大陸鉄道の死神

〜【二重人格】で【一時間しか動けない】異世界諜報員は復讐のために暗躍する〜
佐渡の鹿
佐渡の鹿

5.【迫る暗雲】

公開日時: 2022年3月27日(日) 16:28
文字数:1,300

 ナトレータさんはあの日以来急によそよそしくなった。

話しかけると笑顔にはなるがすぐに何処かへと行ってしまう。

休憩中に見かけた彼女の表情はとても悲しそうだった。

心配して声を掛けたが、笑顔で隠してしまう。


「ナトレータさんどうしたんだろう。」


 書類をまとめるナトレータの様子を廊下からこっそり覗いてみる。

結構離れているためおそらくバレないだろう。

そう考えていると背後から声をかけられる。


「何こそこそ隠れているの?春ニ君。」


「麗奈さんっ。驚かせないでくださいよ。」


「君が変なことしてるから声をかけただけじゃないの。それでどうしたの、そんなところに隠れて。」


 先輩は怪訝な表情を浮かべてこちらを見る。


「実は・・・最近様子がおかしいんです。なんだか無理しているみたいな感じで。」


「先輩はどう思います?ナトレータさんのこと。」


「確かに最近元気なさそうだけど・・・・。」


「そうなんです。領主がここへ来た時からおかしいんです。

あの時も青い顔をしながら僕の腕にしがみついていたし・・・きっと何関係があるんですよ。」


 麗奈さんは静かにこちらを見つめると静かに言った。


「春ニくんはどうするつもり?また彼女を助けたいの、それともただの好奇心?」


「僕はー」


 麗奈さんが近づき、僕の頬に手を添える。


「君はすぐに無茶をするし、自分を犠牲にしようとする。

それに彼女が助けを求めていないかもしれないよ、それに知られたく無い秘密があるのかもしれない。

それがきっかけでまた事件に巻き込まれるかもしれない。

もう一度聞くよ・・・貴方はどうしたいの?」


 麗奈さんの深緑の瞳がこちらを見つめる。

すぐ目の前で静かに、ただ静かに見つめる。


「僕が彼女を助けます。たとえ拒絶されても、何があろうと助けたい。

僕の腕にしがみついた彼女の眼は確かに助けを求めていました。

それにー」


「それに?」


「彼女は僕の唯一の後輩ですから。」


 麗奈はため息をついて微笑んだ


「君はそう言う性格だから仕方がないけど・・・お人好しというかお節介というか・・・・

仕方がないなぁ~。」


「ありがとうございます。でも一度彼女に話を聞いてからにしたいと思います。」


 ナトレータさんの机を見ると彼女はいなかった。

その日彼女が再び姿を表すことはなかった。



「この商品は船便か?どこ行きだ。」


「確か『サルバン』だ。」


 暗い牢獄の前で二人組の男が話している。牢の中には痩せた人々が虚な目をして宙を見つめている。男の手には注射器が握られている。


「あっちの国でこいつを打てば良くないっすか?」

「だめだ。持ち逃げされたらどうする。」


「あぁ確かに。でもあの女どうして逃げられたんでしょうね。」


 男は近くに倒れている男の首に注射を刺す。


「ここだけの話、どうもプレミアらしい。」


「へぇ~。あっそろそろ出ましょ。」

 

もう一人の男がもう一本注射を打ち込む、すると倒れていた男が四つん這いになり唸り声をあげ出す。


「うがガァぁっぁぁぁぁぁ!!」


 男の肌がドロドロに溶けて体がぶくぶくと膨れ上がっていく、


「あ~あ嫌だ嫌だ。何度見ても気持ち悪い。」

「がががががががぁあっぁぁぁぁぁ!!」


男だったものが産声をあげる。


「キシャァァァァァァァァァッァッー」

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