勇者たちの産業革命

田舎の高校生、異世界で町おこし!!
綾野トモヒト
綾野トモヒト

第51話 勇者、砂漠の部族を知る

公開日時: 2021年5月17日(月) 12:00
文字数:2,181

 ザハはバクラマカン砂漠の南西に位置する。そこは砂漠と平地の境目で、北東に向かえばバルザック王国の王都、バルティアがある。


 バクラマカン砂漠には人の侵入を拒む遺跡群や、『熱砂ねっさ回廊かいろう』と呼ばれる古代の軍用道路が存在する。伝説によれば、遠い遥かな昔、魔族が住まう魔都も、このバクラマカン砂漠のどこかに存在したという。


 難所が多く、人を寄せ付けないバクラマカン砂漠で人と物を安全に運ぶ為には、ガルタイ族の力が必要不可欠だった。


「バクラマカン砂漠の天候から航路まで……ガルタイ族は全てを知り尽くしています。彼らは、砂船すなぶねを操り、灼熱の砂漠を縦横無尽に行き来するのです」


 ガルタイ族の説明をしながら、バッバーニは白塗りの家々が建ち並ぶ袋小路を抜け、屋台が軒を連ねる場所へと案内した。


 バッバーニの後ろには茜と京子が続き、さらにその後ろにレッドバロンの『チーム茜』の面々が続く。


 『チーム茜』はレッドバロンの元戦士や騎士たちで構成されており、今では勇者である茜の親衛隊として名を馳せている。


 屋台の並ぶ区画を抜けると、そこは巨大な帆船が入港している港だった。


 風を受けて砂漠を疾走する帆船は砂船と呼ばれている。その砂船から荷揚げされた貨物が馬車やボーの引く荷車に積み込まれていた。


 バッバーニは港の隅まで来ると、砂漠に向かって階段を下り始める。後に続く茜と京子は物珍しそうに辺りを見渡した。


 以前、バロンプリンを売りに来た時は気づかなかったが、砂の侵入を防ぐ為に、石で作られた堅固な城壁が砂漠に向かって築かれている。砂漠まで出る為には急な階段を下りなければならなかった。


「あちらに見えるのが、ガルタイ族のテントです」


 砂漠に降り立つと、バッバーニは前方を指差した。そこには動物の皮か何かで作られたテントが幾つも張られている。行き交う人々は薄着で、男性や女性も肩当や半身の鎧といった軽装備の鎧を身に纏っていた。


「彼らはガルタイ族の戦士たちです。今は、部族長の歓迎の為に宴の準備をしているところです。ホラ、あれが部族長専用の砂船、通称『砂漠の幽霊船』でございます」


 バッバーニの指先を追いかけると、砂丘の前に三本マストの巨大な帆船が停泊している。帆船は中世ヨーロッパの戦列艦を連想させる造りで、帆には白地に赤で巨大なサソリが描かれていた。ぱっと見は幽霊船というより、海賊船だ。


「さあ、参りましょう」


 バッバーニは片眼鏡をクイッと直し、足早に歩き始めた。


×  ×  ×


「止まれ!! 何用だ!?」


 バッバーニが設営されたテントの前まで来ると、槍を持った戦士が数人で取り囲んだ。戦士たちは誰もが軽装で、露出した肩やわき腹には燃え盛る炎を思わせる刺青をしていた。


「「「名を名乗れ!!」」」


 屈強な戦士たちは眼光鋭くバッバーニや後に続く茜や京子たちを睨んだ。


「わたしは商人ギルドの会長、バッバーニ・フェルドでございます。こちらの勇者さまがサーシャ・アディールさまにお話が有るとのことで……お連れ申し上げた次第」


 バッバーニがもみ手をしながら言うと、戦士たちは意外そうに顔を見合わせた。


「勇者? バロンプリンなるものを売った連中か?」


 戦士の一人が進み出て、無遠慮に茜と京子へ近づいた。


 すると。


 間髪入れずに『チーム茜』の隊長が茜と京子の前に立つ。この隊長はレオと言い、以前、茜がバッバーニを説得した時にハンカチを渡した男だった。


 レオは茜と京子を守るように、甲冑を纏った巨躯で戦士の前に立ちふさがる。


「「……」」


 砂漠の戦士とレッドバロンの元戦士は無言で睨み合った。ぶつかり合った視線がバチバチと火花を散らす。


 辺りが緊張した雰囲気に包まれると、バッバーニが慌てて割って入った。


「ま、まあまあ!! 争いに来たのではございません!! サーシャ・アディールさまにお話が有って参ったのです。どうか、お目通りをお願い致します」


 バッバーニが平身低頭で言うと、戦士はやっとその場から離れた。


 砂漠の戦士は仲間の肩を叩いた。


「おい、サーシャさまはテントにいらっしゃるのか?」

「ああ、統領なら先程戻られた」


 仲間が答えると戦士は再びバッバーニを見る。


「お前と、そこの勇者二人だけついて来い。他はダメだ」


 戦士がそう言うと、レオがこめかみに青筋を浮かべた。


「何故、我々が供をするのがダメなのだ!?」

「決まりだ。文句が有るなら帰れ!!」

「なんだと!!」


 レオと戦士は再び睨み合った。


 しかし……。


「レオさん、ちょっと行って来るからここで待っててくれよ」


 茜がレオを制した。


「し、しかし……。我々は沙希勇者さまから、お二人の護衛を……」


 レオが不服そうに言うと、他の『チーム茜』の面々も「俺たちも不安です」と言って進み出た。


「みんなの心配は嬉しいけど、まずはウチと京子で行ってみるよ。ここでもめたら、意味無いだろ?」


 茜は少し困った笑顔で言った。その顔を見たレオの肩から力が抜けた。


「わかりました。でも、何か有りましたら叫んで下さい。すぐに駆け付けます!!」


 レオは『駆け付けます』を強調して言いながら砂漠の戦士を睨んだ。しかし、睨まれた戦士は怯むどころか、感心した顔つきになった。


 砂漠の戦士は頷きながらレオを見る。


「素晴らしい忠誠心だ。規則だからここで待ってもらうが、心配するな。勇者の安全は保障する」


 戦士は仲間にも聞こえるように言うと、バッバーニ、茜、京子をひと際大きい天幕へといざなった。


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