午後4時近くに、再び学校にやってきた三人。
「3時間くらいで終わらせて帰ろうね」
「そうなる事祈るよ」
「だね」
三人は、エレベーターで4階までたどり着いた。
何故か、4階に着いたらクラサトさんが現れるのだ。
美弥が霊的な事を感じられるのが4階だ、ということもあるのだが。
「どう? 透視る?」
「透視るよ。エレベーターにいるみたい。声かけてみようか?」
美弥の質問に二人は頷いた。
「あなたは、まだそこから出ないのですか?」
傍からは、美弥がエレベーターに話しかけているようにしか見えない。
反応がないのか、美弥はさらに話しかけていく。
「あなたは、もう亡くなっていますよ。そろそろ、解放されたいと思いませんか?」
美弥がそう聞いた時、何故か誰も乗っていないのにエレベーターのドアが、左右にゆっくりと開閉を何回か繰り返した。
「そこから出てきたのですね……。やっと、本来いるべき場所へ戻る気になりましたか?」
美弥の質問に答えが返ってくる気配はないが、美愛が小刻みに震え始めたので美弥の直感が正しければ、おそらくは美愛の身体に入り込んだという事だろう。
なんの前触れもなく、急に起こる現象に戸惑っていたけれど美愛の身体を乗っ取られてしまったら、元に戻すまでに時間を費やすので果たして7時までには学校から出られるのか難しくなってくる。
下手をすると、7時を超えてしまう恐れがある。
「あなたは、クラサトさん……ですよね?」
「なぜ……、わたしの……を?」
言葉は途切れるが、言いたい事は伝わって来た。
「わたしの知り合いに、あなたの事をよく知る人がいるのです。その人から教えてもらいました。ここって、元は病院だったんですよねぇ。その跡地に建てられた学校のエレベーターは、当時から教職員しか利用ができなかったそうですね。でも、ある事情からあなたがエレベーターを使う事になったのだけど、都合が悪かった教職員によって挟まれたのです。教職員と何があったのですか?」
美弥は、できるだけ刺激しないような言葉使いで少女の亡霊に聞く。
「……しを、騙したから……、だから、わたしは………せなくて……一緒に入ろうとしたら首が閉まって………しかった……」
自分で首を絞めるジェスチャーを交えながらクラサトさんは、美愛の身体を使って表現してくれた。
「なるほど。恋人関係にあったのですね。相手がだらしなくてとんでも男だったというのは、運がなかったのかもしれません。けれども、その人はあなたより精神面が幼かったゆえに、殺してしまったわけです。なんていうひどい! 許せないのわかります! 自分だけがのうのうと生きているのって許せないですよね。復讐したら気がすみますか?」
美弥はまるで女優かなにかになったかのような演技力で、クラサトさんの気持ちを汲み取って話してはいるが、沙希は置いてけぼりになっている。
「あのさ、わたしもいるのね。クラサトさんに伝えてほしいんだ。あなたは、今でもその男を愛していますか? って美弥、伝えて」
沙希の話に頷いてから美弥は、クラサトさんを刺激しないように気を付けながら聞いてみる。
「クラサトさん、あなたはそのとんでも男の事が本気で愛していたのですか?」
「そうよ。だけど……わたしだけだったみたい……あの男には……この苦しみわかってほしい……でも、身体がないから無理……」
「ああ、なるほど。あなたは胴体と頭を切り離されたんですもんね。だから、誰かの身体を借りる必要があるのですね。とんでも男は今でもこの学校で教師をしていますか? というか、なんていう名前の男でしたか?」
美弥はクラサトさんが考えている間に、沙希にメモを取るようにお願いをする。
沙希は鞄からスマートフォンを取り出してメモを取る準備をした。
「いつでもいいよ」
沙希の言葉に美弥は小さく頷いて、クラサトさんからの返事を待っている。
「思い出した。確か……斉藤文人。そう言っていた」
「さいとうふみとって名前なんですね。もしも、まだこの学校にいたら連れてきてもいいですか?」
美弥の質問にクラサトさんはお願いと言って、その場に静かに座った。
「沙希、職員室に行って斉藤先生がいるか見てきて」
「わ、わかった!」
一人で? なんていう質問は野暮だと気づいた沙希は、スマートフォンを鞄へしまうと急いで階段を降りていく。
少しずつだが、クラサトさんが心を開いているのだ。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
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