デビルオン

悪魔が来りて鐘が鳴る。
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継ぐもの(4)

公開日時: 2021年5月3日(月) 11:18
更新日時: 2021年5月3日(月) 11:23
文字数:2,100

 桜は気が付くと、暗闇に閉ざされた空間にいた。

 景色は見えないが、不思議と圧迫感や闇に対する恐怖はない。

「何だあれ?」

 前方から、山の様に大きい塊が近づいて来る。

「鬼の頭かありゃ」

 それは額から四本の赤い角を生やした、巨大な人型の頭部であった。

「あれってまさかコレか?」

 カードに描かれた悪魔の絵と、頭部を交互に見比べる。

 同じ形をしていた。

 この絵は、この頭部を元に描かれたものなのか。 

「生きてる?」

 目の錯覚か、鬼の瞳はギロリと動き桜を捉えた。

 額の中央に勾玉があった。

 スペードに酷似したマークが浮かび、そこから黒いドレス姿の少女が現れる。

「誰だ、お前?」

 艶のある赤い髪は長く、ゆるふわに軽くウェブする毛先は腰を覆う。

 若干つり目で二重瞼の紅の瞳は、愛おしそうに桜を見つめていた。

(あれ何処かで……?)

 初めて会ったはずなのに、とても懐かしく感じるのは気のせいか。

「ぬっ!」

 視線が胸元から離れない。

「おっぱいデカッ!」

 我がままに自己主張する豊満なバスト。

 大きく開かれた胸元から谷間が見えて、零れ落ちそうになっている。 

「声に出てるよ」

 少女はくすっと嬉しそうに笑うと、両手を広げて愛おしそうに桜を抱きしめた。

「やっと会えたね桜。鬼神ルシファーの使い手」

 耳元で囁き、頭を優しく撫でる。

「わたしの名前はリリス姫。お願い、世界を救って」

 リリス姫の唇が、桜の唇と重なった。

「なんだこれ」

 突如脳内に、ノイズ混じりの映像が浮かんだ。


 建物が崩れ、瓦礫の山。道路はひび割れ陥没している。 

「ひでぇ」

 幻覚。あるいは夢。

 そういった類のものだと桜は理解しているが、それでも目の前に広がる光景に心が酷くざわめいた。

「地震でもあったのか」

 ゴゴゴゴゴッ。腹の底が痺れる感覚。

「ヤバい逃げないとッッッ」

 大地が唸り声をあげ、地響きが鳴った。

「うわぁあああああああああ」 

 足元が崩れ、桜は大地に飲み込まれていく。

「痛いなクソ」

 夢でも痛みを感じるか。いや夢だからこの程度で済むのだろう。

 景色が変わっていた。小高い丘に桜はいた。

「おっ、次はなんだ。もう何来ても驚かねぇぞ」

「来るぞ! 気合い入れろよ!」

 背後から、よく知っている声がする。

「あ、兄貴」

 桜の隣に御門一真が並んだ。

 子供の頃からお気に入りの赤いマフラーをなびかせ、眼孔鋭い鷹の目で薄紫色の大空を見上げている。

「今回のルートで決めるぜ! 奴を虚無に帰して永遠に続くループを終わらせる」

「!」

 桜は見た。

 満月の中央に肉眼でもはっきりと認識できる程、巨大な不気味な門が浮かんでいるのを。

「成神市の空にあるやつと同じもの……?」 

 観音開きに扉が静かに開かれていく。

「グウッッ!」

 背筋がゾクゾクと震えだし、もの凄い重圧を感じる。

 ぬぅぅぅぅと、中から巨大な蛇の頭部が鎌首をもたげ二人を睨んだ。

「うわぁああああああああああああ!」


 気がつくと、座席に座っていた。

 やっと悪夢は終わったか。制服の下は冷や汗で濡れて気持ち悪い。 

 キョロキョロと、周囲を見渡す。

「コクピット?」 

 白い球形の広い密室空間の中央に桜は座っている。前後に乗り込むタイプで前に桜。後ろの席には誰もいない。

 両手は横から伸びてる大きな操作レバーを握り、両足は操作ペダルの上に乗っていた。

「鬼神ルシファーの操縦席へ、ようこそ」

 前面メインパネル中央の窪みに黒いカードが収納されており、その上に人形サイズのリリス姫が浮かんでいる。



「えーと舞姫?」

「なななななななんの事かしら、わたくしリリス姫ですわよ」

 額から汗を垂れ流し、オホホホホと手を口にあてて笑いだす。

「さっきとキャラ変わってねぇ?」

「ほ、ほらもっとツッコみ入れるとこあるでしょ? ここは何処だとか、俺に何をさせる気だとか。色々とお約束が」

「あー」

 ポンっと手を叩く。

「なんでそのサイズなの?」

「そこっ? それ今一番聞きたいのっ!?」 

「うん、まぁいいや」

「いいのぉ!」

 少しからかい過ぎたか、リリス姫は頭を抱えてる。

「これで世界を救うために戦えってやつか?」

 ポンポンと、レバーを叩く。

「やっと本筋に……ゴホン。そうです桜、本来はキチンと筋道たてて説明したいけど、時間がありません』

 姿勢を正し、再び桜に視線を向ける。

「今から外宇宙の神の使徒である魔獣が現れます。桜は今回の狩人に選ばれました」

「うーん」

 既視感。桜は何故かデジャヴを感じる。

「桜?」

 姫は不安そうに声をかけてきた。

「どした舞姫」 

「むーリリス姫です。戦う報酬として、悪魔の名の元に『願い』を叶えましょう」

 ドクンッ。心臓が高鳴り魂が震えた。


『また会いましょう桜 今度は七瀬に遠慮しないぞ』


「くっ、既視感か……魔獣と戦わないと」

「世界が虚無に帰る」「虚無になるってか」

 姫と言葉が重なる。

「えっ、桜なんで覚え……知ってるの?」

「さぁ何でだろ? 俺もわからん」 

「そう……だよね」

 悲しそうな表情を姫は浮かべた。

「願い叶えてくれるんだよな?」

「はい。どんな願いも、悪魔リリスの名にかけて」

「ずっと一緒にいてくれ舞姫。今度こそ」

「……桜……」

 瞳を潤まし、姫は力強く頷く。

「わかりました。その願い叶えましょ!」

「俺は大切な人達を守りたい。その為の力がこの鬼神にはあるんだ。やってやるぜ!」

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