勇者たちの産業革命

田舎の高校生、異世界で町おこし!!
綾野トモヒト
綾野トモヒト

第25話 勇者、大臣に任命される

公開日時: 2021年4月24日(土) 12:00
更新日時: 2021年5月14日(金) 22:47
文字数:3,017

 時折、入り込む風が窓辺に置かれた蚊取り線香の煙を揺らす。


 正義が休憩から戻ると、作業台の上には勇人のお母さんが差し入れてくれた人数分のガラナが置かれてあった。そして、勇人が納屋の奥から引っ張り出してきたホワイトボードも用意されている。


「じゃあ、せっかくなので第2回『レッドバロン復活会議』もしちゃいます!!」


 ホワイトボードの前に立った沙希が元気良く宣言した。


「わたしたちも、もう少し目的を持ってレッドバロンに行った方がいいと思う。そのためにも、みんなで意見を出し合って、生徒会長にまとめてもらいましょう!!」

「え!? オレ!?」

「ほら、ここからは正義の仕事だよ」


 沙希は黒のマーカーを正義に渡すと、ミニコンに座ってしまった。


「……えーと……明後日、俺たちがレッドバロンに行くと、向こうでは1か月半くらい経っているわけで……バロンプリンやメヴェ・サルデの今後とか、色々決めないといけない。勇人の蒸気機関はすごく良いアイディアだと思う。とりあえず……」


 正義はホワイトボードに『建設大臣・須藤勇人』と書き込んだ。それを見た勇人は「大げさだよ」と笑っている。


「他に、何か意見のある人」


 正義はみんなを見回した。


「あのさ……」


 茜が手を上げた。


「こっちに帰って来てから思ったんだけど……向こうの世界って郵便局とか無いだろ? だったら、ウチらで手紙の配達とかやったらどうだ? バッバーニとかにも協力してもらってさ」

「茜ちゃん、名案だよ!!」


 佳織がパチパチと拍手をして喜んだ。


「なるほど……確かに名案だ」


 茜と犬猿の仲の京子も頷いている。


「じゃあ、茜は郵政大臣か……」

「待って!」


 正義がホワイトボードに向かった時、沙希が呼び止めた。


「商人ギルドとかメヴェ・サルデとか、これからはレッドバロン以外の人たちと交渉する機会が増えると思うんだ……一回一回、わたしたち全員で話を聞くわけにもいかないでしょ? だから、茜にはわたしたちを代表して外部と交渉してもらうのはどうかな?」


 確かに、バッバーニとバロンプリンの交渉を纏めたのは茜だ。それに、これからは沙希の言う通り外部との接触が多くなるだろう。その時、わかり易い性格の茜が交渉窓口に立っていた方が、こちらの意思も明確に伝えられる。


「そっか……じゃあ、茜ちゃんは外務大臣だね!!」


 嬉しそうに微笑む佳織が結論付けた。


「手紙はどうする? 諦めるか?」


 正義はみんなに聞いた。


「いや、京子にお願いしようよ」

「え!? わたし??」


 沙希の言葉に京子は目を丸くして自分で自分を指さした。


「バロンプリンを作ってた時、保冷車の容量とか台数とか……最終的にどうなるか全く解らない状況で、バロンプリンの個数が過不足無くそろったのは、京子のおかげなんだ。京子が状況に応じて、生産ペースを調整してくれたから、わたしたちは無事に出発できたんだよね……京子は、状況を把握して計算するのが上手なんだよ」


 バロンプリンの生産ラインを完璧に切り盛りした京子の手腕を沙希は絶賛した。


「交渉事は外務大臣の茜に任せて、郵便のシステム作りとか運用は京子に考えてもうらうのがベストなんじゃないかな?」


 大雑把な所はあるが強心臓で決断の早い茜が交渉を纏めて、ガラスのハートだが慎重で几帳面な京子がシステムを作る。それはどこか、バランスの取れた配役に思える。


「わたしにできるかな?」

「重荷か? 船長」


 不安がる京子を面白がって茜がからかう。


「船長って言うな!! やるよ暇ゴリラ」

「茜ちゃんが外務大臣で京子ちゃんが郵政大臣だね!! すごいね!! やったね!!」


 佳織は心から喜んでいる様子だった。


「かっちゃんにも大臣お願いしちゃうよ~♪」


 喜ぶ佳織を見た沙希がニヤリと笑う。


「え!? わ、わたしには無理だよ……」


 佳織は肩をすくめて小さくなってしまった。


「かっちゃんにはね~♪ バロンプリンの入れ物とか、手紙に貼る切手のデザインをお願いしようよ!! バロンプリンを一番最初に思いついたのはかっちゃんだしね!!」

「……わたしに……で、できるかな……」

「かっちゃん、イラスト得意だから大丈夫だよ」


 心もとない顔の佳織を京子が励ました。


「……そうかな……」

「京子の言う通りだよ。『レタス侍』描くより、よっぽどやり甲斐があると思うぜ」


 茜も笑って頷いている。


「じゃあ、もう決まりでいいよな」


 もはや書記と化した正義はホワイトボードに『デザイン大臣・黒田佳織』と書きこんだ。


「よ、よろしくお願いします!!」


 佳織は立ち上がると、みんなに向かって深々と頭を下げた。


「じゃあ、正義は何大臣になるんだ??」


 勇人が沙希に尋ねた。


「正義? ……正義は……防衛大臣かな? 勇人もだけど、みんなを護ってくれたし……意外と頼りになるし……」


 言っている途中で、沙希は頬を紅潮させた。そして、そんな沙希を見ていた正義も顔が熱くなるのを感じた。気づくと、茜と京子、そして佳織と勇人までもがニヤニヤと赤面する正義を見て笑っている。


「なんだよ、お前ら……変な笑い方するなよ」


 気恥ずかしさを隠すように正義はみんなに背を向け、ホワイトボードに『防衛大臣・オレ』と書き込んだ。


「みんなを大臣に任命したんだから沙希は内閣総理大臣で文句なしだろ?」


 背中から聞こえてくる勇人の言葉にみんなが「文句無し!!」と同意している。そして、レッドバロンの予算を預かる沙希は財務大臣も兼任することとなった。


『内閣総理大臣兼財務大臣・西園寺沙希』

『防衛大臣・オレ』

『建設大臣・須藤勇人』

『外務大臣・高橋茜』

『郵政大臣・伊藤京子』

『デザイン大臣・黒田佳織』


「こうやって書いて見ると、やっぱり大袈裟だな」


 ホワイトボードを見ながら正義が言った。


「だろ?」


 勇人も苦笑いを浮かべている。


「君たち、誰か忘れてやしないかい?」


 突然、今まで黙っていた敬が口を開いた。


「早く僕も大臣にしてくれたまへよ」


 勇者と名乗る、魔法使いの格好をした男が大臣にしてくれとせがむ。不思議で滑稽な姿にみんなは笑った。


「じゃあ、敬は無任所大臣ね」


 笑いながら沙希が提案した。


「敬って、いつもわたしたちの予想を超えた行動で、ジョーカーみたいな存在じゃない? だからさ、何か起きた時の為に、自由に過ごしててもらおうよ」


 褒められたことでは無いが、先生を誤魔化したり、騎馬で急を告げたり、いつの間にか敬は正義たちの中で切り札的な存在になっている。そんな敬には、不測の事態に備えて、自由にさせておいた方が良いのかもしれない。


「日本では副総理も無任所大臣だったよね!? 勇者である僕にふさわしい!! さあ、防衛大臣殿、早く僕の名前も書いてくれたまへよ!!」


 敬は大喜びで正義に言った。


「その『たまへよ』って言うの、やめろよな……」


 正義はホワイトボードに向かうと、白鳥敬の名前を書き加えた。


『内閣総理大臣兼財務大臣・西園寺沙希』

『防衛大臣・オレ』

『建設大臣・須藤勇人』

『外務大臣・高橋茜』

『郵政大臣・伊藤京子』

『デザイン大臣・黒田佳織』

『無責任大臣・白鳥敬』


「あれ!? ちょっと待ってくれよ!! 僕の所、大臣の名前が違うじゃないか!!」

「一字しか違わないし、だいたい合ってるじゃねーか!!」


 茜の言葉に、全員が笑顔になる。


「じゃあ、みんなの役職も決まったし、第2回『レッドバロン復活会議』はここまでってことで!!」


 そう宣言して正義がスマホの時計を見ると、時刻は10時を回っていた。


 みんなはジュースの空き缶やミニコンを片付けると、それぞれ納屋を後にした。


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