国王アヴェルが一歩進むとライアン、マリーが避けて道を作る。
そこをアヴェルと親衛隊だろう体躯のいい兵士達がついていく。
「素晴らしい! これが財宝が眠ると伝え聞く青い城か!」
アヴェルはツクモの背後にそびえ立つ青い城の存在に感銘を受けたように目を輝かせて言う。
その現国王の言葉にツクモは目を見開いた。青い城などという言葉はツクモが解読していた壁画にはまだ出てきていない情報。どうやらツクモに開示されていない情報をバンカー王国は隠し持っていたようだ。
「まさかご存じだったとは……」
やれやれと、頭を振って失望を隠し切れないツクモ。
バンカー王国は最初からツクモを信用していなかったようだ。
それを明示するようにマリーとその背後にいるキックス犯罪集団、更にアヴェルが引き連れてきたであろうバンカー王国の兵士達がツクモに銃口を向けている。
アヴェルは青い城からツクモへ視線を落とす。
「ツクモ教授、よく探し当ててくれました。十年前我々も必死に探したのだがね」
それはラブア王国を見限ってバンカー王国へ舞い戻った時。
探しても見つからなかったのは当然だろう。多くの島から一つの島を探し当て、更にギカ族を連れて共鳴心動を起こさなければならない。見つかるはずがないのだ。
「その対価が鉛玉とは……報酬を渋りすぎでは? 国王陛下」
報酬にケチをつけるツクモ。
アヴェルはそれに一つ笑い、視線を自分の背後に向ける。
そこには親衛隊のディアン族の男。口はへの字に弾き絞り、険しい顔。
「マリー、ツクモ教授にお代を」
「承知しました。お父様」
マリーは言って銃口をツクモに向ける。
その親衛隊の男はマリーの父親。そしてそれも事前に貰った資料に乗っていた人物。名前をフランツ=ガドナ。国王を守る親衛隊の隊長だ。
「マリー……」
「ツクモ教授、短い間ですが楽しかったですよ」
「私もだよ、マリー。出来ればこの後、財宝に囲まれながら酒でも一杯酌み交わしたいところだ」
「残念です、ツクモ教授」
ウィンクするマリーのその言葉を最後に、一発の銃声が轟いた。
「うぎゃああああ!?」
そして弾丸が命中しそんな情けない叫び声。
だがそれはツクモではない。
銃口から放たれた弾丸はツクモをかすりもしなかったのだ。
意外な事にマリーの銃口は現バンカー王国国王、アヴェルに向かっていた。
そこには静かに立ち上る硝煙と、のたうち回るアヴェル。
「マリー!? 何をしている!?」
親衛隊長フランツが目を剥いてマリーを睨みつける。
だが肝心のマリーの視線の先には地面を這いまわる国王アヴェルの姿。
アヴェルは左肩の下辺りを抑えている。そこに頭があったのだろう。抑えた手からは血が滲みだしている。
恐らく心臓を狙ったのだろう。高い殺意が伺える。
「くっ、死んでいない!?」
焦るマリーはまた数発アヴェルに向かって引き金を引く。
「マリー!」
だがフランツがアヴェルの前に飛び出して盾になる。
通常、弾丸を撃ち込まれた人間は肉を裂かれ鮮血を吹き出すもの。
しかし不思議な事にフランツに複数の弾丸が命中するも被害はない。逆に打ち込まれた弾丸がぐにゃりと潰れ、地面にぼとぼとと落ちていく。
ツクモが以前話したように、能力の発現の有無、程度の差はあるがディアン族は体を硬化させる能力がある。だから銃弾を弾く実の父であるフランツを前に、マリーは引き金を引く事を一切躊躇しない。
「どいて! お父様!」
「マリー! 馬鹿な事は止めろ!」
どうやらこちらでも親子喧嘩勃発のようだ。先程の茜と葵大吾と同じように。
茜はこの状況を読む為、二人を見守っている。
「お父様こそ! 私達が仕えていた王族を殺した今の王族を守るのですか!?」
「王族を守る事が我々の使命だ! 前とか今とかは関係ない! 王族の権力争いに、我々一軍人が関わってはいけないのだ!」
「忠誠心は無いのですかお父様!?」
資料では十年前、王族の襲撃によって前王族は皆殺しに合った。
その時、親衛隊長をしていたフランツは前王族を守り切れなかった。そして現在、アヴェルを含む王族に仕えている。
「マリー! 落ち着け! ここで王を殺せばどうなるか分かっているのか!?」
「王国の皆が殺されるんでしょ!? そんな事知ってる!」
そして王族に何か危害を加えればバンカー王国の民が殺されてしまう。だからフランツはアヴェルに従っているのだ。
「でもそんなのもうどうだっていい! そいつは私の大切な人まで殺した!」
切迫した表情を見せるマリー。
マリーの言葉で茜は察した。
マリーは恋人の仇を取ろうとしていると。その仇は普段護衛に囲まれているアヴェルだ。だが今手薄な警備で目の前にいる。だからマリーはここぞとばかりにアヴェルを狙ったのだ。
「これだから女は……すぐ感情的になるから嫌いなのだ! 殺せフランツ! この女を殺せ!」
「お、お待ちを国王様!」
非情な王の命令に流石に慌てるフランツ。
実の娘をそう簡単に殺せるわけがない。だが現王のアヴェルは既に弾丸を撃ち込まれている。マリーの極刑は免れないだろう。
そんな中、茜はツクモを見る。そしてツクモは茜を見ていた。
「馬鹿女が! 誰もやらねぇなら俺がやる!」
茜を甘く見ているのだろう、ライアンの銃口がマリーに向けられた。
先程のツクモが言ったように現場が混乱している今は「ここぞという所」意外のなにものでもない。
だから茜はポケットに手を突っ込んだ。
「死ね!」
ライアンが引き金に指を掛ける。
「へ?」
そして銃を握ったライアンの手は地に落ちた。
目の前には青い閃光。
茜の青桜刀だった。
茜は銃を運んで地面に置いていた。その際、青桜刀の収納石を手に移動させポケットに放り込んでいたのだ。その動きは雪花達には見えていた。それは当然、反撃の種火として皆に認識されたのだ。
「うわああああ!?」
ライアンは悲鳴と共に倒れ、茜は解放される。
「なっ、この女!」
そしてすぐ横にいた裏切者のカーターがクローグ6000の銃口を向けて引き金を引いた。
「あ、あれ? 撃てないぞ!?」
『敵対勢力と認識しました』
「え?」
そんな女性の音声がクローグ6000から流れてくる。
そして次の瞬間、電流の流れるようなバチバチという弾ける音。それと共にカーターの体が面白いくらいに震え、うめく。
「ぐえぇ……」
そして情けない声と共にカーターは倒れた。
これはファウンドラ社開発の最新型クローグ6000の機能。味方意外が引き金を引けば引き金はロックされる。そして敵対勢力であれば電流が流れる仕組みになっているのだ。
「うわぁ……なにあれ、こわっ」
その光景を見て驚きの表情を見せる雪花。
説明書を読んでいないのか、雪花は自分の持っていた銃に電流が流れ引き気味だ。
アヴェル、ライアン、カーターが倒れ更に現場が混乱する。
「ど、どうなっている!?」
マリーと対峙しているフランツは状況を見極めようとキョロキョロと周りを見回している。
まだ状況は混乱の中。そこへ雪花の後ろからツクモの声。
「君達、しゃがんでいろ!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!