私、柚机莉徒(十八歳独身、ホヤホヤの女子大生)がこうなったことは、もちろん後悔なんかしていない。当然、誰の責任でもない。
だけれど、思い当たる節は、私の中にある。
小学生の頃、私はばかな上に内気でうじうじした子供だった。
ばかなのは今もさして変わりはしないけれど、それはともかく、思ったことを口に出せないこどもだった。
思えばそれは、母親の影響なのかもしれない、と思った。
様々な含みを込めても。
母の史織は元々暢気な性格だ。父の博史も似たもの夫婦とでも言えば良いのか、口うるさいとは程遠い能天気だ。
あの親にしてこの子有り、というのも頷けたのだけれど。
小学生でいわゆる『イジメ』に遭った私は、祖母の家がある地域の、私立の中学校へ行くことになった。地元の顔見知りを遠ざけるために。
そして私はその中学の軽音楽部で運命的な出会いを果たす。
一つ年上だった水城彩霞という女。
彼女のおかげで私はバンドという生涯の趣味に出会えたし、彼女の奔放な生き方は今の私に多大なる影響を与えてくれた人だから、もちろん感謝はしている。
私が今の私であるための大切な一人ではあるのだけれど、いわゆる『悪の道』に私を引っ張り込んだのもこの彩霞先輩だ。
中学三年間でライブは十回以上、その間に中学生ができる程度の小さな悪さは一通りこなし、煙草や無免許運転などで補導もされた。
それでもどういう訳か、うちの両親はそんなことではビクともしない肝っ玉っぷりを見せた。
その頃に疑うべきだったのだ。
エナジードレイン無し、性格転向でクラスチェンジまでした私は、クソ度胸もついたし、高校は地元の高校を受験した。
中学三年の間に、あのおとなしかった柚机莉徒がヤンキーになって戻ってきたぞ、というまことしやかな噂はかなり広まっていたけれど、もはやそんなことでうじうじする私は何処にもいなくなっていた。
それどころか、私を色眼鏡で見ない親友たちともたくさん出会うことができた。
過去の私はどうあれ、今の私は順風満帆だ。
しかし、そんな私の家、柚机家には私も、弟の逢太も知らない秘密があったのだ。
あの親にしてこの子有り。
それは昔の子供だったころの私に当てはまる言葉だ。そう思っていた。
何故私がこんな性格になったのか。
私は私の中にあった小さな反骨精神と、中学での出会いのおかげ……いや、出会いのせいだと思っていた。
しかし、私は知ることになる。
今の私こそが、あの親にしてこの子有り、なのだということを。
序章 終り
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