ライラック色の少女たち

人嫌いの白髪少女と変態淑女の編入生が織りなす、全寮制お嬢様学校の物語
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4★.先輩とあたしの×××

公開日時: 2022年10月30日(日) 00:00
文字数:3,585

 ビジネスホテルの個室は広さで言えば安アパート並であり、浴室も岬が今まで使ったことのないユニットバスであった。もっとも、設備や調度品はきちんとしており、ロビーには乾燥機能付きのコインランドリーまでしつらえられていた。


 チェックインを済ませた後、瑠乃亜は岬に服をすべて脱ぐよう指示し、それらを洗濯機の中に詰め込んだ。乾燥が終わるまで、岬はカーテンに仕切られたバスタブの中に閉じ込められることとなった。


 熱いシャワーの中、岬はくしゃみを手で押さえ込んだ。身体の冷えは回復しつつあったが、衣類から下着にいたるまで何一つ身につけていないという事実が岬の心を寒くさせた。これが自宅ならともかく、今は先輩との買い物の途中であったのだ。


 今まで岬は自身の肢体に対して、清潔感以外に関心はなく、会長と出会ってからは何かと自分の身体つきを過小評価しがちであった。むろん、それはあくまで美しい先輩と比較した結果で、総合的に見れば岬の容姿は水準より高い。


 何者にも触れられたことのない天使の柔肌は、まるで乳白色の燐光を纏っているかのようであり、三つ編みをほどいた黒髪がその柔肌に艶やかに張りついている。あどけない腰のくびれに小尻の弾力、程よい肉づきを保ちつつもしゅっと伸びた脚、そして胸のふくらみも、魅力に気づいていないのは本人ばかりというのが何とももどかしい。


 未来の変態淑女は、むろん数年先の可能性より今後の状況について考えることの方が最優先であった。熊谷会長の機転には感謝するが、行動の自由を封じられた件に関してはあまりいい気分はしない。もっとも、原因を作ったのは先輩ではないから、これに関しては恨むのは筋違いだ。

 シャワーでまとわりついた汚れを洗い流し、アメニティの石鹸で泡立てたボディタオルを肌に押し当てていく。


 ユニットバスの扉がいきなり開かれたのはそんな時だ。


「どう、岬。少しは身体が温まってきたかしら?」

「せ、先輩ぃ⁉」


 無様に声が裏返り、岬は手に持っていたボディタオルを取り落とした。カーテンで仕切られているとはいえ、全裸の自分が先輩と同じ空間にいるという事実は、心臓にあまりにも負担が大きかった。


 だが、岬の驚きはほんの序章に過ぎない。何を血迷ったのか、美人の先輩はカーテンを勢いよく開け、バスタブの中に堂々と乗り込んできたのであった。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ……」


 ちょっと、という短い言葉ですら岬は口にすることができない。


 乱入してきた瑠乃亜はミュールとジャケットを脱いだ以外は着衣のままであり、水気と湿気をまるで意に介してないようだった。

 正面から黒真珠色の視線が直線状に伸び、健康的にふくらんでいた岬の胸を捉えた。狼狽の極地におちいった黒髪少女は咄嗟にボディタオルでそれを隠したが、対抗策としては何とも頼りない。


 瑠乃亜の唇に微笑と苦笑が同時に浮かんだ。


「ふふ、恥ずかしがらずともいいのよ。ここには私しかいないのだから……」


 先輩しかいないのが大問題なのである。

 しかもその先輩は瞳に暗色の陽炎をたゆたわせながらゆっくりと全裸の少女に近づいている。

 ボディタオルを握りしめながら岬は必死のていで叫んだ。


「だ、駄目ですよ先輩っ。先輩が服を濡らしてしまったら、一体誰があたしの服を回収してくれるんですかっ……」

「問題ないわ。このホテルのクローゼットにはガウンが備え付けられているから。いざとなればそれを着て出ることができるわ」


 岬は口をぽかんと開けて立ち尽くした。そういうことは早く言ってもらいたい。

 茫然自失となった岬だが、その隙を突いて瑠乃亜はすっと彼女からボディタオルを奪い去った。さらに抱擁直前の距離まで詰め、水気を帯びた柔肌にタオルの泡を押し広げていく。

 岬は全身をよじらせて抵抗した。


「せ、先輩、身体くらい自分で洗えますから……!」

「そんなことはわかってるわ。ただ私自身の手であなたのことを綺麗にしてあげたいの」


 言いながら、先輩はてきぱきと岬の肢体を洗っていく。特に胸や背中、腰、尻に関しては念入りにボディタオルで徹底的に愛撫された。


 岬はどうにもできなかった。目上の人が相手という意識がこの期に及んでも抜けきれずにおり、それ以上にこの先何が起こるかわからないという恐怖が岬の行動を縛りつけていた。


 きゅっと目を閉じ、全身に這い回るむず痒い感触が収まるのを待つしかなかった。


 気がつけば足の指の間まで丹念に洗われていた岬は、ボディタオルの感触がなくなったのをさとると、恐る恐るまぶたを持ち上げる。

 一瞬後、プルーン色の瞳が大きく見開かれた。眼前に先輩のかんばせが迫っており、それに気づいたときにはすでに暖かい接触が岬の唇に訪れていたのだった。


「んっ……⁉」

「ふふ、岬の唇にキス、しちゃった……」


 小悪魔めいた声とともに先輩はすぐに顔を離した。初めての同性どうしの接吻に無垢な少女は衝撃のあまり声がない。

 紅潮と羞恥が可憐な顔に浮かぶと、瑠乃亜の表情も劇的に変化した。大人びたかんばせが桃色にとろけ、麗しい声は恍惚によって韻律が乱れている。


「ああ、素敵……! 岬に出会えて本当に良かった! こんな最高な子、他の男どもなんかに絶対渡したくない……‼」


 最後は凄みさえ込めて言い放ち、瑠乃亜はシャワーで岬の肢体にまとわりついていた泡を勢いよく落とした。みずみずしい肢体が光沢とともにあらわになる。

 この一連の流れで瑠乃亜の服も濡れないはずがなく、特に白いフレアスカートはふくらみを失い、シースルー部分が白い膜となって脚にぺっとりと張りついた。


「まとわりついて邪魔ね……。どうせガウンもあるし、脱いでしまいましょう」


 臆面もなく言い、本当に瑠乃亜は岬の前であっさりとスカートを下ろした。


 白くて肉感に富んだ美脚が晒される。岬の顔はすでに熱膨張寸前の有様であったが、彼女が釘付けになったのは先輩のおみ足だけではなかった。


 瑠乃亜がスカートの下に穿いていたのは黒のショーツだった。岬のよりも布地が小さく、縁に細かいレースがあしらわれている。美しいを通り越して官能的でさえあった。いくら大人びた美貌の持ち主とは言え、このような大人の下着が似合う中学三年生は他にいないように思われた。


 シャワーの水音以外、時間が停止したような空間で、岬は先輩の下半身に視線が吸い寄せられていた。瑠乃亜はカットソーまでは脱ぐつもりはないようだが、少女の胸をざわつかせるには十分すぎた。

 湿気を帯びた紫檀色の髪をつまみながら、黒ショーツの美少女は唇を薄く吊り上げる。


「ふふ……いい目ね。何も知らない仔猫ちゃんの目。やはり、私がアーテルのブローチを持つことになったのは宿命なのね」


 アーテルというのは『月の魔女セレナ』に登場する黒ネコの名前のはずだ。ブローチの件は偶然だろうが、それにこだわっていられる余裕はむろん岬にはない。


 瑠乃亜は再び、岬にかんばせを近づけた。


「下心丸出しの連中の視線よりよほどいいわ。ああ、欲望を抑え切れない……! このままあなたを虜にしてあげたい……」


 スカートを脱いだ先輩は軽やかな動きで岬にしがみつき、再び唇を重ねた。だが、二度目のキスは最初のものとはまったくの別物だった。何も知らない少女は茫然と唇を開けてしまい、そこに生ぬるい質感がねじ込まれた。


「……んふぅン⁉」


 おぞましい触感に岬の心臓が飛び上がった。


 湿った舌が口腔にまで滑り込んだため、岬は瑠乃亜の抱擁の中で必死にもがいた。大きさに差のある胸どうしがぶつかり合い、その間にも酸素も理性も薄れていく。無意識に舌を伸ばし、くぐもった吐息とともに同じもので絡みとられる。


 張りついた唾液とともに舌を引っ込めると、瑠乃亜はピンクのヴェールで表情を覆いながら自身の上唇をいやらしく舐め上げた。


「あらあら、暴れるなんて悪い子ね。そんな子にはお仕置きしなきゃ……」

「そんな……ん、ひィっ……⁉」


 悲鳴とともに岬の腰は砕けかけた。先輩のみずみずしい太ももが岬の股座に押し当てられる。先輩と違って遮るものが何一つ存在しない岬は、冷たくも艶美な弾力を直接受けることとなった。


 そこにさらに先輩の激しいキスが再開される。抱擁も強まり、岬はついに感覚の嵐についてこれなくなった。

 抱擁が緩まった一瞬で、バスタブにもたれるように姿勢を崩した。


「ふふ……そんな無防備な格好で大丈夫かしら?」


 大股で座り込み、舌を出しながら息をする醜態を見つめられても、岬は意識がのぼせ上っており、ぼんやりと先輩を見返すことしかできない。


 その上に黒ショーツの先輩がまたがり、獣のように体を重ねて少女の魅力を堪能しつくす。

 もはや岬に払いのけるほどの力はなく、欲情に支配された先輩の為すがままにされた。


 シャワーの水音に混じって、もつれ合う音はしばらく続いた。岬は何度か甘い声を発したような気もしたが、当時の記憶力など当てになるはずもなかった。


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