何の因果か異世界転移! スケバン令嬢の筋通し

The Sukeban Lady Adventure
光陽亭 暁ユウ
光陽亭 暁ユウ

第六筋 転移で追撃、何の因果か増えゆく恩義!

公開日時: 2020年10月7日(水) 19:02
更新日時: 2021年1月12日(火) 09:13
文字数:3,495

「総員突入!」

「あ、どうもお疲れ様です」

「へ……?」


 盗賊の隠れ家、その最奥に突入した衛兵達は目を見開いた。

 道中も盗賊は倒れていたが……最奥では、縛り上げられた首領を尻目に有栖と真白が牢屋をたたき壊し、中の女性を助けだしているのだ。

 線の細い女子二人がそのようなことをしているのは、一種異様な光景だろう。

 そんな光景に驚いていると、有栖が担ぎ上げた白髪の女性を差し出してきて、衛兵は戸惑いながらも彼女を受け取る。


「その方、盗賊に捕まってこき使われていたそうですの、そちらで保護を」

「あ、ああ……ところで、この盗賊は君達が?」

「……え、ええ、その通り、私達がギッタンギタンのボッコボコにのしてやりましたのよ!」


 戦争にならないよう、自分の存在を秘匿する。

 朧の言葉を思い出し有栖は自分が盗賊を倒したことにするつもりのようだ。

 真白も隣で、意図を察してうんうんと頷いている。

 正直モストロという国について知りたいことは多いし、魔物というのが何なのかも気になるが……今は後回しだろう。


「なるほど……では後ほど報奨金が出るから、是非受け取って欲しい」

「……! それはできねえですわ!」

「へ?」

「……あちゃあ、真面目だねえ……」


 衛兵の困惑も仕方がないだろう。

 自分で盗賊を倒したくせに、報奨金はいらないなどと言うのだから。

 衛兵の側からしてみれば全くもってわけがわからない。

 一応これは、有栖の側からすれば自分が倒したわけでもないのにお金を貰うなんて、筋が通っていないというちゃんとした理由があるのだが……。

 何はともあれ、このままでは怪しまれてしまう。

 しょうがないので真白は助け船を出すことにした。


「私達、ここにはのみの市から盗まれた自分達の商品を取り戻しに来たんです」

「あ、ああ……通報者からもそう聞いているが、盗賊に盗まれて追いかけたと」

「でしょ、結局それを売ればお金は入りますし、民衆から貰った大事なお金は私達みたいなよそ者じゃなくて、ここに住む人達に還元してあげてください」

「あ、ああ……分かった!」


 どうやら、真白の言葉に衛兵達は感銘を受けているらしい。

 そんな彼らを尻目に、奥に散らばる金品の山へ向かいながら、有栖は真白を軽く肘で突いた。

 そして衛兵に気付かれないよう頭を下げて、こっそりと礼を囁く。

 そんな有栖に、真白は笑みを深くする。


「サンキュー、やっぱ真白は最高の相棒ですわ、すっげえたすかりますもの」

「えへへ、どうもどうも、私もさ……有栖ちゃんのそういう真面目なとこ最高に大好きだよ」

「へっ……そう言われると、悪い気はしないですけど照れちまいますわね」


 さて、こうして有栖と真白は金品を漁り始めたのだが……。

 金品の量自体はそこまで多くはない。

 恐らく違法に手に入れた毛皮を密輸業者などに売り捌くのがメインだったのだろう、略奪品はあまりなく、有るのは現金ばかり……。

 それ故に、二人はすぐ異常に気付いた。


「……ない、まさかもう捌かれたのか……!? ふざけんじゃねえですわよ!」

「いや……ちょっと待って、思えばさ……盗んだ泥棒って女の人だったよね、でもここには男しかいなかった、つまり……」

「ここはスケープゴートでしたの!? くそっ、ふざけやがって! 冗談じゃねえですわ!」


 いきり立ち、憤慨する有栖。

 どうやら泥棒はこの場所へ入ったと見せかけて、何かしらの手段で逃げていったらしい。

 魔法が存在する世界なのだ、その可能性くらい考慮しておくべきだった。

 真白も珍しく舌打ちをし、苛立っているようだ。


「ごめん、考えが甘かった」

「しょうがないですわ……真白が気にする必要なんてなくてよ、それよりも早く追わねえといけませんわね……」

「待って、たぶんそろそろ夕方だよね? そこまで来て、しかも見失ってるの状態で闇雲に追うなんてダメだよ、一旦デネボラさんのとこに帰ろう」

「くっそお……! はがゆいモンですわね……!」


 ままならなさを噛みしめ、有栖は床を殴る。

 八つ当たりすることしか出来ない、完全な敗北だ。

 してやられた……というほかないだろう。

 その気持ちは真白も同じようで、顔をしかめて腕を組んでいる。


「とりあえず……明日また頑張ろう、ここまで来たら筋じゃない、落とし前だよ、指十本切断してやる」

「何かしらの落とし前か……それも一考しなくちゃならねえですわね……クソッ、覚えてやがれ……!」


 舌打ちをし、来た道を戻り出す二人。

 衛兵達は盗賊の護送をまず行っているらしく、既にいない。

 二人きりの状態で腕を組み歩く有栖と真白だが……その目の前で、突如白い光が広がった。

 また光の道が開かれたのだ。


「……!? 何の用ですの!? アタイらは今、機嫌がわりいんですのよ! 窮奇でしたっけ? アンタと問答してる暇はありませんの!」

「おっと……もう名前知ってるのか、朧め口が軽いんだから……ま、とりあえずそうじゃないよ、もう一つ恩を売りに来たの」

「恩を……?」


 訝しむ有栖と真白、その前で兎がちょこんと手を動かすと白い光の中に草原を走る女性が映し出された。

 その手には、盗まれた服が握られている。

 どうやら手放してはいないらしい。


「彼女は恐らく、密輸組織のもとへ向かっているね、レアものとして売り込むつもりらしい……どうする? 転移させてあげることも出来るよ」

「……確かに、どっちに逃げたかは分かんないか……これ以上恩を売るのも怖いけど」

「でも、怖がってちゃ進むことも出来ませんわね……分かりましたわ、女は度胸……恩を受けてやろうじゃありませんの!」

「OK、じゃあ……行くよ!」


 窮奇の一声とともに、体が吸い寄せられていく。

 光の中を、自分達も光となり通っていくような感覚だ。

 だが今度はバイクという掴まる物が無いため、二人は互いを掴みながらバランスを崩し、まるで宙を漂うかの如く道を通っていく。

 正直かなり酔いそうな感覚だ。

 そんな中……光が失せ、有栖と真白は地面に投げ出される。

 全身に生じる激痛……衝突の感覚。

 これでもし、目の前に転移させられるというのが嘘だったり座標ズレが起きていたらタダじゃおかねえ……と考えながら有栖は顔を上げる。

 そこには、戸惑う女性がいた。

 赤と金が混じったアシンメトリーの髪型に、如何にも盗賊らしい軽装……そして長いマフラー。

 有栖は立ち上がると、彼女に掴みかかった。


「返して貰いますわよ、その服! それは大事な商品ですの! アンタが持ってって良いモンじゃなくてよ!」

「んだてめえっ……! 放せよ!」


 取っ組み合いになり、服が空中に放り出される。

 真白はそれをキャッチしてサムズアップした。

 そんな彼女に有栖もサムズアップを返す。


「奪還成功! 上下から下着に靴まで、全部揃ってるよ!」

「でかしましたわ! なら後は……テメエを殴るだけですわね!」

「チッ……!」


 草原を転げ回り、睨み合う二人。

 先に拳を出したのは女性だ。

 有栖の顔面を狙い拳を放つが……しかし、有栖は頭突きで拳を受け止める。


「ってえ……!」

「それは、こっちのセリフだっつうんですわよ!」

「うるせえ! なんだその胡乱な言葉遣い! お嬢様気取りやがって!」

「やかましい! こっちだって気にしてんだよ、そいつは!」


 叫びと共に有栖も拳を放つ。

 しかし女性は首を動かして回避し、地面を殴りつけてしまった。

 草原とはいえそれなりの勢いがある拳だ、流石に痛い。

 その隙を突き、女性は体を大きく動かして有栖に上乗りする。

 形勢逆転だ。


「へへっ……勝ちだな」

「へっ……そいつはどうかな?」

「あ?」


 呆けた声を上げる女性。

 そのマフラーが突如しまる。

 真白が引っ張ったのだ。


「ぐえっ……! ん、ん……!!!」

「稲葉真白をお忘れなく……ってね!」


 マフラーを必死でほどこうとする女性、だがそれはかなわない。

 そのまま女性は昏倒し……真白はマフラーに込めていた力を抜いた。

 殺してはいない、飽くまで気絶させただけだ。


「ナイス、わざと隙を作った甲斐が有りましたわ、ってて……!」

「そっちこそ、わざわざ地面を殴ってまでして見せ場をくれてありがと!」


 ハイタッチをする二人……だが、有栖はまだ手が痛いようだ。

 しかし、地面を殴ったのはわざとだったようなので、後遺症をもたらすほどではないのだろう。

 何はともあれ、これであとはレプレに戻るだけ……幸いにも草原の先、下り坂になっている道の向こうにはレプレが見えているようだ。


「この人どうする?」

「そりゃ連れて行きますわよ、さあ行きましょ! 戻ったらシャハルさんに勝利報告ですわ!」


 女性を担ぎ上げ、二人は歩き出す。

 今は光の道が開く様子は無いようだ。

 その事に安心すると同時に……二人は、どうやってこの女性に落とし前を付けさせるか……などと考えるのだった。

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