勇者たちの産業革命

田舎の高校生、異世界で町おこし!!
綾野トモヒト
綾野トモヒト

第24話 勇者、蒸気機関を思いつく!!

公開日時: 2021年4月23日(金) 21:00
更新日時: 2021年5月14日(金) 22:42
文字数:2,020

「銅管の溶接とか……半分以上は父さんに手伝ってもらったんだけどさ……みんな、よく見てくれよ」


 勇人が少し照れくさそうに説明すると、みんなは身を乗り出して蒸気機関のミニチュアに見入った。


「……このスチール缶がボイラー?」

「そうだよ」


 正義の質問に答えると、勇人はスチール缶の下にアルコールランプを置いた。


「え!? まだ動くのかよ!? スゲーな!!」

「多分な。火、けてみるか?」


 勇人は驚く茜にライターを渡した。


「つ、点けるぞ……なんか……緊張する……」


 恐る恐る、茜はアルコールランプに火を点けた。


 数分経つと……。


 所々、蒸気の漏れ出る部分はあるが、フライホイールがカタカタという音を立てて回転し始めた。


「「「……」」」


 みんなはしばらくの間、真鍮の往復運動や、クランク部分、回転するフライホイールに見とれていた。


「……勇人の見せたい物って、この自由研究だろ? それが、どうしてメヴェ・サルデと繋がるんだ?」


 正義は小さな蒸気機関から勇人へと視線を移した。


「それは……」


 勇人は蓋をかぶせてアルコールランプを消した。


「メヴェ・サルデは魔導石で栄えた町だって、ビンスさんは言ってただろ? メヴェ・サルデが困窮する原因が、魔導石を産出する鉱山の浸水だったら……そこを何とかすれば、メヴェ・サルデは立ち直れるんじゃないか? って考えたんだ……」


 言いながら、勇人は決意の籠った眼差しを蒸気機関に向ける。


「向こうの世界の全てを見たわけじゃない……でも、レッドバロンやザハでは蒸気機関を見かけなかった。……だから……」

「そっか!! だから、勇人の自由研究なんだ!!」


 正義は勇人の意図に気づいた。


「どういう意味?? サクッと説明してよ」


 首を傾げた沙希が、急かすように正義を見る。


「世界史の授業でやっただろ? 300年前……産業革命前夜……俺たちの世界じゃ、すでに蒸気機関を使った排水機が発明されていた。そして、鉱山で使用されていたんだ。この蒸気機関を向こうの世界に持って行ければ……鉱山の浸水を防ぐ排水機を作れるかも知れない。そうだろ?」


 勇人はうなずいてみせる。


「ねえ、メヴェ・サルデの鉱山で使う排水機を作るとして……蒸気機関だけで可能なの?」


 不安気な顔で京子が尋ねると、みんなの視線が勇人に集まった。


「多分、大丈夫だと思う。みんな、思い出してくれ。レッドバロンの『勇者の宿』、大浴場は五階にあっただろ? 温泉を五階まで組み上げる技術があるんだ。蒸気機関と併用すれば、鉱山で使う排水機ぐらいは作れると思う」


 「なるほど……」と、みんなは感心して頷き合った。その顔には蒸気機関に対する期待と希望が浮かんでいる。

 

 正義には『蒸気機関を向こうの世界へ持ち込む』という勇人の考えが名案に思えた。


 メヴェ・サルデが魔導石の鉱山で栄えた町ならば、きっと今までにも浸水の問題があったはずだ。そして、従来の解決方法が通用しなくて困っているのだろう。ならば、こちらの世界で確立された解決方法を持ち込むのは、とても効果的に思える。


 ただ……。


 一つ重大な問題があった。


 その問題点に気づいた正義が言葉を発しようとした時、茜が腕組みをしながら口を開いた。


「でもよ……小っちゃくたって機械だろ?? あっちの世界には持って行けないぜ??」


 茜が正義も気づいた問題点を指摘する。茜の言う通り、この小さな蒸気機関は、ロッカーを超えることができないのだ。


「そっか……そうだよね……名案だと思ったのにな……」


 茜の指摘に佳織はしょんぼりとして肩を落とした。その落胆ぶりがみんなに伝わると、それぞれが顔を見合わせて沈黙する。すると、黙りこくるみんなを見ていた勇人がニヤッと白い歯をこぼして笑った。


「機械は持って行けないけど……設計図なら持って行けるだろ??」

「「「どうやって??」」」


 みんなは一斉に勇人を見た。


「設計図なら有るんだよ……ココに」


 勇人は右手の人差し指でこめかみをトントンと叩いた。


 おお~!!


 さすがは篠津高校の頼れる男前!!


 茜と京子の目はハートマークになっている。


「あのさ……」


 勇人は続けた。


「俺は……蒸気機関の設計図をレッドバロンへ持って行くだけならできる。でも、向こうで排水機を作るとなると……一人で実現させるのは無理だと思うんだ。実現させるためには、他の勇者の力が絶対に必要になる。みんな……協力してくれるか?」


 勇人は真剣な眼差しでみんなを見渡した。


「協力するよ」


 一切、迷いの無い顔つきで正義が即答した。


「勇人には命を救ってもらった。それに……もう引けないんだろ?」

「ま、まあな……」


 正義の言葉に勇人は気恥ずかしそうに笑う。


「ウチも協力するぜ!! 最初から協力する気だったからな!!」

「本当か?? 暇ゴリラ。あ、もちろん、わたしも協力するよ」

「勇人君、こんなこと思いつくなんてすごいよ!!」

「面白そうじゃないか!! 勇者の僕にふさわしい!!」

「……じゃあ、蒸気機関、決定ってことで!!」


 茜、京子、佳織、敬、沙希も口々に協力を約束した。


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