「う……」
「おっ、目が覚めた?」
その日、筒本夫妻は縛られた状態で静かに目を覚ました。
どうやらどこかの倉庫らしい。
暗く風もない場所で、黒服に囲まれた少女が二人を見下ろしている。
張り付いたような笑みを浮かべる、まるで悪魔のような少女だ。
脇に控える黒服達も相まって、その存在感は例えるなら魔王だろうか。
「5年ぶりかな? かわいそうにねえ……殺人罪と詐欺罪で指名手配じゃ、組からもはしごを外されちゃったか、それでも愛知内を5年逃げ続けたのは凄いと思うよ、色んな市を転々として……でも最後に戻ってくるのがこの名古屋とはね、よっぽどのバカか、それか逃亡生活に疲れでもしたの?」
「あ、あんたは……?」
「名前なんてどうでも良いでしょう……? 名前も立場も関係ない、これからあなた達を拷問する女の名前があなた達に必要だっていうの?」
真白はそう言うと、後ろを向いて楽しそうに荷物を漁る。
そんな彼女を見ながら筒本は静かに震えた。
何故彼女が拷問をするのか分からないのだ。
自分達は確かに恨まれることをしてきた……だがこの面識が殆ど無い少女に嬲られる理由が思いつかない。
「な、何のために……」
「有栖ちゃん」
「え……?」
「私の愛しい有栖ちゃんをお前達は苦しめた、他の命に価値は感じないが、それだけは許さない、殺してやりたいとこだが……拷問で勘弁してやるよ」
笑いながらそう言うと、真白は裸の筒本へバーナー片手に歩み寄る。
そして……彼女の股ぐらを勢い良く開かせた。
黒服がその状態で彼女を固定する中、真白は不敵に笑う。
そして、ゆっくりとバーナーの先端を突き入れた。
「な、何をするの……!?」
「なあに……女の武器を悪用する淫売には良い薬でしょ? その汚れまみれの下半身、綺麗に消毒してやるよ!」
「ひっ……! や、やめ……! いっ、が、あああああああ!!!!」
「はははっ、ビッチが生娘みたいに泣き叫んでるわ! はははは、どうした? お前も笑えよ、他人の不幸は蜜の味なんだろう? ああ、そうか! こいつは他人じゃなくて妻だったか、ゴミ未満の生態には疎くてね、これは失礼!」
笑いながら、真白は彼女の中を火であぶっていく。
そんなことをすれば機能が故障するだろうが……真白はこう言うはずだ。
子殺しが何故子を作る機能を惜しむ……と。
挑発でも皮肉でもない純然たる疑問として、そう問いかけるに違いない。
「ひっ、ぎっ、あ、あが、ぎっ、いだっ、ひ、ぎ、ああ、あ、たす、け……」
「助けてぇ? お前のせいで苦しんできた有栖ちゃんや歴代の男達の前で言ってみろ、お前のせいで即死した奴の前で言ってみろ、かわいそうに筒本美羅、あの子はもう助けても嫌だも言えないんだよ、誰のせいだろうなあ?」
「い、いぎっ、いぎゃっ、あ、あああああぁぁぁぁ!!!!」
「も、もうやめてくれ!」
あまりの惨状に夫が叫ぶ。
真白はゴミ未満が何情を見せてやがる、偉そうに人情ぶるな偽善者が……と言わんばかりに舌打ちをし、彼の玉を踏みにじった。
そして、バーナーを固定するとゆっくり歩み寄り……針を取り出す。
「しょうがない……じゃあ、一つ遊びをしよう、それに耐えれたらやめてやる」
「い、あが、ぐっ……! あそ、び……?」
「他者の生き血をすするクズに似合いの遊びだよ、お前はこの女の流す血を口に蓄えろ、それで溢れるまで飲んだりむせたりしなければやめてやるよ!」
真白はそう宣言すると、筒本の足に針を突き刺す、そして勢い良く引き抜くと血を男の口へ垂らし始めた。
痛みに悶える筒本に対して、男は必死で血を受け止めていく。
それがしばらく続いた後……真白の表情が変化した。
張り付いたような笑顔ではない、明らかに不快感をあらわにした顔だ。
それもそのはず、男はなんと……筒本の血をむせずに受け止めている。
飲み込みもしていない、妻を助けたい一心で必死に堪えている。
真白はそれが気に入らなかった。
「ふん……約束は守ってやる……よ!」
「がはっ……! げほっ、げほ、げほ……!」
男の腹を踏みにじり、真白はつばを吐く。
そして……針を振り下ろすと、男の尿道に突き入れた。
響き渡る絶叫、溢れ出す涙。
それを見ながら真白は頬を歪め……楽しそうに息を吐くのだった。
「……筒本が逮捕されたって連絡が来たんだけどさ」
「へえ、良かったじゃん」
「良かったじゃんじゃなくて、これやったのお前だろ!」
「何の話やら」
数日後、近所のカフェで筒本夫妻逮捕の記事を読みながら、有栖は訝しむ。
謎の人物から拷問を受けたと主張する二人……そんな彼女達に拷問をしたのは、真白以外あり得ないと踏んだのだ。
そんな有栖に真白はなあなあで返し、紅茶を一口啜った。
その優雅さはまさに令嬢、数日前に拷問を行っていたとは思えない姿だ。
「……ま、ありがとよ……これでまた……ちゃんと味が感じられるようになりそうだ」
「そりゃ良かった、お礼は何のことか分かんないけどね」
「はっ、どうだか」
手の甲でハイタッチを交わし、二人は笑い合う。
そして……有栖は息を吐くとコーヒーを一口啜る。
味のしないコーヒーはまるで水のようだ、それでもいつか味覚が回復すると信じて、そして少しでも味覚が回復したときにすぐ気付けるようにと彼女は強い味がするであろうものを好んでいるのだ。
そうしてもう飲み慣れた味のしないコーヒーを堪能しながら有栖は天井を見上げた。
「しかし……警察が見つけられなかった連中を、力ずくでひっ捕まえたか……」
「有栖ちゃんもさ、格闘技初めて大分力がついたよね」
「でも……欲しいのはこんな力じゃない、競技に基づいたルールに縛られる力じゃ駄目だ、それじゃ美羅は救えなかった、どうすればあの日美羅を救えたって、そりゃルールも何も重んじず容赦のない力があれば、あの女を一気に黙らせて解決できたんだ……」
有栖はそう言うと、天井に手を伸ばして握り拳を作る。
そして……天井を見るのをやめると、ゆっくりと拳を正中線前に動かした。
まるで、力不足だった自分を殴ろうとするかのような動きだ。
力不足、覚悟不足、何もかもが足りなかったあの日の自分を有栖はまだ引きずっている……。
「……あの日、もっと力があれば、手をこまねかずに一気にやれりゃあ……美羅は死ななかったんだ、あたしのせいだ……全部、あたしの……」
「有栖ちゃん、一番悪いのは筒本だよ」
「……その筒本を成敗できてれば、もっと違ったんだ」
自責の念、サバイバーズギルト、妹が殺されて雪だるまに詰められる凄惨な事件を経て、何も防げなかった自分がのうのうと生きているという悔恨。
真白はそれを背負う必要がない重荷だと感じていた。
だが有栖は、真白ほど割り切れはしない。
有栖以外いらない真白と違い、有栖の手には持ちたいものが多すぎる。
横から見ている真白が、重さで潰されかねないなと思うほどに。
そう、有栖はとても欲張りなのだ。
「有栖ちゃんはさ、全てを救う神にでもなりたい?」
「そんな分不相応な大望はないさ、でも……手の届く範囲を救える存在にはなりたい」
「ふうん……それ、ヒーローって事じゃん」
「ヒーロー、か……」
有栖は呟きながらうつむいて胸に手を当てる。
そして静かに顔を上げた。
表情は打って変わって、静かな決意に満ちているようだ。
真白は思わず見とれてしまい……息を呑み込んでしまう。
そんな彼女へと、有栖はゆっくり語り始めた。
「もし良ければ……なってみないか、あたしと一緒に」
「なるって、ヒーローに?」
「ああ、警察じゃ追い切れない犯罪をあたし達が成敗するんだ、力によって筋を通すんだよ」
静かに語られていく大きな決意……。
まるで黄金のような気高さを秘めたその決意に真白は笑みを浮かべる。
ヒロイズムの危うさはさておき、こういう考えは嫌いじゃない。
時として何かを成すには何かを捨てる必要がある、それがこの場合は法ということ。
決して無軌道な暴走ではなく、確固たる信念によりそうしたいと願うのであれば悪くないだろう。
破滅への道ならば止めているが、そうでないならいくらでも相乗りして隣で支えるだけだ。
「いいよ、その話に乗った」
「へへ……サンキュー、これからよろしくな、相棒!」
「オッケー、良い響きだねえ、相棒!」
二人は互いの手の甲をたたき合わせ、再びハイタッチをする。
これが羅美吊兎叛徒始まりの日。
美羅を忘れないために、彼女の名の下罪深き兎を吊るため法への叛徒の道を選ぶ決意を胸に名付けられたチーム名を掲げ始めた日だった。
(当話には拷問などの反社会的描写が含まれておりますが、決して当作品は法令に反する行為を推奨するものではございません、その旨ご了承いただきますようお願いいたします)
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