デビルオン

悪魔が来りて鐘が鳴る。
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狂乱の鬼神(2)

公開日時: 2021年5月17日(月) 12:28
文字数:3,163

 学園地下駐車場のエレベーターの前で、桜と了は立っていた。

「ひひッ先にいくぜ。桜先輩」

 美しい女性の顔と翼が描かれた深緑色のカードを引き抜くと、扉の中へ消えていく。

「よしっ行ってくるよ」

 桜は、後ろで見守る七瀬と舞姫に声をかけた。

「桜くん、落ち着いて冷静にね。熱くなって周りが見えなくなったら駄目」

「うん、分かってる。帰ったらさ、三人で飯食べよう」

 桜は笑い、黒いカードを取り出す。

 七瀬も実は関係者と知り、使い手としての心の負担が随分と楽になっていた。

「舞姫、行かないのか?」

 七瀬の隣に立っている相棒に声をかける。

「な、なんの事かなぁ わたし分かんない」

 ふひゅ~ふひゅ~と鳴らない口笛を吹き、しらを切っていた。

「えぇっ~そういう設定かよぉ!」

 桜は楽しそうに笑みを見せてツッコむと、カードを扉の前に突き出した。

「転送!」


 暗闇の中をゆっくりと桜は落ちていく。そこで待っていたのは鬼神ルシファーであった。

 額のクリスタルに飲み込まれ、コクピットルームへ転送が完了する。

 不思議と気分は落ち着いている。

「慣れたのか」

 ギシッ。背もたれに体重をかける。

「こんなの慣れたくないけどな」

 桜は表情を引き締めた。

「桜、今回は模擬戦。命のやりとりはないから安心してね」

 メインパネルに差し込んであるカードの上に、リリス姫が現れた。

「ふーん、あっちはそう思ってないんじゃない?」

 モニターに映し出されるは、空を飛翔する深緑色の鳥型の鬼神。

 機体の中央に美しい女性の上半身。左右に猛禽類型の翼を生やしている。

 緑に光る鋭い眼光。鈎型に曲がるクチバシ。太く逞しい足には、手の役割を兼ねた鉤爪の五本の指が生えていた。 

「うわぁ飛んでるよ」

「あの機体の名は、鬼神ウライエル」

「……姫、ルシファーは飛べないんだよな?」

「今のルシファーでは、無理だ」

「どうすっかな……」

「ちなみに一真がウライエルと戦った時は……」

「悪ぃ兄貴の話題は無しだ、俺は戦法まで一真のおさがりは嫌なんでね」

 ––––そうだろ? 一真。これぐらい自分で何とかしろって、兄貴なら言うだろ。


「これが僕の愛機、ウライエルだ!」

 サブモニターに了の姿が映し出された。

「ひゃっひゃっひゃ」

 上下に羽ばたく大きな翼で空を自由に舞うその姿は、まさに天空の覇者。これこそが僕の力そのものだと、了は誇らしげに笑った。

「あれれっ立ち止まったままで、どうしたんですか先輩? まさか動かし方忘れちゃいました? ひひひ」

 翼の羽がミサイルのように撃ち出された。

 ルシファーはそれをかわす。

「ひゃっは!」

 機体がギリギリまで近づいてくる。桜を挑発し瞬く間に上空へと帰っていく。

「冷静にね。熱くならないで」

「あぁわかってる。姫、周囲の画像を脳に送れ……いぐっ…」

 びくんびくんと、桜の体がのけぞる。

 一気に送られた膨大な情報量に脳が悲鳴をあげたのだ。

「ごめん。データある程度絞れば良かった」

「……気にするな。反撃開始だぜ!」 

 シートに座り直すと、メインレバーを動かした。

「ルシファー・ブーメランッッ!」

 弧を描き上空へと勢いよく飛んでいくが、ウライエルには届かない。

「やはり駄目かぁ」

「兄弟揃って脳筋が」と了は鼻で笑うと、上空から攻撃を再開する。

「なんだと降りてこい! こらっ!」

「もういいから、逃げるよ」 

 降り注ぐ羽から逃げる為に、姫はルシファーを操作し走り出した。

 逃げ込んだ先に見えるのは、沢山の瓦礫の山。

 戦争でもあったのか破壊された建物。ひび割れ歪んだアスファルト。

 似てる。最初に鬼神に乗り込んだときに見たあの幻に。一真がいた、あの破壊された世界にこの景色は似ているのだ。

「ここは何処だ。なんで闘技場の中に街があるんだよ」

「……」

 姫は答えない。

 舗装された道路が崩れて出来た穴が見えてきた。そこにルシファーは飛び込んだ。

「なる程、この場所ならば上空からの攻撃は防げるか」


 

 二つの鬼神の戦いを、隼人は観覧席で見ていた。

「隼人先輩」

 後ろから巴が近づき、隣りに並んだ。

「お前も来たのか」

「はい。了は何考えてるんだか……」

 呆れ顔の巴は、溜め息をついた。

「理由は何であれ、桜の戦闘経験値が上がるのは好ましい。アイツも貴重な戦力だ……って会長なら言うだろ」

「……そうですね、一真さんならきっと」

 獲物を狙う猛禽類のように、クルクルとウライエルは回る。

「少しは頭を使ったか? だが僕の勝ちだ」

 ひひひッと、粘着性のある笑い声が響いた。

 クチバシの中から、砲身が突き出してくる。

「了、桜さんを殺す気!?」

 巴は、山吹色のカードを引き抜く。

「……リリスからの伝言だ。手をだすな……と」

 隼人はギリッと、奥歯を強く噛みしめた。

「酷い……どうしてリリス……」 

 巴は、信じられないと目を伏せる。

「……でも、だからと言って見殺しにはできません」

 直ぐに顔を上げ気持ちを入れ替えると、決意を籠めた眼差しでカードを見る。




「ウライエルキャノン! 桜、緊急離脱!」

「おっ、おう!」

「エネルギーチャージするのに時間かかるから、まだ間に合う。早くこの場から離れて!」

 ルシファーは、急いでそこから飛び出した。

「背後が、がら空きだぁ」

 ミサイルが発射されるが、姫のサポートもあり全弾をかわす。

「ひひひひゃっはっはっは、見事見事だぞ」

 了は攻撃が当たらなくても嬉しそうだ。

「サヴァイブで魂がバリバリと喰われていく感覚ぅぅ堪らんんん。これだから使い手は辞められないんだぁ!」

 サブモニターに飛び散る了のヨダレが映る。

「うわぁキモい」

 姫は桜の肩の上に避難する。

「もう少しこの快楽を味わいたいが、そろそろ僕ちんの脳が保たない。こっちが先にイッちまったら意味がない。あの世にイクのはお前だ桜!」

 了はトリガーを引いた。

 ウライエルの右足から、五本の鉤爪が撃ちだされる。

 腰の短刀を引き抜き、叩き落とす。

 一本、二本目は成功するが、三本目が間に合わない。

 後方へ飛ぶ。

 全天周囲モニターの背面に映るは、瓦礫の山。

「しまった!」

 コの字に崩れ落ちて出来た瓦礫の袋小路に、機体は入り込んでしまう。

 慈悲も無く四本目、五本目が襲い掛かる。

「ガブリエル・ビームッ!」  

 突如乱入してきたガブリエルの放った光線は、四本目を塵に帰す。

 だが最後の五本目には当たらない。

「桜さんッ!」

「うらぁぁぁぁ!」

 背水の陣で立ち向かうが、鉤爪は左腕部を貫き瓦礫の柱に食い込んだ。

「ひひひッひゃっはっはっは」

 勝利を確信した了は笑いながら、砲身を向けた。

「もう止めて、了アナタの勝ちよ」

「巴、乱入してくんな。危ねぇぞ」

 言葉遣いは乱暴だが、桜の口調は優しい。

「だとよ、ほらほら桜さんがそう言ってんだ。どけよ!」

「しかし……」

「まだ終わってない、終わってないんだよ。頼むよ、そこにいられると戦えない」

 桜はニィィィィと、口角を釣り上げて笑った。

「……一真会長……」

「はぁぁっ?」

 桜はまぬけな声を出した。

「いえやはり兄弟ですね、その笑い方、会長にそっくり」 



 巴はそう言うと、二機から距離を取る。

「喜んでいいのかそれ……さて、と左腕はもう使い物にならねぇな」

「うふふふ、嬉しいくせに」

 桜のもみあげを引っ張る。



「からかうなよ姫。イケルな」

「勿の論よ」

 ルシファーの瞳が黄色く輝く。

「……この状態でも僕と戦おうとする気合い、そこだけは嫌いじゃないぜ……アンタを認めてやるよ桜先輩!」

「教えてやるよ。負けたと心が折れなきゃ負けじゃないんだよ。後輩!」

 二人はモニター越しで、ニィィィィィと笑いあう。

「ひひっ、なら、この攻撃でその心折ってやる!!」

 砲身にエネルギーが集中する。

 ルシファーは拘束を解くために、短刀で左腕のジョイントを切り刻む。

「無駄ァァ! 例えそこから脱出できたところで逃げ道などない!」

 放たれる無慈悲の光線が、降り注ぐ。

「桜さん……いやぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 そこに残されたのは、一面の焼け野原だけだった。 

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