ナトレータさんはあの日以来急によそよそしくなった。
話しかけると笑顔にはなるがすぐに何処かへと行ってしまう。
休憩中に見かけた彼女の表情はとても悲しそうだった。
心配して声を掛けたが、笑顔で隠してしまう。
「ナトレータさんどうしたんだろう。」
書類をまとめるナトレータの様子を廊下からこっそり覗いてみる。
結構離れているためおそらくバレないだろう。
そう考えていると背後から声をかけられる。
「何こそこそ隠れているの?春ニ君。」
「麗奈さんっ。驚かせないでくださいよ。」
「君が変なことしてるから声をかけただけじゃないの。それでどうしたの、そんなところに隠れて。」
先輩は怪訝な表情を浮かべてこちらを見る。
「実は・・・最近様子がおかしいんです。なんだか無理しているみたいな感じで。」
「先輩はどう思います?ナトレータさんのこと。」
「確かに最近元気なさそうだけど・・・・。」
「そうなんです。領主がここへ来た時からおかしいんです。
あの時も青い顔をしながら僕の腕にしがみついていたし・・・きっと何関係があるんですよ。」
麗奈さんは静かにこちらを見つめると静かに言った。
「春ニくんはどうするつもり?また彼女を助けたいの、それともただの好奇心?」
「僕はー」
麗奈さんが近づき、僕の頬に手を添える。
「君はすぐに無茶をするし、自分を犠牲にしようとする。
それに彼女が助けを求めていないかもしれないよ、それに知られたく無い秘密があるのかもしれない。
それがきっかけでまた事件に巻き込まれるかもしれない。
もう一度聞くよ・・・貴方はどうしたいの?」
麗奈さんの深緑の瞳がこちらを見つめる。
すぐ目の前で静かに、ただ静かに見つめる。
「僕が彼女を助けます。たとえ拒絶されても、何があろうと助けたい。
僕の腕にしがみついた彼女の眼は確かに助けを求めていました。
それにー」
「それに?」
「彼女は僕の唯一の後輩ですから。」
麗奈はため息をついて微笑んだ
「君はそう言う性格だから仕方がないけど・・・お人好しというかお節介というか・・・・
仕方がないなぁ~。」
「ありがとうございます。でも一度彼女に話を聞いてからにしたいと思います。」
ナトレータさんの机を見ると彼女はいなかった。
その日彼女が再び姿を表すことはなかった。
◆
「この商品は船便か?どこ行きだ。」
「確か『サルバン』だ。」
暗い牢獄の前で二人組の男が話している。牢の中には痩せた人々が虚な目をして宙を見つめている。男の手には注射器が握られている。
「あっちの国でこいつを打てば良くないっすか?」
「だめだ。持ち逃げされたらどうする。」
「あぁ確かに。でもあの女どうして逃げられたんでしょうね。」
男は近くに倒れている男の首に注射を刺す。
「ここだけの話、どうもプレミアらしい。」
「へぇ~。あっそろそろ出ましょ。」
もう一人の男がもう一本注射を打ち込む、すると倒れていた男が四つん這いになり唸り声をあげ出す。
「うがガァぁっぁぁぁぁぁ!!」
男の肌がドロドロに溶けて体がぶくぶくと膨れ上がっていく、
「あ~あ嫌だ嫌だ。何度見ても気持ち悪い。」
「がががががががぁあっぁぁぁぁぁ!!」
男だったものが産声をあげる。
「キシャァァァァァァァァァッァッー」
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