光は数秒で収まり、恐る恐る目を開けると…………
「何じゃこりゃぁ!?」
『む……!?』
殺風景だった屋上が、一面の美しいチューリップ畑に様変わりしていたのだ。
ただのAR映像かと疑ったが、脛をくすぐる草の感触は紛れもない現実感を代助に伝えていた。
『誰だ!?』
チューリップの咲き乱れる屋上の中心にいつの間にか立っていた誰かに、オリハルコンがいち早く気が付いて声を上げる。
代助が息を呑んだ。
「あ、あいつはっ……!!」
女性だ。長く艶やかな髪。豊満なバストに、白く眩しいふとももが代助の網膜と脳髄をシビレさせる。尻の肉付きも素晴らしい。
なぜそこまで分かるかというと……、その美しい女性は下着すら着けていない、まさに一糸まとわぬ姿でチューリップ畑の中に立っていたからである。
『知っているのか、代助!』
「いや。誰だか知らんが、非常にエロいッ!」
『だぁぁッ……!!』
「据え膳食わぬはなんとやら……! 代助、いきまーす!!」
『待て! 危険だ!』
チーターの如く全速前進する代助を、もはや止められる者は誰もいなかった。
全裸のねーちゃんに飛びつく代助。女性は拒むでもなく、微笑を浮かべて代助を受け入れる。
「なんか知らんが、ウェルカム……!? ウェルカムなんスね!? ぼかぁ! ぼかぁもう……!」
代助は興奮が行き過ぎてどうしていいかわからないと言った様子で、女性を押し倒すと裸体を隅々まで観察し始めた。
「な、なるほどこうなって……! 勉強になるなぁぁぁ! くぅぅ! 母さん! 代助は今日、大人の階段を登りますっ!!」
『落ち着け代助! 何かの罠かも知れん!』
「うるへー馬鹿! このねーちゃんは俺のじゃ! 俺のじゃぁぁぁ!」
『だぁぁ! 違う! そうじゃなく!』
「と、ととと、とりあえず! まずは熱いキッスか!? キッスなのか!? 紳士としてっ!?」
『だ、駄目だコイツは……』
代助がタコのように唇を伸ばして女性に迫ろうとした瞬間、【ビーッ! ビーッ!】とアラーム音が鳴り響き、代助の唇は女性に触れる事が出来ずに空を切った。
女性が突然かき消えたのだ。
「ぶべっ……!」
屋上のコンクリ床に顔面ごと熱い接吻をかます代助。
「くそっ、何だ!? いいところで……あれ?」
顔をあげると、一面に咲き誇っていたチューリップも跡形もなく掻き消え、もとの学校の屋上が戻ってきていた。どおりで顔面が痛いわけだ。
その代わり、目の前に巨大なメッセージウィンドウが浮かんでいた。
「な、なんじゃこりゃ?」
普段のARデバイスではあり得ない大きさだし、何よりそれは、仮想と言うには余りにも重厚な物質感にあふれていた。
【ARゲーム〈イマジレイド〉体験版終了。強力なプレイヤーである皆様のご参加を、お待ち申し上げております】
メッセージウィンドウにはそう表示されていた。
「体験版…………体験版だと……?」
がっくりと項垂れて両手をつき、血の涙を流さんばかりに呻く代助。
『代助……』
しかし、オリハルコンが声をかけようとした時にはすでに代助は底知れぬ闘志のような物を燃えたぎらせながら、拳を握りしめ立ち上がった。
「面白い……! 燃えてきやがったぜ……! 〈イマジレイド〉とやらで勝ち残れば、あの続き……いや、もっと凄いことが出来るってわけだろ! 高まってきたぁぁ!」
オリハルコンは、屋上から夕日に向かって遠吠えを上げる代助を止めるでもなく、
『嫌な予感がするな。何か、良くないことが起こりそうな……。確かに、そのゲームとやらに参加して、調査をする必要はあるかも知れん』
そう、小さな声で呟いた。
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