陰陽醒戦ブライトネス!

-戦鬼伝×陰陽道外伝-
鈴奈
鈴奈

公開日時: 2021年5月28日(金) 20:00
文字数:1,484

 少女は、光の式神紐で後ろ手に拘束されたまま、朝栄神社の奥の八畳部屋にかくまわれた。

深夜一時十二分。光は少女に封印札を貼り、手綱を昭治に託して帰っていった。

遥は昭治に、少女の衣服から私物を回収してくるように頼まれた。昭治も弟子たちも、皆男。中学生くらいの見た目の少女には、とても触れることができない。

少女は、電気の点かない部屋で一人、正座したままうなだれていた。後ろでひとつにまとめられた大きなおだんご髪が、ほつれひとつなく、とても綺麗だった。


死にたくないって言っていたし、拘束されているから危ないこともないだろうし、何かあっても背中に帯刀している朱鸞刀でなんとかなるし……。


遥は、気軽な気持ちで、少女の前に膝と肘をつき、顔を覗き込んだ。

「武器とか、持ってるものとか、とりあえず預かるね。仮面、取っていい?」

 少女は黙ったまま、下唇を噛んだ。嫌なのだろうが、仕方がない。遥はそっと、仮面を引っ張った。後ろの紐が緩んで、するんと取れた。その素顔は、切れ長の目の、ただの女の子だった。十一才の遥の目には、とても大人っぽく映った。同じクラスの友達とじゃれ合ったりはするけれど、年上の女の子に触るなんてはじめてで、遥は少し、緊張した。しかし、先ほどの自害の様子を見る限り、彼女も武器を隠している可能性が高い。遥は慣れない手つきで、少女の服に触れた。

 マントの内側と靴の裏に隠しナイフがあったと聞いてはいたが、まさぐれどまさぐれど、次から次へと武器が出てきた。シャツの内側も、ズボンの裏地にも、靴下にも、下着にも……。

 ナイフだけでなく、液体の入った小さな瓶や、薄い紙に包まれた粉も含め、あわせてざっと、三十近くあった。武器はどれも海外製のものらしかった。刃は夜の色に塗り潰されていた。

 少女は、何を呼びかけても、一言も発しなかった。下唇を噛んで、目を伏せたままで、遥を見ようともしない。しかし、夜が明けるまでこの状態のままなのもかわいそうである。特に、たくさん汗をかいて、気持ちが悪いことだろう。

「ねえ、お風呂……は、その状態じゃ入れないよね。体、拭いてあげよっか?」

少女はやはり、答えなかった。遥は、「じゃあ、タオル持ってくるね」と立ち上がった。

「……やめて。これ以上、触らないで……」

 細いけれど、ひどく低いところで震えているような音が、微かに聞こえた。

 遥は、「あっ、しゃべった」と言った。少女は、野生のキツネのような目でギッと睨むと、

「もういいでしょ。早く出てって。一人にして……」

 と冷たく吐いた。

 仕方なく、襖を開けて外に出ると、昭治が胡坐をかいてうとうとしていた。手首には、少女を拘束する捕縛の紐が巻かれている。遥の持つ風呂敷を眼鏡に映して、昭治は、「わあ」と驚嘆した。

「すごいね、パンパンだね。こんなにたくさんあったのに、全部回収してくれて、ありがとう」

「ううん、いいの。これ、どこに置く?」

「とりあえず、僕の部屋の例の場所に置いてくれるかい? ありがとうね。置いたら、もう遅いから、寝てね。おやすみなさい」

「うん……。おやすみなさい」


遥は、言われた通りの場所にしまうと、階段に足をかけた。だけど、なんとなく後ろ髪が引かれるようで……。


心のままに踵を返し、遥は、さっきの部屋に戻った。きょとん、と遥を見上げる父の隣に、遥はとすんとお尻をついた。

「お父さん、午前中お仕事だったし、疲れたでしょ? あたし見てるから、寝ていいよ」

「ありがとう、はるちゃん」

にっこり笑う幼い娘に、昭治は愛しく微笑みかけた。

 互いにおっかかるようにして、うとうと眠りに落ちたのは、それから十分後のことであった。

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