雪が静かに降っていた。
銃弾で穴だらけになったテントが風を受けてバタバタと立てる。
雪で覆われた地面のあちらこちらには薬莢と、血溜まりができている。
見渡す限り死体の山だ。
つい先程まで笑っていた男が大の字に倒れて、体のあちらこちらに穴が空いている。
その隣では写真を大事そうに抱えたまま男が、
軍服を身に纏まとった男が。皆、死んでいる。
いや‥結果的に俺が殺した。
旗が倒れ、軍旗の下に4人の死体が重なるよう山を作っている。
その山の前で、生き残っていた少年兵に銃を向ける。
目の前にいる少年は自分と同じくらいの歳だろうか。
深く帽子を被り、口元を布で覆ったその少年の顔はわからない。
だが、殺さなければ俺に明日は無い。
パンッ!!
銃口からのぼる煙は名残惜しそうにゆらゆらとかき消えていく。少年が胸を押さえながら後ずさる。
死体の山に踵がぶつかり姿勢を崩す。
「なん‥でっ」
目の前の少年が背中から倒れる。
その勢いで彼の顔を覆っていた布が取れた。
ーその少年は、俺の弟だった。
心臓がバクバクと音を立てる、
目の前の少年兵は俺のこの世でたった1人の双子の弟『春ニ』だった。
銃を投げ捨てて肩を抱く、心臓から血が溢れてくる。
ありえない!!約束が違う弟は今、帝都ていとにいるはず!!
「春ニっ!!どうしてここにっ、しっかりしろ!!」
キーッ
ブレーキ音を響かせて車が止まる。
車から出てきた3人の男たちは自分を取り囲みライフル銃を向ける。最後に出てきた男が、周囲を見ながらこちらに歩いてくる。
これを仕組んだのはー
「やぁやぁ!!雪一くん、素晴らしい仕事ぶりだった。
いやこれは、兄弟2人の成果かな。
これでここ地方の統治軍の戦力を裏から削りつつ、
統治軍にはの敵である反乱軍を我々が粛清したとして恩も売れる!!そして君の卒業試験にもなって得したね。」
「藤まッ‥ー!!」
叫ぼうとした瞬間、取り囲んでいた男の一人に後頭部を銃床じゅうしょうで殴りつけられる。
「そいつを縛れ、けど丁寧に扱え。
君はこれからも私の管理下に置かれる、歯向かったところで今みたいに拘束される。でも安心してよ、私は道具を丁寧に扱う。」
髪を引っ張られ無理やり正面を向かされる、そして男は言った。
「君も君の弟も結局は道具だ。私は丁寧に扱うよ、
今までもこれからも。ハッハハハハハ」
「」
男は俺に話しかけているんじゃない。
目の前に跪くただの道具に独り言を吐くだけのことだった。
道具に対する独り言を聞きながら俺は意識を手放した。
かつて夢見た自由も、弟の命も失った、弟が幸せに生きてくれることだけが唯一の希望だった。
そのためならなんだってできる。
◆
揺れる車内で少年は目を覚ました。
体のあちこちが痛み、ここがどこかもわからない。
だがそれよりももっと心配なことがある。
「ねえおじさん達、兄さんはどこ?」
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