デビルオン

悪魔が来りて鐘が鳴る。
退会したユーザー ?
退会したユーザー

2章 狂乱

狂神の鬼神(1)

公開日時: 2021年5月17日(月) 12:24
文字数:2,679

 牛若丸了は、闘技場の見学通路にいた。

 闘技場にはサイを擬人化した魔獣と、黒い鬼神が戦っている。

『あぎぃぃぃぃる』

 魂を引き裂かれるような、獣の咆哮が闘技場に響いた。

 目の前で、人型であった鬼神が異形なる姿形へと進化していく。

「ひっ」

 了は見た。八つの角を頭部から生やし、体を黒い鱗に覆われた六本腕をもつ悪魔の姿を。

「ひいぃぃぃぃぃ!」


「はぁはぁはぁ夢か」

 自分の悲鳴で目覚め、深々のベッドの上で跳ね起きた。

「了様、どうしましたか?」

 自室の扉を上品にノックし、住み込みのハウスキーパーが声をかけてきたが無視する。

「……」

 了の性格を把握している為、それ以上は声をかけず去っていった。

「あの黒い鬼神はなんだ。会長のルシフェルなのか」

 体育座りをし、ギリギリと利き腕の親指の爪をかじりだす。

「だがルシフェルがあんな化け物になるなんて、僕は知らない」

 ――四鬼神ではないのか。

「へひぃ」

 ――なら今狩ってもいいのか。

 口角をつり上げて不気味に笑い、携帯を取りだした。



 誰かにつけられている。

 早朝、御門桜は学校行く道中に、そう思った。

 何時からか。

 家からでは無い。学校近くに来て、視線を感じはじめたのだ。

 電信柱や郵便ポスト、生徒達の隙間から黒髪ボブカットの少女がこちらを見ている。

(バレバレだぞ)

 そう言って、ツッこんでやろうかと何度思った事か。

 制服が一緒なので、暁学園の生徒に間違いない。

(まぁいいか。可愛いし。用事あれば、話しかけてくるだろ)

 楽天的にそう考えて、放置を決め込む。


 放課後の鐘が鳴った。結局可愛いストーカーは話しかけてこなかった。

 二年が使用してる校舎二階に足を踏み入れてから、気配は消えたので同学年で無い事だけはわかった。

「桜、遊び行こうぜ」

 同じクラスの中島和也に誘われて、教室を後にする。

 中島は一真の悪友と舞姫から聞き、交流を深めたのがきっかけで、気づくと友達になっていた。


(やはり、ついてきた)

 バッティングセンターでバットを振りながら、ストーカーの視線を感じるが、気にしないで中島から一真の話しを聞く。

「兄貴って、ここではどんなだった?」

「うーん一言で表すとバカかな。『ばかずま』って、彼女の霧島さんもからかってるしね」

「霧島コアか?」

「だよ。兄の彼女だし知ってるよな」

「幼なじみだ」

「はぁん。二人揃って、姉属性美人とロリ属性の幼なじみと付き合えるなんて、御門兄弟前世でどんな善行を積んだのよ。羨ましいぃ」

「……正直中島の方が羨ましい。俺、兄貴の事何も知らない。中学ぐらいからは殆ど口聞かないし」

 ボリボリ。中島は坊主頭をかきながら、口を開く。

「カズマと放課後屋上で、よく殴り合ったよ」

 中島のバットが真芯を捉え、ボールは心地よい音で飛んでいく。

「えっ中島、兄貴と仲悪かったのか」

「親友だよ。アイツもそう思ってるはず。まぁ色んな形があるんじゃないの。友情にしろ、弟に対する愛情にしろさ」

 へっへっへっと、どや顔で鼻を指でこすった。


「バイトあるからまたな桜」

 中島と別れた桜は、少し前からストーカーの気配が消えた事に気づいていた。

(あの子もバイトか)


「通して、見失っちゃうよ」


 少女の声が自販機が並ぶ一角から聞こえてきた。

 覗き込むと、三人組みの見るからに軽薄そうな男達が、黒髪ボブカットのストーカー少女をナンパしている。

「はぁぁ」

 桜は溜め息を一つつき、その中に飛び込んだ。


 男達は、「彼氏いたんだゴメンね」と爽やかに帰っていく。

「去り際も軽いな。都会って感じ」

 腕組みして感心してると、「先輩」と話しかけてきた。

「アタシ、高等部一年の朝比奈旭っていいます。今回も助けてくれてありがと」

 ぺこりとお辞儀してくる。

「今回も?」

「あのその、先日生徒会室で了さんと……」

 後半は声小さくなって、聞こえなかったが理解した。

「やっとお礼言えた」

「だから、つけ回してたのか」

「バレてたぁ。うぅ完璧な尾行だと思ってたのに」

「旭、その後メガネ……了に付きまとわれてないか?」

「その件で話が、アタシ、了さんの彼女なんですよ。いやぁーこの前はいきなり迫られて、驚いてしまったというかぁ」

 明るい口調とは裏腹に旭の表情は、悔しさと無力感で悲しみに満ちている。

「なので、今後は現場見かけてもスルーで」

 にこっ。無理やり笑顔を作ると、桜の返事も聞かず去っていった。



「旭?」

 一瞬だが、瞳から涙が零れ落ちるのが見えた。

「ふられちゃたね」

 後ろから舞姫の声が聞こえた。振り返ると買い物袋を仲良く二人で持つ、七瀬と舞姫が近づいてくる。

「こういう時は追うものよ、桜くん」

「うん」

「うんって……七瀬姉の言葉は、素直に聞くんだね」

 舞姫が手のひらを口に当てて、半目でからかってくる。

「そ、そんな恥ずかしいこと言うなよぉ」

 桜は「きゃー」と、真っ赤な顔を両手で隠し、旭を追った。


 すぐ近くから旭の悲鳴が聞こえた。建物の裏側付近に暁学園の制服を着た二人組みの少年が、見張るように立っている。

「あれか」

「通行止めだ。他をまわりな」

 近寄るとニキビ面の少年が、シッシッと野良犬を追い払うように手を動かす。

「いやっ」

 奥から、旭の小さな悲鳴が響く。

「どけっ」

「あっ聞こえなかったか?」

 ニキビ面の顔色が、怒りでどす黒くなっていく。

「こ、こいつ噂の転校生」

 もう一人の少年が桜を見るとそう言って、汗を吹き出した。


 奥に進むと、空調機が見えてきた。その物陰で了が旭の体を押さえ、顔を近づけていた。

 二人と視線が合う。

「先輩! た――」

 タ・ス・ケ・テと唇は動いていた。

「ひぃぃぃぃ」

 了は酷く怯えた声で、悲鳴をあげる。

「み、見張りはどうしたぁぁ」

「帰ったぜ」

「あいつらめ、何のために毎月金渡してると思ってんだ」

「了!」

「ひいぃデカい声だしたって、怖くないぞ! ぼ、僕は金持ちだ。い、いくらほしいんだ」

「俺がほしいのは、旭だ」

「せせせせせ先輩」

 旭の顔が真っ赤に染まる。

「はぁぁ馬鹿なの馬鹿なのか。ヒナは僕の彼女なんだぞ」

「お金で買った彼女でしょ」

 七瀬の声が近づいてくる。二人が追いついたのだ。

「それでも彼女は彼女だ! ヒナの父親が経営する会社を救ったのは僕だ! 朝比奈家は喜んでヒナを売ったんだ」

「最低ぇ」

 舞姫がゴミを見るような目で睨み、吐き捨てる。

「煩い煩い煩い! 何なんだアンタらは。邪魔ばかりして! 僕はアンタらに何もしてないだろ」

「俺はお前が気に入らないだけだ」

「僕もだよ! 僕もアンタが気に入らない!」

 ガチガチと奥歯を鳴らしながら、了は桜に怒りをぶつける。

「勝負しろ」

 震える体で桜を指差す。

「いいぜ、かかってこい!」

 桜は口角をつり上げて笑った。

「こここ、ここじゃない。鬼神で勝負だ!」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート