光と茜の差分

裏組織のトップエージェントが超絶美少女になって世界を救う
天澤清二朗
天澤清二朗

第110話 ~パンツ神様!?~

公開日時: 2023年10月12日(木) 18:07
文字数:4,141


 茜の「遊んでくる」という雪花とのやり取りも一部聞かれていたようだ。

 ルココの向ける視線の先に様々な長さの棒や剣や刀を象った木製の武器が多く格納されている箱が用意されていた。

 流石に青桜刀で戦うわけにはいかない。茜は周りの視線とざわめきを押しのけて向かい、武器を選ぶことにした。

 茜は普段刀を使う。だから雪花は一足先に刀を模した木刀を見つけ出して引き抜いて茜に渡してやる。だが茜は拒否し、自分と同じ身長程度の長さの棒を取り出した。

 

「え? あの子と同じ武器で戦うの?」


 それは大胆不敵にもルココと同じ棒。

 ルココが招いたステージ上でルココと同じ土俵で勝負するようだ。


「棒術でくるならこっちも棒術で行くのが礼儀だろ?」


 そして茜は堂々と言い放つ。

 茜はルココと同じ武器で対決し、負かしたいようだ。それは武器の性能差を負けの言い訳にされないため。

 棒術とは棒を武器として使用し、変幻自在の攻撃と長いリーチに加え堅い防御で相手を制圧する武術だ。

 茜はステージ上に手をかけて飛び登り、ルココを見る。

 

「何して遊ぶ?」


 更に不敵な笑みを浮かべて宣戦布告だ。

 それに怖気づくことなく、ルココも不敵な笑みで応えてくる。


「いい度胸ね。私は一応レゾナンスだけどこのステージは空間共鳴逆位相装置が備え付けられてるから一般人と同じよ。安心なさい」


 空間共鳴逆位相装置とは空間内の共鳴力を打ち消し、使えなくなるというもの。

 最大半径五メートル程の範囲だがリングを覆うには十分だろう。

 見ればルココも華奢で共鳴強化が使えない茜としては願ったりだ。

 

「あんたもレゾナンスならしばらく待つけど?」


 空間共鳴逆位相装置はその空間の共鳴力を無効化するだけ。レゾナンスキラーのように共鳴力を強制的に消し去るものではない。

 レゾナンスでも強化型の場合、体内に共鳴力を溜める性質上、体内の共鳴力を消し去るには多少の時間が必要になる。自ら共鳴力をリリースすれば直ぐに済むが嘘をつかれては公正な勝負が出来ないのだ。


「私は強化型じゃないから大丈夫」


 と、茜は正直に言ってルココを見る。


「その自信がそこから来るものじゃなくて安心したわ」


 とは、レゾナンスであるかどうかだろう。

 レゾナンスはその力に溺れ傲慢になる傾向がある。茜の余裕発言もそこから裏打ちされたものかもしれないとルココは危惧していたようだ。

 レゾナンスから共鳴力を取ったらただの人。つまらない試合にならなくて済んだと安心したのだろう。


「ルールは簡単よ。このステージから出たら負け。一発入れられて地面に這いつくばっても負け」


 とルールを説明してやるルココ。

 それに男子生徒達が反応する。


「女子と女子の対決で、棒を武器に、一発入れる……か」

「お前想像力逞しいな」

「でも見てみろよ。ルココは体操着来てるが茜ちゃんはミニスカ」

「うーむ……これは見ごたえがあるな……」


 と、変態発言をする男子生徒達。

 それを傍で聞いていた女子生徒が棒を使ってその男子生徒達の足元を全て掬い上げたのだった。


「男子最低~」

「死ねっ、変態」


 そんなやり取りが聞こえたのだろうルココが一瞬だまり口を開く。


「……一撃入れられたら負けよ。降参してもいいわ」


 そして律義に言い直すのだった。


「つまり相撲と同じだな」


 と、そのルココの説明に茜がそんな事を言う。


「……は? あなた外国出身なの? 相撲の定義間違ってるわよ……」

「場外は負け、場内で這いつくばっても負けってだけだろ」

「ふんっ、間違っても場外や降参なんて情けない終わり方はしないで頂きたいわ。場がしらけるでしょ?」

「その歳でエンタメ精神旺盛なのは良いけど、これはガチだぞ? 負けた時の言い訳にはしてくれるなよ?」


 ルココの挑発に茜の応戦。

 どちらもエンタメ精神旺盛な発言だ。

 周りもそんな二人に少々興奮してきてざわめいている。他のステージの生徒達も次第に集まって来ていた。

 ここで一人の男子生徒が声を上げる。

 

「ちょっとルココさん、まだコーチも来ていないし、一般の生徒との勝負は危険なんじゃ? 止めた方がいいよ。それにフォンさんも――」


 と、茜を心配してだろう中止を求める声。

 ルココは全国優勝する程の技術を持つ。それを最近転校してきた茜が知る訳がないと。だから無謀にも挑発に乗って来たのだと思っているのだろう。


「だ、そうよ、茅穂月茜。良かったわね。怖いなら今ここでやめてもいいのよ」

「……そんなに負けが怖いのか?」

「は?」


 茜は棒の先をルココに向けて更に挑発する。


「その長い鼻をへし折ってやるからさっさとかかってこいよ」

「上等じゃない……行くわよ」


 ニッと笑う茜をルココは忌々しそうに睨みつけてくる。

 そしてルココも棒の先を茜に向けて構える。


「はっけよーい……」

「だからっ」


 茜とルココは互いに二歩踏み出して棒を突いた。


「相撲じゃないって言ってるでしょ!」


 最初の突きは互いに互いの顔面を狙ったもの。

 だが交錯する棒を互いに逸らし、標的を外す。

 ルココは反転し逆側の棒で茜を襲うがそれを茜が背面飛びのように躱す。

 更に躱しついでとばかりに棒を突きルココを突く。


「へ!?」


 その茜の突きはルココの体を完全に捉えている。

 思わぬ茜の反撃にルココは目を見開いた。

 茜の体は華奢でとても小さい。そんな茜から想像の上をいく体術と突きが繰り出されるとは思いもしなかったのだろう。

 初見殺しのような茜の突き。

 だが流石は全国優勝のルココ。通常反転した体重を支える脚を曲げてそのまま倒れ難を逃れる。


「……やるじゃない」

 

 茜から一旦距離を取るルココ。予想外の茜の体術と突きを褒める。

 

「ありゃ、避けられた?」


 茜はそれで決めたと思ったのだろう。着地しクルクルと棒を回転させて余裕を見せつける。


「いいわ、本気出してあげる」

「いい判断だ。余力を残して死ぬ奴も多いからな」


 そんな茜の挑発にルココが先に動く。

 先程よりも数段早い薙ぎ。

 それを茜が軽くジャンプして躱し、続く薙ぎをもう片方の足で床を蹴り宙へ避ける。

 そしてルココは地に落ちてくる茜の足を三度目の薙ぎで狙う。

 

「そこ!」

 

 そこに茜の足があれば折れている程の威力の薙ぎ。

 だが、いつまでたっても茜は降って来ない。

 ただ床についているのは茜の棒だけ。

 

「ぐっ」


 ここで茜の着地を狙ったルココの薙ぎが止まる。床に突いた茜の棒によって。

 ルココの鋭い薙ぎをもらった茜の棒は反動で跳ね上がった。

 そして茜は空中で反転し上段から棒を振り降ろす。


「くっ」


 ルココの頭を狙った茜の振り降ろし。

 それにルココは後退するでもなく前進した。伸びた自分の棒の下に潜り込み茜の振り降ろしを防いだのだ。

 ルココは更に前進し、宙に浮いたままの茜にそのまま体当たりをくらわせる。

 このままいけば場外になってしまう。

 だが茜はアルドマン孤児院で見せた悪ガキ三人組にやったように、ルココの上をクルリと回転し、背後に着地したのだった。

 更に続く二人の攻防に場外の生徒達は沸きに沸いていた。


「うおおお! 熱い!」

「何だこの試合! すげえええ!」

「あの茜って子は一体何者なんだ!?」

「しかもめっちゃ可愛い!」

「あんなに短いスカート履いてるのにパンツ見えねえええ!」


 そこへ雪花が口をはさむ。


「あいつの今日のパンツは黒だったわ」

「く、黒!?」

「あなたは一体……」

「パンツ神様?」

「そんな事はどうでもいいわ! 皆! 茜を応援するわよ! あ・か・ね! はい!」

「あ・か・ね!」

「あ・か・ね!」

「あ・か・ね!」


 周りは茜コール一色になっていく。

 そんな逆境に立たされながらもルココはクルクルと回転し茜を攻める。

 茜はそれをひらひらと舞うように躱す。そこから不規則な突きを繰り出してルココを困らせている。


「くっ、このっ」


 そしてルココの表情からは次第に余裕がなくなっていく。


「流石全国優勝……動きが違うなっ」


 そして茜も次第に余裕がなくなっていく。

 茜の魅せる体術はどれも派手で周りの目を引くのだが、それは男の体があってのもの。今の貧弱な少女の体では体力が持たないのだろう。

 そして二人はつばぜり合いのように棒同士で押し合い、近づいた。


「棒術も少しは使えるようね。褒めてあげるわ」

「そ、そりゃ……どうも、はぁはぁ……」


 と、茜が疲れを見せる息遣い。

 そこにルココの目が鋭く光る。


「でもね、武器に振り回されるのは三流よ!」


 と、ルココは棒を押しのけ、反転して近づいて蹴りを繰り出した。

 ルココの蹴りは鋭く、茜の顔面に向かう。

 茜とルココの距離はかなり近かった。超近距離であればリーチが長い棒よりも蹴りの方が早い。


「うっ」


 と、意外にも声を上げたのは蹴りを繰り出したルココの方だった。

 ルココの蹴りを茜は避けていた。代わりに茜の蹴りがルココの眼前に迫っていたのだ。見れば茜の細く美しい脚はまだ伸ばしきっていない。足を曲げ、ルココに当たらぬよう寸止めしているようだ。


「作った隙に誘われるようじゃいつまで経っても二流だぜ?」


 と、茜は勝ち誇るように笑う。

 どうやら先程の数舜の会話での息遣いは茜の演技だったようだ。

 疲れているのは本当だろう。それをあの一瞬の会話で更なる疲労を茜は演出した。

 そこに勝利を見出したルココをまんまと罠に嵌め、カウンターの蹴りを放ったのだった。寸止めという優しさに屈辱を織り交ぜて。

 これが実戦を潜り抜けた茜と戦闘技術と称する競技しかやってこなかったルココの違いだろう。

 汚いと言われようが何だろうが負ければ死の世界。相手の戦闘技術だけではなく感情、体調、流れを読み切る力もなければ生き残れない世界なのだ。

 

「女を蹴る趣味は無い。私の勝ちでいいよな?」


 ルールに従うのであれば一撃入れれば勝ちだった。

 寸止めとは言え今ルココの眼前には茜の靴の裏が見えている。誰が見ても茜の勝ちだろう。


「あいつ……自分がミニスカなの忘れてない?」


 と、いつまでも足を上げている茜に雪花は顔を赤くしつつ呆れてしまう。

 だが周囲の男子生徒達はそこに目が釘付けだ。

 更にルココに勝利した事でより一層沸き上がっている。


「うおおお! 茜ちゃんの勝利だああ!」

「やったぜえええ!」

「ルココの鼻を折りやがった!」

「でもやっぱりみえねええええ!?」


 そう、茜のスカートはファウンドラ製。見えるわけがないのだ。

 だがそんな中、一人の女子生徒が震える声で不穏な言葉を口走る。


「ああぁ……やばいかもぉ……」



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