだった。

 頬を自由自在に染め上げる茜を雪花はよくやるなと冷めた気持ちで、だがそんな普段とは違う乙女な美少女を目にして思わず口元が緩んでいる。


「もちろん存じ上げておりますとも。あなたのような美しいお方を見逃すはずがありません」


 茜の美少女加減は全世界どこでも通用するようだ。

 リュウも頬を赤くし茜を真っ直ぐに見つめ上げる。


「リュウ様は昨日、モニカ様の写真をご覧になり、まだ到着していないと気づくや否や急遽予備のフェリーを手配したのですよ」


 そんなリュウの背後からため息交じりに女性の暴露発言。

 どうやら茜の可愛さが功を奏したようだ。それは予備のフェリーを発着させる程でディランも内心ではホッと胸を撫で下ろしている事だろう。


「これこれリーファ、ばらすんじゃない」


 その女性はリュウと同じく黒髪で切れ長の目に茶色の瞳。

 更に着用している服装が特徴的だった。

 膝下丈の慎ましいひらひらスカート、と思いきや太ももから腰骨の上まで曝すスリットが両サイドに切れ込んでいる。

 これはシェンチェンドレスというものでとても煽情的な衣装。子供には若干目の毒かもしれない。

 見ればその後ろに控える女性達も全員シェンチェンドレスを着用している。会話から察するにリュウの部下なのだろう。そしてシェンチェンドレスはリュウの趣味に違いない。


「しかし、あなた程の絶世の美女を私が見逃す筈がないのですが……うーん、どうして」


 立ち上がるリュウは首を傾げ顎をさする。

 それはディランが途中でデータを書き換えたからだろう。ネット上とそこにアクセスしたデバイス内全てのモニカ=ウォーカーの写真とそれに紐づくデータをファウンドラ社のハッカーが入れ替えたのだ。

 

「そんな、美少女だなんて……お目に掛かれて光栄ですわ、リュウ様」

「リュウ……様……」


 と茜の目を細めた満面の笑み。

 それはリュウの疑問を一瞬にして破壊した。茜の笑みは細かい疑問など吹き飛ばす程の威力なのだ。

 そんなリュウに嫌気がさしたのか、後ろに控えていた別の女性がリュウの首根っこを掴んで引き寄せた。


「うっ!?」

「リュウ様。これでは話が進みません」


 黒のドレスを着たグレージュの長い髪を掻き揚げる女性はルイズというようだ。

 島主のリュウに対してあまりに雑な対応だが当の本人が笑顔で茜に手を振って平然としているのでそういった関係なのだろう。

 何をするかと思えば持ち込み武器の確認だった。


「武器は拳銃一丁と……刀ですか」


 ルイズは茜達のスマコンをとある機械にかざし、情報を読み取った。

 そしてリュウが茜の武器、刀に大仰に食いつく。


「なんと古風なっ、まさかモニカ様はレゾナンスでいらっしゃる?」


 と、リュウはピタリと茜がレゾナンスだという事を言い当てた。

 常人が刀や槍など近接武器を使ったところで戦力はたかが知れている。だがレゾナンスに限って言えば銃よりも古風な武器の方が殺傷能力が高い。それはレゾナンスの世界では一般的な考えで槍を使っていたバドルもその類だ。

 だがその事実が知れた事はこの場面では少々まずい事になる。

 ただでさえこの島には住み続けなければ多額の税金を徴収されてしまう人物達が暮らしている。そんな後ろめたい理由を持った人物達は得てして一際警戒心が強い。

 もちろん彼らを住まわせているこの島主であるリュウも例外ではない。それは多くの国から懸賞金を掛けられる程だ。

 大きな戦力は警戒されて当然。だからディランは急いで釈明する。


「それは護身用でして……別に誰に危害を加えるという事は――」

「ご安心を。そんな心配はしておりません」


 ルイズはディランの心配を手の平で受け止めて無表情に言い放つ。


「ただ、意外と軽装でいらっしゃる、と思いまして」


 ルイズの続く意外な言葉にディランも茜も目を瞬かせ固まってしまう。

 傍から見れば親子似た者同士だが、流石に演技としては出来過ぎだろう。

 そんな親子を見てリュウは笑い、ある提案を出してきた。


「他の皆様は自動小銃やらライフル等の持ち込みもありましたので。流石に爆弾などは一般客の持ち込みは禁止していますがね」

「もしも装備が心許ないのでしたら銃の貸し出しもしておりますよ。御入用であれば私どもか、近くの者へお申し付けください」


 と笑うリュウとそこにルイズも補助をする。

 先遣隊である茜達はここには別に戦争しに来たわけではないのでディランは丁重にお断りをしておいたのだった。


「あとこの島では共鳴力をご使用できません。ですが収納石から物を取り出すくらいの遅延は用意しております」


 これは事前の情報であった事。

 収納石も少なからず共鳴力を使用する。便宜上、共鳴力を抑止する装置に余裕を設けているのだろう。

 そして共鳴力が使えないのであれば刀よりも銃の方が戦力としては大きいだろう。


「ご説明ありがとうございます。しかし我が娘に会うためだけに島主様がわざわざ?」

「ええ、もちろんです。その価値は十分にあるかと……あと、ついでといってはなんですが私の可愛い子猫達が少々退屈しておりましてね。鼠を狩らせようと」

「鼠?」

「猫? どこかしら?」


 ディランは鼠に首を傾げ、茜は猫という言葉に周囲を見渡し猫がいないか確認する。

 

「あれ?」

 

 すると茜達が乗って来たフェリーから三人組の客が降りてくるのが見えた。大男と若い女性、そしてもう一人痩せ型の男性。茜達と同じような服装だ。男二人に女一人。やはりパーティの趣旨を理解しているのだろう。

 だが茜はここで不思議に思う。自分達がフェリーに乗った時は誰も乗っていなかった筈だった。であれば後から乗って来たのだろうか。

 そんな事を考えながら茜が見つめていると突如、父親らしき大男がこちらに向かって走って来る。


「い、いやっ!?」


 雪花が遅れて気づいて身をすくませる。

 更に驚いたふりをして茜は欲望のままに雪花の豊満な胸に飛び込んだ。

 

「死ねっ!」


 ディランと茜の間から大男が抜け出してリュウを襲う。その手には短剣が握られていた。


「むんっ!」


 そんな掛け声と共に何かがぶつかる音。更にミシミシと骨がきしむ音。

 雪花の胸に飛び込んだ茜が油断なく目で追うとそこには真っ青なシェンチェンドレスを着た黒人の女性が。

 足を開いて曲げて、地面を踏みしだく。その頑として動かぬ下半身を軸に繰り出される掌底を大男の顎に押し付けていた。


「うぎっ!?」


 大男の巨体は顎を軸に面白いくらいに体が地面と平行に浮き上がる。後は重力によって落ちるだけなのだがそれが待っていられないのか、黒人の女性が青いシェンチェンドレスを振り乱し、逞しい筋肉質の脚を天高く上げて振り降ろした。

 肉の潰れる音と骨が砕かれる音。更に血が噴き出して地面が真っ赤に染まる。


「よくやったケイト」

「いえ、これくらい何でも」


 黒人の女性はケイトというらしい。力強い肉体と振りの早い蹴りは相当の武術を会得しているに違いない。

 だがまだこれで終わりではない。

 ディランの側から回って来た細身の男が身を低くしリュウの真横から迫っていた。


「貰ったぞ! リュウ!」


 だがその男の更に下。緑のシェンチェンドレスを地面に引きずりながら地を這うように男の下に潜り込んだ女性が。


「だめだめ、そんなんじゃ飴も貰えないよ?」

「え」


 透き通る青い目と二つの団子に括った金髪の女性。白く細長い脚が槍のように細身の男の腹に突き刺さる。


「ぐっ………ぇっ」


 全ての空気を吐き出され、くの字に曲げて浮き上がる細身の男。

 その突き出た首に逃がすまいと細く白い脚が絡みついてくる。


「よっ」


 軽い掛け声とは裏腹に骨が何重にも砕け散る音と共に金髪の女性は体をねじって男の首を破壊しながら地面に脳天から叩きつけた。


「ナタリア……君はいつも惨たらしく殺すなぁ」

「え? ありがと、もっと褒めてリュウ様!」


 ナタリアと呼ばれる女性は茜と同じくらいの背丈だろうか。子供っぽく無邪気にはしゃいで笑顔だ。

 だがまだもう一人残っている。

 茜側から素早く回って来た女性。

 だがその胸には既にナイフが突き刺さっていた。


「これで終わりですね」


 グレージュの髪がふわりと揺れて止まった。

 恐らくルイズがナイフを投げたのだろう。

 女は足を止め、膝を突いて倒れたのだった。


「よくやったルイズ」

「言葉は不要です。報酬を下さい」


 ルイズは褒めるリュウにそんな言葉で返すのだった。

 その一瞬の出来事を茜は全て目で追う。

 共鳴力が使用できない中、三人の刺客を瞬殺した女性達。リュウを取り巻く女性達はかなりの実力を持っている。


「い、いやああ!?」


 三人の無残な姿態と飛び散る血。それに遅れて取り乱す雪花。

 そして悪い事に抱き着いた茜を胸に押し付けて抱きしめ振るのだから茜はたまらない。

 更に雪花の無駄に大きな胸が邪魔をして息が出来ず腕をタップする。雪花が自分の胸に茜の顔が埋まっていると気づいて解放した時には茜は酸欠状態だった。


「あ、お嬢様!? 大丈夫ですか!? 腰でも抜けたんですか!? し、しっかり!?」


 程よく怖さで腰が抜けた演技が出来たと言えばそうだろうが茜は肩で息をし雪花を睨み上げるのだった。


「いやぁ、見苦しい所をお見せしてしまいました」


 リュウが言うには急遽手配したフェリーだった為、警備が少なかったとの事。だから賞金稼ぎが船に泳いで張り付いて登って来たのだろうと推測していた。

 賞金稼ぎの死体は黒服の男達が回収し袋に詰めて何処かに持って行ったのだった。

 こんな状況になり、茜が怖くなったと思ったのか、リュウは一つ咳払いし口を開く。


「ここには法はありません。しかし、それ故秩序があるとも言えます」

「え? どゆこと……ですか?」


 法律がないのに何故それが秩序を作り出すのか。

 雪花は理解に苦しみつい聞き返してしまう。


「法とは強者を律し弱者を守る盾。聞こえは良く、一見秩序があるがそれは弱者を助長させ小物が我が物顔で跋扈するカオスとなり得る、という事ですよ」

「な、成程です」

「無法ゆえ、互いが互いを警戒し、恐れ、手を出さない。だからここは有害な者にとって世界一危険な場所であり、無害なものには世界一平和で秩序ある島となっている。どうか後者である振る舞いを」


 リュウはディランへ目くばせする。

 それはこの島で余計な事はしてくれるな、というリュウなりの警告だろう。

 そしてリュウはまた茜に目をやり口を開く。


「そしてあなたには最大限のおもてなしを」


 リュウのその視線は緩々に緩んだそれ。

 その後ろからため息をつきながらリーファが口を開く。


「尚、万が一ここで起きた傷害や殺人と言った事象については各々方で処理をお願いしております」

「あまり羽目を外されると強制的に退去、及び排除させて頂きますのであしからず」

「死体の処理に関して、お困りのようでしたら一体千ウルドと格安で請け負っております」

「腐ると臭うしね。蠅がたかると嫌なので放置だけはしないでね」


 リーファを皮切りにケイト、ルイズ、ナタリアと各々口を開く。

 警告、というよりも各々言いたい事を言っているのだろう。


「ここまでで何か質問はありますか?」


 最後にリーファが尋ねてくるので茜が手を上げて質問する。


「はい、モニカ様」


 だがその質問は男ならセクハラととられかれない内容だった。


「なんだか艶めかしいドレスですが……その、パンツは履いてらっしゃるのでしょうか?」


 茜は純粋無垢な、本当にただの疑問といったようにリーファやナタリア達を困ったような視線で見渡した。

 シェンチェンドレスのスリットは深く腰骨まで見えている。それ故、何も履いてないように見えるのだ。


「なに、その質問」


 茜の無邪気で破廉恥な質問に真っ先に反応したのは無邪気で子供っぽいナタリア。


「見てよ! ちゃんと履いてるでしょ!」

「あ、本当だ」


 ナタリアはシェンチェンドレスをまくり上げ、茜に確認させる。

 何をしているのだと、雪花はしかめっ面。そして呆れてディランを見るが表情は真剣で揺るがない。

 そんなにパンツが見たいのだろうか、と雪花は中身が男の女一人と男一人に呆れ顔だった。


「私は履いてませんよ?」

「ええ!? ケイトォ!? 冗談でしょ!?」

「はい冗談です」

「えええ……」


 黒人のケイトは驚くナタリアにフフっと笑っている。子供っぽいナタリアをからかっているだけだろう。


「私も履いてますよ。履くなというのなら追加料金を貰わなければ」

「あはは……」


 ルイズもそんな事を言ってリュウからお金を要求する始末。


「私は履いてませんよ」

「ええ!? リーファ履いてないの!?」

「ふふっ、嘘ですよ、履いてま――あ、ちょっとなにを!? 放しなさい!」


 ケイトにからかわれたナタリアはリーファに詰め寄ってドレスをめくろうと手をかけ抵抗されている。


「あっはっは……申し訳ないね。皆茶目っ気が強くて……おっと、そろそろパーティが始まってしまいます。お急ぎを」


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート