陰陽醒戦ブライトネス!

-戦鬼伝×陰陽道外伝-
鈴奈
鈴奈

十八

公開日時: 2021年5月28日(金) 20:00
文字数:1,041

遥は、いつの間にか玄関で眠りこけていた。幸い怪我はなかったが、何故か、戦った相手の姿や戦いの様子を、ぼんやりとしか思い出せなかった。


最も重症だったのは、光だった。切り傷であれば丸一日でふさがってしまう鬼人の肉体にしても、完治に一週間を要した。毎日毎日、門弟たちが大量のお菓子とコーラを持って見舞いにきてくれたが、ろくに食べることさえできなかった。それでありながら、聡一郎が様子を見にくると、

「ちげーっすよ? 別に、そういうんじゃねぇっすよ? ほんっと、違いますからね?」

 などと繰り返すので謎だった。


幸輝も、動けないほどではなかったが、深い傷を負っていたため、学校を三日休んだ。

一人で天井を見つめながら、幸輝は三日間、ずっと、シズクサマのことを考えていた。


あの時自分は、シズクサマを神宮団から抜けさせることが、シズクサマの救いになると信じていた。でも――それは、間違っていたのかもしれない。

幸輝とシズクサマの間に割って入った水鬼。水鬼は、聡一郎の強力な術さえ引きちぎって、駆けつけた。水鬼の右手は、皮が剥がれて、薄い皮膚に真っ赤な血がにじんでいた。彼が自分を睨んだ目、そして、シズクサマを包み込んだ時の顔。それは、聡一郎が幸輝の危機を察し、水鬼を威嚇した時と同じ目だった。聡一郎が幸輝を心配して覗き込んだ時と同じ顔だった。


シズクサマは、あの水鬼に、愛されているんだ――。


彼のやっていることは間違っている。それは確かだ。でも、シズクサマからあの愛を、あの居場所を奪うことは、彼のためになるのだろうか。かえって、彼の幸せを奪うことになるのではないだろうか……。

彼の幸せを願うなら、彼を神宮団から引き抜くなんて、できない。

でも、そうやって神宮団を野放しにすることは、陰陽道を、この世界を、危険にさらすことになる。セツカの幸せも叶えてあげられないことになる。

でも――。

一体、どうしたらいいのだろう……。

もしかしたら、全ての人が幸せになる方法があるのかもしれない。だけど、まだ分からない。


今、自分にできることは――。


襲いくる神宮団から、影宮神社を、朝栄神社を、後継者である自分たちの身を守ること。

そして、シズクサマを引き抜くとは違う方法で、自分たちなりのやり方で、セツカを幸せにしていくこと。

 

まだ、その方法は分からない。

けれど、きっと、光と遥と一緒なら。

みんなとなら、できると思う。

 

 幸輝は、静かに瞼を閉じた。

 

 光、遥、セツカ、父、母、昭治先生。

 大切な人たちと、心からの笑顔を交わし合う日を夢見て――。

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