何の因果か異世界転移! スケバン令嬢の筋通し

The Sukeban Lady Adventure
光陽亭 暁ユウ
光陽亭 暁ユウ

第八筋 何の因果かゴシックロリータ、令嬢達のキャッキャウフフ

公開日時: 2020年10月9日(金) 21:04
更新日時: 2021年1月12日(火) 09:20
文字数:3,669

「んー、気持ちの良い朝ですわね、異世界の朝も二日目……ラジオ体操の一つでもしたくなりますわ」

「ははは、ラジオがこの世界にあればしてたのにねえ、実はスマホに入ってる?」

「スマホにあるのはお気に入りのロックミュージシャンばっかでしてよ、日々変化してこそロックンロール……良い言葉ですわ」


 デネボラ邸で迎えた二度目の朝、朝日が差し込む部屋の中で二人は窓の外を見る。

 そんな中……ふと、真白は顎をさすり始めた。

 考え事があるときの癖のようなものだ。


「そういえばさ不思議な話だよね、異世界だっていうのに太陽も月も大気も言語形態も、全部元の世界と同じだもん」

「確かに……モストロ人なんて名前からして完全に漢字社会ですものね」

「この辺も、私達がアルファベット読めないだけで私達の世界と同じって可能性は大いに有るよねえ、もっと語学勉強しとけば良かったなあ」

「私達、外国語全般赤点でしたものね……」


 勉強不足を嘆きつつも、この奇妙な符合は何を意味するのか考える真白。

 その後ろでドアが開いた。

 そして部屋の中に、勢い良くオノスが入ってくる。

 何やらどうやら何なのやら、この世の終わりのような焦り顔だ。


「おっと、オノスちゃんおっはー」

「何かありましたの……?」

「た、助けてくれよ! あのメイドがオレに変な服着せようとするんだ!」


 変な服、そう言われて有栖と真白はそれぞれ別々の服を思い浮かべる。

 だが、思い浮かべている服は別々だ。

 別々なのだが……どちらもマニアックである事は変わりないらしく、顔を赤くしている。


「変な服って、もしかして賭博場っぽいバニースーツとか?」

「いやいや……もしかすると、ピッチピチのボンデージファッションとかかもしれませんわよ、やっべえな……」

「いやんっ、むっつりなんだから!」

「風評被害ですよ!? 二人とも何仰ってるんですか!?」


 驚愕しながら部屋に入ってくるシャハル。

 その手には、ゴシックロリータ衣装が握られていた。

 どうやら変な服というのはこの服らしい。


「何そのゴスロリ、マニアックじゃん」

「人の私服になんてことを仰るんですか!?」

「私服なんですのね……」


 私服、そう言われて有栖はシャハルとゴスロリを見比べる。

 ゴスロリダルメシアン獣人……確かに可愛らしくはある。

 可愛らしくはあるのだが、何故それをわざわざオノスに着せようとしているのかが分からない。

 つり目、よく見ると右眉の上に斜め傷があるスカーフェイス。

 そんなオノスにはあまり似合わないように思えるのだが。


「しかしなんで、それを着せたいんですの? まさかそういう趣味なんじゃ……」

「違いますよお、だってオノスさん服を洗濯しなきゃいけないから替えがいるじゃないですか」

「なるほど、それで私服かあ……にしても私服ゴスロリなんだ」

「オレは絶対やだからな! それなら裸で外に出る!」


 ベッドを盾にし、威嚇するオノス。

 このままでは本気で裸のまま外に出かねない。

 そう思っていると……部屋の中にデネボラが入ってきた。


「やあ、朝から元気ですな」

「あっ、デネボラ様! すいませんお騒がせして!」

「おっちゃん! アンタからもこのメイドに行ってくれよ! ゴスロリなんて似合わないって!」

「ほほう……」


 オノスの言葉に、デネボラは興味深そうな顔をする。

 そして、似合わないと言っている理由を考察し始めた。

 恐らくは顔の傷とつり目を指してそう言っているのだろうが……。

 しかしそこは商人、そんな言葉にも対応できるだけの経験がある。


「あなたはその傷を気にされている様子だ……しかし古来より、女子はメイクで化ける者シェイプシフター、などという言葉があります」

「な、なんだよ……アンタメイク一つでこの傷がどうにか出来ると思ってんのかよ!」

「ええ、私が各地で集めてきた商品を駆使すれば必ずや」

「はん……何がメイクだ! やれるもんならやってみやがれ、それで似合う顔になったらゴスロリくらい着てやらあ!」


 売り言葉に買い言葉、軽率に発言してしまったオノスに、デネボラが頷く。

 そんなことをしても着ない、と言えば良かったものを……。

 こればかりは、ヤンキーの悲しい習性と言えるだろう。

 メイクセットを取り出すデネボラに、オノスはただただ戦慄するしかないのだった。




「これが、オレ……!?」

「うわあ、古典的な反応してるよ」

「うっせえなあ! しょうがねえだろ!」


 粉、紅、眉墨、液……。

 天然素材によって作られたそれら化粧品と、眉剃り用の刃物。

 そういった商品により、メイクアップされたオノス。

 その傷は完全に隠れたわけではないものの、髪型を整えて他の箇所を磨き上げたことによりそちらに目が行き目立たない。

 また目つきが悪い印象だったつり目は、眉をしっかり整えたことでむしろ凜々しさになっている。

 凜々しい印象はゴスロリによく合うだろう、ゴスロリとは何もかわいさだけではないのだ。


「ち、ちくしょう……完敗だ……! 年の功は強い、かなわねえ……!」

「ははは、あなたの魅力を引き出せて何よりです、では約束通りシャハルの私服を」

「くう……ちくしょう、宣言したからには仕方ねえ……! ついでに化粧品も宣伝してやるよ!」


 腹をくくり、服を脱いでゴスロリを奪うオノス。

 そんな彼女にさっとデネボラが目を逸らした。

 そのまま部屋を出て行くようで、そういった振る舞いはまさしく真摯の鑑だろう。

 それを確認し、着替えが継続されるが……。

 慣れないゴスロリに、オノスは戸惑っているようだ。


「んだよこれ、どう着るんだ……こんなん令嬢時代にも着たことねえよ」

「あっ、今着付けを教えますね!」


 細かい着付けを教授するシャハル。

 対してオノスは困惑気味だ。

 そんな様子を見ながら、有栖達はゴスロリは存外面倒なのだなあ、としみじみかんがえているらしい。


「そういえば……着付けしながらで悪いけど、色々質問とかいい?」

「あ、はい、良いですよ?」

「良かった、実はモストロって国と魔物のことが知りたくて」


 モストロ、魔物、その言葉に二人が反応する。

 しかしいい反応とは言えないだろう。

 二人の表情は険しく、あまり触れるべきではないと言いたげだ。

 だが聞かないことには何も始まらない、真白はそう考えて話を撤回したりはしない。


「モストロはこの国と冷戦中の国です、そこに住む種族のことを魔物って言うんですね」

「人間でも獣人でもないけど、人間に似た形態と獣人に似た形態が有って……でもどちらも確実にどちらの種族ともちげー形態、そんな二つの姿を持った種族だよ」

「ふんふんなるほど……」


 ここまでは朧と女性の会話や、朧の戦いを見て知っていた情報だ。

 ならばここから、何故冷戦状態なのかを知っていく必要があるだろう。

 何せモストロ側こそが自分達を召喚した存在、接触前にはしっかり詳細を確認しておく必要があるのだ。


「なんで冷戦なんて状態になっちまってるんですの?」

「それは……一応国からの公式発表ではプシュケーの研究成果を狙って圧力をかけてきていると」

「たださあ、その研究が何なのかもどんな風に圧力をかけてきてるかも分かんないまま鎖国だ冷戦だってなったんだよな、だからぶっちゃけ分かんねえよ、なんも」


 どうやら詳細に関しては彼女達もよく理解していないらしい。

 理由すらも良く明かされないまま、彼女達は冷戦と鎖国に巻き込まれてしまったようだ。

 国に住む者でもそうなのだ、ならば有栖達が国の上層部から知るのは難しいだろう。

 圧力の真意を知るには、接触して確認するのが一番なのかもしれない。

 そう考える有栖、その横で真白は頬を押さえながら息を吐いた。


「にしても、圧力をかけてくる魔物の国と人間の国かあ、なんかRPGみたいだねえ、ちょうどメンツに盗賊も加わったし」

「いや……元スケバン、ヤクザの令嬢、メイド、盗賊のRPGなんてもんはどこ探してもねえですわよ」

「あーるぴーじー?」

「あー、こっちの話ですわ、気にしないでくださいまし……っておお、しっかり着付け出来てやがるじゃねえですの!」


 シャハルの見事な着付けにより、オノスはしっかりと黒いゴスロリを身に纏っている。

 金と赤が混じった髪に黒色のドレスというのは中々にほれぼれする美しさだ……。

 すこしだけ化粧が服の内側に付着してしまったので、最後に化粧を整え直して完成。

 実はゴスロリを着せたのは、単にシャハルの私服がこれだからというのもあるのだが、真意としては昨日泥棒騒ぎにより服装を一部に見られた彼女を、泥棒だとバレなくするため……というのもある。

 その点もこれならバッチリ、問題ないことだろう。


「んだよお……見てんじゃねえっての……!」

「んー、ナイス恥じらい、嗜虐……いや、可愛くてたまんないねえ」

「おっさん臭いですわよ、真白」


 見つめられ、赤らむオノス……。

 それを眼福と眺める真白。

 そんな彼女達を見ながらシャハルはメイクセットを片付け、有栖は腕を組んでいる。

 穏やか時間だ……今日はこんな風に穏やかに時間が過ぎればいいのだが。

 そう思いながら有栖は息を吐く。

 しかし……そんな彼女へ不穏の足音を告げるかのように、窓から風が吹き込む。

 それを浴びながら、有栖は目を細めるのだった。

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