デビルオン

悪魔が来りて鐘が鳴る。
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狂乱の鬼神(3)終

公開日時: 2021年5月17日(月) 12:30
文字数:2,803

「ひひひひひ、ついうっかり全力で撃ってしまった。ひゃひゃひゃひゃ」

 了の癇にさわる笑い声が、闘技場に響く。

『ジジジジジジジジジジ!!!』

 警告音が鳴り、サヴァイブが危険を知らせた。

「なぬっ、真下から高熱エネルギー反応?」

 地上が紅に染まり、瓦礫がドロドロに溶けていく。

「もしかしてぇ、ルシファービームですかッッ!」

『YESYESYES』

 地表を突き破り、炎の龍が鎌首を擡げる。

「ひっいぃいいいいいいい」

 顎はウライエルの右翼に噛みついた。

「ば、バカなッ!?」

 了は急いで操縦レバーを引いて、上昇する。

「どういう事だ! 桜は生きているのか」

 右翼は炎上し、黒い噴煙を噴き上げるが直撃は免れた。

 これぐらい鬼神なら、問題ない。

「サヴァイブ、桜を探せ! ぐぅうううぅう」

 苦痛で顔が歪む。脳内に周囲の映像が一気に流れ込んできた。

 崩れたビル、折れた電柱。陥没した道路。見渡す限り広がる瓦礫の山。

 視界が捉えたのは、劣化しているが真っすぐに立っている高層ビル。

 そこを器用に、片手と両足の鉤爪で頂上まで登るルシファーの姿だ。

「なぬぅぅ」

 こちらに向かって躊躇なく、機体は飛んだ。



 ウライエル目掛けて飛んだのはいいが、ギリギリ届かない。手を最大限に伸ばしても空を掴むだけだ。

 ルシファーは重力に引かれ、落ちていく。

「うらぁ」

 手首からワイヤーが放たれると、ウライエルの左足に絡みついた。

「よぉッ後輩」

「ひぃぃぃ! ウライエルキャノンを、どうかわしたんだぁぁ」

 唾を撒き散らし、喚き立てる了の姿がモニターに映る。

「ルシファーが追い詰められたあの場所、そこに埋もれてたのは地下空間へと続く二本のレールね」

 リリス姫は、してやったりと微笑んだ。

「地下鉄を通り回避したのか……まさか最初から僕を嵌める気で」

「そう言う事だ。左腕無くなったのは痛いがな、まぁ何とかなるだろ」

 ワイヤーを巻きあげ、ウライエルのボディーをよじ登っていく。

「な、何をする気だ何をする気だァ」

 撃ち落とすわけにはいかない。そんな事すれば機体に穴が空くと、了が悩んでる隙にボディーの上にたどり着く。

「こうするんだよッッ! ルシファークローォォォォォォォ」

 右手の鉤爪で、炎上する右翼の付け根を抉る。

 グルグルグルと足場の機体が回り出す。両足の鉤爪とワイヤーが機体を掴んでいるので、振り落とされる事はなかった。

「カカカカカカカカカ!」

 桜は嬉しそうに笑いながら、翼を何度も何度も突き刺し抉る。



「桜さん良かった無事で」

 巴がホッと胸をなで下ろしたのもつかの間、ルシファーがウライエルの右翼を破壊した。

「それ以上はダメですッ!」

 アクセルを強く踏み込む。

 火花が散り、ウライエルの飛行が不安定になっていく。 

「やめろ! 馬鹿! 翼を破壊したら墜落するんだぞ!」

 闘技場に警報と了の悲鳴がこだまする。

 ガブリエルのモニターには、右翼を片腕で引きちぎろうとするルシファーの姿が映し出される。

「間に合えぇぇぇ!!」

「わかってるのか! ここから落ちたら僕たちは死ぬんだぞぉ止めて、止めて……ください。僕の負けです。もう挑発しません……朝比奈からも手を引きます! だから……許してください」

「駄目だ! 絶対に許すかボケッ!」

 懇願する了に、桜は吠えた。

「ひぃぃぃぃぃ! 死ぬんだぞ死んじゃうんだぞぉぉぉ!?」

「だが、てめぇも死ぬんだろッッッ!」

 ルシファーはウライエルの右翼を引きちぎった。



 戦いは終わった。闘技場には起動を停止した三体の鬼神が佇んでいる。

 ガブリエルの四本の腕が、片翼を失ったウライエルを掴み、その隣りにはルシファーが片膝を立てて、地に座っていた。

 パチンと渇いた音が聞こえた。巴が了の頬を叩いたのだ。

「桜さんを殺そうとしたわね!」

 いつもの憎まれ口は何処にいったのか、了は何も言わず虚ろげな瞳は、虚空をさまよっている。

「……帰る……」

 ボソッと覇気の無い声で呟くと、闘技場から姿を消した。

「俺も帰ろ」

 桜はだるそうに肩をコキコキと鳴らす。

「おいっ」

 背後から肩を掴まれ、拳が飛んでくる。

 不意をつかれ、かわす事も出来ない。

 ガッッッ、唇が熱い。錆びの味がした。

「なんだてめぇ!」

 激高した桜は、自分を殴りつけた隼人に襲いかかる。

 シッ、呼吸を細く吐きだす音が聞こえ、隼人の指が真っ直ぐ目に伸びる。その攻撃に一切迷いもない。

「くっ!」

 とっさに顔をズラす。指は目の脇の肉を抉る。

 シッ、再び呼吸が鳴り、鼻の穴を指が狙う。

 左腕を反時計周りに回転させ、その伸びてくる指の手首内側に当て、軌道を外側にズラす。

「ウオオオオオオオオオッッ!」

 右膝を、隼人の鳩尾目掛けて放つ。

 ボンッと間抜けな音が聞こえた。隼人がもう片方の手のひらで、それを受け止めていた。

 体の存在感を感じない。隼人は、その自分に向けられた力を利用し後方に飛んだのだ。

「隼人ッッッッッッッ!」

 ゾクゾクと背筋が震えた。尻の穴がきゅぅぅぅと、むず痒い。

 怖い。

 桜は叫ばなければ、先に進めなかった。

「隼人、素人じゃねぇな」

「馬波流(ばなみりゅう)、裏の業だ……桜、お前も、やってるな」

「暁流……こっちは二千年無敗の殺人術だ! なめんなコラッ!」

 眉間に皺をよせ睨みつける。

「二人とも、もうやめてください」

 巴は間に入る。

「……チッ……」

 桜は舌打ちする。

「隼人さんも、もういいでしょ」

「……」

 隼人は構えを解く。

「桜、俺達しか魔獣と戦う事ができない。それを忘れるな」

「知るかよ」

 ぷいっとそっぽをむく。

「あとは私が」

 前に出そうになる隼人を止める。

「桜さん、私たちも世界の事なんて知りません」

 生気のない瞳で、巴は自虐的に笑う。

「私たち使い手は皆、自分の叶えた願いを維持する為だけに魔獣と戦ってます。だって負けたら、きっと願いは維持できなくなる……」

 キッと巴の顔が引き締まる。先ほどの死んでるような瞳から一転、強い意思がそれに宿る。

「例えどんなに相手が気にいらなくても、戦力を減らす事は絶対になりません! もしアナタが原因で願いが消えたら、私は桜さんを許さないッ!」

「巴……」

 巴は涙を流している。感情が押さえきれなくなったのか、巴は泣き出した。

「そう言う事だ。お前が足を引っ張って、俺の願いが消滅したら、殺すぞ」



 学校の地下にある通路を、闘技場から戻った了は歩いている。

「お疲れ、坊や」

 気づくと、女生徒が横に並んで歩いていた。

「……お前か」

「よく本気を出さないで我慢したな」

「……本気だったさ……」

 女生徒は首を振り、それを否定する。

「お前が本気だしたら、桜は逃げる事も出来ずにウライエルキャノンで消滅だよ、坊や」

「くくくっ……それがお前の意思なんだろ? イザナミ」

 了は女生徒をそう呼ぶ。

「そこだけはリリスと同じだ。桜は大切な贄。御門一真をおびき寄せるための……」

「一真……くくくっアイツが再び学園に戻ってきたら、その時は始めさせてもらうさ。僕の願いを叶えるためにな」

 了は唇をブイの形に釣り上げて、笑う。

 その笑顔はまるで蛇のようであった。

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